パンにチョコにワイン。好きなものを楽しんでいるのに、スリムな体形を保っていることが多いフランス人。2024年、約20年ぶりにフランスを旅行したという日経ビジネス人文庫『フランス人はなぜ好きなものを食べて太らないのか』訳者の羽田詩津子さんがその経験を語ります。前編はコロナ太りからの脱却について。

コロナ禍、わたしを襲った体重増加という悲劇

 2019年末から新型コロナウイルスというえたいの知れない感染症が流行しはじめた。人混みを避ける、換気が大切、飛沫が危ない、電車のつり革につかまるな、飲み会は4人まで、トイレを流すときは蓋を閉めろ、などなど根拠があるのかないのかよくわからない意見、臆測、妄言が飛び交った。

 わたしの場合、英語を日本語に翻訳するという自宅ひきこもり仕事なので、仕事生活はあまり変わらなかったが、気楽に人と会えなくなり、近所の小さなジムもつぶれてしまったので運動もしなくなった。飲み会もなくなりつまらないので、夜中まで仕事をした後、お楽しみという口実で、おつまみを食べながらワインを飲み(もちろん夕食はすでにとっている)、明け方まで映画や録画したドラマを見て憂さを晴らした。

ステイホームの習慣で太ってしまったという人は少なくないだろう(写真:rolandbarat/stock.adobe.com)
ステイホームの習慣で太ってしまったという人は少なくないだろう(写真:rolandbarat/stock.adobe.com)
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 当然ながら、あっという間に体重が増えた。さらに恐ろしいことに、それがなかなか減らなくなった。そのため、減らそうとする努力も放棄してしまった。家にいれば、ウエストゴムのダボッとした服しか着ないし、人とも会わないので、あまり問題にもならなかったのだ。周囲で「コロナ太り」という言葉をよく耳にするようになり、みんなも体重が増えているんだから、少しぐらい大丈夫、と高(たか)をくくっていたのかもしれない。

 しかし、初夏に必要に迫られ、ひさびさにコロナ禍以前の外出着を取り出して着てみたとたん、愕然(がくぜん)とした。シルクのワンピースが胴体にぐいぐい食いこみ、まさにひもで縛ってつるされた焼き豚を連想させたのである。悲鳴をあげて、すぐに服を脱ぎ捨てたのは言うまでもない。

フランス女性はやっぱり太っていなかった

 そんな状態のまま、約20年ぶりにフランス旅行に出発した。「焼き豚」のイメージが頭にこびりついて警戒警報が鳴っていたものの、毎日、フランスの美食を楽しみ、ブルゴーニュワインをたらふく飲んだ。旅の後半は持っていったスカートがきつくなってジッパーが上がらなくなり、さすがにまずい、と思いはじめたときに、以前『フランス女性は太らない』というタイトルで出た本の新装版の企画がメールされてきた。なんというタイミングだろうか。しかも、スリムでスタイルのいいフランス女性を街でたくさん目にして、劣等感を覚えはじめていたところだった。

 というわけで、帰国してゲラに赤を入れながら、改めて著者のミレイユ・ジュリアーノの教えを一から学び直すことになった。文庫化から10年以上たち、恥ずかしいことに細かい部分をすっかり忘れていた。でも、ありがたいことに、ミレイユが提唱するのは、水をたっぷりとり、頭を使って自分の「敵」を見つけ、その「敵」の量を減らし、できるだけ歩き、できるだけ階段を使う、というように、すぐに実践できることばかりだった。食べすぎたときはただちに「調整」する。たとえば、カロリーをとりすぎたときは、翌日、翌々日は野菜中心のメニューにして、その週はカロリーを控えめにする、というように。

 コロナ禍以降、「調整」をころっと忘れ、「敵」と仲良くしすぎたのが体重激増の原因だったと思う。さらに、ミレイユが設定している年代区分がひとつ上がってしまい(詳しくは、『 フランス人はなぜ好きなものを食べて太らないのか 』参照)、代謝が段違いに悪くなったことも大きいだろう。明け方まで飲み食いするなど、若者のやることだ。現実をしっかり自覚して、運動をコツコツ続け、食生活を見直すべきだった。反省しきりである。

少しの心がけで体重は変わる

 最近は懐かしい人々との集まりもあり、外出着を着る機会も増えてきた。すべての服が着られないと経済的損失も大きいので、小さな努力を積み重ねている。いろいろなものを少しずつ食べ、毎回の食事で超満腹にならないように努め、ワインを適量にし(これがいちばんむずかしい)、「ごほうび」と称して夜中にビールを飲んでポテトチップスを食べる悪習慣をやめた。それだけでも、少し体重は減った。

 ふと気づくと数日間、一歩も外に出ていない、という怠惰な生活も見直し、できるだけ歩くようにし、週に3回、ヨガとピラティスのクラスに登録して無理やりにでも体を動かすことにした。最初は面倒くさいと思っていたが、デスクワークで体じゅうが凝り固まっているので、意外にストレッチは気持ちがいい。

 少しずつ体重と体脂肪は減ってきているものの、先日、お世話になった方の追悼の会でコロナ禍以前の黒いワンピースを着ようとしたら、背中の贅肉(ぜいにく)が八ヶ岳連峰さながらだったのであきらめた。目標までの道のりはまだ長い。焼き豚に見えたお気に入りのワンピースは夏物なので、次の夏こそ、着られるようになろう、と決意している。

(後編に続く)
食べることを愛するフランス人はどう健康を維持しているのでしょうか? 食事方法から人生を楽しむ秘訣までをひもときながら、一生ものの知恵を紹介します。付録にはすぐに作れて、心も体も満たされる40のヘルシー・フレンチ・レシピが付いています。

ミレイユ・ジュリアーノ著/羽田詩津子訳/日本経済新聞出版/990円(税込み)