新刊『 妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話 』の著者、編集Yこと山中浩之氏が日経ビジネス電子版で始めた連載「数字で縛ればやる気が逃げる」。自著の取材を振り返りながら、あれこれ考えを深めていくコラムを日経BOOKプラスでも転載させてもらうことになりました。とても面白い記事なのでぜひ読んでいただきたいのですが、せっかく「本の情報」を発信する当サイトですので、元記事には収録されていないオリジナルコンテンツとして、記事の関連箇所を書籍からたっぷりめに抜粋して掲載します。本書の主人公たる相模屋食料の鳥越淳司社長と編集Yのテンポの良いやり取り。そこで明らかになっていく「数字の罠」とその飛び越え方。記事と共に、本の魅力もしっかりお伝えできれば幸いです。第2回は「新商品開発」について考えます。(日経BOOKプラス編集部)
(前回「妻の実家のとうふ店を400億円企業にした社長の『数字の使い方』」から読む)
「数字を追わないようにしたら、会社が“燃える集団”になっちゃいました」と語るのは日本最大手の豆腐メーカー、相模屋食料(前橋市、以下、相模屋)の鳥越淳司社長。
連載では「もう数字は気にしなくていいから」と言い聞かせて、破綻した豆腐メーカーを次々と再建してきたお話の途中ですが、ちょっと寄り道。
テーマは、「新商品開発」。現在大ヒット中の「うにのようなビヨンドとうふ」の開発秘話を通して、鳥越社長の「数字という客観より個人の主観」という考え方を見ていきます。

上の写真は相模屋の「うにのようなビヨンドとうふ」とその調理例。軍艦巻きは「わさびとちょっぴりのおしょうゆ」で味わうのがお勧めだそうで、崩してパスタ、リゾット、しゃぶしゃぶなどの調味料として使うこともできる。ウニの癖のある味と、豆腐のさっぱりとした食感の組み合わせが面白いそうで、自分の回りや、ネットでのコメントなどを読んでみると、特に左党(お酒が大好きな方々)に評判がよろしいようだ。
こんな商品がどうやって生まれてきたのか。もしや、綿密な調査から、酒のつまみとしての市場を見いだした、とか?
「いえ、うちは市場調査って絶対やらないんです。お金がない、という理由もありますが『どんなおとうふがいいですか』とお客さまにアンケートを取って調べたって、『国産大豆を使った製品を望む声が90%です』とか、お客さま、もうそれは店頭にございます、といった結果しか出ませんから」
(※鳥越社長のこだわりで、氏の発言の「豆腐」はひらがなで「お」を付けて表記します)
なのでとことん自分の趣味、思いつきに突っ走るのだという。「うにのようなビヨンドとうふ」を思いついたきっかけは、協業している大手メーカーの「豆腐ってシンプルな味だから何にでも合うけど、癖になる味はないよね。だから、また食べたいなあと思うことが少ないよね」という言葉だったそうだ。
「癖になる味って何ですか」と聞いた鳥越社長に、そのトップは「日本人というか、アジアの人にとっては、魚介の味だな」と返してきた。「なるほど、じゃあ、ウニいきます、と」(鳥越社長)
魚介類で癖のある風味といえば、ウニ。開発チームからは「また、そういう無茶振りですか?」という反応だったが「どうせ我々が何を言っても、社長が決めたらやることになるんだから、楽しんでやろう」と、開き直ってくれたという。とにかく「誰もやっていない、やろうと思いもしない」ことには強いこだわりがある。
「うにのようなビヨンドとうふを出した後に、実は『イクラのようなビヨンドとうふ』を出そうとしていたんです。だけど疑似イクラってもう世の中にけっこうあるんです。『素材が豆乳になりました』と説明したところで、『ふ~ん』と言われるだけでしょう。だったら、フォアグラをやってみよう、誰もやったことがないだろう、と」
本物のウニをあえて目指さない
面白いのは「うにのようなビヨンドとうふ」は、「ウニの完璧なイミテーションをつくろう」という発想で生まれたものではないことだ。
「ビヨンドシリーズには他にも『カルビのようなビヨンド油あげ』や『肉肉しいがんも~INNOCENT MEAT』などがありますが、ウニの、カルビ、肉の偽物をつくろうというんじゃないんですよ。『ビヨンド』とうふ、『ビヨンド』油あげであって、イミテーションじゃないんです。うにのようなビヨンドとうふは、ウニの味はするけれどおとうふ。カルビのようなビヨンド油あげは誰が何と言おうと油揚げです。現在『フォアグラのようなビヨンドとうふ(仮)』『大トロのようなビヨンドとうふ(仮)』を開発中ですが、これも(以下略)」
