「どんな投稿をしたら面白いか?」――。SNSマーケティングの現場ではこの問いを起点に、WHATやHOWについて盛んに議論が展開される。その一方で抜け落ちてしまうのが、誰に届けるか、つまりWHOの視点だ。『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』の著者であるホットリンクの増岡宏紀氏は、まずWHOを明確にすることが成功の鍵だと説く。そして、WHOの解像度を上げることで狙うべきコミュニティが見えてくる。だからこそ「既存のコミュニティにお邪魔する」戦略が機能するのだ。そこで今回は、SNSマーケティングにおいてWHOの解像度が上がりにくい構造的な理由について、マーケター、データサイエンティストとして活躍する松本健太郎氏との対談を通じて明らかにしていく。[日経クロストレンド 2026年1月14日付の記事を転載]

なぜSNSマーケティングの議論から「WHO」が抜け落ちてしまうのか? (画像/wor_woot/stock.adobe.com)
なぜSNSマーケティングの議論から「WHO」が抜け落ちてしまうのか? (画像:wor_woot/stock.adobe.com)
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「ファンマーケ≒コミュニティマーケ」という誤解

松本健太郎氏(以下、松本) 増岡さんの新著『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』(日経BP)を拝読しました。最初に押さえておきたいと思ったのが、コミュニティとファンの関係性です。この2つはイコールとして捉えていいのか、それとも区分したほうがいいのでしょうか。

増岡宏紀氏(以下、増岡) イコールではないと考えています。世間では「コミュニティマーケティング」や「ファンマーケティング」という言葉が混在していますが、本質的には全く違うものだと捉えています。

 私の本で「コミュニティにお邪魔しよう」と言っているのは、ファンを囲い込むという目標設定が、マーケティング活動の効率の悪さにつながる恐れがあると考えているからです。地域密着で町に1店舗しかないような店であれば、常連客の支えが大きな力になるでしょう。しかし、事業規模の大きな企業ともなれば、少数のお得意さまのリピートだけで事業を伸ばすのは難しい。お客さまから「もっと御社に近づきたい」と言っていただける場合は、当然つながり続けるのがいいのですが、意図的につながりをつくろうとするのは非効率です。

松本 なるほど。そのような説明をクライアントにすると、どのようなリアクションになるのですか? というのも、本来は心理と行動は別なのですが、どうしても「買ってくれているということは好きなのだろう」と解釈してしまいがちだと思うのです。

 私は「天丼てんや」がすごく好きなのですが、ここ2年ほど食べていません。行動範囲に店がないからです。近所の整体には6~7年通っていますが、好きだからというより、他に家の近くに整体がないからです。いずれの場合も行動と心理は一致していません。

 一方、データ分析の現場では、購入頻度が高い人を発見すると「これだけ買ってくれているということはファンなのかな」と解釈してしまう。「コミュニティにお邪魔するのが大事ですよ」という話をしても、ここで概念の不一致が起こるのではないかと思うのです。

松本健太郎氏
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松本 健太郎 氏
EVERRISE 執行役員CMO/コモレビ CDO
1984年生まれ。龍谷大学法学部政治学科卒業。大阪府出身。社会人として働く中でデータサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院に通ってリスキリング。マーケター、データサイエンティストとして活躍する。政治、経済、文化など、様々なデータをデジタル化して分析・予測することを得意とし、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などにも登場。著書に『誤解だらけの人工知能(田中潤氏との共著)』『なぜ「つい買ってしまう」のか』(光文社新書)、『データサイエンス「超」入門』『人は悪魔に熱狂する』『あなたは他の人とはちょっと違うみたいだ セルフブランディングの教科書』(毎日新聞出版)など多数

増岡 おっしゃる通りで、ファンをつくりたい、リピーターを増やしたいという呪縛のような思いは根強いと感じます。そこで、ファンの囲い込みを目標に置くと、どんなコストが必要になるのかをイメージしてもらうようにしています。

 例えば、あるお菓子のファンだからといって、毎日そのお菓子のことを考え続けたり、食べ続けたりするわけではありません。無理につなぎとめておこうとすると、キャンペーンやディスカウントなど、色々な手を打たなければいけなくなります。そのコストに対する対価はそれほど大きくない上に、施策をやめてしまうと、効果がほぼゼロに戻ってしまいます。マーケティング活動の効率という観点では、「お邪魔する」戦略に利があるのではないか。このように説明しています。

松本 コミュニティマーケティングというと、とにかく「つながる」ことを目指そうというイメージでしたが、増岡さんの考えはそうではないのですね。「良かったら、空いた時間で会話でもしましょうか」というくらいの緩い状態のことを、コミュニティマーケティングと言っていいのだろうと理解しました。

