「いらっしゃいます」と言うべきところを「ございます」と間違えてしまうのと同様に、なんとなく丁寧な表現だと思っていたのに、相手を立てるべきところでへりくだる敬語を使っていた……なんていう失敗は、実はとても多いのです。代表的なものを紹介します。書籍 『がんばらない敬語 相手をイラッとさせない話し方のコツ』 (宮本ゆみ子著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けします。
うっかり間違えてしまう典型例を学ぼう
「いらっしゃいます」と言うべきところを「ございます」と間違えてしまうのと同様に、なんとなく丁寧な表現だと思っていたのに、相手を立てるべきところでへりくだる敬語を使っていた……なんていう失敗は、実はとても多いのです。
代表的なものをいくつか挙げます。うっかり〝やっちゃって〞いないかどうか、確認しておきましょう。
○ 「……とおっしゃいますと?」
カジュアルに言うなら「……って言うと?」でしょうか。相手の発言の真意を訊ねたいときについ出てくる言葉ですが、「言う」を外向きに高める敬語は「おっしゃる」です。「申す」のは自分や身内に対して使う言葉ですから、適切ではありませんね。
○ 「どちらになさいますか?」
「いたす」も「なさる」も「する」を意味する言葉ですが「いたす」は自分や身内に対して使う言葉。相手を立てる敬語なら「なさる」が正解です。
○ ◯◯部長がいらっしゃいました。
ここでは、社内での会話を想定しています。つまり、◯◯部長に対して外向きの敬語を使う必要があります。「来る」を意味する言葉を使いたいところですが、「参る」は自分や身内に対して使う「ございます系」の表現です。これに「尊敬」を意味する「れる/られる」の助動詞をつけても、残念ながら「いらっしゃいます系」にはなりません。「いらっしゃいました」が正解。
○ 佐藤さんにお会いになりましたか?
「会う」という意味で使いたいのですが、「お目にかかる」のは自分や身内に対しての「ございます系」。相手を立てる意図で使うのであれば「お会いになる」を使いましょう。
○ お受け取りくださいませ
「受け取ってね」という依頼の表現ですが、「拝○する」は自分や身内に対して使う「ございます系」なので「お受け取りくださいませ」がベターです。
○ 手提げ袋はご利用になりますか?
コンビニエンスストアやスーパーで手提げ袋が有料化されてから、大変よく耳にするようになりました。「ご(お)〜される」と「ご(お)〜になる」は、ぱっと見ると大した違いがないように見えますが「ご(お)〜される」は「ございます系」。お客様に対して使うのであれば「ご(お)〜になる」にしましょう。
上司を社外の人に紹介しよう
ここで改めて「内側の関係」と「外側の関係」の復習です。
●同じ会社の人は「内側」、お客様や取引先など社外の人は「外側」
●社内の人間関係だけ見るのであれば、上司は「外側」
●でも、社外の人に対して上司のことを話すのであれば上司は「内側」
こんなふうに、上司が同じ人であっても、誰と話すのかによって「内側」か「外側」かが違ってきます。
佐藤部長に対して……
●社内で本人に呼びかけるときは「佐藤部長」
●社内で、同僚と佐藤部長の話をするのであれば「佐藤部長」
●社外の田中さんに対して佐藤部長のことを話すときには「佐藤が……」
●社外の田中さんに対して佐藤部長のことを肩書を付けて話すときには「部長の佐藤が……」
では、社外の田中さんに対して、佐藤部長を紹介するときにはどうなるでしょうか。
まず、人を紹介するときの基本的なルールとして、外側の人に対して内側の人を紹介するのが先です。つまりここでは、
「田中さん、こちらが部長の佐藤でございます」
と、社外の田中さんに対して佐藤部長を紹介するのが先です。その後で
「部長、こちらが田中さんでいらっしゃいます」
と内側の人に対して外側の人を紹介します。この順番を間違えないようにしましょう。
また、肩書のある内側の人を外側の人に紹介するときは、肩書をつけて「◯◯部長」「××課長」のように紹介するのではなく、肩書は外につけて
「部長の◯◯」
「課長の××」
と呼ぶようにします。
「ございます」「いらっしゃいます」はここでも正しく使い分けていただきたいものですが、もし自信がない場合は
「田中さん、こちらが部長の佐藤です」
と「ございます」を抜いた丁寧語で通してもかまいません。
大切なのは「上下関係」よりも「相手との距離感」。敬語を使わなくても相手を敬う表現はたくさんある。1万2000人にインタビュー、著名人の公式ライターとして活躍する「話し言葉」と「書き言葉」のプロが教える自然でやさしい言葉遣い。
宮本ゆみ子著/日本経済新聞出版/1540円(税込み)