43.24――。この残酷な数字は、博報堂生活総合研究所の2020年調査が突きつけた、「おじさん年齢」の分水嶺だ。40代おじさんの特徴を探ったところ、出るわ出るわ、残念な特徴が次々に浮き彫りに。今回と次回は、44歳の上席研究員が、自らに突きつけられた悲しい結果の数々を、涙を交えながらリポートする。[日経クロストレンド 2020年12月22日付の記事を転載。本記事を収録した新刊 『-30年調査でみる-哀しくも愛おしい「40代おじさん」のリアル』 が12月15日に発売]
「世の中的には、43歳からがおじさん」
のっけから自分の話で大変恐縮ですが、筆者は現在会社生活21年目の44歳。自分のことを若いだなんて言い張りはしないけれど、他人からおじさん呼ばわりされればイラッとして不機嫌になる、そんなお年ごろ。しかし、自分がどう思おうと、世の中的には私はもうおじさん。それは、例えのバリエーションが1980年代の『少年ジャンプ』漫画ばかりな我が身を省みるまでもなく、調査ではっきりと示されています。
「おじさん」とは、何歳くらいからを指すと思いますか。
43.24歳
博報堂生活総合研究所の長期時系列調査「生活定点」の2020年調査では、平均で43.24歳からがおじさんという結果が出ています。私、おじさんデビューしてました……(ちなみに、おばさんは平均43.12歳から)。
では、いつになったらおじさんを卒業するのでしょうか。「『お年寄り』とは、何歳くらいからをさすと思いますか?」という質問への回答は、平均68.66歳。つまり、43歳から69歳まで、およそ四半世紀の間を、男性はおじさんとして生きるということになります。
しかし、そもそもおじさんっぽさって何でしょう? 周りから「あいつおじさんになったな」と思われる理由はどこにあるのでしょう? おじさん認定される“印”を知るべく、生活定点でおじさんの入り口である「40代男性」の調査結果を追っていくと、予想以上にパンチの効いた、「7つの特徴」が並ぶこととなりました。
「40代おじさん」7つの特徴
許さない、闘わない、燃えない、連(つる)まない、直さない、人情派、庶民派
生活定点2020の調査は20年6月末から7月末にかけて実施しており、コロナ禍の影響が強く表れています。コロナの影響もあるとはいえ(ひとまず自分のことは全力で棚上げするとして)こんな人ちょっと好きになれない……。 こんな私たち「40代おじさん」が良い印象を持たれるにはどうすればいいのでしょうか。
ここからは、生活定点2020の調査結果を紹介しながら、40代おじさんの末端構成員として、調査結果改善のためのヒントを探ってみたいと思います。
コロナ禍で幸福度が上がった層、下がった層
40代おじさんに話を絞る前に、各性年代別のコロナ禍前後における幸福度の変化を押さえておきましょう。下記は、「あなたは幸せですか?」という質問に「幸せだと思う」と回答した人の割合を18年と20年で比べた結果です。
日本人の幸福度は全体平均では74.6%で、前回18年調査(76.3%)からー1.7ポイントだったのですが、性年代別に見ると数値の変化にかなりの差が出ていることが分かります。幸福度が最も上がったのは、前回は幸福度最下位だった60代男性で+7.8ポイント、最も下がったのは40代女性でー6.7ポイントでした(それだけ差が縮まってもまだ40代女性の方が60代男性より幸福度が高いのですが)。
そして、40代おじさん。前回から+3.2ポイントと幸福度が上がりました! しかも、ハナ差で20代男性をかわし、男性中で1位に。つまり、私たち40代おじさんは、「今の日本で最も幸せな男たち」なのです。その割に先ほど挙げた特徴には、ネガティブなものが目立ちました。一体どういうことなのか? まずは、特徴を一つひとつ詳しく追っていきます。
先ほどから“40代おじさん”と書いていますが、おじさんは43歳からなので正確には40~42歳はおじさんに入りません。また、一言で40代と言っても、一般的に1971~74年生まれとされる「団塊ジュニア」と、75~81年生まれとされる「ポスト団塊ジュニア」がいるわけで、ひとくくりにして語るのは乱暴な面もあるでしょう。
しかし、ここでは広く40代男性=おじさん前期(50代=中期、60代=後期)と捉えたうえで、コロナ禍による影響も踏まえた「40代おじさんの今」に焦点を当て、他の層との意識の違いを探りたいと思います。40代おじさんの調査結果=40代男性の調査結果であることをご了承ください。また、特徴をつかみやすくするため、約1400項目の調査結果の中から全性年代中・男性中で1位あるいは最下位となった象徴的なデータを中心に紹介します。
他人に厳しく自分に甘い?
