政治・経済、歴史、地理、国語など高校までに学んできた科目と経済学はどのように関連しているのか。「経済学の書棚」第44回前編は、大学教員と高校教員が協力して執筆した『やっぱり経済学はおもしろい!』、日本の政策課題や経済学の考え方を初心者にも分かりやすく解説した『新・教養としての経済学』、経済の仕組みや経済・社会問題を整理し、大学で学ぶ経済学への架け橋を目指す『ゼロからはじめる経済入門』などを紹介する。

高校までに学んできた科目と経済学はどのように関連しているのか、経済学とはそもそもどんな学問なのか。「経済学の書棚」第44回前編では、経済学に初めて接する人を読者として想定し、大学の経済学部が編集した本を紹介する
高校までに学んできた科目と経済学はどのように関連しているのか、経済学とはそもそもどんな学問なのか。「経済学の書棚」第44回前編では、経済学に初めて接する人を読者として想定し、大学の経済学部が編集した本を紹介する
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大学と高校の教員が協力して執筆

 多くの人にとって、経済学を初めて学ぶ場は大学であろう。高校までに学んできた科目と経済学はどのように関連しているのか、経済学とはそもそもどんな学問なのか。前編では、経済学に初めて接する人を読者として想定し、大学の経済学部が編集した本を紹介する。

 中央大学経済学部編『 やっぱり経済学はおもしろい! 高校の勉強ってどう役立つの? 』(中央大学出版部/2023年7月刊)は、副題の通り、高校生に経済学の魅力を知ってもらい、経済学部への進学を勧めるための入門書だ。

『やっぱり経済学はおもしろい! 高校の勉強ってどう役立つの?』(中央大学経済学部編/中央大学出版部/2023年7月刊)。高校生に経済学の魅力を知ってもらい、経済学部への進学を勧めるための入門書。画像クリックでAmazonページへ
『やっぱり経済学はおもしろい! 高校の勉強ってどう役立つの?』(中央大学経済学部編/中央大学出版部/2023年7月刊)。高校生に経済学の魅力を知ってもらい、経済学部への進学を勧めるための入門書。画像クリックでAmazonページへ

 高校と大学の連携を強化し、中央大学経済学部、中央大学附属中学・高校や中央大学高校などに所属する、32人の教員が協力して執筆した。

 同書の先輩にあたる中央大学経済学部編『 高校生からの経済入門 』(中央大学出版部/2017年8月刊)は、「経済学ってお金のこと?」「数式ばかり出てくる学問?」といった誤解を解き、経済や経済学に興味を持つ高校生を少しでも増やしたいとの意図を込めた本。出版から数年がたち、第2弾を作る企画が浮上したが、第2版とはせず、まったく新しいコンセプトで本を作ることにした。その試みが大学と高校教員の協力である。

 編集にあたり、いくつかの仕掛けを施した。その一つは、日常生活と経済学がつながるトピックをそろえたこと。経済学は、日常生活と密接につながっており、しかも日常生活の諸問題を普通の人とは違った角度から捉えることを可能にする。経済のほぼすべての問題は正解がないか、正解が一つとは限らない。世の中にはいろいろな見方・考え方があり、そうした多様な見方・考え方を尊重しあう方向に社会は動いている。「日常生活の問題を経済学的な視点からみると常識とは違った見方ができることをこの本を通じて実感できたら、経済学が少しおもしろくなってきませんか」と呼び掛けている。

 「経済理論の前提条件や仮定は現実離れしている」「経済学を学んでも役立たない」といった声を意識しているためだろうか、経済学的な視点を「常識とは違った見方」と自己分析する入門書は珍しい。

 地理・歴史・公民、数学その他の高校の教科と経済学がつながるように内容を組み立てた点が、もう一つの仕掛けだ。

 同書の構成を見てみよう。「SNSから企業や経済を考えてみよう」(第1章)、「職場の男女差別はもう終わった?」(第4章)、「香辛料×大航海時代=資本主義?」(第7章)など、高校生の興味を引きそうなテーマを取り上げながら、文中で「機会費用」「ネットワーク効果」「効用」「統計的差別」「情報の非対称性」といった経済学の基礎概念を平易に説明する。

