「AI(人工知能)で業務を効率化だ!」「メタバースで新サービスを立ち上げよう!」「コンサルに依頼したのに生産ラインがぐちゃぐちゃだ!」――いまだに、こんなことは起きていませんか? 組織や個人にとって有用な技術を理解し、そして活用するために、知っておきたい知識をまとめました。第1回のテーマは、大学受験をひかえる子どもから「情報Ⅰって何を勉強すればいいの?」と聞かれた場合の対策。

大学入学共通テストの科目が増えた

 「情報Ⅰ」が大学入学共通テストの科目になりました。受験生を抱えておられるご家庭は大変だと思います。大学のほうも、高校生に大きなインパクトを与えるようなルール変更は2年前に予告するなどの施策は行っていますが、そうは言っても制度の変わり目って過去問もないし、難易度も不明だし、不安が尽きないことと思います。ほんとに大変です。

 高校での情報の授業は、いま振り返ればけっこうな歴史を積み重ねてきました。普通科では2003年に導入され、情報A、B、Cのうち必ずどれかを選んで履修する形でした。

 なのですが、それはあくまで「形」であって、実態としては上手に運用できた高校は決して多くなかったのではないかと思います。教えられる先生がいないとか、では先生を雇うぞと決めても2単位科目1コマのために常勤の先生を雇えるのか? とか、実機を使った実習で理解を促そうとしても実機がないとか、問題は山積みでした。

 実際、情報専任の先生は少数派で、半数以上は他教科との兼務、その他にも免許外教科担任の先生で授業をしのいでいました。

 その結果、情報の授業は「なんとなくアプリなどを操作してお茶を濁す時間」として定着してしまった学校もあったようです。情報Aは情報活用の実践力、情報Bは情報の科学的な理解、情報Cは情報社会への参加が特徴でしたが、8割ほどの高校が情報Aを選びました。

 情報Aは実践の科目なので、まあExcelでもやっておけば、と解釈した学校もありましたし、情報を教えていればまだいいほうで、大学受験に必要な科目に振り替えていた学校も多かったと言われています。

大人気だった情報Aが消える

 この状況は決していいものとは言えないので、2013年にてこ入れが入ります。情報Bの後継としての「情報の科学」、情報Cの後継としての「社会と情報」に再編されました。開講数としては大人気だった実践重視の情報Aは、「情報の科学」、「社会と情報」の両方に情報活用能力の重視という形で取り入れられました。

 確かに活用能力は大事です。小学校、中学校、高等学校と接続する体系的な活用能力の育成プログラムも模索されていました。ですので、どちらを選んでも活用能力が入ってくるのはカリキュラムとして非常に正しいと考えられますが、その裏面にはネットサーフやアプリ実習に終始しない授業を促す意思があったと思います。

 これでバランスの良い情報の学習体系が出来上がるかと思いきや、高校の開講状況を見ると「情報の科学」2割未満、「社会と情報」8割強ほどに落ち着きます。ちょうど世の中をあげて、これからは理系の時代だ、いやいや文理を分ける発想がすでに時代遅れだ、STEM(科学、技術、工学、数学)教育がグローバルスタンダードだ、プログラミング的思考が日本を救うとか、いろいろぶち上げていたころです。

論理的思考もプログラミングも人気がなかった

 なのに、ふたを開けてみると、論理的思考やプログラミングは人気がなく(開講する教員にも、受講する生徒さんにも)、ぶっちゃけ文系的で定期試験の難易度が低い「社会と情報」に人が集まったわけです。そういえば、情報A、B、Cの頃も最も理系っぽい情報Bが一番人気のない科目でした。

 こりゃ放っておくと、みんな論理的思考とプログラミングから逃げてばっかりだぞ、文理融合とか夢のまた夢だぞ、ということで次の荒療治が今回の改訂です。

 この間、小学校でプログラミング教育必修化(2020年)などいろいろ行われているのですが、やっぱりみんながみんな「プログラミング」をしているわけではありません。必修化すれば逃げ道がなくなると思うじゃないですか。でも現場には多くの抜け道技法があります。

 そもそも、「小学生だってプログラムは書けるよ」とか言い出すのはすごくよくできる学校の先生だったりするので、「えっ、うちの学校ではまったく無理だよ!」という現場が、抜け道を考えてしまうのは仕方がないと思うんです。

