これが起きたから、次にこれが起きるという「作用反作用の形」、そういうリズムを知ると、今こういうことが起きると次にこうなるのではないかという先が見えてくるようになります。歴史の流れや経済の知識を身に付けるのは、そのリズムをつかむためです。ジャーナリストの池上彰さんに聞く世界情勢を理解するために役立つ本、後編では2冊を紹介します。

前編「 池上彰 世界情勢&経済を読み解くために読んでおきたい本

池上彰さん
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 後編で紹介する1冊目は、『 池上彰のやさしい経済学[令和新版] 2 ニュースがわかる 』(池上彰著、テレビ東京報道局編/日本経済新聞出版/2023年11月刊)です。大学生や社会人の皆さんに経済の知識を持ってもらい、世界情勢を知ってほしいと出した本です。

『池上彰のやさしい経済学[令和新版]』(池上彰著、テレビ東京報道局編)の2巻。「1 しくみがわかる」では、「お金とは何か」ということから「需要と供給」「ケインズ経済学」「行動経済学」など、これだけは知っておきたい経済学の基礎を、用語解説やイラストを使って分かりやすく解説
『池上彰のやさしい経済学[令和新版]』(池上彰著、テレビ東京報道局編)の2巻。「1 しくみがわかる」では、「お金とは何か」ということから「需要と供給」「ケインズ経済学」「行動経済学」など、これだけは知っておきたい経済学の基礎を、用語解説やイラストを使って分かりやすく解説
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 この本のもとになっているのは、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)での授業です。芸術系の学生ですから、経済のことをよく分からない人も多い。

 そこで経済の基礎の基礎から学べる授業をやったら、それがテレビの番組になり、書籍になった。書籍化にあたり経済用語の解説や歴史コラムなどをいろいろ書き込んだことで、大学生だけでなく、社会人にも分かりやすい本になりました。

 その本が、10年を経て新しい情報を入れて、「令和新版」としてアップデートされました。

 もともと経済学のことを何も分からない、円高円安というのもなんとなくしか分からない、金融緩和って何だろうというレベルの読者に向けて書いています。だから高校生レベルの人から理解できるし、特に就職活動をする経済学部以外の大学生にも向いている内容になっています。また、「日本経済新聞」を読み始めたけれど、何が書いてあるのか分からない、そんな人が新聞記事を読むための基礎を身に付けるためにも役に立つ本です。

ニュースの理解に経済学の基礎は必須

 就職して社会人になっても、ニュースを見ていてやっぱりよく分からないことはあるものです。

 FRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利を引き上げた。その結果、日本が円安になる。どういうことなの? となる。今まさに起きていることをきちんと理解する必要があるのです。

 景気を良くするために円安が続いていますが、円安が進みすぎて輸入品が高くなり物価高になって、一般の国民にはものすごく弊害が出ています。

 そこで、日本銀行の植田和男総裁が、弊害を除かないといけないといったことを言います。ということは、ゼロ金利政策をやめるのかもしれない。そうなると円安がどうなるか分からない。

 ドル預金をする人が今、増えています。ドル預金をすると金利が5%ぐらいつきますが、もし円高に振れると為替差損が起きうるわけです。そういう理屈を知るうえでも、経済学の基礎知識が必要です。

 通貨から国際情勢が学べることもあります。この本の中では直接触れていませんが、国際情勢と通貨という面では、こんなエピソードがあります。

 2001年に起きたニューヨーク同時多発テロのあと、いつアメリカはアフガニスタンを攻撃するのかといわれていました。このとき、アフガニスタンの通貨アフガニが急に上がった。アメリカが攻撃するといわれているのになぜ、アフガニスタンの通貨が上がるんだろう。

 国際情勢を分析する専門家からすると、CIA(米中央情報局)がアフガニスタンに入って、アフガニスタン情勢を調べるためにドルをアフガニに替えて現地で渡しているからだなと分かります。ドルがアフガニスタンにかなり流れ込んでいる。アメリカのアフガニスタン攻撃は近いぞ、と彼らは判断するんです。

 いつもというわけではありませんが、このように通貨の変動を見ることで国際情勢が読めることがあるのです。

 この本は金もうけにすぐ役に立つというものではありませんが、世界や日本の経済が変動する中で、自分の資産を守り運用するためにも、この本から学べる経済の基礎知識がとても役に立つのではないでしょうか。

