巨人がひしめくIT(情報技術)業界で、SHIFTはのし上がってきた。華やかなサービスがあったわけではない。最先端技術を抱えていたわけでもない。誰にも顧みられることのなかった、テスト業務という「下流の仕事」を磨き上げた。埋もれた人材に光を当て、力を最大限に引き出す人的資本経営で市場を切り開く。異形の組織は「下流」から「上流」へ、業界構造の変革を掲げ駆け上がっている。その様は、さながら革命運動。SHIFTの経営の核心に迫る。その第1回。※本連載を基にした書籍『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』が2025年11月に発売。ここでその一部をお読みいただけます。

(写真=SHIFT提供)
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 警察官にアイドル、看護師、高級クラブの元マネージャーに非正規の塾講師、トップコンサルタントに大手IT企業の社長──。多様なバックグラウンドを持つ人材を集め、急成長する企業がある。

 ソフトウエアのテスト事業を軸にITサービスを展開するSHIFT。「社内を見渡せば、どんな職業でも経験者が見つかるはずだ」と菅原要介・最高人事責任者(CHRO)は言う。

(写真=菊池 くらげ)
(写真=菊池 くらげ)
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 2014年の上場時と現在とを比較すると、売上高は51倍、営業利益は85倍に拡大。毎年2000人を超える人材を採用し、従業員数は420人から1万3000人を超えるまでに膨れ上がっている。NTTデータや富士通、NECといった業界の巨人の背中はまだ遠いが、「その存在感は急速に高まっている」(SBI証券の畑田真シニアアナリスト)。

 原動力は「既存の日本企業はとてもまねできない」(大和証券の上野真チーフアナリスト)、徹底した人的資本経営にあった。その内実に分け入る前に、まずはSHIFTの成り立ちに迫ってみよう。同社が異色の人的資本経営に行き着いた必然が見えてくるはずだ。

単調なテスト業務を宝の山に

 創業者の丹下大社長や事業全般を統括する小林元也取締役、それに菅原CHROら、SHIFTのキーパーソンはいずれもルーツを製造業に持つ。「金型産業の革命児」として知られた企業、インクス(現SOLIZE)の出身者だ。

 同社は精密金型を高速製造する技術を強みとしていた。そのノウハウを実質的に確立したのが丹下社長だった。

 暗黙知が支配し、「職人技」に依存していた製造工程を徹底的に分解して可視化した。そこで得られたデータを基に生産を仕組み化できれば、職人に頼る必要はなくなり、生産効率は大幅に改善する。この一連のノウハウを「プロセス・テクノロジー」という手法にまとめ上げ、インクス内でコンサル事業を立ち上げた。

 プロセス・テクノロジーには普遍性があった。どんな対象であれ、暗黙知を可視化すればボトルネックが明らかとなり、これを解消する仕組みを作れば付加価値を生み出せる。コンサル事業は大成功を収め、年間50億円の売り上げをたたき出す事業に成長した。

 05年にインクスを飛び出した丹下社長はSHIFTを起業する。当初は資金も人脈もなく、細々とコンサル事業で食いつないでいた。

 転機は創業から2年が過ぎた頃に訪れる。大手IT企業から業務改善のコンサル事業を受諾した時のことだ。

 テスト業務が巨大なブラックボックスとして放置されていることに丹下社長は気が付いた。多額の予算がつぎ込まれる業務であるにもかかわらず、明確な方法論が確立していない。非効率がまかり通っていたのだ。

 多くのエンジニアにとって、腕の見せどころは開発だ。バグを一つ一つ潰していく、単調で地味な作業はあまりやりたがらない。テスト業務を「新人がやるような仕事」(大手ITサービス企業のエンジニア)と軽視する風潮があった。

 だがバグ(欠陥や不具合)を減らしソフトやシステムの品質を担保するのに、テストは不可欠。市場規模は5兆円を超える。「このブラックボックスを効率化できれば価値が出せる」。こう確信した丹下社長はテスト作業を細かく分解して可視化し、ナレッジ(知識・情報)を蓄積。業務を標準化して効率的なテストを実現するツール「CAT(キャット)」に落とし込んだ。

 「高い品質を担保し、大規模なプロジェクトにも対応できる。そんなツールは世の中にはなかった」(デリバリ改革部の石井優氏)。導入すれば管理者のテスト進捗確認にかかる工数は大幅に減少し、「テスト設計業務の生産性についても1.6倍程度の向上が見込める」(同部の森川知雄グループ長)。何よりも、テストを仕組み化したことで「経験を積んだエンジニアでない人でも効率的に作業できる環境」(小林元也取締役)が実現した。こうして、ブラックボックスを宝の山に変えることに成功したのだ。

人的資本の威力を痛感

 CATがあれば、人材不足で希少価値が高まっているエンジニアに頼らずともテスト事業を展開できる。SHIFTは未経験者を相次ぎ採用していった。CATを武器に、彼らを「テストのプロ」に仕立て上げていったのだ。

 学歴も職歴もライフスタイルも様々な人材が集まった。「マネジメントには本当に苦労した」と小林取締役や菅原CHROは苦笑いしながら当時をこう振り返る。

 同時に彼らは興味深い事実も見いだした。人当たりはいいがテストは不得手な人がいる一方、コミュニケーションは不得手なのにテストとなると驚異的な生産性を発揮する人もいる。つまり経歴や見た目の印象、立ち振る舞いなどと、テストで発揮される能力とは関係がないという事実だ。

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 テスト業務を仕組み化する過程で、生産性を上げるのに重要となるポイントは把握している。ならばこれを活用し、テストに素養のある人材をあらかじめ見極められれば、効率よく人材を集められるはずだ。

 そこで開発したのがテストエンジニアとしての素養を測る「CAT検定」だ。誰でもインターネット上で受けられ、合格すればSHIFTに入社できるようにしたのだ。

 狙いは的中した。10年の導入以降、CAT検定の受検者は12万人を超える。巨大な人材プールから素養のある人を見極めて採用する仕組みが動き出したのだ。合格率6%程度のCAT検定を通過した人材の生産性は高かった。テストに限れば既存のエンジニアより高い成果を上げた。

 「人の能力を最大限に発揮させるには環境を整える必要がある」(小林取締役)こと、そして「人材が持つ潜在的な力を見抜いてブースト(押し上げること)させれば、企業の急成長が実現する」(同)ことを、CAT検定は示して見せた。その取り組みは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出す人的資本経営そのものだ。(続く)

日経ビジネス電子版 2025年4月11日付の記事を転載]

IT企業でありながら「元警察官だろうがキャバクラだろうが引きこもりだろうが、前職を問わない」採用、「トップガン」と呼ばれる社員の隠れた能力を引き出す仕組み、急成長した社員が稼げば「前年比で600万円の昇給」が当たり前に行われる風土。これらが「上場10年で売上高50倍」という驚異的な数字に結実した。人の能力をとことん引き出し、企業の成長につなげる。丹下社長ら経営陣、そして現場への密着取材で、SHIFTの「究極の人的資本経営」を徹底解剖する。

飯山辰之介著/日経BP/1980円(税込み)