「専門スキルだけではなく、自ら課題を発見し、解決できることが重要」。プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事の平田麻莉さんはこう言います。先が見えない時代のなかで、子どもたちにどのような教育を受けさせればよいのか。福岡雙葉中学・高校、慶応義塾大学総合政策学部を卒業した平田さんに、自らの学生時代の経験も踏まえて話してもらいました。日経ムック 「中学受験を考えたらまず読む本 2023年版」 より抜粋。

自ら課題を発見する

 私が今後の社会で必要だと考えているのは、「問いを立てる力」です。よく、デジタル社会を生きるなかではプログラミングなど専門的なスキルを身に付けたほうがよいのではないか、という質問をいただきます。もちろん、そうしたスキルを有していることは、今は強みになりますが、スキルはあくまで「ツール」で、新興ビジネスやAI(人工知能)に容易に代替されかねません。

 私が10年以上独立したプロフェッショナルとして働き、かつ、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の代表として労働市場を見てきた経験からいうと、仕事が途切れずに活躍するには、単に専門スキルがあるだけでは不十分で、自ら課題を発見し、解決できることが重要です。

 そもそも仕事においては、誰かにとっての「課題」を解決するからこそ、対価としてお金を得ることができるのです。課題がどこにあるのか、それをどう解決するのか、筋道を立てて、自分の頭で考えられる人が重宝されます。

「単に専門スキルがあるだけでは不十分で、自ら課題を発見し、解決できることが重要」と話す平田さん
「単に専門スキルがあるだけでは不十分で、自ら課題を発見し、解決できることが重要」と話す平田さん
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 さらに、デジタル・ITに関するスキルは、生まれたときからスマホがある今の小学生世代であれば、短期間で習得できる可能性が高いです。

 ですから、「スキルを身につけなければいけない」と躍起になるよりも、自分ならではの「問い」を立てる訓練を、小学生のうちからするとよいと思います。

探求学習で培った「言語能力」

 では、こうした「問いを立てる力」を高めるカギは何でしょうか。

 それは「言語能力」にあると考えています。言葉は思考を深めるのに不可欠であり、コミュニケーションの媒介です。言語能力が高ければ高いほど、問いを立てる、つまり、課題を発見できる力も自然と身についていくでしょう。

 私自身、中高一貫の女子校である福岡雙葉に通っていましたが、その学校で「社会研究部」に所属していた経験が、言語能力を飛躍的に伸ばしてくれたと感じています。

 社会研究部では、ハンセン病や銃社会など、先生が用意したテーマをもとに、部員みんなで問いを立て、仮説をもって調べて、論文にまとめるという活動をしていました。今でいう探求学習そのものですね。その活動のなかで、論理を展開する力や課題発見の仕方、自分ならではの着眼点などを手に入れることができました。

 中学生、高校生という多感な時期に、こうした答えのないテーマについて考え、自分なりの理論を展開する訓練ができたことは、広報として言葉を駆使して、世論や政府を動かす現在の仕事につながっていると確信しています。

親の常識を子どもに押し付けないで

 現在の日本の労働市場を見ていて感じるのは「幸せの方程式」と呼べるような、キャリアの道筋はもう存在しない、ということです。

 これまでの日本社会では、偏差値の高い大学に入学し、給料の高い会社に就職し、定年退職まで勤めるという直線的な生き方がロールモデルでした。しかし、人生100年と言われ、定年まで勤め上げれば安泰という時代ではなくなりました。むしろ1つの会社や収入源に依存すること自体がリスクと考える人も増えています。そうした環境下では、私たち親世代は「親の常識を、子どもに押し付けない」ことを大事にするべきではないでしょうか。

 私たち世代と、子ども世代の生きていく環境は180度違います。たとえ子どもがいい大学に入学し、いい会社に就職したとしても、幸せな人生が待っているとは言い切れません。VUCAと呼ばれる予測不能な時代に、親も子どもも意識すべきは「自分なりの豊かさ、幸せの基準を持つ」こと。

 言い換えると、外部環境や他人の物差しに頼らず、「セルフマネジメント」「セルフモチベート」ができる人材は、世の中がどう変化しようとも、自律して柔軟に幸せをつかめるのだと思います。

「『親の常識を、子どもに押し付けない』ことを大事にするべき」
「『親の常識を、子どもに押し付けない』ことを大事にするべき」
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偏差値にとらわれない学校選びを

 そうした意味でも、私は福岡雙葉に通ってよかったなと思っています。キリスト教を軸にした教育で、天から与えられた命の使い方を自分なりに考え、あらゆる経験を前向きに受け入れる力が身に付きました。また、友達と毎日A4数枚にわたる交換日記を書いたり、放課後暗くなるまで語り合ったりした、他愛もない会話や議論の積み重ねが、今でも自分の核となる価値観を築いたと思います。

 これから中学受験を考えている保護者の方におすすめするとしたら、偏差値や大学合格実績にとらわれず、お子さんの価値観・人格形成にいい形で寄与する学校を選ぶ、ということでしょうか。その学校に、偏差値一辺倒の教育に対する問題意識をもっていたり、現役世代と今の子ども世代のキャリア形成が大きく変化することを理解していたりする先生がいるかどうかを判断基準に置くとよいと思います。

 また、子どもの「得意」や「好き」を伸ばす学校も魅力的ですね。保護者の皆さんには、ぜひ肩の力を抜いて、お子さんの可能性を信じた学校選びをしてほしいと思います。

取材・文/湯浅大輝 写真/竹田宗司

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