カルビ、ウニ、フォアグラにまぐろと、食べ過ぎると体に悪そうなものばかりのラインナップだ。それを豆腐やがんもどきで風味を似せることで、罪悪感が減る、というあたりがポイントだろうか。
「ええ、そこはかなり重要なポイントです。本物のウニを、フォアグラを目指していない理由でもあります」
実は、途中までもっとリアルな本物のウニの味の再現を目指していたのだが、途中で方向転換したのだそうだ。
「ウニってけっこう食べ飽きません? 私はウニをいっぱい食べるような豪勢な家に育っていませんので偏見があるかもしれませんが、一口目、二口目っておいしいんですけど、三口目で『うーん、もういいかな』と。あっ、それはお前が食べたウニのレベルが低いからだ、と言われるかもしれませんが、きっとその通りです。
いいお店を探せば、きっと食べ飽きないウニもあるんですよね。ただ、あえて『普通』にどこでも食べられるウニに対する、普通の人のウニの味のいいイメージは、一口目、二口目までで、三口目以降のウニの味まで再現しても喜ぶ人はあまりいないだろうと思うわけです。ですので、二口目から後の再現にはこだわらない方針に切り替えました」
いいところ取りはなぜ難しい?
分かりやすく言えば「本物のウニじゃなくて、ウニのいいイメージを実現するんだ」ということだ。食通の方からは異論が出そうだし、実際にそういう意見も来ているという。「ウニだ」と喜ぶ人もいれば、「北海道の新鮮なウニ、食べたことないんだろう」という突っ込みもあるそうだ。
「フォアグラも同様です。フォアグラはとても油っぽくて、手で触った瞬間に溶けるぐらいがすごくいいフォアグラなんだと。でも、油っぽいものは飽きるのも早いので、一口目を再現したい。そして二口目以降も一口目の味わいが続くようにしたい。だから本物とは違う。けれど飽きにくい」
本物の完コピを目指すのではなく、いいとこ取りを狙う。ただ言うは易くで、それができれば苦労はない、という話ではないだろうか。
「私たちのやり方は、『ここと、ここと、ここがあれば成り立つ』と、コアを外さず、最低限の要素で構成します。ウニならば『ウニらしくするのに外せないものは何か』だけを考えます。ですので、出来上がったものはいびつだけれども、短期間で、手ごろで、満足度の高いものがつくれる」
そりゃあそうだろう、と思うかもしれない。だが、鳥越社長がこの方針を共同で開発に当たる大手メーカーの開発者に伝えると「そういう考え方はしたことがなかった、面白そうですね」という答えが返ってくるのだという。
「やはり大手さんは、技術力も資金もあるし、人材もいらっしゃるので、“完全”を目指すお仕事のやり方が主流なんでしょうね」
能力があればあるほど「完璧な再現」を目指しがち
豆腐の話から外れるが、ある大手ビール会社のノンアルコールビールの開発の話を聞いたことがある。この会社では、チームを2つに分けて競作させた。片方はビールをつくっているチーム、もう片方は清涼飲料をつくっているチーム。勝者は、清涼飲料チームだった。
話を聞いた印象を自分なりに簡単にまとめると、ビールチームがつくった「すごくよくできているビールのイミテーション」は「とにかくビールの雰囲気があって、あとはおいしく飲めるようにすればいいんだ」と考えた清涼飲料チームに負けた、ということのようだ。
「なるほど。これはお話を聞いて、あくまで私が勝手に想像したことですけれど、高い技術力をお持ちで、リソースも豊富、そしてご自身がビールを愛している。そういう方がノンアルビールの開発に当たったとしたら、再現度で勝負だ、できるだけ本物のビールと同じものをつくろう、ということを目標に置きそうな気がします」
普通のユーザーが楽しんでいる味わいに絞らないで、「ビールらしさ」をとことん分析・再現する。それによってビール通が「これでこそビール」と評価する部分まで含めたノンアルビールができたが、一般客にとってはビールらしい「おいしさ」以外も再現してしまうことになったのかもしれない。そもそも「本物のウニ以外は認めない」人はうにのようなビヨンドとうふに興味はないだろうし、厳密に本格ビールの味わいを好む人は、ノンアルビールを手に取ることは少なそうだ。
味は数字に還元できるか
もう一つ、数字が好きな人は「要素に還元していけば、すべてのことは再現可能だ」という考え方をしがちだと鳥越社長は言う。
「頭のいい方の思考はだいたいこんなふうです。物事があったらそこにある要素を全部分析して、何と何がつながっているのかを調べ上げて、あとはその要素・組成を全部『はい、ここはクリアできた、ここはまだ、ここはできた』とチェックリストでつぶしていけば、目指す地点にたどり着く。
