考えていることがうまく言葉にできない。文章がうまく書けない。こういった悩みを抱える人は多いだろう。その悩みを解決するヒントになるのが、 『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』 『「言葉にできる」は武器になる。』 だ。今回は著者の藤吉豊氏と梅田悟司氏に、「言葉」について語っていただいた。第3回のテーマは、表現と想像力について。

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「本当の1行目」は、全文書いてやっと見えるもの

梅田悟司氏(以下、梅田):僕の仕事は短い文章にまとめることが多いですが、藤吉さんのように長い文章を書く方が考える「言葉の持つ力」って何でしょうか。

藤吉豊氏(以下、藤吉):僕は主に、書籍のライティングに携わっているので、「本全体でストーリーを完結させていく」という考え方をしています。1冊の本によって、読み手の生活や行動に何らかの良い変化を与える。やっぱりこれが、文章や言葉の持つ力だと思います。そのために僕は文章を書いていると言ってもいいくらい、すごく意識していますね。でも一方で、その本の中に一文でも心に残るものがあればいいとも思っているんです。

梅田:本1冊書かれても、一文でいいんですか。

藤吉:全部を伝えたい、というのは書き手側の論理です。僕は、読んだ人が1つでも感じるところがあればその本には意味があると思っています。なので、「これはいい、共感できる」という一文をいかに増やしていくかを常に考えていますね。

梅田:それはとても興味深いです。

藤吉:梅田さんも『「言葉にできる」は武器になる。』など、ご自身で本を書かれていますよね。どういったスタンスで執筆されているのですか。

梅田:僕の場合、まずは、そのとき書きたいことをとにかく出し切るようにしています。1冊分、とにかく書きたいことを書く。そうやって文字に落とし込むことで「自分が言いたいことってこれだ!」という気づきが生まれるので、それまでの原稿をいったん全部ナシにして、ゼロからもう一度書きます。

<span class="fontBold">梅田悟司(うめだ・さとし)</span><br>コピーライター。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授。1979年生まれ。大学院在学中にレコード会社を起業後、電通入社。マーケティングプランナーを経て、コピーライターに。2018年にインクルージョン・ジャパン株式会社に参画し、ベンチャー支援に従事。2022年4月より現職。 主な仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」、Surface Laptop 4「すべての、あなたに、ちょうどいい。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括など。経営層や製品開発者との対話をベースとした、コーポレート・メッセージ開発、プロダクト・メッセージ開発に定評がある。 著書に『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版)、『捨て猫に拾われた僕』(日経ビジネス人文庫)、『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)など。最新刊は<!--layout:id=16-->(日本経済新聞出版)。
梅田悟司(うめだ・さとし)
コピーライター。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授。1979年生まれ。大学院在学中にレコード会社を起業後、電通入社。マーケティングプランナーを経て、コピーライターに。2018年にインクルージョン・ジャパン株式会社に参画し、ベンチャー支援に従事。2022年4月より現職。 主な仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」、Surface Laptop 4「すべての、あなたに、ちょうどいい。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括など。経営層や製品開発者との対話をベースとした、コーポレート・メッセージ開発、プロダクト・メッセージ開発に定評がある。 著書に『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版)、『捨て猫に拾われた僕』(日経ビジネス人文庫)、『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)など。最新刊は 『きみの人生に作戦名を。』 (日本経済新聞出版)。

藤吉:すごい! 全部書き直すということですか!

梅田:はい。はっきり言えば苦行です(笑)。なので、第1稿と第2稿では全然違うものになります。その都度、全部読んであれこれアドバイスをくださる編集者には申し訳ない気持ちでいっぱいです……。

藤吉:1冊分となると10万字くらいになりますよね。書き直すことが分かっているのに10万字書くのは、ものすごく大変なのでは……。

梅田:僕の場合、「自分が言いたいことってこれだ!」というのが、1冊分を書き切ってやっと見えてくるんです。もちろん企画意図も目次も決めてから書き始めるんですよ。でも、書き切ってはじめて、「本当の1行目」が生まれるんです。

藤吉:確かに、1行目で文体も決まるし、どんな問いかけをするのかも決まりますよね。僕も1行目は大事にしていて、いつも本当に気を使います。

梅田:はい。ですから、「1行目から書かない」を、僕は大切にしています。広告のボディーコピーでも、つい物語的に何かを書きたくなるんですけど、それじゃあどうでもいいものしか出てこない。スタンスが全部1行目に表れるわけですから、考え抜いて、いよいよ最後に出てくるのが「最初の1行目」なんです。

藤吉:やっぱり、1行目は広告の世界でも大事なんですね。でも、この1行目の大事さは、僕もプロになるまで分かりませんでした。学校では「とにかく1行目に何か書けばいいから」と言われることもあるくらいで。

