「40代おじさん」を前後編にわたって分析する後編(前編はこちら)。コロナ禍前後で実は「幸福度が上がった」40代おじさんだが、それでもイライラや周囲への不満は依然として高い。それを解決する手立ては何なのか? 44歳の上席研究員が、“おじさん代表”として分析していく。[日経クロストレンド 2020年12月22日付の記事を転載。本記事を収録した新刊 『-30年調査でみる-哀しくも愛おしい「40代おじさん」のリアル』 が12月15日に発売]
<前編はこちら>
前編では、四面楚歌、絶体絶命の40代おじさんの特徴を5つご紹介してきました。このままでは周りから疎まれるばかりですが、もちろんうれしい調査結果だってあるんです。
⑥ 40代おじさんは「人情派」
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親の相談に乗ったり、困りごとを解決することがある
28.1%(男性1位) 全体:31.7% -
1年以内に、ホワイトデーの贈り物をした
36.3%(1位) 全体:20.4% -
「いただきます」と「ごちそうさま」は必ず言う
57.1%(男性1位) 全体:59.0%
「親の相談に乗ったり、困りごとを解決することがある」と回答した人の割合が、前回2018年調査(22.1%)から+6.0ポイントの28.1%で男性中1位となりました。女性平均が39.2%なので、女性にはかないませんが、コロナ禍で不安を抱える親の支えを果たそうとしたことがうかがえます。
ホワイトデーのお返しをきちんとする律儀さ、慌ただしい毎日でも「いただきます」「ごちそうさま」を言うことを忘れない礼儀正しさ。何だかかわいくないですか? いつもイライラして腹を立てている40代おじさんの人情派な一面は、ワンチャン捨て猫を拾う不良のごときギャップ萌えを印象づけられるかもしれません。
「寿司よりカレー」な40代おじさんたち
⑦ 40代おじさんは「庶民派」
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ものを定価で買うのはばかげていると思う
31.4%(1位) 全体:25.5% -
カレーライスが好き
81.9%(1位) 全体:69.3%
地に足が着いて浮かれない価値観は、足るを知る大人ならではの特徴でしょう。もの一つ買うにしたって、安価に手に入れる方がいいに決まっています。食についても、「好きな料理は何ですか?」という質問に「カレーライス」と回答した人の割合が18年(73.9%)から+8.0ポイントとカレー熱が高まった結果、全性年代中で1位に。好きな料理でカレー>寿司となったのは40代おじさんのみで、やれ究極だやれ至高だなどと言い出さない庶民的な感覚に好感を持ってもらえるはずです。
庶民的というとケチのように聞こえるかもしれませんが、合理的、現実的ということだと思います。
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超能力を信じる
16.6%(最下位) 全体:22.2%
お金、愛、占い・おみくじ、人の善意など、様々なものについて「信じる」「信じない」を尋ねた質問で、「超能力を信じる」と回答した人の割合が、全性年代中で最下位でした。リアリストとして目の前を的確に見据え堅実さを貫けるのは、40代おじさんの強みではないでしょうか。
40代おじさんのネガティブ面は“時間”が解決する
ここまで40代おじさんの特徴を見てきました。当事者としては暗たんたる気持ちにもなる調査結果でしたが、今の40代おじさんがネガティブな意識になってしまう要因とは何なのでしょう? そこが見極められれば、私たちがポジティブおじさんに生まれ変わるヒントが見つかるはずです。
各性年代におけるコロナ禍前後での幸福度の増減には、彼ら彼女らが大事にしていることへのコロナ禍の影響度が色濃く反映されています。ここでは、20代女性と30代男性を例に見てみます。
20代女性の幸福度は、コロナ前の16年(85.1%)→18年(84.1%)と2回連続で全性年代中1位でしたが、20年は前回からー5.9ポイントの78.2%に。これは「人間関係」の満足度が大きく影響していると考えられます。20代女性が他に全性年代中1位だった調査結果を一部紹介すると、「ひとりでいる幸せより人と一緒にいる幸せを重視する方だ(78.7%)」「仕事が終わると、友人や同僚と出かけて楽しむことが多い(27.2%)」「人と交際する時には、深く付き合いたい(78.2%)」「困った時・いざという時に助けてくれる友達がいる(66.3%)」など、人間関係に関する項目の数値が平均を大きく超えるという特徴が挙げられます。コロナ禍で人付き合いが制限される状況下で、幸福度が下がったことは必然と言えるでしょう。
30代男性の幸福度も、16年(71.8%)→18年(78.5%)とこちらも2回連続で男性中1位でしたが、20年は前回からー5.5ポイントの73.0%に。この層は「仕事」に関する満足度の影響が大きいようです。全性年代中1位の調査項目を挙げると、「自分は給料以上に働いていると思う(44.0%)」「気楽な地位より責任ある地位にいる方がいい(30.9%)」など、いわゆる“意識高い系”の傾向が見られるのですが、「テレビ電話で自分の顔を映すのが苦手な方だ(29.7%) *男性1位」「今勤めている会社が倒産するのではないかという不安がある(14.4%)」に加え、「自力自信(自分自身の力による自信)がある(43.4%)」は前回からー5.8ポイント、「職場(学校)での人間関係がストレス(59.9%)」は前回から+6.8ポイントとなるなど、コロナ禍が仕事環境に影響を与えたことで、幸福度が下がったと考えられそうです。