リーダーのスピーチから国際情勢を学ぶ

 2冊目は、『 世界を動かした名演説 』(池上彰、パトリック・ハーラン著/ちくま新書/2023年10月刊)です。世界史の指導者たちはどんなスピーチをしてきたのか。彼らのスピーチについて、私が当時の国際情勢を、パックン(パトリック・ハーラン)が原文の英語の読みどころを解説しました。

『世界を動かした名演説』(池上彰、パトリック・ハーラン著)。現代史を語るうえで欠かせない、教養としての名スピーチを集めた1冊
『世界を動かした名演説』(池上彰、パトリック・ハーラン著)。現代史を語るうえで欠かせない、教養としての名スピーチを集めた1冊
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 説得力のある演説には、エトス(その人自身の信頼性)、パトス(聞いている人の感情)、ロゴス(論理的なアピール)の3つの要素があるといわれていて、それが人を動かします。ウクライナのゼレンスキー大統領はエトスとパトスの人です。

 2022年3月、英国議会で「我々は、海で戦い、空で戦い、どれだけ犠牲を出そうとも、我々の領土を守ります」と語ります。これはチャーチル・イギリス元首相の有名な演説をほうふつとさせました。ゼレンスキー大統領のこの演説にスタンディングオベーションがやまず、イギリス議会の議員たちは涙を流しました。

 もとになったのは、1940年6月に英国議会で、第2次世界大戦時、イギリス軍の反転攻勢を鼓舞し負け戦を勝ち戦に転換させたチャーチルの世紀の演説です。
 「我々は戦う。岸辺で、上陸地点で、野原で、街路で、丘で。我々は決して降伏しない。万が一、広く本土が征服され飢えに苦しむことになろうとも、我が帝国は海の向こうでイギリス艦隊に守られつつ、必ずや戦い続けるだろう」

 みんなが打ちひしがれているときに、われわれは絶対撤退しないんだ! と名演説をうつ。士気を高めたのがこの演説だったのです。

「世界の首脳たちの演説は、それぞれの時代と場所によって規定されています。どんな時代背景にあって発せられた言葉なのか、それを知ることで、現代史が一段と理解できます」と話す池上さん
「世界の首脳たちの演説は、それぞれの時代と場所によって規定されています。どんな時代背景にあって発せられた言葉なのか、それを知ることで、現代史が一段と理解できます」と話す池上さん
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 ケネディ米大統領の1963年6月の西ベルリンでの演説も感動的です。ベルリンの壁という問題を世界に知らしめた演説といわれています。
 西ベルリン市民に、「『私はベルリン市民である』と言えることは、今日の自由社会における誇りです。Ich bin ein Berliner(私はベルリン市民です)」とそこだけドイツ語で話したのです。

 2001年、アメリカの同時多発テロの慰霊の式典が各地で開かれました。そのとき、ベルリンで、「I'm a New Yorker.」と応えたドイツ国民がいました。かつてケネディが行った演説のオマージュですね。

歴史や経済のリズムをつかむ

 これが起きたから、次にこれが起きるという作用反作用の形、そういうリズムを知ると、こういうことが起きると次にこうなるのではないかが見えてきます。

 先ほど紹介した『池上彰のやさしい経済学』にも書きましたが、バブルは30年ごとに起こると言われています。バブルで痛い思いをした人がいなくなって、バブルをよく知らない人が30年ぐらいすると増えてくる。するとバブルが起きる。バブルから30年後にあたる2020年には何が予定されていたか。東京オリンピックでした。あのとき、バブルになりかかったのです。新型コロナウイルス禍で雲散霧消しましたが、これなどまさに経済のリズムです。

 歴史の流れや経済のリズムをつかむのに、今回紹介した本が役に立つはずです。

取材・文/笠原仁子 撮影/尾関祐治

学生たちのお金の不安と疑問にこたえた!

インフレ・デフレとは何か? いくらになれば円高で、どこからが円安? 老後資金はどうなる? 日本は豊かになれるのか、私たちの暮らしはどうなるのか? 累計48万部超のベストセラーを10年ぶりに改訂。シリーズ2巻目は、日々のニュースから経済が分かる1冊。

池上彰著、テレビ東京報道局編/日本経済新聞出版/1760円(税込み)