会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動 』の著者で臨床心理士の中島美鈴さんが、中年世代が悩む部下とのコミュニケーションについて解説します。

パワハラにならずに注意する方法

 前回はミドル世代の悩みとして、「中年の危機」を取り上げました。今回はこの世代に多い悩みである「部下とのコミュニケーション」について、認知行動療法の視点から解説します。

 中間管理職になると、部下のマネジメントが仕事になってきます。「分からないことは何でも聞いてね」と言っているのに独断で進めてしまったり、「今、ちょっといいですか?」と逐一確認したり、部下のタイプもさまざまでしょう。強い口調で指導すると「パワハラ」になりかねず、どう伝えればいいのか悩ましいですよね。

 まず、部下とのコミュニケーションにおいては「何が問題になっているか」を整理しましょう。認知行動療法では「アセスメント(客観的に評価・判断すること)」と言います。

 例えば、先日、私がカウンセリングした40代の中間管理職は「部下があまり仕事をしなくて困っている。感情的で、周囲が注意すると逆ギレする」と悩んでいました。

 確かに困った事態ですが、この説明では「どのように仕事ができていないのか」が明確ではありません。詳しく聞いてみると「期日までに仕上げなくてはいけない仕事が遅れる」「出社が始業時間の30秒前で遅刻寸前。仕事のスタートが遅い」「間違いを指摘するとキレる」「キレると厄介だから、遅れている仕事を周囲がフォローするが、感謝の言葉がない」「どの項目も就業規則を大きく逸脱していないため、注意しづらい。周囲のほうが疲弊している」という状況でした。

部下の仕事のやり方を注意しようと思っても、パワハラになるのではないかと悩んでしまう(写真:naka/stock.adobe.com)
部下の仕事のやり方を注意しようと思っても、パワハラになるのではないかと悩んでしまう(写真:naka/stock.adobe.com)

 問題点が整理できたところで、私がアドバイスしたのは「分かりやすい証拠を記録に残すこと」でした。部下の問題点のうち注意しやすいのは「仕事の納期を守る」と「遅刻をしない」です。まず、この2点について「3カ月以内に必ず改善してください」と「改善点」と「期日」をしっかり伝えます。

 そうすれば、もし3カ月後に改善が見られなかった際に「この状態ではさらに指導が必要になるし、減給などの処分もあり得る」と感情論抜きで伝えることができます。

認知を3つのプロセスで捉える

 ただ、このとき一方的に「仕事の納期を守るように」と伝えるのではなく、「なぜ、部下の仕事が遅れるのか」も考える必要があります。

 「納期に間に合うように」という指示を受けた部下の思考の流れを、認知行動療法の「情報処理モデル」で見てみましょう。「情報処理モデル」は人の認知を「情報の入力→処理→出力」という3つのプロセスで捉えるものです。今回の場合で説明してみます。

入力:上司から「納期に間に合わせるように」という指示があった。しかし、指示内容がよく分からなかった。

処理:自分では間に合うと思って普段通りに進めた。途中で疑問点が出てきたが、「分かりました」と言った手前、上司や周囲に確認できなかった。

出力:上司に確認するタイミングがつかめないまま納期が来てしまった。

 といった流れが考えられます。

 「入力」「処理」「出力」のどの段階で問題が起きているのか、上司はある程度の仮説を立て、部下にヒアリングをしましょう。このとき、「何で確認しなかったの?」と言うと、部下は責められているように感じます。情報処理モデルの枠組みを示し、「どこでつまずいたんだろう?」と聞けば、本人の資質や人間性を指摘することなく、感情的なやり取りを抜きにした話し合いができます。

タスクを完了させる4ステップ

 また、実際に仕事を間に合わせるには時間管理が重要です。時間管理には脳の「実行機能」と呼ばれる働きが関係しているといわれます。実行機能を時間軸で見るとこうなります。

取りかかり:仕事に着手するためにモチベーションを上げる。書類や資料など、必要なものを準備しておく。

計画立て:仕事の完成形をイメージし、期限内に終わる方法を考える。仕事を小さなタスクに分解し、複数のタスクが完了するような計画を立てる。

モニタリング:計画の進捗を確認する。計画よりも遅れている場合はやり方を変えたり、納期の延期を相談したりする。

脱線防止:タスク以外のことに気を取られず、集中する。

 以上の4つのステップがあります。「自分もこの段階が苦手だな……」と、ドキッとした中間管理職の方もいるかもしれませんね。そう、業務完了は4つのステップのうち何か1つでも欠けると間に合わない、高度で複雑なものなのです。

 部下との面談では、どのステップが苦手かを確認し、計画立てが苦手なら長期の計画と直近でするべきことが見えるガントチャートを使う、脱線しがちならタイマーを設定して仕事に集中する、といった具体的な対策を取りましょう。

ガントチャートとは、1カ月など比較的長い期間を一目で見渡せる計画表のこと。長期的なスケジュールと直近でこなすto doリストを組み合わせれば、締め切りに遅れたり、業務を忘れたりすることが防げる(図は書籍より抜粋)
ガントチャートとは、1カ月など比較的長い期間を一目で見渡せる計画表のこと。長期的なスケジュールと直近でこなすto doリストを組み合わせれば、締め切りに遅れたり、業務を忘れたりすることが防げる(図は書籍より抜粋)

目指すのは「防御力ゼロ」の上司

 新型コロナウイルス禍以降、面談や1on1を取り入れる職場が増えましたが、「何を話していいのか分からない」と悩んでいる中間管理職が多いと思います。そうしたときにも情報処理モデルや実行機能の観点から「何を仕事としてやってほしいのか」「どこまでできているのか」「何ができていないのか」を数値化、言語化するのがお勧めです。

 そして、部下にしてみれば1on1で「さあ、話そう!」と言われても、なかなか話し出せないもの。業務を円滑にするには、普段からのコミュニケーションが大事です。

 私自身は相談者との心理的な距離を縮めるため、自分から「休みの日に○○へ出かけた」「美容医療に行ってみた」と話しているので、みなさん、わりと何でも話してくれます(笑)。悲しいかな、40代以上になると表情筋が下がり、黙っていると不機嫌に見え、威圧感を与えてしまいます。だから「ナメられてナンボ」だと思い、あえて自分のドジな話もしようと思っています。意識的に「防御力ゼロ」な自分を見せることもおすすめです。

 真面目な人ほど、「ちゃんとした上司にならなければ」と身構えてしまいがちですが、「時には防御力ゼロでもいい」と肩の力を抜いていたほうが、部下も心を開きやすいかもしれません。

取材・文/三浦香代子 構成/日経BOOKプラス 木村やえ

会社がつらい、でも簡単には辞められないという方へ。臨床心理士の中島美鈴さんが、行政や企業で行ってきた研修やカウンセリングをもとに、具体的な職場の悩みを扱いながら、認知行動療法の手法を用いて自分で解決・改善できる方法を伝えます。

中島美鈴著、日経BP、1760円(税込み)