今や40代真っ盛りの田村淳さん。年を重ねながら活躍の場を次々に広げている淳さんは、同世代である「40代おじさん」のことをどう見ているのか。博報堂生活総合研究所の前沢裕文氏(44歳)が話を聞いた。「おじさん」という言葉への考えから、世代間の分断、魅力的な40代おじさんまで、内容は多岐にわたり、洞察力に富んだ持論を展開してくれた。[日経クロストレンド 2021年8月5日付の記事を転載。本記事を収録した新刊 『-30年調査でみる-哀しくも愛おしい「40代おじさん」のリアル』 が12月15日に発売]
40代おじさんであれば田村淳さんをご存じない方はいないでしょう。学生時代からまあまあのテレビっ子だったので、私もその活躍ぶりをリアルタイムで見ていたうちの一人です。
現在、淳さんの活動のフィールドは、テレビ朝日「ロンドンハーツ」や、テレビ東京「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」といったテレビ番組にとどまらず、YouTube「田村淳のアーシーch」、オンラインコミュニティー「田村淳の大人の小学校」、著書『母ちゃんのフラフープ』(ブックマン社)執筆などなど、縦横無尽に広がり続けています。また、2021年3月に慶応義塾大学大学院のメディアデザイン研究科を修了したことがニュースになったり、SNSの投稿一つ一つも相変わらず話題を呼んでいたり、以前にも増して一挙手一投足が注目される、“ニュースをつくるタレント”になっています。
そんな淳さんも、はや47歳。
あの無邪気、やんちゃに見える振る舞いや、屈託なく若々しい笑顔の印象からすると意外に思えますが、40代おじさん真っ盛りなのです。
今回は、様々な活動で、様々な人に会い、様々なことに考えを巡らし、様々な発信をしている淳さんが、ご自身が当事者でもある「40代おじさん」をどう見ているかお話を伺いました。話の内容は多岐にわたっています。時に軽妙に、時に熱っぽく。そんな淳さんの声を脳内再生しながらお読みいただければ幸いです。
「おじさん」がどんどんネガティブな言葉になっていく
前沢裕文(以下、前沢) 博報堂生活総合研究所の生活定点調査では「43歳からがおじさん」という結果が出ています。そして、40代男性のデータを見てみると「イライラしている」「ストレスを感じる」人の割合が多いなどといった傾向があるのですが、淳さんご自身は意識、行動がおじさんっぽくなったなあという実感はありますか?
田村淳(以下、田村) そもそも僕は世間と比べるということをあまりしてこなかったので。母ちゃんも「よそはよそ、うちはうち」と言っていて、データでこういう傾向が出ていると言われても、あまりピンとはこないんです。
自分がおじさんとか若いとかいうことに本当に興味がなくて。人から見たらおじさんなんだろうなあと思ったことはありますけど、「おじさん」という言葉にいろんな意味合いが込められているじゃないですか、日本って。なんでネガティブな意味を込めて使いたがるのかなあと思いますね。
前沢 「おじさん」という言葉が持つイメージには、ポジティブなところもありますか? 明らかにネガティブな印象ですか?
田村 ポジティブなところはないですね、全然。ネガティブな言葉なんだと思います。当たり前のようにみんなが使っているけれど、誰もその使い方を振り返らないから、どんどんネガティブな言葉になっていくなあという気がしています。
前沢 使い方がネガティブになってしまっていると。
田村 他人におじさんと言うときは、何らかネガティブな要素が含まれているなあと思いますね。
僕は「じじい」って言っていました。若いときに上の人を「じじい」って呼んでいたのに近いと思います。年上の人たちの、凝り固まって固定観念がある部分と、経験値があるから、ある面では話に説得力を持つ部分があって。で、自分には夢と希望は多分にあって、でも成功体験はなくて、思っていることをうまく言語化できない……。言葉ではあらがいきれないけど、でも言葉としてぶつけたい、それで「じじい!」って言っていた。そういうどうにもならないざわざわした気持ちの集合体のような気がします。
若い人からすれば当然感覚が合う40代の人もいれば、合わない人もいるでしょうけど、今の40代は世代として人数が多いんで、合わない人に触れることも多いでしょうね。
前沢 合わないおじさん、「じじい」への対策は何かありますか?
