サッカーの練習と受験を両立し、武蔵中学・高校、サッカー強豪校の筑波大へと進み、プロを目指すも挫折を味わったという三上昴さん。気概を原動力にMBA(経営学修士)を取得後、ゴールドマン・サックスで活躍。しかし、好きなサッカーで勝負したいと、Jリーグ史上最年少でFC琉球の社長へ転身。その際に生きたのは、決断力や自分の物差しだといいます。日経ムック『中学受験を考えたらまず読む本 2024年版』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成。

サッカーに没頭しつつ武蔵中に合格

 サッカーとの出合いは小学校入学の頃。ちょうどJリーグがスタートし、ブームに乗るような感じで、通っている小学校のチームに1年生から入りました。当時は澤登正朗選手(2005年まで清水エスパルスで活躍)に憧れていましたね。

 中学受験を決めたのは、小学校5年生のときでした。周囲に中学受験をする子はほぼいなかったのですが、両親から中高一貫教育のよさを聞いていたのと、ひとつ年上の兄が勉強する姿を見て、塾に通い始めました。

 ただ、サッカーは続けたかったので、週2日塾に通い、週3〜4日はサッカーの練習。勉強時間を確保するため、母と一緒に何時からは何をやると、隙間時間も細かくスケジュールを組み、受験勉強に取り組みました。これは大学受験でも役立ちましたね。

 入学した武蔵中学校は自由な校風で、授業では答えがひとつじゃなかったり、自分なりに考えて答えを出したりする課題が多かったので、そこで自分で考える癖や、物事をさまざまな角度から見る習慣がつきました。同級生や先輩にも恵まれ、今でも中学・高校時代のつながりは大事にしています。

 大学はサッカーに専念できる筑波大学へ進学。サッカー部に入部しましたが、プロ選手として活躍するのは難しいと悟り、選手になれないならとサッカーはすっぱりやめ、ほかの世界にチャレンジするため、MBAを取得。卒業後は、外資系金融のゴールドマン・サックスに入社しました。

 今まで部活を含め、組織において何かを途中でやめた経験がなく、サッカーをやめる決断は大きな選択でしたが、今振り返れば、逆にそれで力がついた気がします。何かを手放すことで、新たな道が開けることがあると知ったのも、このときでした。

「答えがない課題も自分で考えること、そして、自分の物差しをもつことが重要です」と話す三上昴さん(画像提供:FC.AWJ)
「答えがない課題も自分で考えること、そして、自分の物差しをもつことが重要です」と話す三上昴さん(画像提供:FC.AWJ)
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外資系金融からサッカーチームの社長へ

 ゴールドマン・サックスでは、日本国債など債券を中心とした営業に携わっていました。ところが、2018年のロシアワールドカップで、ひと学年上の本田圭佑選手や長友佑都選手が活躍するのを見て、自分ももう一度勝負したい、できることなら好きなサッカーで、好きな世界観のなかで何かを起こしたいという思いが噴出。

 新しい仕事を探していたときに、当時J3(Jリーグで上から3番目のカテゴリー)だったFC琉球の社長から声がかかり、2019年4月に社長に就任しました。

 FC琉球では、スポンサー探しやサポーターの誘客など、運営全般を担当。沖縄の人たちとチームの接点をより増やし、クラブが地域に理解されるためにはどうすればいいのかを考えて動いていました。地域の人の思いを知り、運営に反映することでチーム全体が盛り上がる、選手としてプレーする以上におもしろみを感じましたね。

淡路島のリーグへ。サッカーを文化に

 2022年からは、淡路島を本拠にするFC.AWJのCOOを務めています。私たちのチームは、Jリーグより下の地域リーグというカテゴリーですが、J3よりも自由度が高く、自分の思いや考えを表現できるので、やりやすいですね。

 FC琉球の本拠地・沖縄もそうでしたが、淡路島は私にとって縁もゆかりもない土地。実際に住み、積極的に地域の人と話したり、図書館で歴史を勉強したりしながら、少しずつ人間関係をつくっています。

 将来的には、サッカーを通じて、地域をもっと盛り上げていきたいと思っています。先日、阪神タイガースが38年ぶりに日本シリーズ優勝を果たし、盛り上がりを見せていました。チームが人々の心と生活になじんでいるんですね。

 でも、それがJリーグにはまだ足りません。今、Jリーグの首位チームを知っている人はどのくらいいるでしょうか。まだサッカーは文化としては根づいていないんですよね。チーム名自体に企業名は入っていませんが、だんだんとJリーグ設立時の理念から離れて、“企業スポーツ”になってしまっている。それを変えていきたいんです。

FC.AWJでは、FC琉球で担っていたスポンサー探しや誘客に加え、行政との折衝やサッカースクールの運営なども行っている三上さん。サッカースクールには地元の小学生たちが多く参加している(画像提供:FC.AWJ)
FC.AWJでは、FC琉球で担っていたスポンサー探しや誘客に加え、行政との折衝やサッカースクールの運営なども行っている三上さん。サッカースクールには地元の小学生たちが多く参加している(画像提供:FC.AWJ)
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自分で決断するための物差しをもとう

 これからの世の中で生きていくうえで必要な力は、「自分のことを自分で決める力」だと思います。友達が塾に行っているから自分も行くではなく、「自分の物差し」をもって、自分で判断することが大事な気がします。

 私の場合は、小さい頃から人とは反対のことをやってみたいというような性格があって、どんな局面でも自分で考えて決めてきました。そのせいで失敗することもあったかもしれません。

 ですが、自分の意思ではなく、みんなの意見に流されてばかりいたら「自分の物差し」はできていなかったでしょう。

 また、自分なりの表現方法をもつというのも重要だと感じます。SNS(交流サイト)や文章、映像など、感情を表現する場はいろいろあると思うのですが、自分に合った手段を見つけて気持ちや考えを的確に表現する。これは自分でも模索中なのですが、今後必要になる力だと思っています。

「みんなに流されてばかりいたら自分の物差しはつくれない。自分の物差しっていうのは、ある程度長い時間をかけてつくっていくものかなと思うんです」と三上さんは話す(画像提供:FC.AWJ)
「みんなに流されてばかりいたら自分の物差しはつくれない。自分の物差しっていうのは、ある程度長い時間をかけてつくっていくものかなと思うんです」と三上さんは話す(画像提供:FC.AWJ)
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取材・文/安部晃司

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