ユーグレナ社の出雲充社長にとってスタートアップの存在意義は、Make a small success in the hardest field(最も難しい領域でスタートアップが小さな成功例を生み出せば、あとは、資金とネットワークのある大企業がそれを広げてくれ、世の中が大きく変わる)だという。そうした成功例を生むには、常識や想像を超えた「妄想」が欠かせない。そう主張する出雲氏と、『 妄想力 答えのない世界を突き進むための最強仕事術 』の著者で吉野家CMO(最高マーケティング責任者)である田中安人氏の対談をお届けする。その後編。
(前編「ユーグレナ出雲充氏『妄想を成功率99%に変える』」から読む)教科書を疑え
田中安人氏(以下、田中):出雲さんは、絶対に不可能といわれていたユーグレナ(和名:ミドリムシ、以下「ユーグレナ」)の食用屋外大量培養を世界で初めて成功させ、今では、栄養価の高い食品だけでなく、ジェット機や自動車などに使用するバイオ燃料の開発・製造にも取り組まれています。小さい頃から、誰もやっていないことをやろうと思っていたのですか。
出雲充氏(以下、出雲):いいえ、元からそう思っていたわけではないです。前回申し上げたように、私は、平凡な家庭で、ごく平凡に育った人間ですから。けれども、大学1年生のときにバングラデシュに行き、その後、ユーグレナと出合い、大学で研究を始めてから、考え方が劇的に変わりましたね。
これは最近の研究で分かったことなのですが、大学の教科書に書いてあることも、論文に書いてあることも、実際に追試をしてみると、全く異なるデータが出ることが少なくないんです。私はこのことに、早い時期から気づいていました。高校生の頃までは、教科書が間違っているなんて思ったこともなかった。でも、大学でユーグレナの研究を始めて、いろんな実験をしてみると、過去の論文や教科書に載っていることと全然違う結果が出てくるんですよ。そこから、従来の常識を疑うようになりましたね。
田中:それは出雲さんが、すごく素直だから、教科書を疑うようになったのでしょうね。僕は、妄想力を高めるには「小学5年生の疑問」が大事だと主張しています。小学5年生くらいだと、大人の世界の常識にとらわれることなく、物事を決めつけずに何に対しても素直に考えることができます。
誰もやったことのない極端なことを試してみる
出雲:私が最も尊敬しているエンジニアは、マツダでスカイアクティブという世界最高のエンジンを開発した人見光夫さん(現・マツダ・シニアフェロー イノベーション)なんです。
人見さんは、「かなり極端なデータを入力して、実験してみなさい」という素晴らしいアドバイスをされているんです。エンジンでは、圧縮比が重要なのですが、圧縮比をどんどん上げていくと、高温になって燃焼異常が起きてエンジンが壊れると習う。だから、エンジンが壊れるぐらいまで、圧縮比を高めたことがあるエンジニアは、ほとんどいないと思います。
人見さんは圧縮比に極端な数値を入れて実験をしてみた。エンジンというのは、そんなに簡単に壊れないものです。誰もやったことがない実験をして、そこから画期的なエンジンのアイデアが生まれていったそうです。
田中:一流と呼ばれる人たちは皆、常識を飛び越えて妄想するから、従来にない新しいものを生み出せるのですね。
出雲:私がユーグレナの大量培養の研究をしていたのは、人見さんと出会う前なので、まだそのアドバイスは知りませんでしたが、私も、試行錯誤しながらそのことに気づきました。
ユーグレナの大量培養に関しては、それまで国が何十年もかけてニューサンシャイン計画(前身のサンシャイン計画の開始は1974年)の中で実験を行ってきました。けれども、そのどれを見ても、「確かに、こういう研究はするだろうな」というものばかりで、想像の範囲を超えていない。
濃度を10倍にしてみた、あるいは100倍に薄めてみたという極端な実験は、みんな「うまくいくはずない」「育たない」と決めつけて、実施しない。私はそのことに気づいていたので、極端な実験をやっていくと道が見つかるのではないかと、楽観的に思っていた部分もありました。
田中:その発想が、2005年に世界で初めてユーグレナの食用屋外大量培養の成功につながったのですね。他の人が試したことのない極端な条件で実験してみたらどうなるか。これも、妄想がなせる技です。
日本が産油国になる日が来る