 「経済学で実験?-RCT(ランダム化比較対照実験)」(第5章)で最先端の研究手法、相関と因果関係の違いに触れ、「経済学で微分はどう役立つのか?」(第9章)では、数学を活用する意義を説くなど、現代経済学の中心部に迫る章も設けている。

国語と経済学はどうつながるのか

 各章の最後には、高校で学ぶ科目と経済学のつながりが分かる「教科コラム」を掲載している。「国語を学ぶ意義」と題するコラムには、以下のような一節がある。

 経済学は経済の仕組みを考察する学問ですが、その根底にあるのは人の活動です。【他者解釈と自己表現】の訓練は、経済学でテーマとして取り上げている状況や人間を分析し、考察するために役立つはずです。【対象を解釈・表現してみずからの考えを深め、その考えをもとにさらに対象を解釈する】、この積み重ねという点で国語と経済学は通底しています。文学系に進まなくても、国語をこんなに学ぶ必要があるのです。


 一橋大学経済学部編『 新・教養としての経済学 より良い未来を選択するために 』(有斐閣/2025年11月刊)は、一橋大学経済学部・経済学研究科の教員たちが日本の政策課題や経済学のアプローチを、高校生を含め経済学を学んだことがない読者にもできるだけ分かりやすく解説した書だ。

『新・教養としての経済学 より良い未来を選択するために』(一橋大学経済学部編/有斐閣/2025年11月刊)。一橋大学経済学部・経済学研究科の教員たちが日本の政策課題や経済学のアプローチを、高校生を含め経済学を学んだことがない読者にもできるだけ分かりやすく解説した書。画像クリックでAmazonページへ
『新・教養としての経済学 より良い未来を選択するために』(一橋大学経済学部編/有斐閣/2025年11月刊)。一橋大学経済学部・経済学研究科の教員たちが日本の政策課題や経済学のアプローチを、高校生を含め経済学を学んだことがない読者にもできるだけ分かりやすく解説した書。画像クリックでAmazonページへ

 一橋大学経済学部編『教養としての経済学 生き抜く力を培うために』(有斐閣/2013年2月刊)を全面改訂した。刊行から10年以上が過ぎ、インターネットの普及、所得格差の拡大、高齢化・人口減少など日本を取り巻く経済・社会の環境の大きな変化、経済学の分析手法の変化を取り入れた。

 一橋大学の教員たちは経済学の最先端の研究に取り組み、海外のトップクラスの雑誌から論文を出す研究者であり、確かな学術的な裏付けがあることが同書の特徴だとアピールしている。

経済学の武器はエビデンスとロジック

 序章「経済学を学ぼう」(著者は佐藤主光氏)は総論の位置付けだ。佐藤氏によると、経済学とはエビデンス(証拠)とロジック(理論)に基づいて社会・経済のさまざまな問題を分析して解決に導くための学問。エビデンスとは経験や思い込みに代えてデータの形で数値化され客観性を担保した物事の裏付けを指す。原因と結果を順序立てて説明して全体的に一貫性のある「因果関係」という形で物事を説明するのがロジックである。

 これに続く第Ⅰ部「日本・世界経済の今とこれから」は現状分析のパートだ。医療、創業、働き方、地域活性化、国際貿易などのテーマ別にデータを示しながら解説している。

最先端の研究分野を網羅

 第Ⅱ部以下では、環境経済学、因果推論、行動経済学、開発経済学、ミクロ経済学、ゲーム理論、マクロ経済学、数量経済史などを順に取り上げる。最先端の研究分野や手法を網羅しており、現代経済学のエッセンスをこの一冊でつかめる。通読する時間がない場合には、関心がある分野を拾い読みするのもよい。各章の最後には読書案内のコーナーがあり、各分野の学びを深めたい読者の参考になるだろう。

 第Ⅶ部「経済学を発展させる数学・統計学」では、数学、統計学と経済学との関係や、ビッグデータを活用する因果効果分析の動向などを論じている。

 佐藤氏は「数学を使うことでロジックの客観性が担保される。抽象的であるがゆえに特定の国や時代背景に縛られず、分析の汎用性が幅広い。世の中のことを知りたいという好奇心と問題意識があれば大丈夫。だから経済学を学ぼう」と序章を結んでいる。

