巨人がひしめくIT(情報技術)業界で、SHIFTはのし上がってきた。華やかなサービスがあったわけではない。最先端技術を抱えていたわけでもない。誰にも顧みられることのなかった、テスト業務という「下流の仕事」を磨き上げた。埋もれた人材に光を当て、力を最大限に引き出す人的資本経営で市場を切り開く。異形の組織は「下流」から「上流」へ、業界構造の変革を掲げ駆け上がっている。その様は、さながら革命運動。SHIFTの経営の核心に迫る。その第9回では、キーエンス元社長にしてSHIFT会長に転身した佐々木道夫氏に「SHIFTにひかれた理由」を聞く。※本連載を基にした書籍『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』が2025年11月に発売。ここでその一部をお読みいただけます。

(写真=菊池 くらげ)
(写真=菊池 くらげ)

SHIFTは異色の人材を集めて成長してきました。キーエンス元社長である佐々木会長は象徴的な存在ではないかと思います。なぜSHIFTに参画したのでしょうか。

佐々木道夫SHIFT会長(以降、佐々木氏):2018年ごろ、SHIFTの社外取締役になってほしいという誘いがあった。キーエンスの社長を退任し、特別顧問も辞してしばらくたった頃のことだ。赤坂の中華料理のお店で丹下大社長と会って話をした。着眼点は鋭く、先見の明もある。素晴らしいなと思った。社員に頑張ってもらいたいとか、楽しんで仕事をしてほしいという強い思いを持っていたところにも共感を覚えた。

 キーエンスは事業規模がどんどん拡大し、急成長していった。それと同じような感覚をSHIFTに対しても抱いた。キーエンスの顧客は製造業が中心だが、SHIFTの場合は間口が広い。製造業はもちろん、金融から流通、それに公的機関まで、ありとあらゆる業種の企業、組織が顧客になる。その点からすると、SHIFTには、キーエンス以上に成長のフィールドがあると思った。

 SHIFTと出合うことで、長年抱えていた疑問が解消したことも印象的だった。キーエンスはハードの開発を中心としていたが、時代を経るごとに付加価値に占めるソフトウエアの比重が高くなってきた。悩みが品質だった。不具合が発生するなどして、どうしても開発期間が長期化してしまう。

 そこでソフトの品質保証を中心に手掛ける会社を立ち上げた。テストの現場を見ていて不思議だったことがある。同じ仕事をしているのに、不具合を見つけ出すのがとても上手な人がいる。SHIFTを知って氷解した。独自の検定を開発して、テストに素養のある人を見極めていたからだ。「不具合を見つけるのが上手な人は特性があったのか」と合点がいった。

SHIFTとキーエンスの共通点

キーエンスと同じような急成長の感覚をSHIFTにも覚えたということですが、SHIFTとキーエンスとは社風が随分違うと思います。とまどいはありませんでしたか。

佐々木氏:確かに社風は違う。でも大事にしている価値観とか、経営として重視しているポイントには、実は共通点がたくさんある。

 特に似ていると感じるのはデータドリブンであることだ。SHIFTもキーエンスもデータを重視し、あらゆる意思決定や取り組みがデータに基づいて行われている。すごく似ていると思う。

明治大学を卒業後、1982年リード電気(現キーエンス)に入社。2000年に同社社長に就任。国内外で事業を拡大させ、同社を高収益企業に躍進させる。18年にSHFITの社外取締役に就任。20年、同副社長に就任。24年から現職(写真=菊池 くらげ)
明治大学を卒業後、1982年リード電気(現キーエンス)に入社。2000年に同社社長に就任。国内外で事業を拡大させ、同社を高収益企業に躍進させる。18年にSHFITの社外取締役に就任。20年、同副社長に就任。24年から現職(写真=菊池 くらげ)

 例えばキーエンスは効率を重視し、営業も開発もデータを共有している。データを分析すると、例えば商品のデモンストレーションを何回やれば売れるかが分かる。そこまで持っていくにはどうすべきか。プロセスを分解して研究し、どれくらいのお客さんに営業活動をしなくてはならないのか、どのように伝えればインパクトが出せるかも明らかにしていく。販売資料を充実させ、販売促進に活用できるツールも用意する。そうして商談成立につなげていく。

