新刊『 妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話 』の著者、編集Yこと山中浩之氏が日経ビジネス電子版で始めた連載「数字で縛ればやる気が逃げる」。自著の取材を振り返りながら、あれこれ考えを深めていくコラムを日経BOOKプラスでも転載中です。とても面白い記事なのでぜひ読んでいただきたいのですが、せっかく「本の情報」を発信する当サイトですので、元記事には収録されていないオリジナルコンテンツとして、記事の関連箇所を書籍から抜粋して掲載します。本書の主人公たる相模屋食料の鳥越淳司社長と編集Yのテンポの良いやり取り。そこで明らかになっていく「数字の罠」とその飛び越え方。記事と共に、本の魅力もしっかりお伝えできれば幸いです。第13回は「社長はいかに会議に臨むべきか」についてのお話を。(日経BOOKプラス編集部)

 テレビドラマの「ふてほど(不適切にもほどがある!)」を引用したくなるほど「昭和の熱気が大好き」と公言する相模屋食料(以下、相模屋)の鳥越淳司社長。その相模屋の中核となる集団が、月に1度、群馬県前橋市の本社で行われる「製販会議」のメンバーだ。

 工場・営業の課長以上、グループ全社員1000人の中から約50人が参加するこの会議では、鳥越社長が現状と将来計画をプレゼンし、現場からの状況報告が行われる。「燃える人をもっと燃やして、周囲に“延焼”させる」ことで、組織の熱を高めていくのが「ふてほど」の回でも触れた鳥越社長のやり方だ。

 「燃える集団」を目指す相模屋の中で、イグニッション役を担う人々の集まりだけに、相当に昭和っぽい、「地獄のオガワ」みたいな人がたくさんいて、鳥越社長も「機動戦士ガンダム」に登場する名アジテーター、ギレン総帥のごとく獅子吼して、さぞ感動的に盛り上がるんだろうな……。そんな予断を持ってある土曜日の朝8時に、製販会議の会場隅に座らせてもらった。

 ところが意外なことに、会議は静かに淡々と進む。

 鳥越社長のプレゼンは、ガンダムを初めとするアニメやマンガの名せりふがするっと織り込まれた、ちょっと挑発的な面白いスライドが次々と表示され、笑いも起こるが「爆笑」という感じではない。あえて言えば鳥越社長の出し物を「楽しんでいる」雰囲気だ(取材時のプレゼン資料を『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』で一章を割いて収録しています)。

「会議って意見を言いたくない人がほとんどですよね?」

 「参加者が次々と挙手して、それぞれの意見を戦わせて、熱くディスカッション」とか「社長の熱い演説に感動して思わず拍手」みたいな、ドラマのようなシーンが見られるのか、と思っていたので、正直、若干肩すかしだ。

 「鳥越社長が時折会場の参加者に質問して、それに対して答える場面はあったものの、基本的にはプレゼンターが話し、それ以外は聞く、という、ある意味普通の会議でしたね」

 鳥越社長に率直にそうを伝えたところ、こんな答えが返ってきた。

 「Yさんはそうおっしゃいますけれど、ちょっとご自身の会社の会議を振り返ってみてください。会議の参加者って、本音では、意見を言いたくない人がほとんどじゃないですか? いいからとにかく早く終われ、と思ってません?」

 これは正直否定できない。現場に近い人は「戦略なんて自分には関係ない、こんなことしてるヒマに客先(工場)に行きたい」と思いそうだし、経営に近い人は視野が広い分、自分の管掌範囲に関わるか、関わらないかをまず考えてしまいそうだ。戦略を「自分ごと」にできるのは、早い話、社長だけなのかもしれない。だから参加者は「早く終われ」と思ってしまう。

 「私は海外経験はないので日本人以外のメンタルは分かりませんけれど、少なくとも日本人は、『自分の仕事以外のことを考えるのは苦手』なんじゃないかと。そういう人たちが参加したいと思える会議とはどういうものなのか、考えて考えて行き着いたところがこのやり方なんですね」