 横浜国立大学経済学部テキスト・プロジェクトチーム編『 ゼロからはじめる経済入門〔新版〕 経済学への招待 』(有斐閣/2024年10月刊)は、現代経済の仕組みや、山積する経済・社会問題を整理し、大学で学ぶ経済学への架け橋を目指す書である。

『ゼロからはじめる経済入門〔新版〕 経済学への招待』(横浜国立大学経済学部テキスト・プロジェクトチーム編/有斐閣/2024年10月刊)。現代経済の仕組みや、山積する経済・社会問題を整理し、大学で学ぶ経済学への架け橋を目指す書。画像クリックでAmazonページへ
『ゼロからはじめる経済入門〔新版〕 経済学への招待』(横浜国立大学経済学部テキスト・プロジェクトチーム編/有斐閣/2024年10月刊)。現代経済の仕組みや、山積する経済・社会問題を整理し、大学で学ぶ経済学への架け橋を目指す書。画像クリックでAmazonページへ

 横浜国立大学の教員を中心とするチームが執筆を担当した。経済学を初めて学ぶ大学1年生、高校生、社会人を主な読者として想定している。現代経済の分析に加え、歴史的な考察を重視し、経済史に2つの章を充てた。

「高大接続」に留意して編集

 新しい時代の要請に応え、入門書の作成に当たって2つの点に特に配慮した。1つ目は高大接続(高校と大学の接続)をスムーズにすること。高校の「政治・経済」と大学の経済学の違いはどこにあるのか。以下の点を挙げる。

  • 基本的な用語や経済事象については、高校で扱う内容と大学で扱う内容に大きな違いはない。例えば「外貨準備」という用語は高校でも大学でも登場するが、大学では事象と事象の関係性により多くの注意を払い、関係性が生み出す全体の構造や、その構造の安定性・不安定性といった性質をより深く考察する。
  • 社会科学の問いの解は複数存在する場合が多いが、大学では、どの解が最善かを判断する材料や基準を学ぶ。そうした判断基準も複数ある場合が多く、どの判断基準を重視して選択肢を探すべきか、より深く考える必要がある。
  • 大学では分析方法を深く学んでいく。コンピューターを使う多変数解析や産業連関分析、現代数学を駆使するゲーム理論やメカニズム・デザイン、剰余価値学説などだ。

 2つ目はアクティブ・ラーニングの促進である。各章の最後に「Action!」のコーナーを設け、読者が実際に調べたり、調査に行って学んだりする材料を提示している。巻末の「Final Action!」と題する章では、グループ・ディスカッション、現場調査(フィールドワーク)などの方法をまとめている。

 本論ではまず、「現代経済の仕組み」「世界経済発展の軌跡」「現代日本経済の形成」で経済の構造や歴史を取り扱い、中盤では、企業、国際貿易、金融、労働に関する政策や市場の特徴などを取り上げている。終盤では、「少子高齢化と社会政策」「社会と財政」「環境と経済」といった章で、日本が抱える課題を俎上(そじょう)に載せる。

経済学の2つのパラダイムを紹介

 「経済学」をストレートに扱っているのは、最終章の「経済から経済学へ」である。各章で学習してきた現代経済のさまざまな仕組みを踏まえ、こうした仕組みを理論的に分析する経済学とはどのような学問なのかを概観する。同書では、経済学には大きく2つのパラダイム(科学においてある一定の間、研究者たちに問いの立て方や答え方にモデルを与えるもの)があると指摘し、現在の標準的な経済理論(交換パラダイム)のほかに、生産パラダイムと呼ばれる分野も存在すると強調している。

 交換パラダイムでは、需要と供給によって決まる市場価格、生産パラダイムでは、再生産のために各産業で生産された生産物の交換比率(生産価格)に着目する。前者は現代経済学の基礎理論(ミクロ経済学)、後者はマルクス経済学やポスト・ケインズ派経済学などが該当する。後者に言及する入門書は珍しく、大学の個性が表れているといえそうだ。

 経済学は交換パラダイムに基づいた理論体系として確立しており、この体系を学習することで資本主義経済の構造と動態を理解し、よりよい社会の実現のために何が必要なのかについての手がかりを得ることができる。他方、交換パラダイムに基づかない分析アプローチを採用しているさまざまな潮流が存在している。これらの諸潮流を学習することで、資本主義経済についての理解をさらに深めることができるだろうと説く。

(後編に続く)

写真/スタジオキャスパー