――大学4年の春。授業でChatGPTを知った私は、宿題をサボるためにその活用法を編み出した。プログラミングにも使えることを知り、出来心で「#100日チャレンジ」に取り組み始めた。毎日1本、新しいアプリ(作品)を作り、X(旧ツイッター)に投稿するというものだ。暇つぶしで始めたそれは、過酷な挑戦であると同時に、日常的な興味と学び、そして飛躍をもたらした――。Z世代の著者によるAI駆動型プログラミング学習探究記『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』(大塚あみ著)から、100日チャレンジの前日譚「ステップ0 プロローグ」編を抜粋・再編集してお届けします。その第1回。

 4月15日(土)午前10時50分、快晴。大学の授業開始のチャイムが鳴った。私は授業を受けるため、教室に小走りに向かう真面目な学生に交じり、7号館の2階にあるパソコンが設置された「ワークステーション室」に向かっていた。起きたばかりで眠くて仕方がなかったので、眠気覚ましのコンビニコーヒーを片手に、ゆっくりと足を運ぶ。キャンパスは少し肌寒く、春の風が時折吹き抜ける。ワークステーション室に着くと、既に先生が授業を始めていた。

 私は、教室後ろのドアから中を覗き込んだ。パソコンの画面に向かっている学生たちの頭が4列に並んでいるのが見えた。私は少し緊張しつつも、バッグがドアに当たって物音がしないように、そっと教室に入った。

 先生に気づかれないように自然を装い、私は中央壁側の席に、椅子が軋(きし)まないよう静かに座った。座席選びは授業を受けるうえでとても重要だ。前過ぎても後ろ過ぎても目立ち、スマホを見ていると注意される。ただこの教室では、机は横向きに置かれており、先生には学生の横顔しか見えない。スマホで堂々と別のことをしていても、教卓からは、学校のパソコンで真面目にキーボードを叩いて勉強しているように見える。普段授業中にネットを見たりゲームをしたりしている私にとって気が楽だ。

 講師の佐々木先生は、授業初日のガイダンスをしていた。

 「授業の単位取得に必要な条件を伝えます。まず、必須条件として、授業の3分の2以上に出席してもらいます」

 「授業中に出すアンケートに回答したら、出席したとみなします」

 私はアプリストアでスマホゲームを探しながら、佐々木先生の話を聞いていた。これくらいなら何とかなりそうだ。少し安堵しつつも、次に先生が話し始めた評価基準に耳を傾けた。

 「成績は授業態度とレポートで評価します。授業態度、つまり出席状況やアンケートへの回答が60%を占め、残りの40%はレポートの内容で評価します。レポートは授業の最終回に提出してもらう予定です」

 よし、この条件なら楽に単位取得ができそうだ。安心した私は、スマホゲームを始めた。ガイダンスで一番重要なのは、単位取得条件を把握することだ。先生によっては、出席数が異常に厳しかったり、テストの点数が低いと切ってきたりする。こうした「ハズレの授業」を選んではいけない。佐々木先生の授業は出席しさえすれば簡単に取れる、いわゆる「楽単」のようだ。大学4年の私は、今年中に33単位を取らないと卒業できない。周りには単位を取り終わって遊んでいる学生もいるけれど、私にその余裕はない。楽単をかき集めなければ。

 以前、必修の中国語の授業を取ったとき、期末テストの点数を理由に3回も「落単」して散々な目に遭った。ほかにも、テスト結果を理由に単位を落とされた授業がある。こうした苦い経験から私は、ごまかしの効くレポート提出の授業しかなるべく取らないようにしている。

 佐々木先生は続いて、スクリーンに映し出された「ChatGPT(チャットジーピーティ)」という文字を指さしながら話を始めた。

 「みなさん、今日の授業ではChatGPTというツールを簡単に紹介します。これからの授業や日常生活で、AIがどのように活用できるかを知っておくことはとても大事です。ChatGPTは、米国のOpenAI(オープンエーアイ)という組織が開発した自然言語処理を行うAIで、文章を生成したり、質問に答えたりできます」

 私は、スマホの画面を見つめながらも、先生の話を片耳で聞いていた。

 「このAIは、様々な分野で応用が可能です。たとえば、文章の要約や翻訳、あるいは簡単なプログラミングの補助もできます。試しに使ってみると、その便利さが分かると思いますが、今日は具体的な使い方までは触れません。ただ、他の授業では使用が制限されていることもあるので注意してください」

