新刊『 妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話 』の著者、編集Yこと山中浩之氏が日経ビジネス電子版で始めた連載「数字で縛ればやる気が逃げる」。自著の取材を振り返りながら、あれこれ考えを深めていくコラムを日経BOOKプラスでも転載させてもらうことになりました。とても面白い記事なのでぜひ読んでいただきたいのですが、せっかく「本の情報」を発信する当サイトですので、元記事には収録されていないオリジナルコンテンツとして、記事の関連箇所を書籍から抜粋して掲載します。本書の主人公たる相模屋食料の鳥越淳司社長と編集Yのテンポの良いやり取り。そこで明らかになっていく「数字の罠」とその飛び越え方。記事と共に、本の魅力もしっかりお伝えできれば幸いです。第3回は「意味のある非効率」について考えます。(日経BOOKプラス編集部)
「数字で管理しようとすれば、どうしても数値をクリアすることそのものが目標になります。お客さまにとっていいか悪いか、会社としてやっていいことか悪いことか、が二の次になる。それは、確実に会社をダメにします。おとうふで言えば、『おいしいおとうふ』じゃなくて『利益率これこれの白い塊』をつくるようになる。そして、お客さまに見切られていくんです」
ダメになった豆腐メーカーを「もう数字は気にしなくていいから」と言い聞かせて次々と再建してきた、相模屋食料(以下、相模屋)の鳥越淳司社長。
「数字につながらない仕事に意味はない」。利益だけを考えれば確かにその通り。しかし、利益を生む組織は、数字だけでは作れないのではないか。『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』を通して気付いたこと、考えたことを書いていきたいと思います。
(前回「相模屋の『ウニのような豆腐』、完璧よりもいいところ取り目指す」から読む)
傾き始めた会社は、現場に数字“だけ”を押し付け始め、それが冒頭の鳥越社長の言葉のように、「ユーザーに喜ばれなくても数字だけは満たす」商品、サービスの提供につながり、ますます顧客に見放される。
そうして破綻した豆腐メーカーに行くと、先方の社長が管理系の社員を連れて出迎えて「では会議室で状況の説明を」となるのがほとんど。それを断るところから仕事が始まるのだという。
「数字が悪いことは分かりきっています。だからうちに話が来たわけです。もちろん財務諸表は自分で子細に見ますが、基本的に私は再建中の会社では工場にしか行きません。商品であるおとうふを、どうやっておいしくするか。それが果たせないうちは何をやっても意味がないので」
工場に行くと「相模屋に買収された」と、意気消沈した社員たちが待っている。鳥越社長に言わせると、そうなってしまった最大の理由は、「数字だけ見ていても意味がわからないコスト」を、経営陣が容赦なくカットしていったことだという。
コストカットだけなら新人でもできる
「おとうふは工場で作りますが、アナログな部分が非常に多い製品です。原料の大豆を水に浸す時間、その水温、から始まって木綿(豆腐)を固める作業まで、やることは決まっているけれど、時間や手順を標準化できない箇所がある。そこの作業をしている人が、どのくらい『おいしくしたい』とこだわるか、そのこだわりを通すか、非効率だとやめさせるかで、簡単に味が変わる」
別の言い方をすれば、豆腐の製造工程には標準化されていない作業、原料の不統一、などなど、数字で考えると「ムダ、非効率」に見えるものがたくさんあり、コストカットの標的になりやすい。
「ですが、その会社が守ってきた『意味のある非効率』こそが、商品の華、魅力につながっていた、ということがものすごく多いんです。それはいわば、現場のプライド、美学です」
コストを下げるだけならば、ポイントさえ知っていれば新入社員でもできる。業界経験がない人間でもできる。マネジメント層が現場のコストカットを考えるならば、「ただのムダ」と「非効率な美学」を見分ける必要がある、ということになるだろう。
「ムダか美学か。おとうふの場合は単純で、おいしいか、おいしくないか、ということです」
