カテゴリーエントリーポイント(CEPs)にマーケターの注目が集まっている。ただし、CEPsは「見つけて終わり」の概念ではない。マーケティング活動に落とし込むことで、初めて売り上げに貢献する。では、CEPsを具体的な施策に生かすポイントはどこにあるのか。そもそも筋の良いCEPsをどうやって見つけるのか。新著『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』でCEPsを深掘りしたホットリンクの増岡宏紀氏と、マーケター、データサイエンティストとして活躍する松本健太郎氏との対談を通じて解き明かしていく。[日経クロストレンド 2026年1月21日付の記事を転載]

ホットリンクの増岡宏紀氏(写真左)と、EVERRISE 執行役員CMO/株式会社コモレビ CDOの松本健太郎氏(同右)
ホットリンクの増岡宏紀氏(写真左)と、EVERRISE 執行役員CMO/株式会社コモレビ CDOの松本健太郎氏(同右)
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CEPsが流行した背景

増岡宏紀氏(以下、増岡) 対談の前編ではマーケティングの前提となる「WHO」の解像度を上げる重要性について話しました。もう一つ松本さんと議論したかったのが、私の書籍『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ UGCと指名検索が増え続けるSNS活用の新常識』(日経BP)でも扱っている「カテゴリーエントリーポイント(CEPs)」についてです。

 CEPsという言葉を、一時期よく耳にしました。なぜこれほど流行しているのか、筋の良いCEPsを見つけて、マーケティング活動に生かしていくコツはどこにあるのか。松本さんはどのようにお考えですか?

松本健太郎氏(以下、松本) 私はCEPsを、消費者の脳内にある「スキーマ」だと思っています。CEPsに注目が集まったのは、WHOの解像度、需要の解像度を高める手段として有用だったからではないでしょうか(スキーマ、需要の解像度に関する議論は、対談前編を参照)。

 新型コロナウイルス感染症を経験して、消費者側に様々な変化が起きました。マーケティングの対象となるWHOの解像度を上げて変化を捉えるのに、多くのマーケターがいまだに苦労されていると思います。

 また、「ブランドの便益は何ですか?」と聞くと、必ずと言っていいほど「手軽」「簡単」「コンビニエンス」といった言葉が出てきます。これらはディファレンス(差異)にはなり難く、パリティー(類似)の代表格です。必ずしもお客さまは便利だから買っているわけではないはずですが、そこから先が出てこない。これらの状況を何とかするために、CEPsの議論が盛り上がったと私は認識しています。

マーケター、データサイエンティストとして活躍する松本氏
マーケター、データサイエンティストとして活躍する松本氏
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 別の視点として、違うシーン、違う文脈を取り入れて売り上げを伸ばそうと思った場合、CEPsによる整理が役に立ちます。例えばカラオケの売り上げの要素分解をすると、用途の大半は「友達・同僚と盛り上がるとき」で、そこにばかり注目してしまう。しかし、実は「推しの歌を真剣に歌いたい」「歌がうまくなりたい」「ライブ映像を見たい」など、他の用途もあります。CEPsの整理を通じて、需要の解像度を上げることができるのです。

 一方、CEPsが難しいのは、それを見つけただけでは何の売り上げにもならないということです。施策に落とし込んでこそ意味があります。ところがCEPsを見つけたものの、それを施策に落とし込もうとすると、途端に手が止まってしまう。「それは代理店さんがやってくれます」では、CEPsを議論する意味がない。私は、マーケティング活動はストックではなくフローだと考えています。1つの点をどれほど強化したとしても、最も弱い点に全てが引っ張られてしまうのです。

 そういうこともあってか、25年の夏くらいからCEPsという言葉をあまり聞かなくなったと感じていました。そうした中、増岡さんの新著の後半に「CEPsはこのように使えばいいのです」ということが解説されていて、「まさに!皆さん、こういう使い方をしてください」と思いながら読みました。

良いCEPsは、ブランドの絞り込みを可能にする

松本 書籍に書かれたように、CEPsをマーケティングに生かそうとした際、ここでつまずくかもしれない、と思った部分があります。

 私の考えでは、1個のCEPsに1個のブランドがひも付くという対応関係ではなく、複数のCEPsが組み合わさって、1個のブランドに収れんしていくと思っています。

 「昼食時に安価な食事として浮かぶブランドは?」と言われても、きっとかなりの数のブランドが浮かびますよね。でも「今日は一日中家にいたくて、料理を作るのも面倒だけど、温かいものをすぐに食べたい」だったら、料理宅配のウーバーイーツでマクドナルドか吉野家、あるいは丸亀製麺を頼むなど、かなりブランドが絞られていきます。

