「ございます」「いらっしゃいます」を正しく使えていない人は案外多いものです。「ございます」は自分や身内に対して使いますが、それ以外の人には「いらっしゃいます」を使います。この点をしっかり覚えましょう。『 がんばらない敬語 相手をイラッとさせない話し方のコツ 』(宮本ゆみ子著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けします。
まずはこの問題を考えてみよう
「ございます」と「いらっしゃいます」。たったこれだけの言葉なのに、正しく使えていない人は案外多いものです。
正しく使えているかどうかの確認のため、次の問題をちょっと考えてみてください。
そこで、あなたがひと言
「田中様でございますね。取り次ぎますので、少々お待ちください」
さて、この言い方は「○」でしょうか、「×」でしょうか?
正解は……「×」です。
田中さんは、おそらく初対面の人ですね。そして、職場においては部外者です。つまり「外側の人」です(第1回 「敬語は上下関係ではなく、相手との『距離感』で考えよう」 参照)。
ですから、自分や身内に対して「ございます」を使うのは間違い。「田中様でございますね」ではなく、「田中様でいらっしゃいますね」というのが正しい言い方です。
「ございます」も、確かに敬語です。でも、一般的には敬意を払う相手に対して使う単語ではありません。にもかかわらず、「いらっしゃいます」と言うべきところを「ございます」と言ってしまう人が後を絶たないのは、「ございます」を使うと、なんとなく敬語を使った気分になってしまうからかもしれません。
敬語を難なく使いこなせている(と期待される)一流ホテルやレストラン、コールセンター、上場している大企業の受付などでも、「宮本様でございますね」と言われたことが何度も何度もあります。
言葉は生きているので、間違った使い方をする人がどんどん増えていけば、やがて誤用が誤用でなくなる日が来るかもしれませんが、お客様に対して「ございます」を使うのがOKになるには、まだまだ時間がかかりそうです。
訪問客の取り次ぎの問題
ではもう1問。こちらはどうでしょうか。
そこで、あなたがひと言
「お待ちしておりました。わたくしが田中でございます」
さて、この言い方は「○」でしょうか、「×」でしょうか?
正解は……「○」です。
先ほどのシチュエーション1とは違って、田中さんはあなた自身。「外側の人」であるお客様に対して、自分自身を指して「田中でございます」というのは、正しい言い方ですね。
さて、「内側」と「外側」。どちらに「ございます」を使い、どちらに「いらっしゃいます」を使うのか、その区別はつきそうですか?
大切なのは「上下関係」よりも「相手との距離感」。敬語を使わなくても相手を敬う表現はたくさんある。1万2000人にインタビュー、著名人の公式ライターとして活躍する「話し言葉」と「書き言葉」のプロが教える自然でやさしい言葉遣い。
宮本ゆみ子著/日本経済新聞出版/1540円(税込み)