このたび、『 この保険、解約してもいいですか? 』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏は「終身保険において、老後に受け取る保険金の大半は自腹だ」という。なぜか?

(前回から読む)

 終身保険では、老後に受け取る保険金の大半は自腹になると前回(生命保険の「中途解約リスク」は過小評価されている)、前々回(「30年後に、お金が39%増える保険」に入ってはいけない)にわたって書いた。本稿で、その理由を説明する。「掛け捨てでない保険」や「保険料が戻ってくる保険」のカラクリが明らかになるので、「スッキリした」と、有料相談のお客様には大変、好評をいただいているテーマだ。ぜひお付き合いいただきたい。

 次の図をご覧いただきたい。「終身保険」の一般的な説明図だ。

終身保険の仕組み ―「保障と貯蓄を兼ねる」という保険会社側の説明
終身保険の仕組み ―「保障と貯蓄を兼ねる」という保険会社側の説明
出所:『この保険、解約してもいいですか?』後田亨(日経BP)

 終身保険には、まず「一生涯の死亡保障」がある。そして大抵の場合、60代半ばくらいまでに保険料の払い込みが終わり、その後に解約したら、保険料の総額を上回る額のお金が「解約返戻金」として、払い戻される。

 この図だけ見ると、加入者が損をしないように見えるかもしれない。そこで、次の図を見ていただきたい。先ほどの図を、解約返戻金の曲線に沿って分解した。

終身保険の仕組み ―「老後の保険金の大半は自腹」という考察
終身保険の仕組み ―「老後の保険金の大半は自腹」という考察
出所:『この保険、解約してもいいですか?』後田亨(日経BP)

 ポイントは、保障部分と積立部分で構成されているところにある。

解約返戻金は、ほぼ「自腹」である

 まず、加入者がこの保険に入ってすぐに死亡した場合、1カ月分の保険料──例えば、300ドル強──しか払っていなくても、15万ドルの死亡保険金が支払われる。それは、左側の15万ドルから始まる「保障部分」があるからだ。

 300ドル強のお金しか払っていなくても、15万ドルが給付されるのは、無事に過ごしている人たちの保険料が保険金支払いに使われるからなのだ。

 そして、死亡保険金の支払いに使われたお金は、無事に過ごしている人たちに払い戻しされず、いわゆる「掛け捨て」になる。つまり「掛け捨てではありません」と案内されている保険にも「掛け捨て」部分はあるのだ。

 一方で、終身保険には「保障部分」に加えて、右側の「積立部分」もある。

 保険会社からすると、一生涯の死亡保障がある終身保険では、いつか必ず保険金支払いが発生するので、将来、確実に15万ドル支払えるように積立部分にお金をためていく、と考えたら、分かりやすいかもしれない。

 解約した時に、払い戻しされる解約返戻金の大半は、この積立部分にたまっているお金になる。つまり、大半は「自腹」である。

 終身保険には、掛け捨ての保険にはない積立部分があるので、解約返戻金もある。そのため「掛け捨てではありません」と言われているわけだが、戻ってくるお金は、自分で積み立ててきたお金なのだ。

 それだけではない。契約からかなりの年数がたったこの段階で契約者が死亡した場合、死亡保険金も、大半が「自腹」になる。

 もう一度、保障部分と積立部分に分解した図に戻ろう。

終身保険の仕組み ―「老後の保険金の大半は自腹」という考察(再掲)
終身保険の仕組み ―「老後の保険金の大半は自腹」という考察(再掲)
出所:『この保険、解約してもいいですか?』後田亨(日経BP)

 時間の経過とともに「保障部分」がだんだん小さくなっている。それは、「積立部分」にたまったお金も、死亡時の保険金支払いに使われるようになるからだ。

死亡保険金も「自腹」の部分が増えていく

 従って、加入者が高齢になって亡くなる場合、死亡保険金のかなりの部分は、自分の積立金であり、自腹になる。それも、販売手数料などを散々引かれ、運用の機会を失った自分のお金だ。保険会社の仕組みを利用しているのか、保険会社に利用されているのか、考えてみたくならないだろうか。

 終身保険を勧める販売員が、次のように説明することがよくある。

「一生涯の保障があるから、いつかは死亡保険金で元が取れる」

 しかし、死亡保険金が自腹であると理解できれば、このような理解は誤解であると納得できるだろう。

 「養老保険」も、仕組みは終身保険と同じだ。養老保険の場合、終身保険と違って、死亡保障は一定期間に限られるが、満期に生存していた場合、死亡保険金額と同額の満期金が支払われる。従って、「終身保険の短期バージョン」と認識したらいい。

 筆者が知る限り、大半の販売員は、終身保険や養老保険など、いわゆる「掛け捨てにならない保険」の仕組みを教えられていない。恥ずかしながら、販売員時代の筆者も「終身保険はお客様が損をしない保険」と認識していた。筆者が、本稿に書いた仕組みを知ったのは、独立後、複数の書籍を通じて貴重な知見を得ることができ、さらに自著の出版を機に知り合えた複数の保険数理の専門家から、裏を取ることもできたからだ。

 では、一般の人たちが「保障と貯蓄を兼ねる」と説明され、終身保険や養老保険への加入を、販売員に勧められた場合、どうしたらいいのか。

迷ったら、保険には入らない

 その時は、大人の常識で立ち止まって考えてみてほしい。常識で考えた結果、「死亡保障にかかる費用が発生するはずだから、貯蓄性は下がって当然だろう」と判断できれば何よりだ。もちろん、「保険会社はどのようにして利益を出すのか? 理解に苦しむので利用を控えよう」でもいいと思う。

 「終身保険」の利用価値があるのは、相続対策くらいだ。多くの場合、「迷ったら、保険は利用しない」で正解なのだ。

(写真:aomas/stock.adobe.com)
(写真:aomas/stock.adobe.com)

(次回に続く)

日経ビジネス電子版 2023年11月2日付の記事を転載]

【経済評論家・山崎元氏&両@リベ大学長】W推薦

「保険貧乏 卒業したい人へ/その保険 いる? いらない? 見極めるための最強マニュアル」大反響、重版続々。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。

後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)