 それが発言は強制せず、自ら作り込んだプレゼン資料を“楽しんで”もらうスタイルだ。それなりに面白くなかったら、参加者の緊張感が持たずに続々撃沈しそうである。

 「いまでこそ寝ている人はいませんけれど、最初の頃はやっぱり話がつまらなかったし、朝も早いし、けっこうな人数がぐーぐーと(笑)。15年くらい前から毎月やっているので、だいぶマシにはなったかもしれません」

 参加する気になる会議は、まず、社長が面白く話すことから。
 これはちょっと目から鱗というか、そんなことを期待していいものだとは思ってもみなかった。

ゲームのように世界観と遊び方を指南する

 実際のプレゼン資料は単行本を見ていただきたいが、製販会議の鳥越社長のプレゼンは、ゲームのインスト(ルール説明)に似ていると思った。

 まず、現在の状況をどう見るかという「世界観」が示される。個別企業や業界の、売上高や利益率といった数字“だけ”で説明するのではなく、それぞれのプレーヤーがどんな思考をして、何を目的に、どんな行動を取りそうか、までを解説する。

 「全体の状況がこう、なのでそれぞれの企業はおそらくこんな考えで動こうとしている。それに対して相模屋は、逆手を取ってこう動いている。そうすると次はどうなるか。こんな課題が出てくるだろう」といった具合だ。「ああ、なるほど」とイメージがつかみやすい。

 ゲームで言えば「プレーヤー(相模屋)のステータス、武器」と「これからやるミッション、その目的」は、いわば「今回のストーリー」。そしてプレイするキャラクターがなにをすればいいのかの「ディテール」でダメ押し。で「ほら、面白いだろ? プレイしてみたくならないか?」と訴えかけてくる。そうやって、参加者の「自分ごと」にしていく。

 「言いたいことをシンプルに、イメージとして捉えやすくするのは心がけてますね。製販会議の出席者が部下たちに『ちょっとちょっと、うちの会社って今こんなことをやっていて、こういうのを目指すんだぜ』と言いたくなってくれたらいいな、とは思います」

「自分はこう考えてこうやりたい。うっすら知っておいてね」

 このために、当日朝まで徹夜でパワポのシートをつくっているというわけだが、「ただしですね……」と鳥越社長は言葉をつなぐ。

 製販会議でのプレゼンの目的は、「この内容をみんなにちゃんと理解させたい、そして浸透させたい」というよりは、「私、鳥越淳司はこういうことを考えて、私も一員となり、そして私が責任を取って、実行していきます。みんな知っておいてね」という程度にしたい、と思っているんです、と。

 これまた正直意外だった。経営者は、社員に自分のプレゼン内容を完コピしてもらって、自分の思い通りに動くクローンをつくりたい、と思うものではないのか。

 「いやいや、社員みんなが『これこれをやらなきゃいけないんだ』と気負って責任を感じると、そこから『あれができてない、これができてない』が始まるんです。ジオングに脚を付けたくなっちゃう(「未達に悩むより『ジオングに脚を付けるな!』と言ってみよう」)わけですよ(笑)。

 もちろん、自分の考えを理解してほしいし、浸透するといいな、と思ってはいますよ。でも、なかなかそこまで行かないですよ。そして、うちの社員さんたちはものすごく頑張ってはいますけれども、いわゆるエリートではないんですね。目的や責任で縛るよりも、『わくわくする』『自分の力が生かせる』ことで、やる気になってもらうほうがずっといい。『課長になるとこんな話が聞けるようになるんだ!課長になってよかった』と思える要素になったらうれしいです。日経ビジネスさんの『管理職・罰ゲーム』じゃなくてね(笑)」

 燃える集団、しかしその中心の火加減は、案外じんわりとろ火なのだった。そうする理由はなんだろうか。

 人が仕事に燃える理由はいろいろある。鳥越社長で言えば「相模屋は、Tofuで世界を救う。Plant Based Food(プラント・ベースド・フード)でSDGsに貢献する」と、国連でスピーチまでしてきた(2019年6月6日)。

