ソフトウエアやウェブサービスのテスト業務という、極めて地味な領域でSHIFTはのし上がってきた。10月14日に発表した2025年8月期の連結売上高は1298億円と、14年の東証マザーズ市場(現東証グロース市場)への上場時と比較して60倍に増え、連結営業利益は156億円と同126倍に拡大している。成長の原動力は同社独自の人材戦略だ。その進化のスピードは人工知能(AI)の活用により加速している。『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』から一部を抜粋してお届けしよう。

SHIFTは22年8月期以降、毎年2000人を大きく超える人材を採用してきた。その規模は大手ITサービス企業を上回り、大手電機メーカーや自動車メーカーなどと比較しても引けを取らない。「ITサービス企業のビジネスモデルは採用力が成長力に直結する。SHIFTはエンジニアの数の増え方が圧倒的だ」とSBI証券の畑田真シニアアナリストもこう指摘する。

もっともSHIFTは現状の採用規模に満足しているわけではない。数年後には年間5000人規模の人材を確保することを目標としている。ただし人事部門の陣容は現状の400人体制から大きくは増やさない。同じ構えで採用数を倍増させるためには、人事部の生産性を大幅に向上させる必要がある。カギはAI活用にある。「AIを導入することで人事の生産性を『爆上げ』できる」と菅原要介CHRO(最高人事責任者)は話す。
履歴書のチェック時間を「ゼロ」にする
SHIFTは会社を挙げてAIの導入や活用に取り組んでいる。もちろん人事も例外ではない。もともとSHIFTは一般的な会社では持ち得ない大量の人事関連データを集めてきた。これをAIに生かすことができれば、生産性を飛躍的に高められるはずだ。
既に書類選考から面接、内定、それにエンゲージメント施策に労務対応まで、人事の各業務にAIが導入され始めているが、ここでは採用におけるAI活用に注目してみよう。
人材を大規模に採用してきたSHIFTには年間で14万件もの職務経歴書(レジュメ)やエントリーシートが殺到する。従来はこれを一枚一枚、人手をかけてチェックしてきた。経験の少ない担当者では1件あたり10分程度、経験豊富なベテランでも6分程度を要する。かかる時間は膨大だ。「これを究極的には『ゼロ』にする」(菅原CHRO)ことを目的に開発したのが、採用の効率を高めるAIレジュメアナライザー「Resumiru(レジュミル)」だ。
エンジニアのレジュメには、職歴や学歴などに加え、得意とする開発言語やこれまで手掛けてきたプロジェクトなどが詳細に記載されている。ただしレジュメの書き方にルールがあるわけではないので、内容や表現の仕方はバラバラ。どんなスキルを会得し、それをどんなプロジェクトでどう生かしてきたのか、どんな成果を出したのか。エンジニアは思い思いに書くものだから、受け取った側、つまりSHIFTの採用担当者や面接官が解釈したり、評価したりするには大変な手間がかかった。書類選考を通す基準を一定に保つのも一苦労だ。
レジュミルはレジュメ全体を瞬時に調べ上げ、候補者のスキルや熟練度を共通のフォーマットで分かりやすく示す。たとえばプログラミング言語の一つであるPython(パイソン)が、得意な言語として書かれていたとする。この言語を使ってどんな開発を、どの立場で、どのように手掛けてきたのかといった点をレジュメから読み取り、経験や成果などを確認して技術分析の欄に「Python 上級」などと表示し、その判断に至った根拠まで示す。
分析する情報はこれにとどまらない。レジュメの情報を基に「最も強みのある技術領域」「成長が期待できる技術領域」「今後、推奨すべきスキル」を示し、候補者と実際に面接するとすれば、どんな質問をすべきかも提案してくれる。
さらに、この候補者が今後どのように活躍できるか。たとえばプロジェクトマネージャーだったらどうか、技術コンサルタントであればどうか、営業だったらどうかと、様々なキャリアで活躍できる可能性を5段階で評価し、それぞれのキャリアで得られる想定年収まではじき出す。
実在の人物をモデルに誕生した「AI面接官」
このレジュメを評価するのは「AI面接官」だ。SHIFTは単体で300人ほどの面接官を抱える。その中でも人事の意思決定ができる層で、これまでに多くの候補者を面接してきた20人ほどを抜てきし、彼らの面接スタイル、つまり「人材を見抜く目」をトレースし、AIに反映させた。
彼らがどういう視点でレジュメを見ているのか、必須とする条件や歓迎する条件を細かく把握し、これをモデルに「面接官のコピー」を作り出してレジュメを読み込ませ、判断させているのだ。AI面接官は、そのモデルとなった実在の面接官の価値基準でレジュメをチェックすることになる。
たとえば、あるAI面接官はチームをけん引できる能力を重点的に見る。別のAI面接官は技術経験の中でもサーバー構築技術を重視する。こうして複数のAI面接官の判断を取りまとめて100点満点で評価をはじき出す。
もっとも、この評価だけで人事部は書類選考をしているわけではない。採用担当者もレジュメはチェックするが、特に重視するのは評価が60以上かつ80以下の人材だ。「60以下の候補者は、人の判断でも書類通過はほぼNGとなる。一方で80以上はだいたい問題なく通る。その間のグレーゾーンが重要だ。ここを重点的に判断するのが人の役割となる」(採用開発部HRイノベーショングループの井戸誠也プロダクトマネージャー)。AIにひたすら任せるのではなく、グレーゾーンを割り出し、そこは人の手間をしっかりかけている。(続く)
[日経ビジネス電子版 2025年11月13日付の記事を転載]
飯山辰之介著/日経BP/1980円(税込み)

