マネー雑誌の編集長も務めたことのある取材歴30年の記者が、日ごろの新聞取材からこぼれた話をつれづれなるままに書き起こした『じわじわと効く投資思考法 肩の凝らない取材ウラ話』(深田武志著、日経プレミアシリーズ)が発売になりました。「こういう場面ではこうしろ!」という指南するものはないものの、あとから「じわじわと」効いてくる内容が満載。本書からの抜粋の1回目は、「投資家が尊敬する人」について。バフェット氏やピーター・リンチ氏などのカリスマではなく、意外な職業が多いようです。

尊敬している人というのは、人となりを表現している?

 官庁のような公共の仕事をしている友達と飲んでいたら、子供の頃から野口英世を尊敬していて今もそうだと言う。エジソンなどと似たようなイメージの、久しぶりに聞いた偉人の名前だったので妙に新鮮な感じがして本まで買ってしまった。

 野口英世は小さい頃の手のやけどや貧乏などの苦難に負けないで一生懸命勉強し、感染症の研究で医学に貢献した。

 そういえばその友達は苦学に近い学生生活を送ったのであり、また、たまに自分の仕事がよりよい社会を作るために役立っているかという大きな観点からの話をすることがあるので、尊敬している人というのは、人となりをよく表しているものだとあらためて思った。

 それで20年以上前、私が30代半ばの頃に、同僚が「一番尊敬している人はタモリ」と言っていたのを思い出した。そのときは、普通は坂本竜馬などを言わないかと思ったのだが、人の話を柳に風と受けつつ面白いことを言って、なごやかに楽しく会話を進めるタモリさんには背後に深い人間性が感じられ、そのへんを大切なことと考えていたのかと最近は思う。

 人格円満なその同僚とは最近はあまり会わないけれど、年齢を重ねて一段と軽妙な滋味を増したタモリさんの雰囲気を今も目指しているのであろうか。

「手品のタネを考える人は偉い」

 正面切って尋ねたわけではないのだが、プロの投資家も取材や雑談のなかでたまに、こんな人を尊敬しているという話をすることがあった。

 ただ、プロのファンドマネジャーの尊敬する人は、私の聞いた範囲では、どうしてなのかよくわからないが、ウォーレン・バフェット氏やピーター・リンチ氏、ベンジャミン・グレアム氏などの大投資家の名前を挙げる人はあまりいなくて、ちょっと変わっていた。

 結構有名なイベントドリブンの人が言っていたのは「手品のタネを考える人は偉い」であった。イベントドリブンというのは、例えばなにか大きなイベントが控えているときに、それが起きたとき、どの銘柄が有望かを突き詰めて考える手法といえばいいだろうか。誰でも考えつくようなアイデアをどんどん捨てていって、調べに調べ、これはまだ誰も気が付いていないだろうというところまで行って、この銘柄を買おうとなる。

 うんうん苦しんだ果てにやっと出てくるアイデアだが、それはたどりついてみると、なぜ最初から気が付かなかったのか不思議なくらいごく当たり前に見えるという。それが手品のタネに似ているのだそうだ。

ラーメン店主の忍耐強さに感銘

 それから、中小型株バリュー(割安株)の人は、自分の味を守り続けるラーメン店の主人を尊敬すると言っていた。

 毎日同じものを作り続けると飽きがくるであろうところ、自分が飽きたからと調味料の配合を変えてみたり、ダシをとるのに今までと違うものを加えてみたり、麺の具合を変えてみたりすると、その店の味を求めて久しぶりに来た客が、前においしいと思った味とどうも違うなと感じてもう来なくなる。

 割安株投資は、銘柄の価値に人が気が付いていないときに静かに買って、のちにほかの投資家が気が付いて株価が上がるのを待つ手法だ。1年も2年も待っているのは当たり前らしく、忍耐力が必要だから、あるいは変わらないことに価値があるから、頑固一徹のラーメン店の主人を見上げる心持ちになるようだ。

ある投資家は、頑固一徹、自分の味を守り続けるラーメン店主を尊敬するそうだ(写真:Hiroyuki/stock.adobe.com)
ある投資家は、頑固一徹、自分の味を守り続けるラーメン店主を尊敬するそうだ(写真:Hiroyuki/stock.adobe.com)

 2023年度はアクティブ運用のファンドマネジャーには苦しかった1年で、半導体株など大型銘柄の主導で日経平均株価などのインデックスが上がる流動性相場が思いのほか長く続き、中小型株に少しでも自分のファンドの銘柄を傾けていると比較対象のインデックスに負けた。

 自分の力ではどうにもならない大きなものに、自分が培ってきた信念が通じないときの気持ちは当事者でなければわからず、想像するしかないのだが、責任ある仕事だからそれは相当きついものに違いない。

 投資では自分のスタイルを守り続けるのが大事だそうだと、私などもたびたび書いているのだが、自分が待っている相場がいつにも増して来ないときの心中はいかばかりか。そんな時にも正気で立っているために、ラーメン店だけではないだろうけれども、なにか自分のスタイルと強固に結び付いて、はっきりしたイメージを持つ錨(いかり)のようなものを仕立てて、流されないようにしているのだろうか。

棋士やゲームの達人を尊敬する人も

 記事を書いていて投資は何に似ているのだろうと時折考えることがあり、何にも似ていないようだと思ったりもした。しかし投資と一言で言っても手法はいろいろだから、それぞれに似たもの、手本になるようなものがあるのかもしれない。

 比較的年齢が若い、優良な日本株を投資対象にしているファンドの中堅の人にも聞いてみたところ、最近はそうでもないが、以前は有名な将棋の棋士、それからゲームの達人を参考にしていたとのことだった。

 棋士のほうは、細かい部分的な所に行きがちなので、常に全体の局面を広く見渡す、ものの考え方を見習ったという。

 ゲームの達人の話はなかなか難しく、例えばAボタンを押すという基本的な動作でも、常に押し方を意識して繰り返し工夫していると、ゲームの画面の見え方が違ってきて、それが相互作用してより高いレベルに行けるのだということであったが、それが投資のどういう局面と関係しているか、高度で私には理解が及ばなかった。

 ファンドマネジャーが尊敬する人にバフェット氏やリンチ氏などの名前を言わないのは、海の向こうの人だから遠いというのも多少ありそうな気がする。これから10年〜20年後、日本のファンドマネジャーにもバフェット氏のような輝きを放つ人が出てくると、ファンドマネジャーの尊敬する人もまた変わってきそうに思うがどうか。

ぜひ寝転びながら読んでみてください!

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