2024年秋、世代論をつづった2冊の本が刊行された。1冊は、コラムニストの石原壮一郎さんの『 昭和人間のトリセツ 』。もう1冊は千葉商科大学准教授で働き方評論家の常見陽平さんがつづった『 50代上等! 』。昭和生まれのお二人に、「昭和人間」の中にある世代意識の違いや、歳を重ねることの楽しさなどを話していただいた。最終回は、「昭和はよかった」について思うこと。
第2回 常見陽平×石原壮一郎 世の中を信じられない50代、信じられる60代
第3回 常見陽平×石原壮一郎 歳をとっても「嫌なこと」ってあんまりない
第4回 常見陽平×石原壮一郎 「昭和はよかった」は果たして本当なのか?今はここ
「昭和のほうがよかったこと」を考えてみる
前回の記事 「歳をとってよかったこと」 というのは個人に属する話でしたが、今度は時代に属する話ともいえる、シンプルに「昭和のほうがよかったこと」を、語っていただければと思います。『 50代上等! 』の中に《「令和はコンプライアンスがうるさいから、昭和がよかった」といった雑な議論をするのが嫌でした》という一節があるのですが、とかく雑な議論になりがちな「昭和はよかった」というテーマを考えてみたいと思います。その前段として考えたいのですが「これは絶対に昭和より令和のほうがいいこと」ってなんだと思いますか?
常見 社会が人権を大切にしようという意識を持てるようになったのはいいことですよね。
石原 まだまだかもしれないけれど、セクハラやパワハラを告発できるようになったのもよかったです。
常見 労働者の権利として、休む権利が拡大していることもいいこと。あとは、ネット通販でモノがすぐ届くとか、あらゆることがスマホで手続きができるとか、決済手段が増えたとか、世の中便利になりましたね。ちょっと便利に振り回されているところもありますし、サービス業で働く人の負荷は増えていますが。
石原 その便利さにいかに振り回されないかが、新しい課題として生まれているんですかね。あとは、猥談(わいだん)をしづらくなったというのも、いいことだと思うんですよ。
昭和の男は下ネタ好き、女性好きが前提だった
常見 あと「男はかくあるべし」といった規範がなくなったのも、いいことだなと思いますね。
石原 男にとっても、とてもいいことですよね。
常見 モテないといけないとか、車を持ってなきゃいけないとか、いいかっこしなきゃいけないというのがなくなった。あと、みんなが下ネタ好きとか女性好きという前提がなくなった。
石原 ちゃんと「そういう話は好きじゃない」って言える時代になってきましたよね。著書『 昭和人間のトリセツ 』でも書きましたが、昭和は、あんなに高いお金を出してデートをしたって何も楽しくないのに、クリスマスに頑張らなきゃいけない時代でした。
常見 30年前に竹内まりやさんが『今夜はHearty Party』って歌を出しているんですが、「男とは別れたけどみんなで楽しくやろうよ。恋愛よりも仲間」というコンセプトがとてもよかったですよね。
石原 そういう歌だったんですか。その前に松任谷由実さんが『恋人がサンタクロース』という歌を出して、「男はプレゼントを持って迎えに行かなきゃいけない」という雰囲気が生まれてしまいましたもんね。
多様性が認められる傾向にあり、いろんな人が声をあげられるようになった。その点が今はいいという感じですかね。
石原 ただそこは裏返しでもあって、「男はこうあれ」とか「女はこうあれ」というのが少なくなったことで、楽になった人もいれば、生き方の分かりやすい「正解」がなくなったことで途方に暮れて、むしろつらくなった人もいると思うんですよね。
常見 確かに。
みんなで盛り上がれる国民的ブームの終焉
常見 あと「一億総中流」といわれていた時代は、国民的ブームもそれなりにあって、みんなで盛り上がれたよさもありましたよね。
石原 昭和30年代や40年代は『NHK紅白歌合戦』の視聴率が70%も80%もありましたし。
常見 今では、紅白に出場するからといっても、誰もが知る歌手という感じではなくなりましたよね。
石原 「子どものとき、『宇宙戦艦ヤマト』を見たよね、『銀河鉄道999』を見たよね」という共通体験がありましたよね。でも、今の子どもたちの30年後は、そういうみんなで体験した共通のものというものが少なくなっているのでは。