 SHIFTも同じ。テスト業務で成長できたのは知見をデータ化して蓄積し、これを仕組みに落とし込むことができたからだろう。仕組み化を重視しているところも両社は似ていると思う。データが基になっているから、お客さんに対して説得力のある提案ができる。例えば人工知能(AI)。SHIFTは様々な業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するツールを開発しているが、お客さんに出す前に社内でまず活用している。蓄積した膨大なデータをAIに読み込ませ業務改善に活用しているのだ。実際に使っているから、絵に描いた餅ではなくて実践例を示すことができる。

 社内外でコミュニケーションを重視していることも共通している。キーエンスは営業先で必要となる知識をきちんと教える。帰ってきたらその日のうちにフィードバックを必ずして、アドバイスやフォローを受ける。社外に対しても同様に、営業先のキーマンから困りごとを聞いて、先回りする形で提案をする。お客さんは驚くし、当然、喜ばれる。付加価値を認めてもらえるから、競合と価格で勝負することも避けられる。SHIFTもコミュニケーションは非常に活発だ。いつも勉強会を開いているし、実力を高めていくにはどうすればいいのかもきちんと示している。社員が困っていることがあればフォローするし、仕事をバックアップするツールも豊富に開発している。

 人材の評価にとても気を使っているところ、スピードを重視しているところなど、他にも共通項を挙げればきりがない。いずれにせよ、いい会社はいずれもコミュニケーションで圧倒的な質と量を確保していて、スピード感を持って経営している。SHIFTとキーエンスはその筆頭だと思う。

18年からSHIFTの社外取締役を務め、20年には副社長、24年には会長に就任しました。

佐々木氏:どうせなら中に入って営業を見てもらえないかと請われた。出社すればするほどキーエンスとの共通点をより強く感じるようにもなっていたこともあって、二つ返事で引き受けた。ハードとソフト、両社が扱う対象は違えども、経験は生かせるなと思った。

営業の在るべき形を追求

 トップセールスが私の仕事だ。顧客企業の社長や取締役など経営幹部と会い、比較的規模の大きい提案をしている。販売促進やマーケティングについては、私と同じくキーエンスで取締役をしていた木村剛・執行役員兼営業推進本部長に任せている。とはいえ私も営業の状況については把握しており、時折アドバイスなどはしている。

キーエンスの営業の強さはよく知られています。同時に、ハードワークが求められることでも有名です。キーエンス流の営業をSHIFTに導入できるものでしょうか。

佐々木氏:SHIFTの営業にはまだ改善の余地はある。伸びしろは大きい。ただSHIFTにはSHIFTの営業スタイルがある。キーエンス流をそのままやるつもりはない。

 もっとも、キーエンスがどうという話ではなく、営業としてあるべき形というのはどんな企業であれ共通しているとも思う。どうもキーエンス流というと、ハードで、ブラックで、強烈、そんな印象がつきまとっているようだが……(笑)。それは大きな誤解だと申し上げたい。

 上述のように、営業には商品についてきちんと学んでもらって、バックアップできる体制も構築している。販売促進に寄与するツールだって提供する。その上で、トレーニングを繰り返しながら体力をつけていってもらう。最初はグランドを1周しかできなかったとしても、だんだん10周くらい走れるようになり、いつしかそれが当たり前になる。いきなりやれと言ったところで、そんなの無理な話だ。

 だからSHIFTの営業改革についても、上司が必ずフォローをするとか、商談のシミュレーションを重ねるとか、デモをやるといった取り組みは進めている。いずれも、営業として当然求められること。工夫を凝らして、実力に応じて育成し、徐々に当たり前のレベルを高めていくことが重要だ。

