マネー雑誌の編集長も務めたことのある取材歴30年の記者が、日ごろの新聞取材からこぼれた話をつれづれなるままに書き起こした『じわじわと効く投資思考法 肩の凝らない取材ウラ話』(深田武志著、日経プレミアシリーズ)が発売になりました。「こういう場面ではこうしろ!」という指南するものはないものの、あとから「じわじわと」効いてくる内容が満載。本書からの抜粋の2回目は、「気分の浮き沈み」について。大変な場面では冷静でいられる一方、なにげないところに落とし穴があるようです。

どうにもならない気分の浮き沈みにこそ注意

 常に冷静であることや平常心でいるのは大事なことではないかという話をファンドマネジャーとしていたところ、考えていたのと違う返事が返ってきたので少し面食らった。

 下げ相場のときにパニックにならない方法とか、そんな話になるのかと思っていたのだが、「例えば、朝、石につまずいて、ちくしょう、今日はついてねえなとか、普段なんとも思わないことを悪く取ってしまうときがあるでしょ。そんなのがよくないんですよ」と言う。

 何か大変なことになったときに落ち着いているのは場数や訓練でなんとかなるもので、それはプロにとっては取り立てて言うほどのテーマではないということだろうか。問題にしているのは、もっと微妙な、どうにもならない気分の浮き沈みのようなところだった。

 自分にあてはめると、ずっと家にひとりでいると気持ちが内にこもって、いつもは気分よく読む好きな作家の本が面白くなかったり、ましてや自分の書いた記事など無味乾燥で嫌になったりするときがある。そんな状態のことを言っているのかと理解した。

運用の一貫性が崩れるのは最悪

 ファンドマネジャーの話に戻ると、例えば、運用がこのところちょっとうまくいかないかなと自分でうすうす思っているところに、立ち話や昼飯など、何かのついでに上司などから「そういえば最近調子、少し落ちてるみたいだよね、ところであの店のラーメンは……」のような感じで何気なく一言はさまれたときに、「ああ、やっぱりそう思ってたんだ」と気分が一変したりするという。

 それでよくないのは、自分の持っている株の見え方が変わってしまうことだそうだ。

 調べ上げてそれなりに納得して買った銘柄が、普通の状態なら、そのうち上がってくれるだろうと、愛着を持ってながめていられるところ、気持ちが崩れると、なんでこいつら上がらないんだと、厄介者のように見えていらいらする。こらえ切れずに、よしもう入れ替えだと、見切って別の銘柄を買ってみたりする。これが運用成績に影響するかというと微妙なところで、それが良い結果を生むこともあり、別にそれでもいいじゃないかという考え方もありそうだが、問題は運用の一貫性が崩れてしまうことだそうだ。そういうときの成績は運用者の腕前というより、たまたま運がよかったということになってしまい、プロとしてはそれではよくない。

 こういうことは天性の楽天家でない限りなかなか防げないものだ。慢心はよくないが、ある程度は自分をあてにするところがないと仕事が進まないから、やはり自己防衛が必要ということで、頼るのはおまじないだという。

 会社に行くとき、いつも同じ改札から入って、電車の同じ車両に乗り、同じエスカレーターを使って、同じ改札から出る。目当てのエレベーターに当たればラッキーで、自席について、よし、これで今日も大丈夫、と気分を落ち着かせる。

 自分の能力ぎりぎりのところで仕事をしている人には心当たりがあるようなことをファンドマネジャーもやっており、座禅や瞑想(めいそう)をしたり、机の前にお守りやラッキーアイテムを置いていたりする人がこの職種には多いという。

プロの投資家でも、お守りやラッキーアイテムに依存する人は多い(写真:Paylessimages/stock.adobe.com)
プロの投資家でも、お守りやラッキーアイテムに依存する人は多い(写真:Paylessimages/stock.adobe.com)

 そんな生活をしていたら神経がすり減って大変だろうと思うのだが、厳しいことに健康の維持もまた大事で、年金など海外の投資家、とくに欧米系は、資金運用を運用会社に委託するにあたって、ファンドマネジャーの健康状態のチェックを厳しくやるのだそうだ。

投資は山登り?

 体調が悪いと、心が平静でなくなって投資判断もおかしくなる可能性があるからで、近年、チーム運用のファンドが増えているようなのも、ファイナンス理論で言う銘柄の分散効果があることに加え、一人のファンドマネジャーに投資成績を依存するリスクを分散する意味もあるらしい。

 投資は山登りに似ていると言う人があった。

 変わりやすい天候や、難しいルート。一歩間違えば命の危険があるなかで、地図やロープなどいろいろな道具を使いながら、刻々と変化する常に初めての状況に、その場で適切な判断をして頂上に向けて進んでいく。それがパソコンなどの情報ツールを使いながら、自分の経験や判断だけを頼みに日々のマーケットに対処するのとよく似ているという。

 毎日が変化に富んでいて飽きないからファンドマネジャーの仕事は面白いというのが話の本筋なのだが、冷静であることや平常心でいることとも関係がありそうに思われた。

 印象に残ったのは二つで、ひとつは、ここは危ないところだという場面では失敗することはほとんどなく、どちらかというと気を抜いているときが危ないということだ。

 落とし穴に常に注意を払っておくことが必要ということで、投資に当てはめると、持ち株が上がって気分がいいときに、欲が出て売り時を逃すなどの失敗が起こりやすいというような話もそうだろうか。いつだったか、神田で待ち合わせをしていて、池袋で山手線の遠回りのほうに乗ってしまい、20分ほどだったか遅れてきた友達がいたが、こういう人はそもそもアクティブな投資には向いていないように思われた。ここで間違えるといけないというちょっとしたポイントを意識するのが苦手なためで、誤発注などの危険が高そうだ。

 もうひとつは、目標達成とリスク回避の優先順位の取り違え。天候が悪くなったり、予定より進行が遅れたりしたときに、今日を逃すとこの山に登れるのも仕事のたてこみの関係などからいつになるか分からないなどと思っていると、無理をして自分の能力では対処不能な危険に身をさらすことになる。

 個人の投資で一番大事なのはもうけることより、取り返しのつかない大きな損をしないことだ。自慢話がよくないらしく、この株でいくらもうけた、こうやったらうまくいったなどと周囲に言っていると、自分が言ったことに縛られて、能力以上の株に手を出したりして失敗する。持っている株が動かなくて退屈なので、つい得意でもない手法に手を出して損をするのもこの類いだろうか。

ぜひ寝転びながら読んでみてください!

記事には書けなかったネタがざくざく。すぐには役立たないけれど、あとからじわじわと投資に効いてくる内容が満載。日経ヴェリタスの好評連載「投資つれづれ草」を書籍化。
さあ、まずはリラックスしてページを開いてみましょう!

深田武志著/日経プレミアシリーズ/1210円(税込)