非効率だからと美学を捨てて、数字に走り、商品が魅力を失ってさらに苦しくなっていく。マネジメント層はそこまで行ったら気付くのか。
「いえ、さらに効率を、と現場に言ってしまうわけですね」
現場が経営側の指示に従って真面目に頑張れば頑張るほど、効率よくおいしくない豆腐を作ることになり、ついに立ち行かなくなった。会議室に寄らずに工場に行く鳥越社長は、そんな現場をどう建て直すのか。
現場は「これは違う」と燻っている
鳥越社長によれば、美学は数字では測れない、つまり見えないものなので、捨てきることもできないのだという。現場の社員の心の中に「今やっていることは間違っている、本当はこうすべきだ」と、燻(くすぶ)っている。再建の第一歩は、それを表に出してやることだ。
それこそ数字で100%、とは言えないが、存続してきた会社ならば、商品・サービスが顧客に支持された、愛された、という経験はあったはず。美学を再浮上させるための手がかりはそこにある。
「かつてその会社がやっていたはずの、正しいこと、お客さまに喜ばれていたことをやろう、やらないほうがいいと思っていたことは全部やめよう。どの会社でも再建の基本はこれですね。言葉にすると『黄金時代を取り戻せ!』です。お客さまに信頼され、愛されていた時代に戻るんだ、と」
どうかすると、現場が「昔は売れたけれど、今はもう時代遅れ」と投げてしまった商品が、再建のポイントになることも多い。「うちには何もない、という会社には、こちらから、いやいや、こんなお宝があるじゃないですか、と掘り起こすこともあります」。
一例を挙げれば、ヒット商品となった「おだしがしみたきざみあげ」。製造している石川サニーフーズ(石川県)は、元々は超メジャーブランドのカップうどん用の油揚げを納品していた。ところが先方が油揚げを内製化することになって大きな取引先を失い、親会社から再建の依頼が相模屋に寄せられた。
別のカップうどんの取引先を探すというのが、普通の考え方だろう。しかし、同じスキームの取引先では同じ事態がまた起こる可能性もある。そして、超大手のカップうどんに採用されていただけに油揚げの品質は高い。
「裁断機で最初から刻んで売ろう。常温で保存できて、包丁を使わずにすぐ料理に入れられるから喜ばれる」と鳥越社長が思いつき、刻んで食べたときにおいしくなるように、だしの味付けも変えて、しっかり染みこませ、カットして使いやすいように袋にチャックも付けた。
「工場の隅に放置されていた裁断機で作ったら作業が追いつかないくらい売れまして、今は専用の生産設備をどんどん入れています」
ハートに火をつけて

話を戻そう。
「黄金時代を取り戻せ!」と言われた現場は最初は戸惑い、「歩留まりとか、コストとかは」と聞いてくるという。そこですかさず「いやいや、その非効率がいいんだよ、黄金時代に戻るには重要なんだよ」と説く。これで萎(しお)れた会社の工場の人の気持ちに火が付けば「最初のステップはクリア」となる。
相模屋は、再建会社に社員を派遣して常駐させることはしていない。最初の頃、それをやって頭ごなしに指導したことで、再建先の雰囲気が悪くなり「相模屋任せ」の態度を取るようになったという、「悪夢のような体験」(鳥越社長)の反省からだ。
「再建と言うからには、その会社の人たちが頑張るんだ、という姿勢でやっていますので。もちろん最初は私たちが行って、うわーっと改善を一緒にやりますけれども、主体はもともといた人です。特に製造の人たちが中心になって、美学の復活によって商品が魅力を取り戻し、売れ始めて全体のモチベーションも上がる、というわけです。これが再建の基本ですね」
さて、そうはいっても、だ。
現場のやる気に火が付いたのはめでたいし、顧客に愛される商品は企業の再建に必須とはいえ、これで損益計算書の数字がよくなるわけでもない。数字で縛ればやる気が逃げる。その一方で、やる気があっても数字が出なければ事業は継続できない。そこはどうなのか。
相模屋が実践から編み出した「数字とやる気の両立」の具体策をお届けする。

……「顧客が愛してくれる、数字には出ない品質を、非効率を大事にすることで獲得・維持する」。
