日本が「金利のある世界」となって2年ほどになるが、そもそも金利とは何だろうか。「経済学の書棚」第45回前編では、「金利とは何か」「なぜ動くのか」「自分にどのような影響を及ぼすのか」を体系的に解説する『すぐに使えるビジネス教養 金利』、日本銀行出身の研究者が金利の仕組みを「日銀の視点」で読み解くことの重要性を強調する『一度読んだら絶対に忘れない金利の教科書』を取り上げる。
金利の基礎を分かりやすく解説
超低金利が長く続いてきた日本では、2年ほど前から「金利のある世界」が復活し、ビジネスや日常生活の多くの場面で金利が姿を現すようになった。そもそも金利とは何だろうか。前編では、金利の種類や決まり方、債券・株式投資や住宅ローンへの影響など金利の基礎知識を伝授する書を紹介する。
東京大学名誉教授の井堀利宏監修『 すぐに使えるビジネス教養 金利 』(フォレスト出版/2026年4月刊)は、「金利とは何か」「なぜ動くのか」「自分にどのような影響を及ぼすのか」を体系的に解説する本だ。
「そもそも金利とは何か?」「インフレと金利」「長期金利と短期金利」「金融政策の基本」「株式市場と金利の関係」「住宅ローンの金利には2タイプある」「日本の金利はこれからどうなる?」といった項目を設けている。カラー刷りのイラストや図表が豊富で、巻末の用語解説も役に立つ。
同書によると、長らく日本は、超低金利という特殊な環境にあり、その結果、金利は「考えなくてもよいもの」「気にしても仕方のないもの」として扱われがちだった。2026年現在、状況は大きく変わりつつあり、金利は再び注視すべき対象となり、企業経営、資産形成、家計の意思決定に、現実的な重みをもって影響を与える存在になっている、との認識を示す。
「そもそも金利とは何か?」の項を見てみよう。以下に概略を示す。
金利とは、お金を借りたり預けたりする際に発生する「対価」のこと。金利は、「お金の値段」とも表現される。お金を一定期間借りて使うために支払う料金、あるいは、使うのを我慢して預金することの対価、いわば時間に対するお金の価値を示すものだといえる。
私たちは日常生活のさまざまな場面で、知らず知らずのうちに金利と関わっている。金利は、預ける人と借りる人の間でお金を循環させるための基本的なルールとして機能している。
また、金利は経済全体の動きとも密接に関わっている。景気が良くなれば上昇し、悪化すれば低下する傾向があり、そのため「経済の温度計」とも呼ばれる。
景気が良くなると、企業や個人は設備投資や住宅や自動車の購入などのために資金を借りようとする。その結果、資金需要が高まり、金利は上昇しやすくなる。反対に、景気が冷え込むと資金需要は減り、金利は低下する傾向にある。
金利は、市場における「お金の需給バランス」を反映して動く。ただし、「お金が足りている」「余っている」という状態は、個人の感覚とは異なる。金利に影響するのは、社会全体・経済全体における資金の流れ=マクロの需給状況だ。
日銀はどこまで利上げするのか
また、「日本の金利はこれからどうなる?」の項を要約してみよう。
日本銀行は2024年3月、長年続けてきた大規模な金融緩和路線を転換し、約17年ぶりとなる利上げを実施した。1990年代以降続いてきた「ゼロ金利・デフレの時代」からの転換を象徴するものだ。
その背景には、企業の価格転嫁が進み、賃金上昇をともなうインフレ傾向が徐々に定着しつつあるという、経済構造の変化がある。
この利上げは、単に金利水準が上がるというだけでなく、日本経済が約30年ぶりに「金利のある世界」へ足を踏み入れた節目として捉えることが重要だ。
ただし、金利が上がり始めたからといって、かつての高金利時代が再来するわけではない。市場では「急激な利上げは考えにくい」との見方が主流だ。その理由として、日本経済が人口減少や潜在成長率の低さといった構造的課題を抱えており、賃金上昇にも限度があり、金利の上昇余地が限られている点が挙げられる。
注目すべきは、日銀がどの水準で「利上げの一服」を判断するのか、その後の金融政策の軸足をどこに置くのかという点だ。
「金利のある世界」はどの状態で落ち着くのか、専門家にとっても予測は難しいようだ。
一橋大学教授の中島上智氏は『 一度読んだら絶対に忘れない金利の教科書 』(SBクリエイティブ/2026年3月刊)で、金利の仕組みをシンプルに理解するための最大のポイントは「日銀の視点」で読み解くことだと強調する。国内に存在する金利は、すべて日銀の影響を受けているためだという。
著者は2006~2022年、日銀や国際決済銀行(スイス)で勤務し、日銀では、主に政策効果の分析や、景気予測モデルの開発に従事。国際決済銀行では、主に国際資金取引の分析や、中央銀行総裁会議の事務局を担当した。国内外の金融の調査・分析や実務を担った経験が同書の土台になっている。
金利は物価安定の手段
著者の説明を聞こう。
ニュースによく登場する政策金利、短期金利、長期金利などから、私たちに身近な住宅ローンの金利、銀行の預金金利まで、元をたどると、すべて日銀に行き着く。日銀の視点で金利を読み解くときに、1つの重要なポイントは、金利を「日銀が物価を安定させるという目標を達成するための手段」だと捉えることだ。
日銀が物価を安定させるための政策手段として金利を動かすプロセスは(1)日銀が目標達成(日銀が掲げた物価上昇率の達成)のための政策を検討、(2)日銀が短期金利(コールレート)を決定 → コールレートを操作 → 企業への貸出金利や住宅ローン金利、銀行の預金金利など、国内のすべての金利に影響、(3)日銀が金融市場への影響を分析、(4)日銀が景気・物価への影響を分析→再び(1)へ戻る、の4つのステップからなる。この過程で国内の金利の動向をほぼすべて説明できると明言する。
こうした説明に続く各章では、「なぜ、日銀が金利を上げ下げしているのか?」(第1章)、「日銀によって影響を受けている金利」(第4章)、「日銀が距離を置きたい為替と株価」(第5章)、「日銀が目標とする物価と景気」(第6章)といった具合にすべての章に日銀が登場する。
日銀の出身者らしく、日銀の政策委員会の役割、政策委員会による通常会合と金融政策決定会合の仕組み、政府との関係など政策決定の流れを分かりやすく示している。
無担保コールレート(オーバーナイト物)の動かし方、イールドカーブ(時間の経過に伴う金利の変化を示すカーブ)や長期金利の決まり方などの記述も具体的だ。
アベノミクスの成績表
「日銀が苦心する政策の壁」(第8章)では、第2次安倍晋三政権による経済政策(アベノミクス)の内容を紹介し、「政策が景気の一部を良くし、物価がデフレの状態から抜け出せた、という考え方もあれば、なかなかそれまでの経済の状態を大きく好転させることはできなかった、という意見もある」とまとめている。
さらに、人々の期待に働きかける金融政策の効果にも触れ、人々のインフレ予想はさまざまな要因によって決まる可能性があり、中央銀行の政策が人々のインフレ予想に影響を与える可能性はあるものの、どれくらい大きな影響を与えられるかはよく分からない、と結論付けている。
(後編へ続く)
写真/スタジオキャスパー