田村 僕は芸能界の上の人のやり方はやっぱり嫌だな、つるむの嫌だなと思っちゃって。小学校のときに思ったことと全く一緒なんですけど、人に将来を握られていない状況が一番自分らしく生きられるんですね。昔は内申書の評価を握られていたけど、今でいうと、誰々と仲良くなったらテレビに出やすいとか、そういう出世や成功の仕方のレールから自分が外れたときにすごく楽になりました。自分はおじさんはおじさんだけど、じじいについていくおじさんではないという感じはします(笑)。
40代って、下の世代からは突き上げられて、上の世代からの抑圧もまだある。サンドイッチされている世代だから、どっちか振り払わないといけないと思うんですけどね。僕は、まず「上を切る」という方法を採ったから、気持ちが楽になっている。
40代おじさんの中に感じる分断
前沢 お話を伺っていると、淳さんはとても自由に考えていらっしゃるというか、何にもとらわれていない感じがありますよね。
田村 組織に入っていないというのは大きいと思います。組織の中で生きていくって、組織の中の空気を感じ取りながら、自分の「出世したい」「キャリアを積んでいきたい」という気持ちとの整合性も取りながら人生を歩むので、そこは苦しい思いがたくさんあると思うんですけど。僕はそのしがらみがないんで、楽なおじさん(笑)。
前沢 そういう道をご自身で選択していったわけですもんね。
田村 はい、それは芸能界にいようがいまいがこうなっていたと思います。
今の40代の人たちは、イエス・ノーをはっきり言うことが苦手だったり、曖昧な空気を読み取ることを、学校生活の中で知らないうちに固められている世代だと思うんです。そして、同じような教育を受けて、同じような能力を身に付けた人が、同じように世に出ていく。僕はそこから外れて、ずっとその子たちを見ていたので。そうなりたくないと思っていたんですよ。
大人になって同級生の人と話していたときに「今幸せだと思う?」って聞いたら「幸せっていうのが何か分からない」って言うので、「家庭があっても自分の人生が楽しくないんだったら(会社を)辞めるべきだし、また新しいこと挑戦すればいいじゃん。何がしたいかということをまず主体に考えて、一歩踏み出せばいいじゃん」って伝えると、「いやそれは淳だからできるんだよ」ってなって。はい、その言葉出たらもう終了ですね。僕だからやれた、は違う。
あなただってできるし、やろうとしてないのに「淳だからできた」と言うのは、それは僕がどれだけリスクを背負いながら一歩踏み出してきたかを分かっていない。だから、「淳だからできた」と言われると、これ以上話したくないわっていつも思う。
前沢 淳さんの身近にいらっしゃる40代おじさんだと、どのような方が多いんですか?
田村 時代に合わせてちゃんとアップデートできているような人ですね。例えばですけど、自分たちは小中高と体罰があった世代だけど、それを今やることはおかしなことだと、切り替えられている人。切り替えられていない同世代の人は話が合わないし、話したくないですね。
だから、同じ40代の中でも、分断が起きているのはすごく感じます。育つ場所も環境も違ったら、同じ世代でも相当な意識のギャップはあるなと思います。多分、日本全国でそういうギャップがあるんでしょうね、アップデートできている人と、できていない人と。
でも、半分くらいは失われた20年の被害者だとも思うんで、当然自分一人の力ではどうにもできなかったことだからやきもきしている人も同世代にはいて。40代おじさんが苦しんでいるんだったら、本当は一人ひとり話を聞いてあげたいくらいですけどね。オンラインで40代専門の学校をつくってもいいのかなって思いましたね。
自身が引かれる40代おじさんの考え方
前沢 では、淳さんが「あの人かっこいいな」と思う40代おじさんというのは、どのような人になるんでしょうか?
田村 固定観念を取っ払っちゃってる人ですね。僕も、言ってみたら日本で税金を納めて、日本という枠の中にいる人間ですけど、もうなんか、ポーンと飛び出して、自分の今までのキャリアとかも全無視?みたいな(笑)。
そうやって振り切れる人って、振り切った先に幸せがあるからそうしているんじゃなくて、やりたいことが強いっていう、その思いだけで一歩踏み出せているんですよ。思いが強いから、結果幸せをつかんで、周りから見ても「わあ、あの人いいなあ、成功してるなあ」というふうになる。この、自分の今まで築いてきたものをバーンと捨ててポーンといける人は、「あーかっこいい」って思っちゃう。
やっぱり、思い切って会社をポーンと飛び出す人は、金銭面では不安定になるけど、心の面、やる気の面でものすごく前向きになれていて。「大丈夫? こんな一流企業飛び出して」って心配されるけど、そういう人は「幸せが何か」という基準が、心配ばかりしてくる人とは違う。そういう姿に触れたときに僕は「うわあ、確かにそういう生き方もあるな」と感じて、わくわくするんですよね。
前沢 先程の「淳だからできる」とおっしゃった同級生じゃないですけど、これも「その人だからできる」という考えに陥りがちですね。
田村 会社辞めなさいというアドバイスって酷じゃないですか。だけど、それをやる人がいるという事実を、もっとしっかり目をそらさないで見てほしいなと思うんですよね。
ただ、もちろん、辞めれば幸せになるっていう話ではなくて。やりたいことがあるから、辞めて幸せになれる。じゃあ、このやりたいものを見つけるためにはどうすればいいかって考えると、世の中に対してアンテナを張ってなきゃいけないし、いろいろな人と関わっていないと、触発されるものがない。
仕事に追われて仕事ばかりの人はインプットがないから、やっぱり異業種の人に会って、もうとにかくいろいろな刺激をもらって、自分にどこで電気が走るかっていうことを感じる作業をしておかないと。趣味もそれで生まれるし、なんだったら人生観が変わるかもしれないし。人生のすべては会社にはなくて、人生の一部が会社にあるだけですよ。
世の中の40代おじさん、身近にいる40代おじさんの意識や価値観について思うこと、考えたことを語ってくださった淳さん。後編では、ご自身の今の幸福度をどう捉えているのか? 夢についてどう考えているのか? 自己肯定感の高い人とはどのような人か? などなど、話はさらに広がっていきます。
(後編につづく)
(写真/古立康三)
[日経クロストレンド 2021年8月5日付の記事を転載]
1981年の設立以来、生活者をウオッチし続けてきた博報堂生活総合研究所。約1400項目もの質問を聴取し、回答の変化を時系列比較した「生活定点」調査を92年から継続しています。このデータなどを基に、同研究所の40代の研究員が、40代男性の意識や行動、価値観などの変化について徹底分析。実は、コロナ禍で大きな変化を遂げている実態が見えてきました。年齢を10歳刻みで分けて人口を見ると、最多層でもある40代おじさんの生態が今、明らかになります!
前沢裕文(著)/日経BP/1980円(税込み)