でもね、それでおいしいものがつくれるなら苦労はないです。私はおとうふしか知らないので、あくまでおとうふの話ですけど、いくら数値目標を高いレベルで達成しても、まずいものはまずい。『おいしくないよね』の一言で終わっちゃうんですよね。しかも数値で詰めていくと、何がダメなのかが答えられないんですよ。だって数字は合っているので」
ビヨンドとうふのように、豆腐に「本物っぽい味」を付けるのは、簡単そうでそうでもないそうだ。
「最高の食材と最高の厨房をもってしても、料理人がダメだったらおいしいものはできないのと一緒で、最高の豆乳、大豆と、最高のだしがあったとしても、それを融合させるノウハウがなければできません。うちは枝豆風味のザクとうふから始まって11年もやっていますし、救済M&Aでグループに入った会社が持っていたすごい技術を使わせてもらえるようになったので、豆乳への味の載せ方、絡ませ方が、いまやちょっとした資産になってきました」
豆腐は、大豆と水でつくる極めてシンプルな食べ物だ。となれば素材の差が味の違いに直結するのだろうと思うが、これもまた違うらしい。
現場の“美学”は個人の“主観”
「大豆が違う、にがりが違う、実は、そんなこと“だけ”では、おとうふの味は変わらないんです。味を最終的に決めるのは、単純だけど奥が深い、つくり方なんです」
そこが豆腐メーカーにとっての「美学」「宝物」、ということなのだろう(詳しくは次回で)。
「付加価値は素材じゃなくて、つくり方にあるんですが、効率や合理性に縛られている人にはそこが見えないんです。最後は人の能力ですよ。『モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを……教えてやる!』と言いたくなりますね」
「ひとり鍋」シリーズなど、大量に出るヒット商品でも設備を完全には機械化せず、要所要所に「味の勘所」を押さえた人の手が入ることで、効率最優先の他社と味で差別化できるのだ、という(ここは書籍で詳しく聞いています)。
「人の能力による味の変化は、数字では表現しきれません。だから非効率さを嫌い、数字に出ないことに価値を認めない人には、分かってもらうのが難しい。もちろん意味のない非効率は削るべきですが、コスト追求を最優先すると、その会社の個性だと評価されているところまで踏み込んでしまう。これ、前回申し上げた通り、本当によくあるんです」
さらに言えば、大企業は「完全」や「満点」を目指しがち、と指摘したが、完全志向は画一化、均一化につながる。資金力を生かした最新工場、高性能の設備、まではいいが、目指すところが、「全国どこでも毎日いつでも同じ味」になりがちではないだろうか。
「おいしいものを常に目指すなら、私は、手作業とそれによる味のブレは避けて通れないのではと思います。味を安定させることも大事ですけれど、それが第一目的になると、おいしさを追究するのは難しい。もちろん、どちらを取るのもその方、その会社次第ですけれど。
客観的な評価・分析だけでは、できないこともある。誰かの、例えば職人の主観に任せるほうがおいしい。それは大企業の方には認めるのが難しいことなのかもしれません。もちろん、技術の進歩もありますから、100%そうなのだとは言えませんけど、特に味覚は個人の主観が正しいことが多いように思います」
もし、あなたの会社に鳥越淳司氏がいても……
「うにのようなビヨンドとうふ」に話を戻せば、相模屋流の商品開発が可能かどうかは、「これがウニだ」という、いわば個人の主観で“決めつける”ことができる組織かどうかだ、ということになるのだろう。
「それってつまり、鳥越淳司がいるかどうかってことじゃないのか」
ということでもあるかもしれない。しかし、仮に他の食品会社に鳥越淳司氏がいたとして、その会社が百歩譲って「うにのようなビヨンドとうふ」という企画を通したとして、鳥越氏個人に味の決定を任せることができるだろうか。
組織が大きくなると、位取りの上下にかかわらず、個人の主観で動かすことは難しくなる。その分野の実務に通じていない人が決定権を持っている場合は、過去の経験値なり、客観的な数字の裏付けが求められるだろう。
「大企業は常識や数字にとらわれがち」とよくいわれる。これは「既存の常識に従わないと、数字の裏付けがないと、社内が動かせない」って言ったほうがより正確だろう。リソースもある分、もし非常識な手を打とうとすれば「人も予算も十分あるのに、なぜ完璧にやろうとしないの? えっ、エビデンスもないの?」と問われてしまうであろうプレッシャーもかかる。