SNSマーケは会社全体で取り組むもの

松本 書籍を拝読して大事だなと思ったことがあります。現在、出版業界ではSNS活用はマーケティングのど真ん中になっていますよね。「漫画が読めるハッシュタグ」で、最初の数十ページをSNSで無料公開することで、電子書籍の売り上げが伸びたりしています。

 一方で、SNSだけで売り上げが伸びたかというと、そうではありません。ランディングページの工夫や単話で売って収益を積み上げる仕組みがあるからこそ、SNSのプロモーションが機能します。システム部門、IP(知的財産)部門、編集部など、会社全体で取り組むのが、SNSマーケティングなのだと思います。「漫画が読めるハッシュタグ」はプロモーションが目立っていますが、その他のP、つまりプロダクト、プライス、プレイスも極めて大事です。

増岡 まさにその通りだと感じます。UGC(ユーザー生成コンテンツ)を伸ばしたくても、SNS上での立ち振る舞いだけで成果が出るかと言うと、正直かなり難しい。特に今のアルゴリズムは、企業アカウントにとって不利な状況です。商品やパッケージ、店舗での店員の接客方法も含めて、すべての企業活動がSNSに効いてくるのです。

「特に今のSNSのアルゴリズムは、企業アカウントにとって不利な状況にある」とホットリンクの増岡宏紀氏
「特に今のSNSのアルゴリズムは、企業アカウントにとって不利な状況にある」とホットリンクの増岡宏紀氏
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増岡 宏紀 氏
ホットリンク コンサルティング営業本部 本部長
2016年にホットリンクへ入社後、SNSコンサルタントやプロモーションプランナーとして、企業のSNS戦略の立案や運用支援、プロモーション設計に携わる。現在は新規顧客の戦略設計から実行支援までを統括。「Japan IT Week」や「宣伝会議」などの業界イベント・セミナーにも登壇し、実務視点に基づくSNSマーケティングの知見を幅広く発信。「日経クロストレンド」「MarkeZine」「ITmedia」などの専門メディアへの寄稿・取材実績も多数あり、SNS活用の専門家として活躍

松本 そうした考え方をされている人は、まだまだ少数ではないでしょうか。「SNSでバズると売れるんですよね」と言われたり、マーケティングチームのSNSでの活動に対して、別の部署の協力がなかなか得られないこともあったりすると思います。それについて増岡さんはどうお考えですか。

増岡 そもそもSNSの仕事をしている人自身が、誤った解釈をしていることが多いと感じます。さらに元をたどると、SNS支援会社の大多数が、「バズらせるのが得意です」という営業をしていて、「SNSマーケティング=バズ」という認識が浸透してしまっています。バズはSNSマーケティングの強みですが、あくまで手段の一つです。戦略の根幹が抜け落ちたまま、バズだけを追いかけてしまう状態に、危機感を抱いています。

「WHO」の解像度を上げにくい構造的な理由

松本 今述べられた「戦略の根幹」とは、例えばどういうことですか?

増岡 まずWHOの設定をしっかり行うことです。当たり前の話なのですが、SNSマーケティングとなると「どういう投稿をしたら面白いかな?」という問いが真っ先に掲げられ、WHOが抜け落ちたまま、WHATやHOWを議論しているケースが非常に多いのです。

 その前に、3C(市場・顧客、競合、自社)分析などでポジショニングを整理し、どういう相手(WHO)にどのような認識(WHAT)を与えるといいのかを整理することが必要です。このWHOが、ある特定のコミュニティに該当する場合が多いので、そこにアプローチする(お邪魔する)というのが、私の提唱するコミュニティマーケティングです。

 とはいえ、これまで強く意識してこなかったWHOに急に向き合おうとしても、どうしたらいいのか難しい部分があると思います。松本さんはWHOの解像度を上げていく方法について、日頃どのようにアドバイスをされていますか。

松本 WHOの解像度が粗いのは、SNSマーケティングに限らず、マーケティング全般においてよく見られる状況だと思います。

 WHO/WHAT/HOWの話を企業の方にする際、時間をかけて説明していることがあります。それは、基本的に市場原理というのは、需要と供給のバランスだということです。

 「需要が小さければ、それに供給を合わせないといけないし、需要が大きいのであれば、供給をそれに追いつかせないといけない。そうだとすると、企業側ができることは何でしょうか?」

 こう問いかけると、多くの方が「需要を大きくすることです」と答えます。ですが、需要というのはお客さまが判断することなので、完全にコントロールすることはできません。企業側ができるのは、供給を需要に合わせて大きくしたり小さくしたりすること、そしてお客さまが判断するための材料を提供することなのです。