 「こういう理想も私は本気で信じてますし、日本各地にあるおとうふの文化を守っていく、そのために独自の技術を持つおとうふ屋さんを救済M&Aでグループに入れて再建する、というのも本気です。新製品で『あっ』と言ってもらうのも、すごく大きな喜びです。

 もし社員に、このどれか1つでも共有してもらえたら素晴らしいですし、あるいは私のプレゼンを通して『多くを持たざる者の我々が、ゲリラ戦で勝っていくのがアニメやゲームみたいで面白い』と思ってくれたらそれはそれでとてもうれしい」

 「面白い、やろう」と思ってくれる人を増やす工夫を惜しまないことが、鳥越社長自身を含め、相模屋にモチベーションの高い社員が多い理由のように思える。ついでに言えば、ガンダムの名せりふを引っぱってくることは、誰よりも鳥越社長自身のモチベーションに利いてくるのだろう。

 経営者は、部下を数字でひっぱたくのではなく、まず自分で自分のモチベーションを上げること。強火で炒めるよりとろ火で煮込んで、任された仕事がどういうふうに面白いのかを伝えていくこと。燃える集団のレシピは、こんな要約ができそうだ。

【日経BOOKプラス限定公開】
本記事に関連する箇所を書籍『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』から抜粋してお届けします(277、278ページ)。当該部分は第8章の後半「相模屋らしくあり続けるための課題」についてのお話を。

相模屋はいつまで相模屋らしくいられるか

── 相模屋さんは大企業病にはならないですかね。

鳥越:たぶん、私が生の情報を自分で体感できないぐらいになってくると、そういう風景になってくるんだと思います。

── 働いている方々も、成長が続くといつしか気持ちが変わってきませんか。

鳥越:それはおっしゃる通りですね。我々は中小企業、ゲリラ屋なので、持っているものが少ないんだけど、その分1個の問題に対しての深掘りの仕方が違う。「これとこれとこれしかないけどどうする?」「こういうふうに組み合わせれば全然いいじゃん」というような感じでここまできているんです。

 けれども、業界トップになって、売上高がそこそこの規模に到達すると、昔だったら例えば機械一つ取ってみても、なんとか工夫して使っていたんですが、いまなら「新しいの、買いましょうか」と言える。買い替えるのはいいんですよ。でもその前にちゃんとそれが最適解か、自分で考えたのかな、という。

成長することで死角が増えていくジレンマ

── 成長すればするほど、「アタマよりお金」で解決できる会社になっちゃうというジレンマが。

鳥越:そこが我々の死角というか、急所ですね。成長するほど死角が増えてしまう。

 「調子に乗る」のはいいけれど、現状に満足してしまうとすぐ機動力がさび付きます。ジオンも、資源確保を目的に地球降下作戦をやって、なまじうまくいったものだから、うかつにも地球に居着いてしまった。あれはいけません。ガルマ・ザビのように地球の上流階級と接して自分たちも貴族かなにかのような気分になってしまったりとか、論外です。ああなってはダメです。

燃える集団は、とろ火で煮込んで(写真:BBuilder/stock.adobe.com)
燃える集団は、とろ火で煮込んで(写真:BBuilder/stock.adobe.com)

(次回に続く)

日経ビジネス電子版 2024年3月15日付の記事を転載、一部情報を追加]

「前年比」「利益率」などの数値目標がない会社が「失われた20年」で売上高23億円から400億円に急成長している。2012年に「ザクとうふ」で話題を呼んだ相模屋食料だ。率いるのは当時雪印乳業の「営業マン」だった鳥越淳司社長。普通の会社員が会社を燃える集団に変えていった20年間を、本人の言葉で語ります。

山中浩之(著)、日経BP、1870円(税込み)

●本書の内容をさらに詳しく知りたい!という皆さん、日経BOOKプラスにて「はじめに」と「もくじ」も公開しております。