本はジャンルを問わず手に取ります。自宅には、漫画、ビジネス書、写真集、絵本、詩集、展覧会で買った本…いろいろと本棚に並んでいますね。引っ越しや掃除のたびに整理したり処分したりするのですが、直感に頼って「やっぱり置いておこう」と本棚に残す本はいつも同じなんですよね。
第1回の記事で紹介した、松本大洋さんの『ピンポン』(小学館)もそうですが、どちらかというと好きな本を何度も読み返すタイプ。マーカーを引いたりして、1冊の本を読み込んだりすることも多いです。
『河井寛次郎と仕事』(河井寛次郎記念館)も、私が何度も読み返している本の一つです。
確か、起業して4年くらいたった頃に訪れた京都の河合寛次郎記念館で購入しました。河井寛次郎は、柳宗悦、浜田庄司と共に民藝運動を興こした人物です。この本から私が学んだのは、美に対する姿勢。例えば、街づくりに関する記述では、こんな疑問を投げかけています。
アメリカの進駐軍が大津にキャンプをつくったけれど、それは厳密に計画し設計されたものだが実に味気ない。ところが、無計画にこさえた村はなぜああいう美しいことになるのか。無計画なものが計画したものよりも優れている。これはどういうわけなのか、と。
他にも、印象的な問いかけの文章や言葉が出てきます。「美に気付く人、気付かない人」「調和が取れていないことが調和になる」「知恵を使ったものが知恵を使っていないものに負ける」など。
人間に必要な「美」とはなにか
街づくりの疑問については、現代でもタワマンだらけの都市部に当てはまるかもしれません。地方も地元資本で支えられているエリアはすごく美しいけれど、外部資本が入ってきているエリアは画一的な風景が広がっています。特に国道沿いや幹線道路沿いには、同じような大型ショッピングセンターや衣料品店、中古車販売店が立ち並んでいる。その風景が美しいかというと、やはり疑問符が付いてしまうんです。
私たちが拠点にしている岩手の盛岡でいうと、地元資本で頑張っているエリアは住民たちが自分の町に誇りを持っているから、外部資本に対してとても警戒心が強い。外部資本が入ることに対して反対運動も起こったりする。でも、そんなふうに美しさの基準を持つこと、各自が“点”として美の基準を守りながら街をつくっていくことが、実は美しいことなんじゃないか。
水面が広がる田んぼや青々とした森を目の前にした時、子どもも大人も、私の兄や知的障害がある人でも、誰もが等しく「美しい」と感じることができますよね。自然というのは、人間の本能に刻まれた“必要な美”なのだと感じています。
河井寛次郎は、もともと小山薫堂さんが好きだと言っていたんです。私が通っていた大学は山形の東北芸術工科大学なのですが、薫堂さんは学科長でゼミの先生でした。そんな薫堂さんの著書、 『もったいない主義―不景気だからアイデアが湧いてくる!』(幻冬舎新書) は、私が大学一年生だった頃に出版された本です。
当時、学科のみんなで課題図書のような形で読みましたが、「少し視点を変えるだけでアイデアになる」、そんなことを教えてくれる内容で、この本も、学生時代から社会に出た後も何十回と読み返しています。
実は、今日持ってきたブックカバーも薫堂さんのサプライズプレゼントなんです。
大学卒業後、私は薫堂さんの会社(オレンジ・アンド・パートナーズ)に勤めたのですが、ある日突然、「おまえ、なんか汚いバッグ使ってるなあ。これやるからおまえのバッグ、俺がもらっとくよ」とバッグを交換されまして(笑)。
その後、私が薫堂さんの会社を退社する日に、私が使っていたバッグをリメイクしたこのブックカバーをプレゼントしてくれたんです。裁断して、40人くらいで一針ずつ縫ってくれて。薫堂さんからはそんな遊び心も学びました。
楽しそうに仕事の話をする「大人たちの背中」
私の父は銀行員で、母は教員。どちらかというと堅い仕事をしている家庭に育ちました。父を否定するつもりはありませんが、自分の仕事を「楽しそうに語る」姿を家で見たことはなかった。だから、大学生の時に薫堂さんと副学科長の軽部政治さん(コミュニケーションクリエーター)が、よく分からないけどすごく楽しそうに仕事の話をしている姿は結構、衝撃だったんです。「え、そんなに仕事って楽しいものなんだ」…って。
その時に見た「楽しく仕事をする」大人たちの背中が、私の憧れになりました。ある意味、ヘラルボニーの原点になっているかもしれません。
前回の記事 「ヘラルボニー松田崇弥 自分が知らない本当の多様性に触れた1冊」 で、ソフトボールから卓球に転身した時の話をしましたが、子どもながらに、どうしても才能でかなわない現実があることを知って、シンプルに「自分が活躍できる場」に時間を注ぎたいと思うようになりました。それに、好きなことや楽しいことに社会的な評価や承認がついてくると、きっともっと好きになりますよね。
でも、得意なことがなくてもいいんです。ただ、どんな人も、実力通りに評価される社会をつくっていきたい。そんな思いで、ヘラルボニーの活動も続けています。
取材・文/金澤英恵 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/鈴木愛子






