健康でいたいけど、おいしいものを我慢するのも、面倒なことを続けるのもむずかしいですよね? 自分の暮らしを楽しみながら、賢く食べて優雅に生きるフランス人は食事制限もジム通いもしません。日経ビジネス人文庫『フランス人はなぜ好きなものを食べて太らないのか』(ミレイユ・ジュリアーノ著/羽田詩津子訳)から「贅沢(ぜいたく)で、太らない」技術を抜粋して紹介します。3回目は、「フランス人の歩く習慣」について。

フランス滞在で夫がやせる理由

 1週間ほどフランスに滞在するたびに、ふだんよりも食べているように感じるのにもかかわらず、500グラムから1キロぐらい体重が減っていることに夫は驚いている。秘訣は、たくさん歩くことだ。

 ウォーキングはフランスの生活様式の要で、平均的なフランス女性は平均的なアメリカ人の3倍は歩いている。下半身にとって、これ以上にいい運動はない。とりわけ歩幅を長くとれば、脚を上下に動かし、さらに臀部(でんぶ)を動かすことになる。さらに、早足歩きはランニングに劣らず心血管にいいことが証明されており、しかも、関節に負担をかけることはない。

習慣化したい2種類の歩き方

 ふたつの方法で、ぜひともウォーキングを続けてほしい。

 まず、定期的な「目的を持った」ウォーキングを毎日の習慣につけ加えること。死にものぐるいで歩くのではなく、ただおしゃれな散歩をする。最初は少しで、じょじょに毎日距離を延ばしていく。仕事先までずっと歩いていくか、一部を歩くか、あるいは夕食のあとに20分歩くか(消化と緊張をほぐすのにいい)して、週に3時間のウォーキングをつけ加えることは、体重を減らすには楽で確実な方法である。効果を目のあたりにすれば、自動的にもっと歩くようになるだろう。わたしはどこにいても、たいてい朝食の前に20分歩いて1日を始めることにしている。

 第二に、「たまたま」歩く時間を増やす方法を見つけよう。これは、できるだけ歩くまいとするアメリカ的な衝動を抑えつけることだ。わたしたちフランス人はアメリカ人ほど近道を見つけようと必死にならない。もしかしたらフランスがもはや大きな権力を持たないのはそれが理由かもしれないが、その代わり、わたしたちは太っていない。わたしは人生において、旅が目的だと信じている。それほど哲学的ではないなら、これだけは覚えておいてほしい。節約された時間は、燃焼されなかったカロリーと等しい。誰かを待つあいだ、あたりを歩き回ってみよう。

歩くのにいちばんいい方法とは

 ただし、いかなる肉体的活動も、バランスと調和に留意して慎重に行われるべきだ。

 では、ウォーキングにいちばんいい方法は何だろう? 混雑した通りを避けて、重い荷物を持たないこと。今回はバッグをどうにか持つことができても、その重みは、無意識のうちに次回のウォーキングを避けようとする誘因になる。ピンヒールはいいアイディアではないが、派手なランニングシューズをはく必要もない。フランス女性は、どこに出ても恥ずかしくなく快適なローファー、パンプス、あるいはゴム底の編み上げ靴をはいている。

 市内の公園や田舎の車の通らない道は歩くのに最適の場所だが、あなたのいる土地では戸外が適当でなければ、エアコンの効いたショッピングモールでもけっこうだ。郊外に住んでいる88歳の女性を知っているが、彼女は冬じゅう巨大なスーパーマーケットを毎日歩いている。いつも一人で。

 もちろん、都会でも田舎でも、注意を払いさえすれば、自分がどういうふうに歩きたいかがわかるだろう。自然を愛する人もいるだろうし、いろいろなものを見たい人もいるだろう。何があなたの心をとらえるかを発見しよう。

散歩という贅沢を味わおう

 ウォーキングのもっとも重要な側面は、姿勢と呼吸だ。頭をもたげて、背筋を伸ばし、遠くを見つめているか、霧深い駅で恋人を探しているかのように顎を上げる。だが、足下にも気をつけよう(ときどき下を見るだけで、通りの多くの変化を発見することができるものだ)。肩の力を抜き、ぐいっと後ろにそらす(胸を突きだすようにして)。そうすると、ちょうど小川が肩胛(けんこう)骨のあいだを流れ落ちていると想像できる。その姿勢を保つように意識しよう。しばらくすると、それは自動的にできるようになる。ウォーキングのときの悪い姿勢は首と肩が凝っていることの証拠である。

 息を深く、ゆっくりと吸ったり吐いたりする。呼吸に集中することは歩くことの瞑想(めいそう)的な価値を高める。食べることと同じように、意識することでその経験の刺激を高め、刺激は満足感につながる。足どりも重要だ。腕を使い、足の親指の付け根だけで歩かないこと。競歩のような歩き方が基本だ。常に飲み水を携帯する。気がついたときには、目的地に着いているだろう。

 パリで学生時代を過ごした最初の2年のあいだ、ウィークデーにはエッフェル塔とソルボンヌ大学のあいだをよく歩き、行きと帰りではちがう経路を選んだ(まだ体重の安定期に入っていない時期には、どちらの道でもペストリーの店を避けた)。週末は、ルームメイトもわたしも田舎出身でパリを驚異の目で眺めていたので、土曜日ごとに、ちがう区や庭園やセーヌ川沿いを歩いて過ごした。しばしば10キロから13キロは歩いたにちがいない。休むのは昼食と、サン・ルイ島の有名な〈ベルティヨン〉で17時にアイスクリームを食べるときだけだった――ささやかな週末のごほうびだ。最終的には、ほとんどのパリっ子たちよりも街を詳しく知るようになった。

 わたしにとって、ウォーキングはとりとめもない考えごとの時間をどっさり与えてくれるものだ。肉体の散歩に精神の散歩が続くにつれ、緊張がほぐれ、五感が満たされる感じがする。これは一種の特別な贅沢かもしれない。自分が現実に存在していることを意識するこうした瞬間に、イメージ、情報、その他、世の中がわたしたちに押しつけてくる感覚が消えてしまう。そうした空間で居心地よく過ごすことを学ぶには、一人で練習をする必要がある。それによって自分自身に嘘をついたり、逃避しようとしたりする衝動は減っていき、やがて、まったくそういう気持ちがなくなるだろう。あなたはそれを望んでいないからだ。

ウォーキングによって、緊張がほぐれて五感が満たされる(写真はイメージ)(写真:dianagrytsku/stock.adobe.com)
ウォーキングによって、緊張がほぐれて五感が満たされる(写真はイメージ)(写真:dianagrytsku/stock.adobe.com)
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食べることを愛するフランス人はどう健康を維持しているのでしょうか? 食事方法から人生を楽しむ秘訣までをひもときながら、一生ものの知恵を紹介します。付録にはすぐに作れて、心も体も満たされる40のヘルシー・フレンチ・レシピが付いています。

ミレイユ・ジュリアーノ著/羽田詩津子訳/日本経済新聞出版/990円(税込み)