「ございます」「いらっしゃいます」を正しく使えていない人は案外多いものです。「ございます」は自分や身内に対して使いますが、それ以外の人には「いらっしゃいます」を使います。この点をしっかり覚えましょう。『 がんばらない敬語 相手をイラッとさせない話し方のコツ 』(宮本ゆみ子著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けします。

まずはこの問題を考えてみよう

 「ございます」と「いらっしゃいます」。たったこれだけの言葉なのに、正しく使えていない人は案外多いものです。

 正しく使えているかどうかの確認のため、次の問題をちょっと考えてみてください。

(シチュエーション1)あなたは職場にいます。そこに、上司と面会のお約束をいただいているお客様がアポイント通りの時間に訪問してきました。田中さんという方です。田中さんは応対に出たあなたに、名前を名乗って上司との取り次ぎをお願いしました。

 そこで、あなたがひと言

「田中様でございますね。取り次ぎますので、少々お待ちください」

さて、この言い方は「○」でしょうか、「×」でしょうか?

 正解は……「×」です。

 田中さんは、おそらく初対面の人ですね。そして、職場においては部外者です。つまり「外側の人」です(第1回 「敬語は上下関係ではなく、相手との『距離感』で考えよう」 参照)。

 ですから、自分や身内に対して「ございます」を使うのは間違い。「田中様でございますね」ではなく、「田中様でいらっしゃいますね」というのが正しい言い方です。

 「ございます」も、確かに敬語です。でも、一般的には敬意を払う相手に対して使う単語ではありません。にもかかわらず、「いらっしゃいます」と言うべきところを「ございます」と言ってしまう人が後を絶たないのは、「ございます」を使うと、なんとなく敬語を使った気分になってしまうからかもしれません。

 敬語を難なく使いこなせている(と期待される)一流ホテルやレストラン、コールセンター、上場している大企業の受付などでも、「宮本様でございますね」と言われたことが何度も何度もあります。

 言葉は生きているので、間違った使い方をする人がどんどん増えていけば、やがて誤用が誤用でなくなる日が来るかもしれませんが、お客様に対して「ございます」を使うのがOKになるには、まだまだ時間がかかりそうです。

一流ホテルやレストランでも、「宮本様でございますね」と言われたことが何度もあるという(写真/shutterstock)
一流ホテルやレストランでも、「宮本様でございますね」と言われたことが何度もあるという(写真/shutterstock)
画像のクリックで拡大表示

訪問客の取り次ぎの問題

 ではもう1問。こちらはどうでしょうか。

(シチュエーション2)あなたの名前は田中さんです。あなたは職場にいます。そこに、あなたと面会の約束があるお客様がアポイント通りの時間に訪問してきました。そして、応対に出たあなたに、名前を名乗って「田中さん」との取り次ぎをお願いしました。

 そこで、あなたがひと言

 「お待ちしておりました。わたくしが田中でございます」

 さて、この言い方は「○」でしょうか、「×」でしょうか?

 正解は……「○」です。

 先ほどのシチュエーション1とは違って、田中さんはあなた自身。「外側の人」であるお客様に対して、自分自身を指して「田中でございます」というのは、正しい言い方ですね。

 さて、「内側」と「外側」。どちらに「ございます」を使い、どちらに「いらっしゃいます」を使うのか、その区別はつきそうですか?

上下関係の敬語をやめてしまおう。

大切なのは「上下関係」よりも「相手との距離感」。敬語を使わなくても相手を敬う表現はたくさんある。1万2000人にインタビュー、著名人の公式ライターとして活躍する「話し言葉」と「書き言葉」のプロが教える自然でやさしい言葉遣い。

宮本ゆみ子著/日本経済新聞出版/1540円(税込み)