「そのプレッシャーによって、お客さまの満足よりも、数値目標を達成すること自体が仕事の目的になったりしますよね。規模の小さい相模屋が、もしそうなったらおしまいです……編集Yさんに乗せられてなんだかいろいろディスっちゃったみたいになりましたが、大企業さんの研究開発力はすごいですよ。とてもじゃないけれどマネできません。競争するより協調して、共におとうふの市場を広げていく、というのが理想です。おかげさまでいろいろな会社さんから『一緒にやろう』と声をかけていただくようになりまして」
大手から声がかかる理由は「普通はなかなかないテーマに挑戦できるからでは」とのことだ。
「フォアグラを、大トロを、とテーマをお話しすると、社内の開発チームも、そして協力してくださるメーカーの研究者の方も、最初は微妙な顔をするんです。でも『いつもは省力化とか、品質の安定とかがテーマなので、そんな面白そうなお題は初めてもらった』と喜んでくださるんですよ」(笑)
開発者の“ノリ”がよくなると、「今回はこうやってみました、みんなで食べてこんな印象でしたので、次はこうしたいです」と、先方からぐいぐい話を進めてくれる。複数の会社とテーマを共有して、進行もオープンにしながら開発することも増えてきたという。
「試食会で『うちのアイデア、どう使われました?』『はい、こことこことここに』『ああ、よし、効きましたね』みたいな話で盛り上がるわけです」(笑)
アイデアを具体的に再現性のある手法にしていくのは、やはり大手メーカーのほうが圧倒的だと鳥越社長は言う。「一方で、我々は先に申し上げたように、数値化しにくい部分にたけている、と思います。それと経験値ですね」。ついでに言えば、思わず笑ってしまうような、数字抜きのテーマ設定のうまさも加えるべきだろう。

【日経BOOKプラス限定公開】
本記事に関連する箇所を書籍『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』から抜粋してお届けします(150~160ページ)。当該部分は第5章冒頭で、「うにのようなビヨンドとうふ」の開発をめぐる鳥越社長と編集Yのやり取り。本文との重複は各所ありつつも、鳥越式商品開発の原点たる「ザクとうふ」や、新作「カルビのようなビヨンド油あげ」についての考察なども含め、たっぷりめにどうぞ。
豆腐でウニ、豆腐でカルビ、さらにはフォアグラ、大トロまでも。大手企業やグループ会社と組んで、独自の商品開発を進める一方で「ひとり鍋」シリーズなどで手堅いヒットも連発する幅の広さ。その根底には「おいしさ」のためなら「プレ」を許容する考え方があった。
鳥越:いきなりですけど、これを見てください。

── ふむ、うまそうなウニの軍艦巻きですね。
鳥越:こちらは「うにのようなビヨンドとうふ」(2022年3月発売)を軍艦巻きにしたものです。この商品、いま絶好調でして。
── 「ビヨンドとうふ」って、最初、「ナチュラルとうふ」って言ってませんでしたっけ?
鳥越:ああ、「F1層(20~24歳女性)狙いで開発した初めてのおとうふです」と宣言して発売した「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」(14年8月発売)のことですね。若い女性向けのファッションショーを使って大々的に宣伝しました。
── 「ザクとうふ」の次はファッションショーか、と当時びっくりしました。
鳥越:「マスカルポーネのような……」は、現在はビヨンドとうふシリーズの一つとして継続販売しています。ビヨンドとうふは、豆乳100%のコクのあるクリームを使ってつくる、おとうふの新しい可能性を切り開く商品群です。食べ物のおいしさって詰まるところ、油じゃないですか。その油のうまみ、コクを、豆乳ならば植物性の大豆由来で提供できる。じゃあ、うちがそれをおとうふでやりましょう、と。
── それで、ウニですか。
鳥越:「カルビのようなビヨンド油あげ」(23年3月)、「肉肉しいがんも~INNOCENT MEAT」(21年9月)や、チーズみたいなおとうふ(「BEYOND TOFU BAR」「BEYOND TOFU ピザ・シュレッド」など)もあります。おかげさまでこうした商品、我々の分類で「新カテゴリー」のものが、うちの売り上げの3分の1までになっています。
木綿、絹、油揚げ、厚揚げなどの既存のおとうふもどんどん広がっていますし、新しい カテゴリーのおとうふもどんどん広がるということは、それだけポテンシャルが、実はおとうふにはあるのかなと。
── ポテンシャルがあるなら、そのわりに競合相手が出てこないというのはなぜなんでしょう。
鳥越:はい。たとえば、我々がやっているピヨンドとうふのように、おとうふに味を付けるって簡単そうで簡単じゃないんですね。
── そうなんですか?