それでは、最新の調査結果とともに、40代おじさんの赤裸々な実態を見ていきましょう。
① 40代おじさんは「許さない」
-
約束の時間を過ぎて友人を待っている時間にイライラする
84.3%(1位) 全体:77.7% -
電車が来るのを待っている時間にイライラする
72.8%(1位) 全体:68.0% -
結婚式などでスピーチを聞いている時間にイライラする
63.1%(1位) 全体:54.3% -
スーパーのレジで並んで待っている時間にイライラする
76.1%(1位) 全体:70.2%
この「イライラ時間」についての回答は、全性年代中で1位の数値。イライラ部門4冠達成です。全体平均の数値は4問すべてにおいて98年の聴取開始以来最低値で、1998~2002年をピークに右肩下がりとなっており、社会全体としては年々イライラしない方へと向かっているのですが……。
似た調査項目でも「身の回りで嫌なことや腹の立つことが多い」と回答した人の割合が42.0%に上り、こちらも男性中で1位。常に何かに憤っているのが、40代おじさんなのです。
-
公共のマナーに気をつけた生活をしている
69.2%(9位) 全体:76.9%
一方で、30代男性(68.0%)をわずかに上回ったものの、公共マナーへの配慮は9位でワースト2。自分はマナーに気を配らないくせに、他人のすることは許せずにイライラする。他人に厳しく自分に甘い身勝手さをさらしてしまう結果となりました……。
-
人は叱った方が成長すると思う
17.5%(1位) 全体:10.9%
そんな40代おじさんが「人は叱った方が成長する」と思っているのだからたまりません。叱られた側から「叱ってるんじゃなくてたまったイライラをぶつけてるだけでしょ?」と思われているケースも多そうな気が。ちなみに、全体平均10.9%は98年の聴取開始以来最低値。褒めて伸ばすは完全に時代の主流になっています。
② 40代おじさんは「闘わない」
-
日本の政治・経済に関心がある
69.2%(2位) 全体:54.4% -
日本は悪い方向に向かっている
58.3%(男性1位) 全体:56.1% -
日本は子育てしづらい国だと思う
35.3%(男性1位) 全体:36.9% -
選挙には必ず行くべきだと思う
59.5%(5位) 全体:60.0%
日本の政治・経済に関心があり、日本は悪い方向に向かっていて、かつ子育てもしづらい国だと思っているなら、「選挙には必ず行くべきだと思う」という回答の割合がもっと伸びていてもおかしくないはず。例えば、「政治・経済への関心がある」が34.2%と最も低い20代女性も、「選挙には行くべきだと思う」と51.5%が回答しており、他の層も多くは、政治・経済に関心はないけど選挙には行くべきだと考えています。40代おじさんは、不満があっても拳は振り上げないタイプのようです。
- 会社に対する忠誠心があると思う
36.0%(1位) 全体:28.6%
会社に対しても、他の層と比べると事なかれの姿勢が強く、「会社に対する忠誠心があると思う」と回答した人の割合は前回18年調査(26.0%)からなんと+10.0ポイントの36.0%に伸び、全性年代中1位に躍り出ました。
他の男性層について18年からの忠誠心の変化をみると、20代:ー3.9ポイント、30代:ー4.8ポイント、50代:ー7.5ポイント、60代:+6.2ポイントと、幸福度と同じく40代と60代で上昇、他の年代で下降とコロナ前後でスタンスの変化がはっきり分かれました。コロナ前は会社上等で忠誠心を見せなかった40代おじさんですが、先行きが不安なこともあってか、会社とは闘わない方針へ切り替えつつあります。
③ 40代おじさんは「燃えない」
-
精神的に疲れを感じていることが多い
44.1%(男性1位) 全体:39.1% -
ストレスを感じる
76.7%(男性1位) 全体:72.0%
イライラして腹を立てる毎日ですから、当然精神的に疲れますし、ストレスも感じます。特に、「ストレスを感じる」は、男性平均(67.6%)を+9.1ポイントと大きく上回っていて、ストレスのたまっている40代おじさんがかなり多いと言えます。では、どのようにストレスを発散しているのでしょうか?
