40代おじさんとしての先輩で、憧れの存在でもある奥田民生さんを対談相手に、博報堂生活総合研究所の前沢裕文氏(44歳)が教えを請うた記事の後編。数々の成功を収め、前編では失敗といえば芸名を付けなかったことくらいだと話す。しかし後編では、実は40代おじさんと同様に自信がなく、むしろビビりだと打ち明ける。自信なしに結果を出した、その考え方と生き方を学ぶ。[日経クロストレンド 2021年9月16日付の記事を転載。本記事を収録した新刊 『-30年調査でみる-哀しくも愛おしい「40代おじさん」のリアル』 が12月15日に発売]

奥田民生氏
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前沢裕文(以下、前沢) “40代おじさん”の意識調査の結果もご覧いただきたいのですが。例えば、自分に自信がないっていう人が多かったり(編集注:日経トレンディに掲載された過去の連載を見ながら)。

奥田民生氏(以下、奥田) まあ、「自分に自信がある」って言わないですけどね。

奥田 民生
1965年広島生まれ。87年にユニコーンでメジャーデビュー。94年にシングル「愛のために」でソロ活動を本格的にスタートさせ、様々なアーティストとのコラボレーションや、プロデューサーとしての才能も遺憾なく発揮。バンドスタイルの「MTR&Y」、弾き語りスタイルの「ひとり股旅」、宅録スタイルのDIYアナログレコーディング「カンタンカンタビレ」など活動形態は様々。テレワークでゲストとつながりトークや演奏を繰り広げる「カンタンテレタビレ」やバーチャル背景で演奏する「カンタンバーチャビレ」などをYouTubeにて次々と公開。その独自の活動でリスナーのみならずミュージシャンからも愛されている。

前沢 謙虚な気持ちで「自信がない」と答えている人もいるかもしれないと。

奥田 そうそうそう。自信がある人も、そう言わないのがいいところみたいな。特に日本人って割とそう。あえて言いませんみたいなのが、美学だったりしますもんね。

前沢 何に自信がないかを具体的に掘っていくと、「家族に対する態度や姿勢」とか、「過去の体験や経験」とか。謙虚というよりはちょっとコンプレックスというか負い目を感じているみたいなのがちょこちょこと出てきます。

奥田 まあでも、それは分かりますよ。

前沢 あ、分かりますか?

奥田 分かりますよ。そんなに自信満々に生きてきてないですし。ビビリですからね(笑)。

前沢 そうなんですか?(笑)

奥田 そうなんですよ。だから人の意見も割と気になるし。運が良かったなとか、そういうのも含めて、まあ結果がうまくいったなぁという気はありますけど。自信があったかというと、例えば、デビューしたら曲をつくらなきゃいけないわけですけど、いい曲つくる自信なんてのは全然なくて。初心者っちゃ初心者ですしね。

 やっていくうちに、なんとなく通用しているのかもしれないなくらいの感じで、なんとなくそれが、だんだん他にはない自分だけのものってのが出てるのかもしれないなぁとか、徐々に思っていく感じですね。

 だから、最初から通用すると思ってやっている人もいると思うけど、俺はバックボーンも何もない。みんなプロは、音楽いっぱい聴いて、知識がすごいって思っていたから。あちこちにたくさん天才がいるし。やれる自信なんて全然なかったですよ。

前沢 最初、探り探りという感じでやりつつ、どこかでやっていけるなというめどが立ったり、先程人の意見が気になるとおっしゃっていましたけど、いい評判がたくさん入ってくれば、自信につながったり。そういう感じですかね。

奥田 バンドでやって7年くらいかな、1回解散してソロになって、そのときに「ソロになってしまったけど、この後できんのかな」とか、ちょっと不安になったりもしていて。何年かして、ソロも普通にやれるなみたいな、あのあたりからちょっと余裕ができたというか、そんなくらいすよ、だから30歳ちょいくらいですよね。

 自分が思っているアイデアを、みんなも受け入れてくれる、その経験が増えていったことで、できるようになったかもと感じる。そんな感じですね。

奥田民生氏
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前沢 あと、他に40代おじさんには悲しいデータもありまして。「大好きで熱中していることやはまっている物事がある」というのが……。

奥田 22%? 最下位? まあでも俺もね、インタビューとかラジオやテレビやるときに、事前にアンケートやるじゃないですか。「今はまっているもの」って絶対入っているでしょ。ないんですよ。

前沢 あ、そうなんですか。

奥田 いろんなことに手を出しているわけじゃないんで。言うなら、(インタビューを行った部屋にあるギターや機材を指して)これがずっと続いているだけなんで。だから、今はまっているものとは違うんですよね。40代から買うこともなくなってきてるし。ギターもなんでこんなに何本もって、やっと思い始めて。確かに、それくらいの年から何かに熱中する感じは減るかもね。