梅田:本当に。読書感想文なんて特にそうで、本を読んで「ふ~ん」くらいしか感じていないまま、とにかく1行目から書かされる。実はこれが、文章嫌いの人が多い一番の理由なんじゃないかと思います。

藤吉:確かにそうかもしれません。

梅田:単語でもいいし、言葉になっていなくても、ぐちゃぐちゃでも、同じことの繰り返しでもいい。頭に思ったことをまず書き散らしてみることが大事です。そこから自分の言いたいことが薄ぼんやりと見えてきます。それが僕にとっての第1稿というわけです。

藤吉:一度全部出し切って、何が大事かを自分で確認するために、まず書くと。

梅田:はい。僕は「自分が何を考えているのか、実は自分が一番分かっていない」という前提を持っています。僕は言葉の専門家といわれていますが、言葉と自分、言葉と社会に関して、多くを理解できているわけではありません。むしろ、知れば知るほど、分からなくなっているとも言えます(笑)。答えがあって書いているわけではなく、書くことによって答えがまた薄ぼんやり見えてくる。この繰り返しです。

藤吉:僕は『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』を執筆する際に100冊読みましたが、「とにかく書け」という著者もいれば、「まずちゃんと考えてから書け」という著者もいました。それぞれに理由があり、多分どちらが正解ということではなく、人によって変わるのでしょうね。

梅田:おっしゃる通りだと思います。考えることと書くことは区別されるものではなく、僕の中では完全に一体として捉えています。考えること=書くことです。そこを区別し過ぎると、書くことが難しくなるでしょう。

行き詰まったら、海に向かって「バカヤロー」と叫べ

藤吉:今、僕たちは誰もが言葉を自由に発信できる時代に生きています。それを活用して新しい情報を得る人がいる一方で、ネガティブな面で言葉の力が発揮されていることも多々あります。イライラした内なる言葉が、ためらいなく発信されているように感じるのですが……。

梅田:危機的な状況ですよね。超アナログな例えですが、海に行って「バカヤロー!」って叫べば、内面の問題はある程度解決するんじゃないかと僕は思います(笑)。あとは夜に考え込まないように早く寝ること。

藤吉:素敵(すてき)です(笑)。

<span class="fontBold">藤吉豊(ふじよし・ゆたか)</span><br/>株式会社文道 代表取締役。有志4名による編集ユニット「クロロス」のメンバー。日本映画ペンクラブ会員。神奈川県相模原市出身。編集プロダクションにて、企業PR誌や一般誌、書籍の編集・ライティングに従事。編集プロダクション退社後、出版社にて、自動車専門誌2誌の編集長を歴任。2001年からフリーランスとなり、雑誌、PR誌の制作や、ビジネス書籍の企画・執筆・編集に携わる。文化人、経営者、アスリート、タレントなど、インタビュー実績は2000人以上。2006年以降は、ビジネス書籍の編集協力に注力し、200冊以上の書籍のライティングに関わる。現在はライターとしての活動のほか、「書く楽しさを広める活動」「ライターを育てる活動」にも注力。「書く力は、ライターだけでなく、誰にでも必要なポータブルスキルである」(ポータブルスキル=業種や職種が変わっても通用する持ち出し可能なスキル)との思いから、大学生や社会人に対して、執筆指導を行っている。共著書に『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』『「話し方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』<!--layout:id=13-->(日経BP)、単著書に『文章力が、最強の武器である。』(SBクリエイティブ)がある。コーヒーと猫が好き。
藤吉豊(ふじよし・ゆたか)
株式会社文道 代表取締役。有志4名による編集ユニット「クロロス」のメンバー。日本映画ペンクラブ会員。神奈川県相模原市出身。編集プロダクションにて、企業PR誌や一般誌、書籍の編集・ライティングに従事。編集プロダクション退社後、出版社にて、自動車専門誌2誌の編集長を歴任。2001年からフリーランスとなり、雑誌、PR誌の制作や、ビジネス書籍の企画・執筆・編集に携わる。文化人、経営者、アスリート、タレントなど、インタビュー実績は2000人以上。2006年以降は、ビジネス書籍の編集協力に注力し、200冊以上の書籍のライティングに関わる。現在はライターとしての活動のほか、「書く楽しさを広める活動」「ライターを育てる活動」にも注力。「書く力は、ライターだけでなく、誰にでも必要なポータブルスキルである」(ポータブルスキル=業種や職種が変わっても通用する持ち出し可能なスキル)との思いから、大学生や社会人に対して、執筆指導を行っている。共著書に『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』『「話し方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』 『「勉強法のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』 (日経BP)、単著書に『文章力が、最強の武器である。』(SBクリエイティブ)がある。コーヒーと猫が好き。

梅田:だけど現実には、都会に住んでいると大声を出せる場所はないし、みんな社会性が強いので「迷惑なんじゃないか」「誰かに聞かれたらどうしよう」と思って、なかなかできません。だからと言って、SNSをはけ口にすると炎上する。もう地獄だなと。例えばスマホのメモやアナログなノートでもいいので、人に見られたら困るような言葉が書き連ねられた「心の闇ノート」は重要ですよね。

藤吉:「バカヤロー」って叫んですっきりする経験って、なかなか実現できないですよね。

梅田:叫べないから、たまっちゃって大変ですよね。

藤吉:自分が発信した言葉が相手にどう届くのかという想像力が欠如しているのでは、という意見も聞きますが、どう思われますか?

