臨床心理士の中島美鈴さんによる新刊『 会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動 』から、仕事の不安と向き合う時のテクニックを伝えます。連載第4回。

逃げるほど「不安」が強くなっていく

ケース
 30代会社員のナナさん。明日のプレゼンがうまくいかない気がして、不安でたまらない。こういう時、プレゼンの準備を念入りにすればいいんだろうけど、ずっとスマホを見て現実逃避してしまう。そして寝不足になってしまう。

 前回は、仕事への不安から現実逃避してしまい、却って悪い状態におちいってしまうナナさんのケースをみてきました。今回は認知行動療法をもとに、不安にどう対峙し、感情と向き合い、行動を変えていくかお伝えします。

 不安への治療方針としては、実は、「不安の対象を明確にして、対峙して無事であることを体感していく」ことが最も効果的です。これを専門的には「曝露(ばくろ)」といいます。

 現在のナナさんは、頭の中で明日のことを考えないようにしていますね。これが「回避」で、結果的に不安を増やしていました。回避を曝露に変えていけば、徐々に不安が減っていきます。ナナさんのケースでは、プレゼン前夜にスマホを見て現実逃避するのではなく、準備をした方が不安が消えるのです。

仕事の不安は、現実逃避するのではなく、向き合ったほうが解消される(写真:Paylessimages/stock.adobe.com)
仕事の不安は、現実逃避するのではなく、向き合ったほうが解消される(写真:Paylessimages/stock.adobe.com)

 しかし、やりたくてもできないから困っているわけです。

 ナナさんは新卒から30代になるまでこの職場で働いてきましたが、今の上司に限らずいろんな上司から、作成した資料やその発言などから、仕事の要点のつかめなさを指摘されてきました。20代までは「天然」と言われてまだ大目に見てもらえたのですが、30代になると、諦めモードとともに冷ややかな目線も感じるようになりました。

 ナナさんが向き合うべきは、この「要領の悪い自分」なのかもしれません。ここから目を逸らしている限り、根本的な対策がとれません。

 しかしナナさんは不安な気持ちから指摘を受け止め、改善できずにここまできてしまいました。どこかでは、自分の欠点を自覚できているからこそ、明日が怖いのです。今からでも遅くありません。ナナさんは具体的にどうしたらいいのでしょう。三つの方法をご紹介します。

テクニック1 心配する時間をあえて作る

 心配性の人に「心配するのはやめて、明日のプレゼンの準備をしましょう」と言っても、心配はとまりません。この場合、心配しないようにするのは逆効果です。

 反対に、ちゃんと心配するための時間を作ることが不安をなくすことには効果的です。

 例えばナナさんの場合であれば、20時から1時間プレゼンの準備をして、「21時からは徹底的に心配する時間を作る」と決めておきます。21時がきたら10分間だけ徹底的に心配します。時間になったら、「今から心配しよう。明日、上司がこう言ってきそう。ああ言ってきそう」と想像を巡らせます。

 「仕事に集中する時間」と「心配する時間」を作ることによってメリハリが生まれて、生産性を上げられるようになるのです。

テクニック2 最悪なシナリオ、最善のシナリオ、現実的なシナリオ

 不安という感情には、前述の通り、この先どうなるかわからない「未来への恐怖」があります。ここではどんな未来を想定して恐れているのかを具体的にイメージしてみます。

 最悪なシナリオではどうなるでしょうか。プレゼンがひどすぎて、上司に叱られて、最終的には解雇されて、無職になってしまう……。最善のシナリオはどうでしょうか。上司をはじめとする会議の参加者全員が褒め称え、評価が上がる。

 ポイントは、なるべく大袈裟で、あり得ないようなシナリオを想像することです。すると、冷静になって、「さすがに最善と最悪は起こるわけない、現実的にはこのぐらいでしょう」と自分の心配を補正するような、現実的なシナリオを描くことができるのです。

 また、「別に明日のプレゼンがひどくても解雇はされないし、人生は終わらない」と認識できると、少し不安が減るという効果も期待できます。

 ナナさんは「私の実力だと、上司からの批判がゼロということはないだろう。ただ、その批判も、今後のために聞いておこう」と思うことができました。最悪なシナリオと最善のシナリオを考えることで、現実を冷静に受け止めることができました。

テクニック3 ひらきなおる

 ナナさんに必要なのは、等身大の自分を認めることです。

 臨床心理士としていろいろな方をカウンセリングしていますが、「できない自分」「愛されない自分」「だらしない自分」「さぼろうとする自分」「自信がない自分」をそのまま見つめることから、人はあらゆる手段を使って逃げようとするものです。

 嘘をついたり、体を壊してみたり、強がってみたり、攻撃してみたり……自分をそのまま見つめるというのは、かなりハードルの高いことなのです。

 例えば、初めてフルマラソンにチャレンジする人が、自分の現在の体力を正確に知らないまま、いきなり42.195キロ走るのは無謀ですよね。「今の自分は1キロ走るだけで胸が痛くなってしまう。まずはウォーキングから始めよう」。そんなふうに現実的に捉えるところから初めの一歩が始まります。

 しかし私たちは目に見えない心の問題、特に仕事が絡むと、自分の現在地を見誤って、「到達すべきはここだ」と自分に活を入れて、到達できないと自分とのギャップに苦しむのです。

 これは私も使う技なのですが、「プレゼンの前に不安になるもなにも、明日はどうがんばっても自分の実力以上は出せないよ。スーパーマンになろうとしているの?」と自分につっこみます。等身大の力しか出せないよね、とひらきなおることで、不安が減って準備に向かえるのです。

 ナナさんは翌日の会議で、やはりプレゼン資料の内容について、上司から指摘を受けました。しかしこれまでとは受け止め方が違ったようです。自分が何を間違えていたか、どのように改善したらいいかについて上司に質問しました。これまでなら「すみません」と謝ったきりでしたから、大きな変化です。

 次のプレゼンでは、前より準備して臨むことができました。まだまだ出来はよくないので、批判はされることもあります。ただ、やみくもに心配するのではなく、心配する時間を作るなどして不安を受け止め、次回の準備をするようになりました。

会社がつらい、でも簡単には辞められないという方へ。臨床心理士の中島美鈴さんが、行政や企業で行ってきた研修やカウンセリングをもとに、具体的な職場の悩みを扱いながら、認知行動療法の手法を用いて自分で解決・改善できる方法を伝えます。

中島美鈴著、日経BP、1760円(税込み)

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