 いきなり成果が上がる魔法なんて存在しない。例えば高いレベルの営業ができない社員が3割ほどいるとする。どんなフォローをすれば、どんなバックアップ体制をつくればレベルを引き上げられるのか。しんどくてもあきらめず、頑張って突き詰めていく。上述したように、成功するために必要な「量」とか「質」についてはデータの分析により可視化されているわけだから、そこからロードマップを引いて取り組んでいく。多くの企業はこういうことをしないまま、100点満点で現状5点しか取れない社員に100点を要求し、結果、挫折することになる。できないからといって施策をコロコロと変え、「結局、何をやっていたのだっけ」と目標や目的を見失うことになる。

社員の能力を高めていくことを重視するとか、課題に正対しデータを軸に解決策を突き詰めていくとか、この辺りもSHIFTの経営と共通点がありそうです。

佐々木氏:重要なのは企業文化だろう。「なぜ、この取り組みが重要なのか」ということを、社員が腹落ちするまで、しつこく、繰り返し何度も伝える。そうして「当たり前」の基準を高めていく。こういう企業文化が成立しているかどうか。ハードな仕事であればあるほど、ちゃんと社員に納得してもらわなければ続かない。先ほどコミュニケーションの質と量が重要だと申し上げた理由もここにある。

成長のフィールドは広大

テスト業務を中心に成長してきたSHFITですが、足元で事業の幅は拡大し、大手IT(情報技術)サービス企業やITコンサル企業と競合する局面も増えてきたのではないかと思います。勝てるでしょうか。

佐々木氏:ニーズは膨大にある。取引社数は増えているが、まだ全体からすれば1割にも満たないだろう。これまではシステム開発のプロジェクトが「炎上」してから頼られる場面が少なくなかった。不具合が続出するなどして、にっちもさっちもいかなくなってから「何とかしてくれ」と請われる形だ。そうすると今度は「炎上しないようにプロジェクトの初期から品質保証をしてほしい」と頼られるようになった。顧客のニーズに応じて、手掛ける事業の幅は拡大した。

 ただ、経営のトップ層にまで当社の認知が進んでいるとはまだ言えない。そこに私の出番がある。経営の上層部が抱える困りごとを聞き取り、SHIFTの様々なサービスを提案していく。SHIFTはテスト業務という下流からスタートしたが、最上流からもアプローチしていくイメージだ。

 大手ITサービス企業も競合というよりはお客さんと言える。エンジニアは圧倒的に不足している。また我々は大手があまり手掛けないアジャイル開発(短期間で検証や改善を繰り返す開発手法)も得意としている。だから大手ITサービス企業では手の届かないところとか、余裕のないところをカバーできる。要するに彼らの困りごとにも対応できるわけだ。海外の市場開拓だってこれから。成長のフィールドは広大にある。

「丹下社長は独裁者ではない」

丹下社長をどのように見ていますか。社内ではカリスマ的な存在かと思います。

佐々木氏:創業者は当面の間はカリスマでないといけない。そうでないと会社は大きくならない。だが丹下社長はカリスマではあっても、独裁者ではない。悪いカリスマは何でも自分の思い通りにしたがるもの。これをやると、社員は誰も何も考えなくなる。

 丹下社長はそうではなく、経済原則を重視して意思決定をしている。部下に発信を促し、意見をよく聞き、いいアイデアがあれば柔軟に取り入れる。トップとして長期的な視点で経営に当たってはいるが、皆で考え、意見を出し合える仕組みをつくろうとしている。だからメンバーには組織への参画意識が生まれる。キーエンスも「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」という経済原則にのっとってビジネス展開してきた。経済原則を重視した経営を志向していること。SHIFTとキーエンス、両社における最も重要な共通項はここにあるとも言える。

日経ビジネス電子版 2025年4月17日付の記事を転載]

IT企業でありながら「元警察官だろうがキャバクラだろうが引きこもりだろうが、前職を問わない」採用、「トップガン」と呼ばれる社員の隠れた能力を引き出す仕組み、急成長した社員が稼げば「前年比で600万円の昇給」が当たり前に行われる風土。これらが「上場10年で売上高50倍」という驚異的な数字に結実した。人の能力をとことん引き出し、企業の成長につなげる。丹下社長ら経営陣、そして現場への密着取材で、SHIFTの「究極の人的資本経営」を徹底解剖する。

飯山辰之介著/日経BP/1980円(税込み)