 ところが、ブランドの絞り込みにつながらない「筋の悪いCEPs」というのも存在します。これを土台に議論してしまうと、施策に反映できないという悩みが出そうだなと思いました。

増岡 おっしゃる通り、CEPsはブランドの絞り込みに寄与するものでなければ、意味がありません。同時に「今日は一日中家にいたくて、料理を作るのも面倒だけど、温かいものをすぐに食べたい」のような切り口のバリエーションを、たくさんつくっていくことも重要だと思います。絞ってたくさんつくる、というのがいいと思います。

ホットリンクの増岡氏
ホットリンクの増岡氏
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松本 様々な切り口が脳内にストックされるのは、とても大切です。最近ビールについて自主調査をしたのですが、いろんな人の脳内に、いろんなビールのCEPsがあるのを感じます。

 元々ビールのテレビCMでは、女性が登場するクリエイティブはかなり限られていました。「男は黙ってサッポロビール」のコピーが生まれたのが1970年。90年代のCMですら「ビールは男の飲み物」でした。

 ところが現在、60代、70代の方々を見ると、特に性別を問わず皆さんビールを楽しんでいる。ということは、メーカーからのコミュニケーションとは別のところで、消費者自身がそのプロダクトを好きになって、楽しんでおられる。体験を通じてCEPsがつくられていることを実感しました。

 つまり、メーカーが関知しない、関与できない、メーカーがつくったわけではないCEPsが、実はたくさん存在するのです。消費者の行動を見たり、話を伺ったりして、自分たちがつくったものではないCEPsについて、企業はもっと知らないといけない。その一助として使えるのが、UGC(ユーザー生成コンテンツ)であり、SNSのデータです。

あの手この手で、まずは接点の総量を増やそう

松本 CEPsを見つけた後の工程について、増岡さんがポイントだと感じている点はありますか?

増岡 商品やサービスとの接点の量が足りていないケースが多いと思っています。ここまで議論してきたように、CEPsは無数にありますし、企業がクリエイティブに落とし込んだCEPsが、全員に刺さるわけでもありません。そうすると、シンプルにブランドのことを思い出すきっかけとなるような接点を多く持ったほうが、結局は興味を持って買っていただける。

 ビールの例で言えば、買ってくれる人たちの飲み方は、それぞれ全く異なるかもしれませんが、接点があるからこそ、それが何かの想起につながって買っていただける。その後クチコミをしてくれることで、他の人たちが、「こんな飲み方があるのか」と気付くきっかけになるわけです。昔のように、CMを流せば大量に接点がつくれるという時代ではなくなっています。

企業からの情報発信に比べてUGCは「体験を通じて発している言葉であるため強い」と話す増岡氏
企業からの情報発信に比べてUGCは「体験を通じて発している言葉であるため強い」と話す増岡氏
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松本 接点の中には、体験も含まれると思います。様々な企業の方と話をしていると、よく出てくるのが「商品はもうこれ以上良くならない」という悩みです。改良しても、お客さまが知覚できるほどの差分が生まれない、と頭を抱えておられる。洗濯洗剤の汚れ落ちを強化しても、お客さまは気付かない。これ以上おいしくしたとしても、お客さまは分からない。

 しかし、食べてみておいしいと思ったり、使ってみてすごいと感心したりするのも、接点の一つだと思います。実際に体験をして得られる積み重ねこそが、最も重要ではないでしょうか。おいしいという大事な便益をお届けするために改良を重ねるのは、企業にとって大切な営みだと思います。

増岡 企業から情報を伝えるのと、体験した人がUGCとして伝えるのと、接点としては両方あるべきです。ただUGCの接点のほうが、体験を通じて発している言葉であるため強いと言えます。

 しかし、大半の企業にとってUGCだけでは広がりが足りないので、違うトピックを企業側から発信していく必要があります。その2つの掛け合わせで、接点の量を確保していくのが重要です。

 ホットリンクでは「言及在庫メソッド」という考え方を提唱しています。これは、消費者の頭の中にあるクチコミの基になる「ネタ」を「言及在庫」と捉えるフレームワークです。在庫がなければ出荷ができないように、脳内に言及在庫がなければクチコミは起きません。

 そのため、企業側から多様なトピックを発信して消費者の頭の中に「言及在庫」を蓄積していくことが重要になります。トピックの量や質、クチコミのしやすさ、そして情報が広がる拡散ネットワークという3つの要素から自社の状況を整理することで、UGCを戦略的に増やしていくことができるのです。