-
1年を通して、楽しんでいる趣味がある
51.1%(男性最下位タイ) 全体:51.3% -
大好きで熱中していることや、はまっている物事がある
22.4%(最下位) 全体:27.4% -
1年以内に、忘年会をした
58.6%(1位) 全体:49.9%
ちょっとした気分転換や「これがあるから頑張れる!」というような、ストレス発散やモチベーション向上につながる“燃えるもの”が乏しそうです。
今のところは忘年会が心の支えで、「1年以内に、忘年会をした」と回答した人の割合は、全性年代中1位。しかし、忘年会自体はダウントレンドで、92年の第1回調査で67.5%と最高値となって以降は緩やかに減少が続いており、前回18年調査から全体平均でー6.5ポイント、40代でもー8.7ポイントと急減の傾向が見られます。ああ、私たちのストレスのはけ口がなくなってしまう……。
④ 40代おじさんは「連(つる)まない」
-
仕事が終わると、友人や同僚と出かけて楽しむことが多い
9.5%(男性最下位) 全体:12.0% -
信頼できる友人に満足している
29.9%(9位) 全体:47.7% -
同性の友人がいない
9.7%(1位) 全体:4.9%
忘年会には積極的な40代おじさんも、普段の付き合いは控えめです。仕事後に友人と出かけることはしませんし、だから信頼できる友人もできづらいですし、というかそもそも友人がいません。
40代は子育てに忙しい年代でもありますし、友人、会社付き合いよりも奥さん、お子さんとの時間を大切にする人が多いのでしょう。というフォローは効かないようで、家族関係も良好に保てているわけでもないようです。
-
家族の十分な話し合いに満足している
33.2%(男性最下位) 全体:39.2%
「家族の十分な話し合いに満足している」と回答した人の割合は男性中最下位で、全性年代中でも最下位の50代女性(31.0%)に次ぐワースト2でした。全体平均は前回18年調査から+4.6ポイントと満足度が高まっており、コロナ禍で一緒に過ごす時間が増え、コミュニケーションが密になったことがプラスに働いているようです。リモートワークの機会も増えるであろうこれから、会社で連まないのはいいとしても、家庭内での孤立は避けたいところですね。
⑤ 40代おじさんは「直さない」
-
自分の学識・経験に満足している
4.5%(最下位) 全体:7.4% -
英語をまったくしゃべれない
47.1%(男性最下位) 全体:39.7% -
自分は太っていると思う
61.6%(1位タイ) 全体:54.1%
40代おじさんの自己認識は学識がなく、太っている。なかなかのコンプレックスを抱えています。「自分の学識・経験に満足している」と胸を張って答えられる人自体そもそも絶対数として多くはないですが、全性年代中で最下位の数値。問題は、それを改善する気がない点です。
-
自分のための教養・勉強にお金をかけている
6.0%(最下位タイ) 全体:9.4% -
スポーツ情報に関心がある
50.2%(1位) 全体:33.2% -
スポーツにかける時間を増やしたい
26.9%(男性最下位) 全体:25.1%
学識・経験不足の自覚があっても、教養・勉強にお金はかけないし、チェックするのはスポーツ情報ばかり。風呂上がりに鏡に映る情けない体を目にしても「スポーツにかける時間を増やしたい」とは思っていないのが現状です。
ああ、好きになれる要素が何一つ見出だせない、かわいそうな40代おじさん。でも実は、いいところだってあるんです。後編では40代おじさんが喜ぶ、うれしい調査結果などをお見せしようと思います。
(後編に続く)
「生活定点」調査
首都圏・阪神圏 20~69歳 男女 2597人(2020年) 訪問留置法
1992年から偶数年5月に実施(2020年のみ6月~7月)
[日経クロストレンド 2020年12月22日付の記事を転載]
1981年の設立以来、生活者をウオッチし続けてきた博報堂生活総合研究所。約1400項目もの質問を聴取し、回答の変化を時系列比較した「生活定点」調査を92年から継続しています。このデータなどを基に、同研究所の40代の研究員が、40代男性の意識や行動、価値観などの変化について徹底分析。実は、コロナ禍で大きな変化を遂げている実態が見えてきました。年齢を10歳刻みで分けて人口を見ると、最多層でもある40代おじさんの生態が今、明らかになります!
前沢裕文(著)/日経BP/1980円(税込み)