『売り方の正解 小さなお店が生き残る50のヒント』(竹内謙礼著)は、人も資金も足りない小さなお店や会社が行うべき販促・集客法を紹介しています。本書のエッセンスをひと言でいえば「アナログとデジタルのいいとこどり」。今回から3回にわたって、2026年1月29日、東京・蔵前の透明書店で行われた、本書の出版記念セミナーの内容を公開します。まずは、小さな会社の生成AIとSNS(交流サイト)の活用について。
令和時代の売り方とは
マーケティングコンサルタントで、いろは代表取締役の竹内謙礼です。私は2026年1月に『売り方の正解 小さなお店が生き残る50のヒント』という本を出版しました。
私にとって、この本が売れないことには「売り方の正解」になりません。今回は本書を読みたいと思ってもらえるよう、本の内容の一部を紹介したいと思います。
私は毎週月曜日『日経MJ』で「竹内謙礼の顧客をキャッチ」という連載をずっとしていて、すでに650回を超えました。日本経済新聞の記者が取材していないような小さな会社、スモールビジネスを取り上げています。毎週毎週、締め切りに追われてきましたが、この連載のおかげでスモールビジネスの売れる秘訣に詳しくなりました。
よく質問されるのが「スモールビジネス、小さい会社とは、どのぐらいのレベルですか」ということ。私はその業界における規模が小さければ、たとえ上場していたとしても、小さな会社、スモールビジネスと位置づけています。
昭和、平成、令和と時代が移り変わる中で、スモールビジネスにおける「売り方の正解」が分からなくなってきています。昭和の時代であれば、チラシをまく、店の前で呼び込む、訪問販売といった売り方がまかり通りました。しかし、それが通じなくなり、平成に出現したのがインターネットでした。ところが、令和になると、そのインターネットも通用しなくなってきました。

なぜなら、新型コロナウイルス禍によって人々の外出が制限される中で、大企業が資金と人員を投下し、ネットの世界に参入してきたからです。そのため、ネット上でスモールビジネスをしていた人たちがつぶれてしまった。今、スモールビジネスの世界では「ネットからは少し距離を置こう」と考える人が増えているように思います。
では、少人数、少予算の小さな会社が販促で成功するには、どうすればいいのでしょうか。これが今回の本のテーマです。
「インターネットの次は生成AI(人工知能)では?」と考える人もいるかもしれません。確かに生成AIの登場で小さな会社のビジネスモデルが変わった面もあるのですが、実は大企業に比べると、生成AIを使うメリットはそんなにありません。
小さな会社の良さは、小さいがゆえに人の手がかかっていることです。それをAIにお願いしてしまうと、大企業と同列になってしまうし、そもそも生成AIを使いこなすのは難しい。
私の体験をお話します。実は最初、本書のイラストをすべて生成AI(Google Gemini)に描いてもらおうと思っていました。しかしGeminiに何度依頼しても、ロクなイラストを仕上げてきません。「ドライブしているカップルを描いて」「車に乗っている女性は窓の外を見てほしい」と指示を出したら、座席ごと窓の外を向いている絵が出てきた。「このイラストと同じようないい感じのタッチで」と何度指示しても、うまくいきませんでした。
Geminiに「何でうまくいかないんだ?」と聞いたところ、「あなたが思う『同じ』と私の『同じ』は違うでしょ」と返ってきました。デザイナーをしている私の娘に聞いてみたら、「お父さんみたいに絵のことを何も分かっていない人が、いくらプロンプトを示してもロクなイラストにならない」と言われました。
この件で分かったのは、基礎ができていない人間が生成AIを使ってもうまくいかないということです。これは、検索エンジンで上位に選ばれるためのSEO(検索エンジン最適化)対策を行う際に、SEOの基礎知識がなければ、どのキーワードが正しいのか分からないのと同じです。
結局、本書のイラストはイラストレーターの諒将(りょうしょう)さんにお願いしました。そうしたらAIとは違って話が通じ、素晴らしいイラストを描いていただきました。やっぱり小さな会社は、生成AIよりも人間同士のコミュニケーションが大事だと実感した次第です。
片手間のSNSではお客は集まらない
