「『やりたいこと』を見つけることが、生きていくうえでは最も大切」。「スーツに見える作業着」をヒットさせたオアシススタイルウェア(現・オアシスライフスタイルグループ)の前代表取締役、中村有沙さんはこう話します。中村さんは桜蔭中学・高校、東京大学経済学部を卒業し、水道工事会社に就職、新規事業を立ち上げました。自らの経験を基に、これからの時代に必要な能力について話してもらいました。日経ムック 「中学受験を考えたらまず読む本 2023年版」 より抜粋。
やりたいことを追求する
私が生きていくうえで最も大切にしている価値観は、「やりたいこと」を見つけ、それを自分らしくやり抜くことです。自分の人生を振り返ると、常にやりたいことを見つけ、実現するための方法を考え続けているように感じます。
今でこそ人と話すことは苦にならないのですが、中高・大学時代の私は、引っ込み思案な、いわゆる「陰キャ」。そんな自分を変えたいと思って新卒で飛び込んだのが、営業の世界でした。
5年目に同じ会社で人事部を立ち上げたのは、「こんな仕組みがあれば、もっと働きやすくなる」という思いから。研修や評価制度、表彰制度を一からつくるのは、とてもやりがいを感じる仕事でした。
さらに31歳のときには、社内向けに開発した「スーツに見える作業着」を事業化した子会社・オアシススタイルウェアの代表に就任。まだまだ人事部でやりたいこともあり、迷ったのですが、「新事業を起こして拡大させていくこと」は、ずっと挑戦してみたかったこと。せっかくのチャンスと思い、一歩を踏み出しました。
立ち上げメンバーは、アパレル業界が未経験の私と、新卒4人のみ。まったくのゼロからのスタートは苦労しましたが、電話や飛び込みでの営業など、とにかくできることから行動し、徐々に軌道に乗せていきました。
その後、出産や産休を経て4年間勤めた会社を今年2月に退職し、現在はフリーランスで介護関連の仕事をしています。介護に興味をもったきっかけは、両親が祖母の介護に苦労している様子を目にして、介護業界の抱える課題に気づいたこと。
今は、介護について勉強をしながら、いくつかの企業の広報やリサーチ業などをお手伝いしていますが、将来的にはもう少し具体的な形で、業界の課題解決のためにできることは何かを模索し、実行していきたいと考えています。
語学力やデジタルスキルなど、これからの時代に必要とされている能力はいくつもありますが、これらはあくまでも目標を達成するためのツール。目標さえはっきりしていれば、スキルはあとからでもついてきます。だからこそ、自分が情熱を注ぐことのできる「やりたいこと」を見つけることが、生きていくうえでは最も大切なように感じます。
娘に求めるのも、自分の力を発揮しながらやりたいことをやってほしいというのがすべて。そうしていきいきと人生を歩んでいってほしいですね。
自ら「問い」を立て「答え」を見つける力
もう1つ、社会で活躍するために欠かせないと感じるのが、問題や課題、それらに対する答えを自ら見つけていく力です。
与えられる課題をいかに効率よく処理していくかが問われる学生時代と異なり、社会に出てからは、自分が何に取り組むべきかを自ら考えて見つけ、優先順位を付けていく必要があります。
また、それを解決するための方法や答えにも、正解はありません。自分なりにこうするのがよいと思う「答え」を仮説として立てたら、それを達成するために、やり抜く力というのも重要です。
とはいえ、頭だけで考えて課題と答えを見つけるのは、机上の空論になってしまう可能性も否めません。私の場合は、人事部でもアパレル事業でも、解決すべき課題を見つけ、何ができるのか考えて仮の答えを設定したら、スモールステップで行動しながら軌道修正をしていきました。
不安で立ち止まってしまいそうなときも、少しずつでよいので進んでいくことが、問題解決の近道になるように感じます。
「王道を外れる」経験は挑戦のバネに
自分の経験を振り返って感じるのは、誰でも人生一度は、「王道を外れる」経験をしておくといいのではないかということです。
実は私は、大学時代にモラトリアムのような時期があり、大学4年生を3回経験しています。大企業に就職しようと考えたこともありましたし、公認会計士を目指して勉強したり、中小企業でインターンをしたり、いろいろなことを考え、経験した時期でした。こうして紆余曲折(うよきょくせつ)した経験が、今のキャリアの原点になっています。
大多数の人とは異なる選択をする経験をしておくと、あとに何かに挑戦してみたいと思ったときに、勇気を出しやすくなります。人によってやり方はさまざまあると思いますが、そうした経験をしておいても損することはありません。
中学受験は初めての自分らしい選択
やりたいことを見つけるという意味で、中学受験は、絶好の入り口になるように思います。私自身、中学受験は自分らしい選択をした初めての経験で、やりたいことを考えるいい機会になりました。
また、分かりやすいところでいえば、この時期に勉強したことは、知識としても教養としても、今も頭に残っています。私の好奇心や判断力のベースになっていると言ってもいいかもしれません。
中学受験を、自分らしさやわが子らしさを考えるチャンスと捉え、「やりたいこと」を見つける道の第一歩にしてほしいですね。
取材・文/浅海里奈(カラビナ) 写真/八藤まなみ
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