そして、40代おじさん。幸福度が上がっているにもかかわらず「イライラしている」「周りに腹を立てる」「ストレスを感じる」「はまっている物事がない」「信頼できる友人がいない」など不幸感漂う実態が並ぶという、一見不思議な状況を読み解くカギは「時間」にありそうです。
いやいや“お金”だよ!という声も多々あるでしょう。確かに、「経済状態に余裕がありますか?」という質問に「余裕がない」と回答した人の割合は39.3%で、50代男性(40.5%)に次いで全体で2番目に高い数値です。しかし、10年前は51.5%と半数以上に余裕がなかった状況からは改善傾向にありますし、ここ10年の男性平均の数値と比べると16年、18年に4~5ポイント上回っている以外、それほど大きな差はついていません。つまり、経済状態に余裕がないのは、40代おじさんに限った話ではないということです。
一方で、「時間的ゆとりがありますか?」という質問に「ゆとりがない」と回答した人の割合は42.3%。30代女性(42.2%)をわずかに上回り、全性年代中1位でした。男性平均との差もいまだに8.1ポイントあり、40代おじさんだけが忙(せわ)しない生活を強いられ続けている状況は変わっていないと言えます。
それでも、コロナ前の18年調査結果からはー6.7ポイントと一気にゆとりが生まれ、これまでと比べて相対的に幸福感が増したということがありそうです。データ上はここ10年でも最も時間的ゆとりがある毎日を過ごしているはずですし、グラフには入れていませんが、実は42.3%は1998年の聴取開始以来、約20年の中でも最も低い数値。コロナ禍による在宅勤務や外出機会の減少などにより時間が生まれ、40代おじさんがかつてないゆとりを感じているのが今なのです。
40代おじさんのため、さらなる“時産”を
しかし、時間ができたといっても、あくまでこれまでと比べての話。他の層との時間格差はまだまだ大きいわけで、今後は、その格差を縮めることで、40代おじさんのネガティブな意識も和らいで、結果として調査への回答も変わっていくのではないでしょうか。
前編で「イライラ時間」に関するデータについて取り上げましたが、
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約束の時間を過ぎて友人を待っている時間にイライラする
2018年:83.0% → 2020年:84.3% -
結婚式などでスピーチを聞いている時間にイライラする
2018年:58.4% → 2020年:63.1%
と、時間的ゆとりが生まれたにもかかわらず、いや、ゆとりが生まれたからこそ、そのゆとりが削られることへの敏感さは増しており、一度時間のある心地よさを知ってしまった“40代ゆとりおじさん”は、さらに“時間”にシビアになっていくことが考えられます。
博報堂生活総合研究所が行った「時間に関する意識調査」でも、コロナ前と比べて複数のことを同時にこなすマルチタスク欲求が40代(男女合わせた数値ですが)で高まったという結果が出ています。
コロナ禍により、在宅勤務中リモートワークを経験した方もいらっしゃると思いますが、「オンライン会議中にはカメラをオフにして子どもをあやす、料理をする」というように、一つのことだけでなく、複数のことを並行して行える便利さに気づいた生活者の声もありました。複数のことを同時にこなせれば、当然新たな時間を生み出すことができます。テレワークは一例ですが、そういった、時間を産む=“時産”をかなえる商品・サービス、そしてそれらを十分に活用できるようにする仕組み・システムが、40代おじさんの救いになるのではないでしょうか。
時間を産むことができれば、イライラすることも腹を立てることも減るし、選挙に行く時間も、物事にはまる時間も、友人や同僚と出かける時間も、家族と十分に話す時間も、教養・勉強にかける時間も、スポーツにかける時間もできる。もっと愛される人柄になれる!……かもしれない。次回、2022年の調査結果では、イメージが上がる項目で1位が増えているよう、私自身も「40代おじさん」として、自覚ある行動をとることをここに誓います。
「生活定点」調査
首都圏・阪神圏 20~69歳 男女 2597人(2020年) 訪問留置法
1992年から偶数年5月に実施(2020年のみ6月~7月)
[日経クロストレンド 2020年12月22日付の記事を転載]
1981年の設立以来、生活者をウオッチし続けてきた博報堂生活総合研究所。約1400項目もの質問を聴取し、回答の変化を時系列比較した「生活定点」調査を92年から継続しています。このデータなどを基に、同研究所の40代の研究員が、40代男性の意識や行動、価値観などの変化について徹底分析。実は、コロナ禍で大きな変化を遂げている実態が見えてきました。年齢を10歳刻みで分けて人口を見ると、最多層でもある40代おじさんの生態が今、明らかになります!
前沢裕文(著)/日経BP/1980円(税込み)