「癖になる味」をつくる技術が集まってきた
鳥越:最高の食材と最高の厨房をもってしても、料理人がダメだったらおいしいものはできないのと一緒で、最高の豆乳、大豆と、最高のだしがあったとしても、それを融合させるノウハウがなければできません。うちは枝豆風味のザクとうふから始まって11年もやっていますし、グループに入った会社が持っていたすごい技術を使わせてもらえるようになったので、豆乳への味の載せ方、絡ませ方が、いまやちょっとした資産になってきました。
── へえ……。
鳥越:「(豆腐では)差別化はできないから、大きな工場をつくってコストダウンして価格で勝つ」。この業界は何十年もそうやってきたので、いざ「新しいおとうふを」といっても難しい、ということもあります。うにのようなビヨンドとうふも、おそらくうちが“ウニ風味の豆腐”を出していたら、他社さんも類似品を出してきたと思うんですね。ですけど、これは“おとうふでつくったウニ”なんです。「うわ、ウニじゃん」と皆さんに言っていただける。どうやればこうなるのか、想像が付かないと思います。
── 豆腐にウニの風味が載ったものじゃなくて、豆腐そのものがウニ……。私にも想像が付きません。どういうところから思いついたんですか。
鳥越:豆乳クリームをご提供いただいている不二製油さんの元社長の清水(洋史)さんから、「豆腐ってシンプルな味だから何にでも合うけど、癖になる味はないよね。だから、また食べたいなあと思うことが少ないよね」と言われたのがきっかけです。「癖になる味って何ですか」と言ったら、「日本人というか、アジアの人にとっては、魚介の味だな」と。なるほど、じゃあ、ウニいきますと(笑)。
── 魚介類の癖のある風味、といえばウニでしょうと。またいきなりな。
鳥越:はい。開発チームからは「また、そういうのですか?」みたいな反応を。でも、「どうせ何を言ってもやることになるんだから、楽しんでやろう」みたいな感じでやってくれてます。
── まあ、ザクを豆腐にしようとする社長さんですからね(笑)。そういう意味では、やはりザクとうふが原点なのか。現時点から振り返ると、ザクとうふにはどういう意味があったと思いますか?
鳥越:うちにとっても、たぶん業界にとっても、おとうふの市場の常識の大きな転機だったんじゃないかな。それまでは「新しいことをやる」というのが許されなかった市場、業界だったのが「あれ? あんなことをおとうふでやってもいいのか」と。
── そうですね。ザクとうふの大ヒットで、やってもいいどころか「何でもあり」になってしまった。ビヨンドとうふは、ザクとうふの子どもたちなのか。
鳥越:そうですね。ザクとうふがなければナチュラルとうふもビヨンドとうふも、たぶん誕生しなかった。もし、うにのようなビヨンドとうふを、ザクとうふが出た当時に出したとしたら絶対ヒットしませんよ。
油揚げは日本の食事の「肉」だった
── 木綿と絹の中に、いきなりこれがあってもダメですか。
鳥越:ダメですね、違和感が強過ぎて。でも、おとうふへの先入観をザクとうふが壊したおかげで、「そういうのもあるのか」と受け入れていただけるんだと思います。そして新作の、カルビのようなビヨンド油あげ(23年3月発売)。
── 油揚げでカルビ、って。
鳥越:カルビの偽物をつくろうというんじゃないですよ。うちのこだわりってこれなんですね。「ビヨンド」とうふ、「ビヨンド」 油あげであって、イミテーションじゃないんです。
── ビヨンドだから、とうふのまま、油揚げのままで、超えていくんですか。
鳥越:そうです。カルビのようなビヨンド油あげは誰が何と言おうと「油揚げ」です。でも油揚げってよくよく考えると、明治の文明開化でごく一部の方が牛鍋を食べるようになったと思うんですけれども、その前の日本人にとっての肉って油揚げだったと思うんです。油揚げのおみそ汁って、スープのお肉なんですよ、きっと。
── 油揚げが日本人にとっての肉。
鳥越:なので、かつて日本人にとっての肉だった油揚げ、という視点で現代にアップデート、ビヨンドするとこうなんです、みたいな(笑)。
── よく思い付きますねえ。
鳥越:つくり方も材料もすべて油揚げですが、イミテーションミートよりもおいしいと自負しています。この商品はめちゃめちゃ好評でして。その理由として、さっきの「イミテーションを目指していない」のと同じ話なんですが、ある大学の先生から言われたのは、「鳥越さんのつくるものってだまされ感が薄いんだよね」と。
── だましてないとは言ってない(笑)。
鳥越:でも、薄いんだよねと。「油揚げです」「豆腐です」と言うでしょうと。肉です、ウ二です、と言われると、肉よりああだ、ウニと比べるとこうだと言いたくなるけど、油揚げ、おとうふ起点で考えるからだまされ感が薄くて、いいところだけ感じてもらえる。
── うーむ(笑)。
鳥越:そして、「フォアグラのようなビヨンドとうふ(仮)」というのを開発していて。
── しかし、カルビ、ウニ、フォアグラと、食べ過ぎると体に悪そうなものばかり。
鳥越:そこはかなり重要なポイントです。本物のウニを目指していない理由でもあります。
── というと?