 佐々木先生はさらにAIのトレンドや未来について語っていたが、私はゲームをしていてあまり覚えていない。

 授業の終盤に差しかかり、佐々木先生はスライドを先に進めた。

 「授業のあとでアンケートを取ります。『ChatGPTを使って何をしたいか?』について、簡単に記入して、学内システムから回答してください」

 私は少し困惑した。ChatGPTが質問に答えてくれることは分かったが、どう使えばいいのか、どんなことができるのかは、ピンとこない。

 「ChatGPTを使って何をしたい……?」と、心の中で問いかけながらも、具体的なアイデアは浮かばない。私にとってChatGPTは「何だかよく分からないAI」だ。アンケートの締切は3日後らしいので、少し考えてみることにした。

(写真:EduLife Photos/stock.adobe.com)
(写真:EduLife Photos/stock.adobe.com)

「大学のレポート課題をサボる方法を教えて」

 授業が終わってから、私は改めて「ChatGPTを使って何をしたいか?」を考え始めた。レポートや宿題は、私が大学生活で最も嫌いなものの1つだ。締切直前の夜10時に、しぶしぶ古いデスクトップパソコンで作業を始めてみるものの、すぐに集中が途切れてしまう。気づけばスマホで動画を見たり、SNSをスクロールしたりして時間が過ぎていく。そんな風に、結局やるかやらないか曖昧なまま、締切にギリギリ滑り込めるかどうかというのがいつものパターンだ。

 「ChatGPTを使ってレポートや宿題を簡単に片付けられたら?」というアイデアが、頭の中に浮かんだ。これなら、面倒な作業を最小限に抑えて、楽に課題を終わらせられるかもしれない。いや、むしろ「サボる」といっても過言ではない。ChatGPTが私の代わりにすべてやってくれるのだから。

 ChatGPTを直ちに使ってみようと決めた私は、まず大学の図書館に向かうことにした。ほとんど利用してこなかった場所だが、今は学内のパソコンを借りる必要がある。図書館内に到着すると、思ったよりも広く、少し圧倒された。あちこちに座って勉強している学生たちの姿が見えるものの、私にはどこで何をすればいいのか、全く見当がつかなかった。

 受付カウンターらしき場所に目をやると、職員がいるのが見えた。意を決して近づき、尋ねる。

 「すみません、ノートパソコンを借りたいのですが、どうすればいいですか?」

 「パソコンの貸し出しはあちらの機械でできますよ。学生証をスキャンして、部屋番号を選んでください」

 私は指示された通り、少し緊張しながらも学生証を機械にかざし、画面に表示されたリストの中から適当な番号を選んだ。「24」と書かれたドアが開くと、私は中にあったノートパソコンを受け取り、Wi-Fi環境と電源のあるパソコン利用者向けの部屋「CITRAS(シトラス)」に向かった。

 CITRASに入ると、そこは広々とした静かな空間で、いくつかの丸いテーブルが並んでいた。ところどころで学生が作業に没頭している姿が目に入る。思った以上に整った環境に驚きながらも、「ここなら集中できそうだ」と感じた。

 私は左中央の複合機に近い席に座り、ノートパソコンを開いた。電源を入れ、Wi-Fiに接続し、いよいよChatGPTにアクセスする準備が整う。静かな室内に、パソコンを操作する音がやけに響く。周りの学生たちがそれぞれの課題に集中している中、私もレポートをサボる手段を考えるべく、ChatGPTを使ってみることにした。

 「これで本当に教えてくれるのか?」と少し半信半疑で画面を見つめながら、私は最初の質問を軽い気持ちで入力してみた。こうした質問や命令を「プロンプト」というらしい。

大学のレポート課題をサボる方法を教えて。

 返ってきたのは予想外にも……

(次回に続く)

怠け者の大学4年生がChatGPTに出会い、ノリでプログラミングに取り組んだら、教授に褒められ、海外論文が認められ、ソフトウェアエンジニアとして就職できた――。Z世代の著者によるAI駆動型プログラミング学習探究記。

大塚あみ著、日経BP、1980円(税込み)