世界中でベストセラーとなった『 エクセレント・カンパニー 』(トム・ピーターズ、ロバート・ウォータマン著/大前研一訳/英治出版)では、米国を中心とした企業を観察し、超優良企業となるための8つの基準を示しました。共通してやっていることはなんなのか。コーン・フェリー・ジャパン前会長の高野研一さんが本書を読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔リーダーシップ編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。

超優良企業の成功要因とは

 『エクセレント・カンパニー』は経営コンサルタントのトム・ピーターズとロバート・ウォータマンが1982年に著しました。膨大な調査や経営者へのインタビューなどを踏まえて、「超優良企業が共通してやっていることはなんなのか」を一般化することをめざした1冊です。世界中で大ベストセラーとなりました。

 ピーターズらは、当時の米国企業を中心に観察することを通じて、超優良企業になるには8つの基準を満たすことが必要だと指摘します。その基準は、(1)行動の重視、(2)顧客に密着する、(3)自主性と企業家精神、(4)人を通じての生産性向上、(5)価値観に基づく実践、(6)基軸から離れない、(7)単純な組織・小さな本社、(8)厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ──です。

 これらの基準を見いだす際に、著者らは「米国には立派にやっている大企業はいくらでもある」と宣言します。そのうえで、IBM、スリーエム(3M)、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)などを超優良企業として例示。それぞれの成功要因として組織のあり方などの具体例を挙げていきます。

『エクセレント・カンパニー』の著者は米国企業を中心に観察し、超優良企業の基準を見いだした(写真/shutterstock)
『エクセレント・カンパニー』の著者は米国企業を中心に観察し、超優良企業の基準を見いだした(写真/shutterstock)
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 なぜ本書がベストセラーになったのかについては、当時の経済情勢を振り返ってみる必要があります。1980年代は日本企業が欧米市場で大きく躍進した時代です。日本的な経営を高く評価するビジネス書も多数出版されていました。一方で欧米企業の多くは日本企業への有効な対抗策を打ち出せないままでした。

 そんななか、本書は「今日、上手な経営手法が見られるのは、何も日本に限ったことではない」と、自信を失いかけていた欧米の経営層を鼓舞したのです。本書には、紹介した超優良企業がその後、業績が悪化したことなどから批判もあります。しかし、膨大な数の企業を調査し、優れた経営の実例を現場から引き出した本書には、いまもヒントになる事例がたくさんあります。

自主性を持って考える

 ビジネス環境の変化がいかに激しいか。最近ではほとんどどんな業種でも、毎日のように実感されているはずですが、実はこの『エクセレント・カンパニー』に、その激しさを如実に示す好例があります。一部を引用してみましょう。

 「超優良企業は、“まず何より実行だ”という態度をとる。年俸7万5000ドルの少数のエリート高給取りだけが考えるのではなく、何万の人々がつねに自主性を持って考えるべきだと主張し、それを実践するのである」

 この部分の基本的メッセージは、米IBMなど超優良企業では、実行を重視するという点にあります。高給取りの幹部社員だけではなく、現場で働く何万人もの社員に共通して、そのメッセージが伝わっています。それが平凡な企業にはなく、超優良企業に見られる特徴だというのです。

『エクセレント・カンパニー』の名言
『エクセレント・カンパニー』の名言
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