 なぜこの話をしたかというと、私は需要が「WHO/WHAT」であり、供給が「WHAT/HOW」だと思っているからです。すなわち、需要の中にWHOがあって、供給の中に、どのように提供しますか、というHOWがある。WHATは両方にあるわけですが、需要におけるWHATはニーズであり、供給におけるWHATは、バリュープロポジション、あるいは「便益」といわれるものだと考えています。

WHO/WHAT/HOWの関係性
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 マーケティングあるいはマーケターの中でWHATの解像度が高いのは、需要という観点からは、お客さまのニーズは何(WHAT)か?ということを、供給という観点からは、私たちは商品サービスを通じてどんな便益(WHAT)を提供できるのか?ということを普段から考えているからです。

 これに対してWHOの解像度がそれほど高くないというのは、企業サイドが需要サイドのことを、実際にはあまり考えたことがないからだと思っています。供給している商品について、1SKU(商品の最小管理単位)で利益率を算出できる企業は、結構いらっしゃいます。しかし、「どんなお客さまがそれを手に取っていますか?」と聞くと、途端に解像度が落ちる場合が多いのです。

脳内にお客さまのスキーマをつくる

松本 ここまでの議論を前提に、それでは「WHOの解像度をどう上げるのか」という話をしましょう。私はマーケターの皆さんに、脳内にお客さまに対するスキーマをつくることをお勧めしています。

増岡 スキーマとは、どのようなことでしょうか。

松本 ある対象に関する取扱説明書のようなものです。ペットボトルのお茶を例に取ると、触ったり飲んだりするうちに、「中にお茶が入っている」「量はこれくらい」「味はこんな感じ」と分かってきますよね。さらに「空になったら水を入れて使える」「このブランドのお茶はこんなCMを流している」など、様々な情報がどんどん有機的に結び付いてきます。この網の目のようなものがスキーマです。

ペットボトルのお茶を例にした「スキーマ」のイメージ
「ペットボトルのお茶といえばこういうもの」といった、その人がまず思い浮かべる物の見方や考え方の枠組み、対象物の“取扱説明書”のようなもの
「ペットボトルのお茶といえばこういうもの」といった、その人がまず思い浮かべる物の見方や考え方の枠組み、対象物の“取扱説明書”のようなもの
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 スキーマの密度が粗い人は初心者で、「SNSマーケティングって、要はバズればいいんだろう」と言っているような状態です。逆にスキーマの密度が濃い人は熟練者で、自社のSNSマーケティングだけでなく、A社の事例もB社の事例も知っていて、SNSマーケティングを構造的に理解できている状態です。

 大量の情報を浴びていると、「お客さまってこうだよね」というイメージ像が、脳内にたくさん蓄積されていきます。これがWHOの解像度を上げていきます。お客さまと相対する機会がなくても、SNSを見ればUGCがあります。UGCはお客さまの需要の声そのものなので、エゴサーチで触れることができますよね。

 また、スキーマの密度が濃くなっていくと、たまにそのスキーマから外れて、「何でこの人はこんなことをしているんだろう?」と思わせるようなお客さまが出てきます。すると「この人のことをもう少し深く理解しないといけない」と、自分の中でフラグが立つわけです。そして、その人を掘り下げていくと、その先にインサイトが見つかる。色々なやり方があると思いますが、これが私のWHOやインサイトへのアプローチです。

増岡 自ら1次情報に触れないと、その感覚はつかめないですよね。私も支援しているお客さまにリポートをお出しするのですが、それはそれとして、お客さま自身でもエゴサーチをしてもらうことを推奨しています。

 商品のことを知り尽くしたつもりでも、UGCを見ていると「こんな使い方があったのか」と驚くことがあります。UGCからプロフィールに飛んでいくと、UGCを出してくれている人の共通点が見えてきたりするので、「それならこういう施策が良さそう」「このコミュニティにお邪魔できそう」などと、想像が広がります。WHOの解像度を上げるというのは、その繰り返しだと思います。

松本氏(左)と増岡氏(右)
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(後編に続く)

(写真/村田和聡)

多くの企業が自社コミュニティを立ち上げたものの活性化せずに終わっています。その理由は「ゼロからコミュニティをつくる」という前提にあります。本書が提案するのは、従来の「ファンを囲い込む」発想とは真逆のアプローチ。熱量をもって活動している既存のコミュニティ――つまり「巨人の肩」に乗り、その中で自然に認知をとり、発話を生む方法です。SNSマーケティング支援企業で多くの実績を積んだ著者が、これまでの知見を体系化した再現性の高い実践ガイドです。

増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)

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