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コミュニティマーケティング実行のポイント

松本 増岡さんの提唱するコミュニティマーケティングに関して、追加でお聞きしたいことがあります。

 実務とは基本的に「線」だと私は思っていて、例えば「時間軸」という非常に重要な概念があります。特にメーカーの場合、2年先くらいまでの計画が引かれていて、その中で新商品があったり、その新商品を打ち出すに当たってのプロモーションがあったりします。UGCについても「このあたりで山をつくると、このあたりで盛り上がってくるはずだ」などと考えるはずです。

 こうした時間軸の考え方を念頭に置きつつコミュニティマーケティングの計画を立てるには、どのようにしたらいいのでしょうか。

増岡 時間軸については、私もかなり意識しています。インフルエンサーマーケティングもキャンペーンも、終了した途端に元の状態に戻ってしまうやり方では非効率で、UGCのベースラインを上げ続けることが非常に重要です。

 では具体的にどうすれば上げ続けられるのかというと、最初はUGCを出すために企業がコミュニティに入っていって、クチコミをしてもらいやすい環境をつくり、UGCが出たら企業がそれに反応して……というように、企業側が盛り上がりをつくっていく。

 そうやって一定数のUGCが生まれてくると、今度はUGCがユーザーに影響を与えるようになり、企業が介入しないところで連鎖が起こり始めていくのです。私たちのお客さまでも、UGCの量がティッピングポイント(臨界点)を超えると、下がり幅が減り、高い位置で維持し続けるということが結構あります。

 ですから時間軸で考えると、ティッピングポイントを超えるまでは、継続的な接点の構築、あるいは想起の強化をとにかく頑張る。そこを超えることができたら、広告費などはどんどん減らしていける、という見通しを持つのがよいと思います。

松本 今の話にあったベースラインを上げるというのが、CEPsを増やすということと同義なんだろうと解釈をしました。

 それから、実行フェーズで悩みそうだと思ったのが、予算の獲得です。今回ここまでお話しした内容は、かなり難易度が高いと思っています。するとマーケティングを専門としていない上司を説得できない、予算も取れない、ということで悩まれる人が出てきそうです。この点については、どのように乗り越えていけばいいのでしょうか。

企業では上司のマーケティングに対する理解も、実行フェーズにおいて大きなポイントになると松本氏は見る
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増岡 かなり難しいことだと私も認識しています。何か数字で表せれば簡単なのですが、コミュニティマーケティングはそのような性質のものではありません。シミュレーション値は出しますが、「この時期にこれだけ売り上げが上がります」などと約束するのは難しいわけです。むしろそれを出そうとすることは傲慢とも言えます。だからこそ、売り上げに寄与するというロジックや、根底の考え方を丁寧にお伝えし、理解していただくように努めています。

 もう一つ、ご理解をいただくきっかけになるのは実際の事例です。同じような規模で、同じような商材を扱う企業が実践した結果、1年後に売り上げがこれだけ伸びました、という話をすると、UGCをきちんと積み上げることが売り上げにつながるということをイメージしてもらえます。

松本 そういう点では、いろんな会社や業界にまたがっている事例に対し、いかに役職者の方が自分ごととして解釈するか、ということがポイントになりそうですね。

増岡 おっしゃる通りです。SNSマーケティングというと、どうしてもバズることに興味を持たれやすいのですが、それは再現性がなく、いわば“ギャンブルマーケティング”です。中には、「それでいいのか?」と疑問を持たれている方もいらっしゃいます。今では、必要なのはバズの追求ではなく再現性を持った戦略構築だ、と共感いただけることが増えています。

 松本さんとの対談では、WHOの解像度を上げることの重要性から、CEPsの活用、そして時間軸を意識したベースラインの構築まで、幅広く議論できました。コミュニティマーケティングの実践に向けた具体的な道筋を、読者の皆さまに示せたのではないかと思います。松本さん、ありがとうございました。

増岡氏と松本氏の新著を手に
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(写真/村田和聡)

多くの企業が自社コミュニティを立ち上げたものの活性化せずに終わっています。その理由は「ゼロからコミュニティをつくる」という前提にあります。本書が提案するのは、従来の「ファンを囲い込む」発想とは真逆のアプローチ。熱量をもって活動している既存のコミュニティ――つまり「巨人の肩」に乗り、その中で自然に認知をとり、発話を生む方法です。SNSマーケティング支援企業で多くの実績を積んだ著者が、これまでの知見を体系化した再現性の高い実践ガイドです。

増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)