前沢 奥田さんは趣味人なのかと思っていました。釣りのイメージが強かったのかもしれないですけど。

奥田 釣りや、ゴルフもやるっちゃやりますからね。でも、なんでもかんでもやりたいやりたいじゃないんですよ。割と腰重い方なんです。40歳のときにサーフボードもらったんですよ。「始めてね」って。1回もぬれてない(笑)。釣りにしても、アユの友釣りいつかはやりたいと思いながら、もう何年たったんだろう……。

 だから、熱中していることがあるかと言われると、「ないかもしんないすねー」ってなりますね。で、それは40歳過ぎた頃から思い始めるかもしれないですね。

奥田民生氏
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 ギターも、もっと上手になりたいとか元々なかったけど、今もないし、今の腕前をキープするってことももうないというか。下手になっていったらなっていったでやることがあるんじゃないかとか。なんでもいい方向に、都合いい方に考え出すかもしれない。速弾きがうまいと言われているわけでもないですから、そこが遅くなったらだめでもないわけですし、そういう意味では楽ですけどね。今のレベルをキープしなきゃいけないって大変だと思うし。ド下手になったらやばいけど。自分がやりたいと思っていることができているうちは。

 この先60代になると、いろんなことが出てくるんだろうなとは思ってますけどね。ただ、僕もう60側ですよ?(笑) 56歳ですもん。

再始動すると思わなかったでしょう。誰もきっと。

前沢 でも、奥田さんが60代になって以降も、おじさんバンドとしてずっとユニコーンが続いたらファンの方はすごくうれしいと思いますけど。今のユニコーンは昔からのファンが多いですか?

奥田 そんなに若い人いないでしょ? やっぱり30、40代じゃないですか。中学生のときに初めて聴いたとか、そういう人が多いと思うけど。再始動してから初めて知った人よりも、前から知っている人が多いでしょうね。

 音楽聴き始めた頃にはもうユニコーン解散していましたという人いますもんね。そういう人たちはまさかユニコーン観られると思いませんでしたって。いいもん観たみたいな感じですかね。

前沢 ちょうどツアーが始まりますし(ユニコーンツアー2021「ドライブしようよ」21年8月28日~11月24日)、解散してもう観られないと思っていた40代おじさんは、また生で観られることにグッときますね。

奥田 再始動すると思わなかったでしょう。誰もきっと。


 インタビューの2週間後に迫るツアーについて伺っていて、「再始動すると思わなかったでしょう。誰もきっと」なんていうコメントが出たからには、このモードで意気込みなんかも語っていただいて、素晴らしい締めに向かえるだろうと浮かれたのもつかの間、急転直下この後また40代おじさんの話になりました(ちなみに、さらにその後はスパイスカレーの話になります・笑)。

 時にグッと力を込めたり、時にフッと力を抜いたり。何気なく聞いていた話なのに、振り返ってみると金言めいたものがちりばめられている。インタビューが、そのまま奥田さんの歌詞のようにも見えます。

 当然、ニューアルバムである『ツイス島&シャウ島』もそんな歌詞、そんな曲があふれています。奥田さんいわく「シンプルなロックンロールアルバムみたいなのにしようってなったから、難しく考えないで済んだし、楽」な1枚なので、聴く方も難しく考えないで済むわけですが、同時に「この曲にはこんなメッセージが込められているのでは?」といくらでも考えて勘繰って楽しめる器のでかさがあります。

 40代おじさんのみなさんは、今でもユニコーンを聴いていますか?

 昔のユニコーンを懐かしむのではなく、今のユニコーンを追いかけてみると、そこにはおじさんの先輩だからこそ知る、かっこいいおじさんでいるための、いつの間にか見逃した真髄があるかもしれません。

奥田民生さん(左)と博報堂生活総合研究所の上席研究員・前沢裕文氏(右)
奥田民生さん(左)と博報堂生活総合研究所の上席研究員・前沢裕文(右)
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(写真/竹井 俊晴)

日経クロストレンド 2021年9月16日付の記事を転載]

おじさんの変化を、おじさんが解き明かす

1981年の設立以来、生活者をウオッチし続けてきた博報堂生活総合研究所。約1400項目もの質問を聴取し、回答の変化を時系列比較した「生活定点」調査を92年から継続しています。このデータなどを基に、同研究所の40代の研究員が、40代男性の意識や行動、価値観などの変化について徹底分析。実は、コロナ禍で大きな変化を遂げている実態が見えてきました。年齢を10歳刻みで分けて人口を見ると、最多層でもある40代おじさんの生態が今、明らかになります!

前沢裕文(著)/日経BP/1980円(税込み)