梅田:否定はしませんが、賛同もしません。想像力はその人のすべてと言ってもいいほど大事ですが、その想像力が他者の反応に向かうべきかは疑問です。言葉はその人の思考が形になったものです。例えばその人が、世の中からネガティブに思われることや、炎上するようなことを考えてはいけないのかというと、そんなことはない。自分の中の多面性の1つとして、悪い部分があることを否定する必要はないと思います。発信を制限することと、思うことを制限することは、まったく別の話ですよね。

藤吉:人は誰しも、何かしらネガティブな考えをしてしまうのが自然ですからね。考えることと発信することは、区別して考えたほうがいいですね。

梅田:個性はあってしかるべきなのに、人の思考にまで他人が入ってくるのは気持ち悪いですね。むしろそういう圧力がかかるほど、反発する力は強くなっていくんじゃないでしょうか。

(写真:Shutterstock)
(写真:Shutterstock)

あなたの考えていることは素敵。もっと自信を持っていい

梅田:僕は本を書くときは、「あなたが考えていることに、もっとあなたが自信を持っていいんじゃないか」という前提を持っています。広く発信するかどうかは別として、みんな素敵なことを考えているんだから、方法論を身につけてもっと表現したらいいと思って、『「言葉にできる」は武器になる。』などの本を出しました。

藤吉:なるほど。

梅田:「自分が考えていることは大したことではない」と思っている人が多いですよね。文章を書いたときに「よく分からない」と言われたり、考えたことや書いたことを否定され続けたりという経験から来るのかもしれません。でも、本当はそんなことないんです。

藤吉:「言葉にできていないけれども考えていること」を表現するための武器としての本、というわけですね。

梅田:一人ひとりの中にある世界はものすごく広大です。この現実世界よりも広いとすら思います。しかし、その中身に手を伸ばせるのは、自分だけです。その点で言えば、自分の核に手を突っ込んで引きずり出して言葉にするのは、自分の責任とも言えるかもしれません。

藤吉:確かに、『「言葉にできる」は武器になる。』は、いわゆる文章術の本とは違いますね。多くの文章術の本は「どう書くか」が中心ですが、梅田さんの本はタイトル通り「言葉にする」ことに重きを置いています。

梅田:はい。言語ではなく言語化が大事で、言語化すべき対象は、自分が考えていることに他なりません。その解像度を高めて、そのまま素直に言葉にするための本です。

藤吉:僕も「何を伝えたいか」をクリアにしておくことが非常に大事だと感じます。伝えたいことの中身の解像度を高めておかないと、文章の技法を駆使したところで何も伝わらない。メッセージのない文章になってしまいます。

梅田:藤吉さんの『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』は僕の本とは対照的で、文章術の本ですよね。

藤吉:そうですね。アウトプットをするときの具体的なノウハウをまとめた本です。

梅田:考える力も、書く力も、両方必要ですよね。この両端から攻めていく。

藤吉:はい。書くことで自分の考えや本当に言いたいことがクリアになって、いいものが書ける。さらに書くことで自分の世界が広がっていく。そういう良いサイクルにつながればいいと思います。

(文=梶塚美帆/写真=尾関祐治)

日経ビジネス電子版 2021年6月11日付の記事を転載]

「世界は誰かの仕事でできている。」
「バイトするなら、タウンワーク。」

トップコピーライターが伝授する、
あらゆるシーンに活用できる言葉と思考の強化書!

自分の想いを言葉にしたとき、
人の心は動きだす。

●ステップ1 「内なる言葉」と向き合う
言葉には「外に向かう言葉」と「内なる言葉」の2つがある
「人を動かす」のではない、言葉が響けば「人が動く」のだ
最後は「言葉にできる」が武器になる

●ステップ2 正しく考えを深める「思考サイクル」
「内なる言葉」の解像度を上げる
「思考サイクル」で正しく考えを深めるT字型思考法
自分と会議する

●ステップ3 プロが行う「言葉にするプロセス」――思いをさらけ出す2つの戦略
日本語の「型」を知る
言葉を生み出す「心構え」を持つ

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第1位 文章をシンプルに
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第2位 伝わる文章には「型」がある
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・ブログ・SNS・ネット記事に「納得と共感」を生み出す技術――「PREP法」

第3位 文章も「見た目」が大事
・余白をうまく使って読み手に負担をかけない、優しい文章に
・漢字とひらがなを使い分けると、見た目の印象がからりと変わる

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