新年を迎え自分を見つめ直す人も多いだろう。「自分は不器用で損ばかりしている」「あの人はいつも楽しそうだ」と思った人は要注意。その根底にあるのが「他人との比較」。そこでオススメしたいのが中国の思想家・老子の教えだ。「価値は相対的なもの。自然のまま、流れのままに生きていこう」と「無為自然」に考えればラクになる。でも、つい相手を見下してしまうとき、老子ならどうする? 日経ビジネス人文庫『人生に、上下も勝ち負けもありません。焦りや不安がどうでもよくなる「老子の言葉」』(野村総一郎著)から抜粋・再構成してお届けする。

自分の居場所はここじゃない

 自分はこんなところにいるべき人間じゃない。
 もっと評価されていいし、もっと活躍できるフィールドがあるはずだ。
 そんなふうに今いるコミュニティに不満を持ち、悶々(もんもん)としている人も多いのではないでしょうか。

 世が世なら、こんなところに自分はいない。
 周りはレベルの低い話ばかりで、レベルの低い仕事ばかり。
 これが一生続くのかと思うとイヤになる。
 自分はもっとちゃんとした人たちと一緒にいるべきなのに、くだらない。
 それをもっとわかってほしいのに…。

 誰にだってそんな気持ちになることがあるはずです。

 受験や就活に失敗し、望まない学校や会社に入ったときはどうでしょう。
 不本意な異動や出向を命じられ「なんで自分がそんなところへ行かなければいけないんだ!」と腹が立ち、失望することもあるかもしれません。
 周りに失望するだけでなく、もしかしたら、自分自身にも失望しているのでしょうか。

 そんなときは「カメレオン」のことを考えてみてください。

<カメレオンの思考>
 こんなところで目立ったって、意味ないじゃん。
 実力、温存しておこうぜ。
<老子の言葉>
 和光同塵(わこうどうじん)。
(出所)金谷治『老子 無知無欲のすすめ』(講談社学術文庫)
[医訳]
 「光を和らげて、塵(ちり)に交わる」、
 すなわち自分だけが「光り輝いている存在」となるのではなく、
 もっと俗世間に交わってみることが大切だ。

あえて周りに同化する

 つまらない人たちに囲まれて「自分だけが正しい」「自分はこんなところにいる人間じゃない」と思っているとしても、とりあえず周りに同化してみてはどうか。
 そんなメッセージを老子は発しています。

 そりゃあ、今の境遇に不満があるのですから、
 「俺は、こんなヤツらとは違うんだ!」
 「私はもっと優秀なんだ!」
 と主張したくなる気持ちはわかります。

 その境遇にいることに、何よりあなた自身が傷ついているでしょうし、「自分にはもっと価値がある」「それを認めさせたい」と焦り、不安があるのだと思います。

 しかし老子は、自分の優れた人格や実力をあえて隠して、ゴミで汚れた現実の世界に交わってみようと説きます。

 「和光同塵」という言葉は、仏教では、菩薩(ぼさつ)が民を救うために、本来の清らかな姿を隠し、欲をまとって俗世間にあらわれるという意味でも使われます。

 現代では「もっと輝く人生を」とか「輝く自分に生まれ変わる」というような「自分がキラキラ輝くこと」をよしとする風潮もあります。

 でも、本当に徳の高い人はことさらに「あなたたちとは違う」とアピールなんてしません。自分の光を強調したりはしないのです。

 そもそもが「ジャッジフリー」ですから、周りと比べて自分は上だ、もしくは下だ、といったジャッジもありません。

カメレオンになるゲーム

 とはいえ「あいつらと同化なんて、どうしても我慢がならない」というのであれば、ここは一種のゲームと考え、カメレオンになりきってみましょう。

 カメレオンは赤や青、鮮やかな緑などカラフルな色になることもできますが、樹木や枯れ葉のような、くすんだ色に変化することもできます。

 カラフルであることがすてきなのではなく、その場に応じて自分を変え、なじませることがカメレオンのもっとも優れた能力です。

 周りは変わらないけれど、自分を変えてみる。これは妥協ではありません。
 より建設的に生きるために、自分の視点を変えることです。

ときに「擬態」して生きることも立派な戦略(写真:Miss V/stock.adobe.com)
ときに「擬態」して生きることも立派な戦略(写真:Miss V/stock.adobe.com)
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したたかに「擬態」して生きる

 自然界にはカメレオン以外にも、ほかのものに様子を似せる「擬態」を使う生き物がたくさんいます。自分の本質は変えず、生き延びる戦略として使っているのです。

 現実的には、多少プライドが傷つけられることもあるでしょう。
 でも「こんなところで悪目立ちしても、しょうがないや」くらいのしたたかな気持ちで、周りに合わせてみてはどうでしょうか。

 「ここはダメな場所」と場所の優劣をジャッジするのではなく、今いる場所でできることを淡々とこなしながら、真の実力は内に秘めておく。

 本当に実力があるなら、いつかは必ず逆襲の機会が訪れます。
 今はそのときに備えて「じっくり待つ」。そのための「和光同塵」です。

<まとめ>
 自分はこんなところに留まっている人間ではない。
 そんなふうに思って周りを見下すのではなく、まずは「そこになじんでみる」
10万人を診た精神科医が教える「老子の言葉」

読売新聞「人生案内」回答者を17年務めた医師が、「人生がラクになる」老子の教えを伝授します。「他人がうらやましい」「自分は損ばかりだ」と日々モヤモヤする人には、老子の“抜け道をいく”哲学が最善の武器になります。

野村総一郎著/日本経済新聞出版/880円(税込み)