SNSマーケティングにおいてUGCが持つ力に注目が集まっている。だが、それがユーザーによる自然な発話である以上、企業側が直接的に生み出せるものではない。特に一般消費財などの低関与商材において、どうアプローチするかはマーケターにとって悩みの種だ。本記事では新刊『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』でこの問題に向き合ったホットリンクの増岡宏紀氏が、『急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略』の著者・田岡凌氏、『僕らはSNSでモノを買う』の著者・飯髙悠太氏と議論を展開。SNSの特性やカテゴリー戦略の視点を踏まえながら、UGCを増やすアイデアを語り合った。[日経クロストレンド 2026年1月29日付の記事を転載]
「期待通りのいいもの」ではUGCは生まれない
増岡宏紀氏(以下、増岡) この連載では、2025年12月に出版した『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』(日経BP)の内容を基に、各方面で活躍するマーケターの方と議論を進めています。SNSマーケティングについてはもちろん、マーケティングそのものが、今後どのようにあるべきなのか、考えを深めていきたいと思っています。田岡さん、飯髙さん、まずは拙著の感想をお聞きしてもよろしいでしょうか。
田岡凌氏(以下、田岡) 増岡さんの本を読んで考えるべきだと思ったのは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)が出やすい状況を企業がいかにつくるかということです。UGCは、みんなが熱を込めて“語りたいもの”があるから生まれるわけです。そこをどう磨き込むかという点に、マーケターはもっとフォーカスしなければいけないと思いました。
この点について、「マーケティングはエンターテインメント化していく」というのが私の考えです。企業に関するUGCはあまり見かけませんが、エンタメに関するUGCは星の数ほどあります。僕らは心を動かす仕事を年がら年中やっているのに、UGCを生み出し切れていない。そのためにはエンターテインメントが必要であり、深く刺さる課題とそこに対する強いコンテンツを基点として考えなければならないと思っています。
増岡 おっしゃる通りで、UGCを生み出すためにはマーケティング部門だけでなく、商品を企画、開発する部門も含めて会社全体で取り組む必要があります。プロモーションや店舗の棚などで顧客との最初の接点をつくり、商品に興味を持ってもらう。そして実際に買って心が動き、SNSで発話してもらえたら、それがクチコミとして広がっていく。そのクチコミを見た別の人が商品を手に取り、またクチコミをして……という循環を生み出すことが必要です。
この循環において、プロモーションはあくまできっかけづくりに過ぎません。「SNS売れ」を実現するには、この循環を支えるプロダクトそのものを磨き込んでいくことが、何より重要だと思っています。
田岡 ではどう磨いていくかを考えると、「期待通りのいいもの」については、あまり発信されないと思っています。むしろ予想を裏切ったり、期待をはるかに超えたりするすごいものに出合ったときにこそ、人はそれを周りに伝えたくなります。顕在化している価値ではなく、消費者が「こんなのがあったら、確かにすごく便利だ」と思うような潜在的課題を解決する新しい価値づくりです。その意味で、プロダクトだけでなくコンテンツも大事にすべきだと思います。
また最近強く感じるのは、マーケティングを行う上で「ファンデーション(土台となるもの)」と「モメンタム(勢い、機運)」を分けて考えるのが重要であるということです。これまでブランドというと、積み上げるもの、中長期でつくり上げるもの、絶対に壊してはいけないものと考えられてきました。これらはファンデーション的な発想です。
それだけでなく、もう少し柔軟に、モメンタムを捉えてアプローチをしてみる。例えば季節に合わせるとか、何かのイベントに合わせるとかですね。モメンタムをつくりながら、ファンデーションもしっかりと積み上げていく。この2つでグロースしていく設計が重要ではないでしょうか。
SNSが促すライトな発話はUGCの源泉
飯髙悠太氏(以下、飯髙) 僕は増岡さんの本を「オープンなSNSとクローズドなコミュニティ、それぞれの場としての性質をよく理解してマーケティングをしよう」という話をしているのかなと受け取りました。
