和歌山県に生まれ育ち、ノーベル賞をめざす研究者志望から、自身の難病経験を契機に医師を志望。医師7年目にして、株式会社Mediiの起業に至った山田裕揮さん。人生の方向性は変わっても、その根底にあるのは、「社会にインパクトを残したい」という変わらない思いだという。ご自身の人生の遍歴や、医学部を志望する人にもっていてほしい心構えについて聞いた。日経ムック『医学部受験を考えたらまず読む本 2024年版』から抜粋・再構成。

難病や曽祖母の死が医学を志すきっかけ

 そもそも小学校中学年頃までは、まったく勉強に興味がなく、ゲームに熱中する子どもでした。変化のきっかけになったのは、高学年のとき、おじの本棚にあった量子力学の本を読んだことです。

 研究者向けの専門書ばかりが壁一面に並んでいて、書かれているのは日本語のはずなのに、まったく意味がわからない。それを自分なりに理解していく過程に、ゲーム的なおもしろさを感じたんですね。

 その延長線上で、中高生のときには、掘り下げたいところについて大学の研究室にアポを取り、教授に話を聞きにいくことを何度も繰り返しました。学校の勉強はまったくおもしろいと思えなかったのですが、その独学にはハマりました。

 同時期に、人生において何か社会に「インパクト」を残したいという強い思いが芽生えました。その手段として浮かんだのが、「ノーベル賞をとる」ことです。そう決意してからは、1日の大半を費やしていたゲームをきっぱりとやめ、勉強漬けの日々となりました。

 その後、研究者志望から医学の道に興味をもつ転機になったのは、自分の面倒を毎日みてくれていた曽祖母の死です。また、僕自身が原因不明の体調不良に悩まされ、指定難病と診断されたことも大きな理由でした。身近な人の死と自分の病気が重なり、健康的な生活を送ることの尊さと、それを支える医療の意義を強く感じました。

 研究者への興味も尽きなかったのですが、ノーベル賞には生理学・医学賞もあります。最終的には、理工学部から医学部志望にシフトしました。

「誰も取り残さない医療をめざして専門医への相談サービス『E-コンサル』を立ち上げました」と話す山田さん
「誰も取り残さない医療をめざして専門医への相談サービス『E-コンサル』を立ち上げました」と話す山田さん
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山田裕揮(やまだ・ひろき)
医師
1989年生まれ。和歌山県和歌山市出身。2014年、和歌山県立医科大学医学部卒業後、内科領域を中心とした研鑽のため堺市立総合医療センターで研修。膠原(こうげん)病領域の専門性を身につけるため聖路加国際病院、慶応義塾大学病院で勤務し、リウマチ膠原病専門医となる。慶応義塾大学医学部医学研究科を卒業し、医学博士号取得。2020年2月、株式会社Mediiを創業。日本リウマチ学会専門医・指導医として臨床でも活躍中。

専門医への相談サービスを開始

 自分自身が免疫系の指定難病患者であることから、膠原病内科医として働き始めたものの、そこで感じたのが、日本の医療の制度上の課題です。

 というのも、医師にはそれぞれに専門があり、得意分野があります。すべての診療科を網羅し、すべての知識をもつ医師というのは存在しません。医師の多くは、診断や治療方針に困る症例に遭遇した経験があり、特に希少疾患や難病、希少がんについては、課題が明確になる傾向があるのです。

 一方で、医学の研究は日進月歩で進んでいます。新薬が次々に開発され、治療ができる難病が出てきても、情報が届かないということもあります。現に、僕自身が指定難病の診断を受けるまでには、4回の入退院と9年という歳月がかかりました。

 こうした中で、僕一人の力でできることには限界があります。まずは、「仕組み」そのものを変えることが必要と思い至り、手段として選んだのが起業と、新たなサービス「E-コンサル」の立ち上げでした。

 「E-コンサル」は、主治医が診療の補助的な位置づけとして、オンラインで専門医に相談できるチャット形式のサービスです。回答対応を担う専門医は1000名以上おり、全指定難病患者数の99%を占める疾患をカバー。相談は匿名で、最適な専門医による迅速な返信があり、利用料は0円です。利用者の95%からは、新たな気づきを得て行動変容につながっているという回答を得ており、その先にいる患者さんの「運命を変える」ことにも貢献しています。

 僕たちが最終的にめざすのは、「誰も取り残さない医療」です。一人で診ることができる患者の数の課題や、地域、病院によって専門領域の医師が偏っている課題なども、「E-コンサル」を通して専門医の知見が共有されることで、多くの患者を救うことができるようになります。

 これが、僕が社会に残す「インパクト」だと考えています。そのためにも、まずはこのサービスを、日本中、さらには世界中に拡大していきたいですね。

自身のベクトルを育てる

 医学部をめざす方、これからの未来の担い手となる皆さんに伝えたいのは、自分自身の「ベクトル」を育ててほしいということです。

 数学でおなじみのベクトルは、方向と大きさをもつ量のことです。医師になることで何を達成したいのか、社会にどうインパクトを残したいのか(=方向)、そこに向けてどれほどの熱量をもっているのか(=大きさ)を、まずは考えてみてほしいと思います。

 医師になるまでも、医師になってからも、困難は常にあります。目的と志が自分の中で「腹落ち」していないために、苦しい思いをしている人を多く見かけてきました。ですから、まずは自分のベクトルを理解して、納得して医師をめざすことが大切です。それができれば、医学部に合格することをあくまでも「手段」として、社会に貢献する人になれるはずです。

「医学部をめざす方、これからの未来の担い手となる皆さんに伝えたいのは、何を達成したいのか自分自身の“ベクトル”を育ててほしいということです」
「医学部をめざす方、これからの未来の担い手となる皆さんに伝えたいのは、何を達成したいのか自分自身の“ベクトル”を育ててほしいということです」
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取材・文/浅海里奈 写真/竹田宗司

これだけは知っておきたい、医師になるために必要なこと

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