常見 そういう共通体験は少ないですね。それぞれで盛り上がっているんですよね。今の若者のスポーツってバスケットボールとバレーボールの存在感が、僕たちの世代より断然大きいんですよ。
石原 僕らの頃は、野球だけでしたからね。共通の話題がなくなって、みんながそれぞれ好きなものになった。それは一見とてもいいことのように思えるけど、60代からすると「私の好きなもの」とか「私のお気に入り」ってそんなに大事じゃないだろうとも思える。みんなで同じものを楽しんでいればいいんじゃないの。文化ってそういうものだろって気もするんですけどね。
若者に無理難題が来る時代
常見 大学も明確に変わりました。90年代の大学はまだまだいい加減で、出席しなくていい科目もいっぱいあったじゃないですか。今は、出席は必ずしなくちゃいけないし課題も多く、学生は総じて「時間とお金がない」んですよ。
石原 大学が、いろんな課題を出したり、出席を半強制にしたりして、それで若者の時間とお金を奪っておいて「自由な発想をしろ」と、無理難題を押し付けている気がしますよね。
常見 確かに若者に無理難題が来る時代だなとは思いますね。
石原 あと社会人にも「無理させちゃいけない」という風潮がありますが、これは果たして幸せなのかなとは思いますね。優しいことだけを大事にして、本当に、その人が得られるはずの成長の振り幅を手にできるのかなって思うんですよ。
『 昭和人間のトリセツ 』の中でこんなふうに書かれていますよね。《「今みたいに上司や先輩に甘やかされるのが当然と思っている若手は、10年後、20年後、ちゃんと仕事をやっていけるのか?」ということ。大げさに言うと「日本の将来は大丈夫か?」と心配になります》。
常見 「優しい」と「ゆるい」は違いますよね。
石原 「昭和な働き方を肯定してはいけない」「令和の働き方のほうがいいに決まっている」と自分に言い聞かせても、それでもなお残る引っかかりなんですよね。
昭和のよかったことは「いい加減さ」
改めて考えてみると、昭和がよかったことはなんですかね?
石原 いい加減だったところだと思いますね。例えばコンプラの話などは、今、ちょっと極端に振れ過ぎていると思う。人の揚げ足を取ることが目的になっていたりして。多少、不謹慎な企画や発言があったとしても、今までは「何言ってんだ!」で済んでいた。それをいちいち、これを言ったら炎上するんじゃないかと思い、口に出す前の段階から自分を規制している。みんながちょっとずつ自分を規制していたら、楽しく活力のある社会には絶対にならないと思うんですよね。
常見 男性社会だとか画一化だとか言われた昭和の時代は、本当にその通りだと思うところがいっぱいある一方で、むしろ多様性もあったようにも思うんですよね。
石原 コンプラなどで、逆に画一的になっている部分もあるかもしれませんね。
常見 先日、ザ・ドリフターズの再現ドラマを見てたんですが、『8時だョ! 全員集合』が放送されるたびに苦情の手紙が段ボール一箱分くらい来ているんですよ。でも何千万人も見ているなかで、これだけ来ても屁みたいなものだと、いかりや長介は言った、と。今の感覚だと不適切そのものですが、あの感覚はすごいなって思いますね。
石原 それがパワーを生んだともいえますね。
常見 あの時代には、西武グループの堤義明さんとか、いろんなもの仕掛けていった人たちがたくさんいましたよね。
石原 確かに、あの人たちは、批判とか気にしている気配は全くなかったですね。
第2回 常見陽平×石原壮一郎 世の中を信じられない50代、信じられる60代
第3回 常見陽平×石原壮一郎 歳をとっても「嫌なこと」ってあんまりない
第4回 常見陽平×石原壮一郎 「昭和はよかった」は果たして本当なのか?今はここ
文/岡部敬史 写真/鈴木愛子
なぜ10年前の出来事を最近のことのように語ってしまうのか? LINEが無意味に長文になる理由は? ――仕事観やジェンダー観など多様な切り口から「昭和生まれの人間」の不可解な生態に肉薄し、その恥部をも詳らかにする日本初の書籍。「【注】知っておかなくても構わない昭和・平成用語集」も収録。
石原壮一郎著/日本経済新聞出版/990円(税込み)



