マネー雑誌の編集長も務めたことのある取材歴30年の記者が、日ごろの新聞取材からこぼれた話をつれづれなるままに書き起こした『じわじわと効く投資思考法 肩の凝らない取材ウラ話』(深田武志著、日経プレミアシリーズ)が発売になりました。「こういう場面ではこうしろ!」という指南するものはないものの、あとから「じわじわと」効いてくる内容が満載。本書からの抜粋の3回目は、「必要な答えは、すでに自分の中にある」ということについて。材料は誰でもそれなりに持っていて足りないのは問題意識ということになりそうです。
新聞記者として成長企業を多く見てきた
テクノロジー好きの友達にグーグルが検索の有望会社だと教わったのは2001年。会社の先輩が早い時期に買ったアップルのアイフォーンを見て携帯電話はスマートフォンに変わると思ったのは2010 年くらいだったか。マネー雑誌の仕事をしているときにエヌビディアというすごい会社があるのだと、たまたま取材で会った人が熱弁していたのはたしか2017 年だ。
日本の会社だと転勤で福岡にいるときに地元の銀行の頭取がユニクロ(ファーストリテイリング)の企業家精神をしきりにたたえるのを聞いたのが2000年。東京に戻り中小型株を担当する部署にいて、札幌にニトリという、着々と利益を増やしている会社があるのを知ったのは2002 年だったろうか。
私は新聞記者なので個別株の取引はできないのだが、それはおいて振り返ってみると、その後の利益成長によって驚くほど株価が上がった企業を、意外とふだんの生活の中で多く見てきたのだなと思うのだ。
もし私が個人投資家で、100万円くらいを元手にしてファストリの株を買ったり、アップルの株を買ったりとその時々で機敏に反応していたら、いまごろは大資産家であった。

必要な答えは、すでに自分の中にある
ところで、日ごろの取材でファンドマネジャーにいろいろ聞いているときに、たまに将来の産業や有望企業の話題になって幅広く奥深いものの見方を教わり、プロの投資家・運用者というのはすごいものだと思うことがよくあるのだが、しかし本人は時代の先を読む自分の能力をそんなにすごいと思っていないことが多いようだ。
いくらか謙遜もあるだろうが、自分が言っているようなことはそんなに特別なことではなく、普通の生活をしたり少し調べたりすれば誰でも考えつくことで、違いがあるとすれば、それを投資と結びつけるかどうかだと言うのである。これはいい教えではなかろうか。投資だけでなく普段の仕事などに広げて考えても、材料は誰でもそれなりに持っていて足りないのは問題意識であるという指摘は本質を突いていそうで、私はいつからか生活の指針にするようになった。
つまり、なにかの課題などに取り組むときに、まずは、必要なことはすでに見たり聞いたりしてきたことのなかにあるのではないかと考える。実際そうしてみると、泡を食って新しい知見を求めて回るより、自分の経験や頭の中をほじくり返してみることから始めるほうが有益なことが多いのだ。答えは自分のなかに眠っていることが往々にしてあるようだ。
また大事なことには後で気が付くよりその場で気が付いたほうがいいので、多くの見逃しの原因である時々の思い込みや視野の狭さ、自分の判断・評価能力のたいしたことなさを自覚しなければいけないとも思う。
アップルやエヌビディアを買えないくらいならなんということもないが、近しい人が真剣に言ったことに取り合わなかったり否定したりして、そのあと死んでしまったりすると、あのときああ言ったのはこういう意味だったかと、考えても仕方のないことを何かのたびにずっと考えないといけなくなって、これは取り返しがつかない。
投資とは世の中をよくする会社とつながること
それから、なんでも投資や金銭に結びつけて考えるのは、ちょっとどうなのかと、ためらわれるところがある。
仕事でやっているファンドマネジャーでさえ投資の損得に心底熱中しているわけではなく、例えば組み入れている銘柄がTOB(株式公開買い付け)の対象になって株価が上がっても全然うれしいと思わないと言う人があった。そんなことより旧知の顧客の投資家などから、おまえの運用方針を信頼している、頼むぞと、まとまった資金を預けられた時に、夜、疲れてもう眠いところを頑張って、もう1社調べるかと企業研究に取り組むような気力の充実を覚えることがあるという。プロでも投資を続けるには血の通った動機が必要なのであろうか。
で、糸口として最近、有効かと感じるのは、世の中は会社が動かしているという考え方だ。
資本主義のいい面も悪い面もつまりは会社の問題で、大上段に新自由主義の功罪を論じるのも、日々の生活で喜怒哀楽を感じるのも、実は会社に関係していることが多いのだ。
すると会社の経営への資本参加である投資も、そんなに特別なことではないように思える。投資を相場や株価の予想と考えるとギャンブルのような感じになって普通の生活感覚から遠いのだが、投資は自分が暮らす世の中を良くするのに役立ちそうな会社と経済的な関係を持つことだと考えれば、既に消費者として多くの会社と日ごろ関わっているのだから、投資家という次元で、さほど構えずに会社に関わっていく道がいくらか開けていそうな気もする。
冒頭に挙げたような会社も大相場で株価が上がったのではなく、社会の利便に貢献する力を磨いて株式の価値が高まったのであり、そんな目で会社を眺めるのは面白いのではないか。
記事には書けなかったネタがざくざく。すぐには役立たないけれど、あとからじわじわと投資に効いてくる内容が満載。日経ヴェリタスの好評連載「投資つれづれ草」を書籍化。
さあ、まずはリラックスしてページを開いてみましょう!
深田武志著/日経プレミアシリーズ/1210円(税込)