とはいえ、小さな会社がビジネスを始める際に、まず思いつくのは、InstagramやX(旧Twitter)を使った「SNS(交流サイト)販促」だと思います。以前、「SNSは小さな会社の武器」と思われていましたが、最近はそうとも言えなくなってきました。なぜかと言えば、昨年頃からコンテンツの質がより重視されるようになってきたからです。
以前ならある程度のフォロワー数を集めれば、タイムラインに表示されましたが、今は良いコンテンツでないと表示されません。Instagram側からすれば、面白くないコンテンツばかり表示していると、ユーザーをほかのSNSに取られてしまうから。
Instagramには本投稿の「カルーセル」「リール動画」、24時間で消える「ストーリーズ」があります。基本的にリール動画は新規顧客の獲得のための情報を出すことが多く、そのためには「うまいショート動画」を撮る必要があります。もっとも、ショート動画は難しい。たった30秒で「このお店、いいな」と思ってもらえる動画をつくるのは至難の業。でも、それができない限り、新規顧客は増えません。
そしてショート動画をどうにかつくったとしても、月に1、2回の投稿ではユーザーの反応も鈍くなってしまうので、週に3~4回投稿するのが理想と言えます。
そして、厄介なのが24時間で消えるストーリーズです。Instagram側は、24時間でストーリーズを見ている人の数、24時間以内でどれだけのダイレクトメールが送信されたかの数をチェックしています。24時間以内に動画を見て、さらにダイレクトメールを送るとなると、相当熱心な顧客です。それだけ密度の濃い顧客が多いと判断されないと、コンテンツが表示されないのです。

そのためには、リール動画で新規顧客を増やし、ストーリーズで常連を増やす必要がありますが、もうこれは1人、2人では無理ですね。それでもSNSで集客を成功させようとしたら、「三度の飯よりもSNSが好きな人」「SNSに投稿したいネタが山ほどある人」「ほぼ毎日SNSに投稿している人」の3つの条件が必須です。実際私が「竹内謙礼の顧客をキャッチ」で650社取材した中でも、成功している人はこの3つの条件を満たしていました。
例えば、大阪市の「呉服の老舗きくや」の森田文啓社長は1日15~20回ほどXに投稿しています。「何をそんなに投稿するんですか」と聞いたら、真顔で「食事をしているときもスマホは手放さないよ」と言っていたので、もう次元が違うなと思いました。
千葉県印旛郡にある、年間1万人以上が訪れる「NOLAND」というトマトの直売所でも、「ネタに困りませんか」と聞いたら、「もう、投稿したいことが頭の中で渋滞して困っている」と言っていました。
だから、「SNSに投稿するネタがありません」というような小さな会社は、同じ土俵どころか、スタートラインにすら立てません。SNSに人生を賭ける、もうSNSとともに自分は死んでいくぐらいの覚悟が必要です。「外注すればいい」と思うかもしれませんが、外注先は自分の会社のために命を賭けてくれませんからね。
少し違ったアプローチとして「ファンをつくってからビジネスを始める」という手もあります。小菅彩子さんというデザイナーはInstagramでファンを増やしてから、自らのアパレルブランドを立ち上げました。
町の電気店、寝具店なら商店街でチラシを配って、地元で獲得した顧客にSNSを見てもらうことができます。この場合はリール動画もストーリーズも必要ありません。SNSやLINEが苦手な人は、まず紙の販促から始めるのも重要です。紙一枚で訴求ポイントを整理できない人が、SNSのコンテンツをつくるのは難しいですから。
また、実際に店舗に来てくれた顧客にはLINEを登録してもらうこと。そこから広告を見てもらう、GoogleマップからSNSを見てもらうといったこともできます。
SNS好きなら、小さな会社でも集客をやったほうがいいでしょう。でも、やるには相当な覚悟が必要だと覚えておいてください。
文/三浦香代子 構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集) 写真/木村輝
竹内謙礼著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)
