偏差値35から2浪して東京大学合格を果たし、人気漫画『ドラゴン桜2』の担当編集の一員として何百人もの東大生を取材、頭のいい人の勉強法や思考法を徹底調査してきた西岡壱誠さんに、頭がいい人の読書術について聞きました。

 「東大生や頭のいい人たちの読書法」と聞くと、「難しい本を月に何十冊も読んでそう」とか「読むスピードも速そう」とか、難易度や速度でのイメージを強く持つ方が多いかもしれません。でも、僕が一番大事だと思うのは「読み方」です。

まず、入門書から読む

 まず、大前提として、頭がいい人が「難読本」ばかりを読んでいるわけではありません。意外かもしれませんが、東大生でも、自分が知らない分野の本を読むときは、入門書から手にします。よく「サルでも分かる」「マンガで分かる」「○時間で○○が分かる」といったシリーズがありますが、そうした本で、まずはざっくりと全体像を把握します。

 なぜかというと、全体像が見えないと、ディテールを理解することが難しいからです。例えば、「武士という存在は、江戸時代まで何百年も続くものだ」という前提に立っていないと、鎌倉幕府が誕生したインパクトや、平安時代に武士が現れた意味を理解できないですよね。まず入門書を読み、徐々に専門性を深めていくのが、頭がいい人の本の読み方です。

 これは、東大生が基本のキである教科書を繰り返し読み、受験勉強をしていることにも通じます。プロ野球選手もそうですが、基本的に普段のトレーニングは素振りやバッティング練習で、野球少年たちのメニューとそれほど変わりません。そして、プロとアマチュアを分ける要素は何かというと、練習の質と量です。読書でも、「どう読むのか」「本から何を学び取るのか」が大事なんだと思います。

 また、頭がいい人の読書習慣を見ていると、ある種ミーハーな、ベストセラー本をよく読んでいるように思います。その理由は、「話題になっているから」ではなく、「どうして世の中の人はこの本に関心があるのか」が知りたいからです。

ベストセラーを読んでチューニング

 例えば、テニスの試合をしているとき、観客の顔を見れば、ボールがどこに飛んで行ったのか、一目瞭然ですよね。それと同じで、今、世の中の人の関心がどこに向いているかは、売れている本を読めば分かります。そうやって、世間の関心と自分の興味をチューニングしているのです。

 最近出した僕の著書 『偏差値35から東大に合格してわかった 頭がいい人は○○が違う』(日経BP) でも触れていますが、東大生は「世間の人はこう考えるんだな」といったメタ認知をできる人が多い印象です。それも、こうした本の読み方と関係しているのでしょう。

「頭のいい人がベストセラーを読むのは、『どうして世の中の人はこの本に関心があるのか』が知りたいからなんですよね」
「頭のいい人がベストセラーを読むのは、『どうして世の中の人はこの本に関心があるのか』が知りたいからなんですよね」
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 そして、入門書やベストセラー、自己啓発系のビジネス書を読むときには、それほど読書に時間はかけていない、というのも特徴です。世間の関心や書いてある内容を知識として蓄え、納得感を得るためだけに読んでいるので、サーッと流し読めば十分、という感じなのです。

 僕も、自分が書いた『東大読書』を友人に渡したら、「30分で読んだよ」と言われたことがあります。「読んでくれたんだ」とうれしいような、「熟読しないのかよ」と寂しいような気分になったことがあります(笑)。

 では、どんな本なら時間をかけて読むのでしょうか。

頭のいい人が、時間をかけて読む本

 それは、「今まで読んだことのない本」「価値観を揺さぶられる本」です。

 今までの自分の中にない思想や価値観の本ですから、それこそかみ締めるように1行ずつ、じっくり読んでいきます。そういう本は、「パパッと読んで分かった気」にはならないのです。例えば、 「東大生や頭がいい人が好んで読む『古典・名著』5冊 王道編」 で紹介した、エーリッヒ・フロムの『愛するということ』を、30分やそこらでサーッと読んで「分かった!」と声高に言ったら、なんだか底の浅い人みたいでちょっと恥ずかしいですよね(笑)。

 僕は、「分かった」というのは、「忘れていく」ことでもあると思います。

 何かを理解して「分かったボックス」に入れたら、あとは忘れていくだけ。反対に「分からない」「なんだこれ」「違和感がある」状態になれば、いつまでも考え続け、頭の中に残ります。

「何度もかむことで味が出てくるガムのような感じと言えばいいでしょうか」
「何度もかむことで味が出てくるガムのような感じと言えばいいでしょうか」
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 この「分からない状態を楽しむ」「違和感に向き合う」が、読書で思考を深めるポイントです。

速く読むのは、すごくない

 「そんな読み方をしていると、時間ばかりかかるのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、僕は「速く読むのはすごくない」という考えです。

 具体的に言うと、先ほどのように、知識を得るためなら30分程度で読んでもいいし、価値観を揺さぶるために1カ月かけて読んでもいい。10冊読んで100の知識を得るのと、1冊から100を知るのも、その時々に応じて使い分ければいいと思っています。

 では、最後に僕の人生を変えた本を紹介します。

偏差値35時代、2浪中に読んだ本

 1冊目は、内田樹さんの 『先生はえらい』(ちくまプリマー新書) です。この本は、僕が偏差値35だった時代に「おまえは東大に行け」と高校の先生が教えてくれました。

 この本には、「別に先生はえらくなくて、『誰に学ぶか』よりも『自分が何を学び取るか』が大事だよ」と書かれていて、当時、読んだ僕は衝撃を受けました。

 それまでは、いい先生に習えば成績が上がると信じていたんですよね。「自分で学び取るって、どういうこと?」と、ここから一気に勉強にハマりました。

 2冊目は坂口安吾の 『堕落論』(角川春樹事務所) です。これは2浪時代に読みました。

 坂口安吾の書籍も、いろんな本で引用されているので気になっていましたが、2浪中に、ふと「今が読むタイミングかな」と手に取りました。

 そうしたら、「人間は生き、人間は堕ちる」と書かれていて衝撃的でした。暗い時期に暗い本を読んで落ち込んだのですが、「人間はいつか死ぬなら、きれいに生きなくてもいいんだな」と。堕ちるを楽しむというか、どこかすがすがしい気持ちにもなりました。

 ここから坂口安吾にはまり、『恋愛論』など、他の本も読みました。今は、青空文庫(著作権が切れた文学作品を中心にデジタル化し、無料で公開している「インターネット電子図書館」)で公開されていますし、まとめ読みもできますよ。

「この連載で挙げた古典・名著10冊のリストと、今回紹介した読書法がお役に立てれば幸いです」
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古典・名著10冊のリストは下記の記事から 東大生や頭がいい人が好んで読む「古典・名著」5冊 王道編 東大生や頭がいい人が好んで読む「古典・名著」5冊 トレンド編

取材・文/三浦香代子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 撮影/junko(西岡さん)、スタジオキャスパー(本)