ひたすら似せるのではなく、いいとこどりで
鳥越:実は、途中までもっとリアルな本物のウニを目指していたんですけど、ウニってけっこう食べ飽きません?
── 味が濃くて癖が強いですからね。
鳥越:私、そんなウニをいっぱい食べるような豪勢な家に育っていませんので偏見があるかもしれませんが、一口目、二口目っておいしいんですけど、三口目で「うーん、もういいかな」と。
一般人のウニの味のイメージは、一口目、二口目で、三口目以降のウニの味まで再現しても喜ぶ人はあまりいないだろう。ですので、私みたいな一般の人間がイメージできるものであれば、二口目からあとの再現にはこだわらない方針に切り替えました。
── 食通の方からは異論が出そうですね。
完コピでなきゃダメなのか?
鳥越:はい。そういうご意見も頂いています。「すごい、これはウニだ」と言っていただける方に対して、「いやいや、北海道の新鮮なウニ、食べたことないからそういうことが言えるんだよ」と突っ込む方がいて。ちょっと待ってください、と。
── その新鮮なウニ、食べたことある人がどれくらいいるんですか、と。
鳥越:本物のウニじゃなくて、ウニのいいイメージを実現するんだというふうにやっていますので。フォアグラもその路線です。フォアグラってとても油っぽくて、イタリアンのシェフの方に聞くと、手で触った瞬間に溶けるぐらいがすごくいいフォアグラなんだとおっしゃるんです。でも、油っぽいものは飽きるのも早いので、一口目を再現したい。二口目以降も一口目の味わいが続く。だから本物とは違う。けれど飽きにくい。
── 面白いですね。どれも高級食材のイメージがあり、当然おいしいんだろうと思われているけれど、本物は癖が強くて飽きが来るのが早い。飽きが来ない上物もあるけれど、誰しもが食べられるものじゃない。
鳥越:おっしゃる通りです。
── だったら本物の完コピを目指す必要もないでしょう、と。
鳥越:そうです。私たちのやり方は、「ここと、ここと、ここがあれば成り立つ」と、最低限、でもコアは外さず、そこだけ考えます。ですので、出来上がったものはいびつだけれども、短期間で、手頃で、満足度の高いものがつくれる。
── 「ジオングに脚を付けるな」ですね。
鳥越:大手メーカーの方とこの話をすると、「そういう考え方はしたことがなかった、面白そうですね」と言ってくださいます。やはり技術力も資金も人材もいらっしゃるので、完全を目指すお仕事のやり方が主流なんでしょうね。
(次回に続く)
[日経ビジネス電子版 2023年10月27日付の記事を転載、一部情報を追加]
「前年比」「利益率」などの数値目標がない会社が「失われた20年」で売上高23億円から400億円に急成長している。2012年に「ザクとうふ」で話題を呼んだ相模屋食料だ。率いるのは当時雪印乳業の「営業マン」だった鳥越淳司社長。普通の会社員が会社を燃える集団に変えていった20年間を、本人の言葉で語ります。
山中浩之(著)、日経BP、1870円(税込み)
●本書の内容をさらに詳しく知りたい!という皆さん、日経BOOKプラスにて「はじめに」と「もくじ」も公開しております。