クローズドなコミュニティのほうが情報の深さは深く、SNSはライトな情報が多い。例えば「喉が渇いた」って、あえてコミュニティで言う必要性は生じにくいと思うのですが、反対にSNSはそれが言える場所です。「○○飲みたいな」という発話もできますし、「買ったよ」「飲んだよ」もそうです。オープンでプラットフォーム的な場所だからこそ、そういう発言ができる。
こうしたライトな発話はまさにUGCの源泉で、それが出しやすい場であるというのがマーケティングにおけるSNSの良さです。これをギュッと凝縮して「飲料のコミュニティ」にしてしまうと、別にあえてそういう発言をする必要はなくなってしまいます。オープンなほうが濃度は薄いのですが、発話の数やタイミングが多いのです。
プライベートグラフ(家族・友人)、ソーシャルグラフ(職場・地域)、インタレストグラフ(趣味・推し活)の話も、似たようなことが言えます。プライベートグラフやソーシャルグラフでの発話態度は、今話したコミュニティの発話態度とかなり近いものだと思います。
また、「毎日一緒に過ごす友達とはSNS上でもつながっている」、ということはよく起こるので、3種類のグラフが完全に分かれているケースは少ないはずです。そうすると、オープンもクローズドも実はそれほど明確な境目はなくて、ただオープンなほうが発話しやすいということなんです。
増岡 SNSでアプローチする対象はインタレストグラフが中心になると思いますが、この人たちが趣味や好きなものなど、インタレストだけでつながっているかっていうと、全くそうではありません。仕事でもつながっている人がいたり、家族などプライベートでもつながっている人もいたりします。
だからこそ、何かの1つのコミュニティが起点となって発信してもらうと、それは実はプライベートグラフにも、ソーシャルグラフにも波及していくことがあります。こんなふうにコミュニティをまたいで広がるのもUGCの良さであり、これを起こしやすいのが、飯髙さんにお話しいただいたようにSNSなのだと思います。
低関与商材における有効な戦い方
飯髙 増岡さんの本では、ファンを囲い込むことに限界がある低関与商材で、どんなコミュニティ戦略あるいはSNS戦略が有効か、という点を掘り下げていましたよね。低関与商材が難しいのは、あえて何かを話す必要性が生じにくいことです。
車のような高関与商材であれば、稀有(けう)な情報、語りたい情報がたくさんあります。私も入っている車に関するFacebookのコミュニティには、ドライブした場所の投稿や、「新モデルが出るらしい」という情報が活発に流れてきます。クローズドな場だからこそ、情報も濃いのです。
また、低関与商材はある程度ザッピングが効いてしまう側面もあります。「コーラが飲みたい」と思ってコンビニに行って、お目当てのブランドがなかったとしても、多くの人はあまり考えずに他の物を手に取りますよね。こういう状況でどんなふうに発話を促すかは工夫が必要です。
田岡 そもそも企業は、自分たちの商材が高関与商材になるように活動すべきではないかというのが、私の最近の考えです。高関与商材は、付加価値を与えることによって事業成長していける構造だからです。特にスタートアップは、当たり前になっているもの、違いがあまり分からないものの中に入っていってもダメで、高関与のところで戦い続けないといけないのです。
増岡 低関与商材は日常接点が多いという強みがあるので、体験によって発話の回数も増えていきます。その接触回数を生かして、高関与にすることができると良さそうですね。
飯高 先ほど田岡さんが挙げてくれたモメンタムやモーメントという視点も、高関与商材としての戦い方をする上で役に立ちそうです。ケーキならば「クリスマス」みたいなところが発話しやすいというような、そうしたモーメントを企業がどうつくるかという点は、工夫の余地が非常に大きいのではないでしょうか。
田岡 今まで企業から見る顧客は、一人は一人だったと思います。でも本当は違って、同じ一人でも、今日と昨日とあさってとでは、課題も興味も違います。つまり、人はいろいろな顔をしていて、別の顔になるタイミングにも、いろいろなものがある。そのため、どこに座標を据えるのかということがとても重要なのだと思います。