この話は、「そうであってほしい」とは思いましたけれど、実は聞き手の自分にものづくりの経験がないこともあり、すっと腹落ちしませんでした。ですので、鳥越社長に何度も何度も、根掘り葉掘り聞いています。書籍を読み直すと「我ながらしつこいな」と思いました(笑)。
「数字を正しく入れることがものづくりの『仕事』じゃない」
そう言われて「規定の文字数を埋めることが編集者の『仕事』じゃない」と脳内変換したら、腑(ふ)に落ちた気がします。以下、サンプルとして掲載しておきます。
【日経BOOKプラス限定公開】
本記事に関連する箇所を書籍『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』から抜粋してお届けします(42~44、50ページ)。当該部分は第1章の終わり近く。本文末尾に掲示された書籍のページをめくると、鳥越社長の「穀物はさっきまで生きていたもので、もう毎日、性質が違うんですよ」という説明があり、「工業製品じゃないから、そうか」と編集Yが受け、再び鳥越社長が「目利きして調整しないと味が大きく変わってしまう」ことを説き、「数字を正しく入れることだけが、仕事じゃないんですよ」とビシッと締めた後に続くお話です。編集Yが思い出した「プラモデルでさえ季節によって出来が変わる。いわんや、とうふをや」なエピソードに、鳥越社長が「はあーっ」と驚く場面。冒頭の「ダグラム」を知らない方のために、文末に注を付けております。
プラモですら季節によって出来が変わる
── ちょっと余談ですが、「ダグラム」[※注]のプラモデルって、ご存じですよね。
鳥越:もちろんです。ソルティック、24部隊、懐かしいです。
── タカラ(現タカラトミー)から発売されて大ヒットした後、長らく絶版になっていたのを、マックスファクトリーという玩具メーカーさんが、うちがやりますと新しく金型を起こして始めたんですよ。で、そちらの社長さんにお話を伺ったら「中国の工場で生産してみたら、プラモデルって季節によって出来が変わるんだと思い知った」そうなんです。
鳥越:ええっ、樹脂製品ですよね。
── それでも湿度とか気温とかの影響をめっちゃ受けて、金型では合っていたパーツが、組み立ててみたら合わない、みたいなトラブルが続発したそうです。なので最初はものすごく慎重に設計・製造せざるを得ない。5年たってだんだんコツがわかってきて。「Yさん、同じコンバットアーマーのプラモですが、こっちが最新、こちらが最初のやつです」と言われて、持ってみると初期のほうがずっと重い。「ムダにプラスチックを使っていたのが、ノウハウがたまってこんなに軽くすることができました」とおっしゃるんですよ。
鳥越:そうなんですか。プラモってそんな繊細なものなんだ。
── 自分で(プラモデル工場を)動かしたからこそ、バンダイのガンプラのクオリティの凄まじさが、本当に理解できます」とも言われてましたね。あれは、並みのメーカーではまったく歯が立たないレベルのプラモなんですよ、と。
鳥越:はあーっ。
── 工場の設備を入れ、人を配置してすぐできるんだったら苦労はしないよと。そういう話を私も別の取材で聞いていたわけです。お話を聞いて思い出しました。
鳥越:「工場でモノがつくれる」というのは、理屈としては当たり前のことなので、何か普通のことに思える。でも、そこには細かなノウハウがあることがわからないから、素人さんにはつくれないわけです。
(次回に続く)
[日経ビジネス電子版 2023年10月30日付の記事を転載、一部情報を追加]
「前年比」「利益率」などの数値目標がない会社が「失われた20年」で売上高23億円から400億円に急成長している。2012年に「ザクとうふ」で話題を呼んだ相模屋食料だ。率いるのは当時雪印乳業の「営業マン」だった鳥越淳司社長。普通の会社員が会社を燃える集団に変えていった20年間を、本人の言葉で語ります。
山中浩之(著)、日経BP、1870円(税込み)
●本書の内容をさらに詳しく知りたい!という皆さん、日経BOOKプラスにて「はじめに」と「もくじ」も公開しております。