出雲:私たちのようなスタートアップは、妄想力そのものですからね。私のスタートアップの定義は、Make a small success in the hardest field。つまり、小さくても世界で最初の成功事例を、誰もができないと思っているところでつくる。これこそ、スタートアップの存在意義だと思っています。そこには妄想力が欠かせません。
大学1年のとき、たまたまバングラデシュに行ったことで私の人生は劇的に変わったのですが、当時のバングラデシュは世界の最貧国の一つで、栄養失調の子どもが約100万人いました。もしここで、栄養失調の子どもをゼロにできたら、ほかの貧しい国も「自分たちの国でもできそうだ」と思いますよね。しかもその理由が、ユーグレナを原料にした食料だと知ったら、一気に他の国にも広がっていきます。あとは、国連や多国籍企業の力を使って、バングラデシュでのやり方をコピーペーストして水平展開すれば、地球上の子どもの栄養失調という社会課題は、あっという間に解決できると思っているんですよ。
田中:そうなれば素晴らしいですね。
出雲:子どもの栄養失調の問題だけでなく、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に示されている17ゴールと169のターゲットも、これと同じような方法によって、私が生きているうちに克服できると確信しています。
まずは、世界の誰もができないと思っている一番難しいところでスタートアップが成功事例をつくる必要があり、そのやり方を国連と多国籍の大企業が実施して広く展開してもらうという順番が大事です。世界では、水問題解決のスタートアップとか、学校教育を良くするスタートアップとか、様々な課題解決に取り組むスタートアップが次々と出てきています。世界で一番難しいところで成功事例をつくるというのは、妄想なんですよ。なぜなら、みんなできないと思っているんですから。
ユーグレナ社では、飛行機や車両などの代替燃料であるバイオ燃料の供給を始めていますが、石油資源がない日本で、国産の資源を燃料にして飛行機がどんどん飛び始めたら、他の資源のない国もまねしようと思いますよね。バイオ燃料の原料は、植物や微細藻類などのバイオマスです。それらは、成長過程において光合成で二酸化炭素を吸収するため、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量が実質ゼロ)といわれています。
難攻不落の城から攻めよう
田中:僕は出雲さんほど大きな結果を残せていませんが、営業でも、社内の企画を通すための説得にしても、基本的には、難攻不落の城から攻めると決めているんです。
普通の人は、一番弱い城から攻めようとします。けれども全部で城が10個あるとすると、相手はだんだんと強くなっていくので、途中で戦力がもたなくなってくるんですね。逆に、最初に難攻不落の城から攻めて、もし落とすことができれば、残りの9個の中には戦う前に降伏してくるところもあるでしょうから、簡単に全部落とすことができます。
でも、難攻不落の城から攻めようと言うと、「絶対に無理だ」と反対する人が必ず出てきます。そういう人がいると僕は「その会社(城)を実際に攻めたことはあるのですか?」と聞いてみるんですよ。そうすると、ほぼ100%の人が「攻めたことはないけど、無理に決まっている」と反応します。
逆説的ですけれど、僕は「誰もができないと言う案件」は、意外に誰でもできるという確信があるんです。無理かどうかはやってみないと分からないじゃないですか。でも、やってみないでそう言われているケースがほとんどです。出雲さんのように、500回断られても、501回目に成功するかもしれません。仮に、難攻不落の城を攻めて失敗したとしても、周囲からは「まあ仕方ない」と思われますが、最も弱い城を攻めて失敗したら、その案件自体が致命的なダメージを受けることになりかねません。
出雲:他の飲食チェーンが発行した、しかも期限切れのクーポンを吉野家で使えるようにしたり、競合他社と手を取り合ってみんなで飲食業界を盛り上げる販促キャンペーンを打ったりした事例が、田中さんの本で紹介されていますが、そうした取り組みは誰もやったことがないし、そもそもできるわけがないと思い込んでいますよね。科学の世界でも、極端な実験や研究は、ほとんど誰もやっていないので、共通する部分がありますね。
取材・文/沖本健二(日経BOOKSユニット第1編集部)
田中安人(著)、日経BP、1870円(税込み)



