ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの衝突など、ヨーロッパや中東情勢がどんどん緊迫するなか、今、世界では何が起こっているのか、それはなぜ起きたのか。これらの背景を知ることが大切です。そのためにきっと役に立つ本を、ジャーナリストの池上彰さんに聞きました。2回に分けて、池上さんの著書を中心に3冊を紹介します。今回は前編。
それぞれの国の思惑を理解する
ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの衝突など、ヨーロッパや中東情勢がどんどん緊迫するなか、今、世界では何が起こっているのか、それはなぜ起きたのか。これらの背景を知ることが大切です。
そこで、国際情勢から経済への影響まで考えるうえで、読んでおけば日々の情報やニュースを理解するためにきっと役に立つ3冊を、最近の自著を中心に紹介しましょう。
1冊目は、『 歴史で読み解く!世界情勢のきほん 』(池上彰著/ポプラ新書/2023年10月刊)です。
どんな国も、当たり前ですが、自分の国が一番だと思っています。これを内在的論理というのですが、一番だと思っているその理屈から考えると、国際情勢の中でその国がなぜそう動くのか、その論理が見えてくるのではないか、と考えました。各国の思惑を理解すると国際情勢はより理解できます。
例えばロシアがウクライナに軍事侵攻した。日本から見ていると何であんなに広大な国がウクライナに攻め込むのかと思うかもしれません。
しかし、ロシアの立場になると、国土が広いということは国境線が長いということです。国境線を守るのは実はとても大変です。どこから攻められるか分からない。
ナポレオンの侵略を受けたし、日露戦争では負けてしまって領土を奪われた。第2次世界大戦ではナチス・ドイツが攻めてきた。そうなるといつ何時、国境の向こう側から攻めてくるか分からないと、いつもおびえていることになる。ロシアって実は臆病な国なのです。
だからこそ、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に入ろうとすると、プーチン大統領にしてみたら、NATOが攻めてきたようにみえる。ウクライナまで来るのか。ここにNATO軍が駐留するようなことになれば国境線が脅かされるという思いから軍事侵攻をしました。
ロシアという国は、自分の国を守るために、脅かされると思うと常に先に手を出すということを知っておくのが大事なのです。
歴史的背景を知ればその国が分かる
フランスでは高校生でも年金改革についてデモをします。日本で年金改革に反対といって高校生がデモをするというのはありえないでしょう。
それは、フランス革命という成功体験があるからです。
何かあると街頭に出て抗議をすれば、世の中を動かせるんじゃないかという思いがある。だから何か不満があれば、外に飛び出す。
フランスに行くと、ストなどで地下鉄やバスが突然止まるのは日常茶飯事です。でもそれはフランスってそういう国なんだという歴史的背景を知るだけで、見方が違ってきます。
本書のまえがきで1939年に当時の平沼騏一郎首相が、「欧州情勢は複雑怪奇」と言って退陣してしまったことを引用しました。では、私たちは今、国際情勢を理解していると言えるでしょうか。まだ全然理解していない。なぜか。それは宗教です。神社、お寺、教会と宗教的になんでもありの状態の日本では、一神教の考え方をやはり理解できないわけです。
例えば、フランスはなぜ事実婚が多いのか。実際、事実婚で生まれた子供のほうが多いのです。フランスはカトリックが多い国だから、正式に教会で結婚してしまうと離婚できない。将来どうなるか分からないからいつでも離婚できるようにと、事実婚を選ぶのです。
結局それで事実婚が5割を超えてしまった。事実婚のカップルに子供が生まれる。その子たちも正式な結婚で生まれる子供と同じように扱おうとフランスはしているのです。フランスでは婚外子の方が多いと聞くと、なんてふしだらなと思う人がいるかもしれないけれど、それは違う。カトリックだとなかなか離婚できないから事実婚を選ぶのです。
イスラエルとパレスチナそれぞれをめぐる争いや、本書でも紹介したアメリカの福音派(エバンジェリカル)の考え方は、宗教のことを知らないとなかなか理解できないでしょう。
宗教のことが分かるといろんなことが見えてくるんじゃないでしょうか。
(後編に続く)
取材・文:笠原仁子 撮影:尾関祐治