20年の時を経て受験科目に

 さはさりながら、制度が形骸化し、理念が骨抜きになったままでは進歩がありませんから、制度運用側は次の手を考えます。今回は「大学の受験科目にする」という切り札を切ってきました。これは進学を考える生徒さんに対しては一番効くやつです。

 皆さん、青春の貴重な何年間かを投入して大学受験に挑むので、少しでも良い結果を出そうとしますし、となると進学実績をアピールしたい高校側も重い腰を上げて本気で取り組みます。それが良いことか悪いことかはともかくとして、必ずそうなります。最初の取り組みから20年以上を経て、「重たい科目」としての「情報」が出現したと思います。

 もちろん、過去と同様に今回の改訂(2022年)でも科目の改組が行われています。今回はシンプルに必履修科目としての情報Ⅰ、選択科目としての情報Ⅱになりました。今まで分かれていた文系的な「社会と情報」と、理系的な「情報の科学」は統合されて情報Ⅰになり、高校生はプログラミングやプロトコルなどの勉強から逃げられなくなりました。

 また、開講している学校は少ないですが、情報Ⅱはガチの情報技術で、大学の授業やビジネスの実践へのとても良い導入になっていると思います。

情報処理試験で見たような

 この経緯を踏まえると、情報Ⅰがとても広いスコープを持つ科目であることを理解していただけると思います。もともとは、情報A、B、Cの3科目、整理されて以降も「情報の科学」、「社会と情報」の2科目であった内容を統合しているので、教科書を開くと素晴らしい多様性、悪く言えばごった煮の内容が目に飛び込んで来ます。

 いわゆるコンピュータのお勉強、例えば情報理論やハードウェアがどうだ、プロトコルがこうだ、セキュリティもなんとかしろといった目次立て以外にも、コミュニケーションや知財、情報倫理、シミュレーション、グラフの描き方、プレゼンテーションの仕方といった社会人基礎力的な要素まで含まれています。

 もし保護者の方が国家資格であるITパスポート試験を受けたことがあるなら、そこから経営戦略、プロジェクトマネジメントあたりを削ってやさしくしたようなものだと考えるとイメージしやすいでしょう。

 マスターしておけば将来にわたって役立つ内容なのは間違いありませんが、正直なところきちんと体系化されているというよりは、いいものをあれもこれも放り込んだ印象があります。

 今回の制度変更で、特に国立受験組は共通テストで情報Ⅰを受験することからほぼ逃げられず、従来は5教科7科目でしたが、6教科8科目を解答せねばならなくなりました。日本史苦手だから政治経済で、数Ⅱとってなかったから情報関係基礎で、といった逃げ道がありません。

大学入学共通テストは6教科8科目になった(写真:琢也 栂/stock.adobe.com)
大学入学共通テストは6教科8科目になった(写真:琢也 栂/stock.adobe.com)
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正しく恐れましょう

 もちろん、「ちゃんと情報と向き合ってください」が趣旨なのでショートカットがあってはいけないのですが、1年生のときに2単位しか学ばない科目、それもごった煮的な内容で100点の試験を戦う(配点はかなり圧縮する学校もあります)のは酷だなと思います。

 それだけに、試験対策は効率的に行いたいところです。情報、好きになってほしいですし、勉強もしてほしいので、「効率的にやりましょう」といった物言いは、ほんとは寂しいのですが、受験生のことを考えるとそうも言えません。その続きを進学後に時間をかけて学んでいただければと思います。

 文部科学省から公表されているサンプル問題を見ると、かなり技術技術したものが出題されています。SNS(交流サイト)とかフィルターバブルとか、用語さえ覚えておけば一発! といった出題ではなく、アルゴリズムを追わせたり、データを分析・表現させたり、サイエンス要素が強くなっています。

 試しに解いてみた受験生のなかには、焦燥感を覚えた人もいるかもしれません。しかし、一般論としてサンプル問題は難しく、初年度の問題はそこから易化する傾向にあります。楽観は禁物ですが、正しく恐れて対策しましょう。

 出題はそんなにバラけないと思います。情報Ⅰの教科書はまだ模索段階で、「多くの教科書に載ってる用語」を数えていくと200以下に収まってしまいます。出題者は、「1、2冊の教科書にしか載っていない用語」などは出題しにくいものなので、教科書や市販の問題集、用語集で十分に対策できると考えます。