それで言うと、インタレストグラフに近いのかもしれませんが、先ほどの3種類に加えて、「モーメントグラフ」という概念もあり得るかもしれません。「普段はケーキに興味がないパパも、クリスマスの1週間前だけはソワソワし始める」というように、一気に高関与になるタイミングがあるわけで、ここを捉えるのが重要です。この戦い方は、スタートアップや予算が限られた会社にとって特に有効ではないかと思います。
カテゴリー戦略×UGCで打ち手を広げる
田岡 増岡さんの本を読んでいて、「カテゴリーUGC」という造語を思いつきました。これを意識的に生み出すのも、有効な打ち手だと思います。
私はカテゴリー戦略に関する『急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略』(クロスメディア・パブリッシング)という本を書きましたが、その後、カテゴリー戦略の重要性を語る人が出てきたり、カンファレンスのテーマになったりと、いろいろな人がカテゴリー戦略に言及してくれて自然に広がっています。カテゴリーUGCを生み出すことによって、結果として私が認知していただけるきっかけも増えていったのです。
これはまさに、あるキーワードをタグにしたコミュニティであるという意味で、エコシステムをつくっていくという発想に近いのかもしれません。
増岡 田岡さんのカテゴリー戦略のポイントは、新しいカテゴリーをつくり、自社のブランドがそのナンバーワンになることだと理解しています。そのカテゴリーを広げれば、ブランドも一緒に成長していく。逆に言うと、既存のカテゴリーの中で3番手、4番手に甘んじてしまうと、いくらUGCでカテゴリーを広げても1位のブランドがより強くなっていきます。
私の本でも「弱者ならば、狭くてもいいので自分たちの勝てるところを見つけて、そこにアプローチしましょう」と書いています。この点は、カテゴリー戦略の考え方と近い部分があると思っていました。
田岡 カテゴリーがなぜ存在するのかというと、分類をしないと人は認識ができないからです。哺乳類のすべての種を一つずつ認識することは不可能なので、グルーピングをしているわけです。
そう考えると、カテゴリーはある一定以上大きくはならない。例えば「シャンプー」というカテゴリーは大き過ぎて比べられないので、「オーガニックシャンプー」が出てきます。元々オーガニックで髪に優しいシャンプーを探している人たちによって「オーガニック」が分化し、サブカテゴリーとして大きくなっていく。一定以上大きくなると認識の役に立たなくなるので、分化していくんです。
その中でマーケターがやるべきなのは、次のカテゴリーが何なのかを、今の顧客の潜在課題から見つけていくことだと思います。あるカテゴリーを掌握しても、それで競争優位が続くわけではありません。どこかで終わりが来るので、自らカテゴリーを壊したり、次をつくり続けたりしないといけません。
これを「カテゴリーコンパウンド戦略」と呼んでいるのですが、カテゴリーを周辺領域で継続的に生み出していく。それをUGCで広げていくことも大事だし、ヘビーユーザーからインサイトを得てつくっていくのも大事です。これをスピーディーにやっていくことが、これからとても重要になってくるという気がしています。
増岡 私たちがSNSでやっていることも、実は同じかなと思っています。「ここを狙おう」と決めたコミュニティに対してアプローチをしていくと、絶対にどこかで頭打ちになるときがきます。そこで何をするかというと、もう1回UGCをチェックして、狙っているコミュニティのすぐ隣にアプローチしたり、少し違う切り口をつくったりして広げていきます。やっていることはこの繰り返しなので、とても共感できます。
飯髙 UGCを見る際、自分たちに都合のいいものばかりを拾ってしまうと、広がりをつくれません。オーガニックシャンプーで言えば「髪に優しい」とか。もちろん、それを理由に選んでくれる人もいるわけですが、実は「ドラッグストアに行ったら安かったから」という人もいます。そうした企業が意図しない発話こそ、宝の山です。
UGCをフラットな視点で見ると、「友達から紹介された」「自分の髪に合う」といった、ブランドコンセプトに収まり切らない発話も少なくありません。そうした発話を企業がもっと積極的に解釈することで、「クセ毛の人にぴったり」などカテゴリーを広げるきっかけが見つかるはずです。
(次回に続く)
(写真/村田和聡)
増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)






