内容紹介

半導体はいまや、AI、データセンター、自動車、通信、エネルギー、安全保障に至るまで、現代社会を支える基盤技術である。しかし、その産業構造は極めて複雑で、日々流れるニュースや企業動向を追うだけでは全体像をつかむことは難しい。「日本に先端半導体工場ができれば、日本製のAIチップを造れるのか」「なぜ台湾や米国の企業が世界を動かしているのか」「日本に勝機は残されているのか」。そうした疑問に答えるため、本書は半導体産業の全体像を一枚の“地図”として描き出す。

本書は、半導体そのものの解説書ではない。市場規模、設計、製造、装置、材料、ファウンドリー、ファブレス、商社、利用企業を広く俯瞰しながら、「誰がどこで価値を生み、どこに利益と交渉力が集まるのか」を体系的に整理する。さらに、「なぜ先端半導体を担える企業が世界で限られるのか」「なぜ台湾積体電路製造(TSMC)が圧倒的な存在となったのか」「日本が装置や材料分野でなお強みを持つ理由は何か」といった構造的な問いに迫る。

また本書は、産業の現状説明にとどまらない。半導体業界における「チョークポイント」の考え方を軸に、なぜ特定企業や国が戦略的な影響力を持つのかを解き明かし、日本半導体産業の興隆と後退、水平分業革命、TSMC台頭の背景などを歴史の流れの中で読み解く。技術、経済、政治という三つの力がどのように業界構造を変えてきたのかをたどることで、半導体産業の本質的な力学が見えてくる。

さらに、AIの爆発的な普及によって何が変わるのかも考察する。半導体が「安くなる技術」であり続けた時代は終わりつつあり、計算能力は希少資源へと変わろうとしている。AI向けデータセンター、チップレット、先端パッケージ、二つの技術圏への分断、経済安全保障、人材不足など、多面的な変化を踏まえながら、これから起こり得る未来を展望する。

加えて本書は、学生、技術者、経営者、投資家、行政担当者、メーカー、スタートアップなど13の立場を想定し、それぞれが半導体時代をどう生きるべきかを具体的に考察する。単なる業界解説ではなく、キャリアや投資、経営の判断材料として活用できる実践的な視点を提供している。

著者の杉野貴美廣氏は、日立製作所、ルネサスエレクトロニクス、インテルで開発、事業戦略、海外展開に携わり、現在は株式会社F2Fグループの代表取締役を務める。現場と経営、技術と事業の双方を知る立場から描いた本書は、半導体を巡るニュースを読み解き、自らの進路や投資、経営判断を考えるための必携の一冊である。


<目次>

序章 半導体ビジネスの地図

第1部 地図を広げる

第1章 半導体産業の現在地

1-1 半導体とは何か──一個から二千億個へ
1-2 暮らしのあらゆる場所に──どこにでもある半導体
1-3 半導体はどれくらい大きな産業なのか──「金額は小さくても影響は莫大」
1-4 市場の大きさと伸び──GDPの三倍の速度で成長
1-5 市場の「中身」──セグメントごとに違う顔ぶれ
1-6 半導体はどう造られるのか──三つの大きな工程
1-7 半導体はどう設計されるのか──構想からマスク払い出しまで
1-8 需要を押し上げる新しい力──AIがもたらす計算需要の加速
1-9 日本の現在地──縮んだ需要と、握り続ける急所
1-10 結び──地図の縮尺と地形を手にして

第2章 先端半導体を持てるのは誰か
2-1 工場投資はなぜ高いのか
2-2 設計開発投資はなぜ高いのか
2-3 回収はなぜ難しいのか
2-4 条件を満たせるのは誰か
2-5 「狭き門」と半導体不足
2-6 狭き門の中で、誰がどの工程を握るのか

第3章 半導体業界の地図
3-1 三つの言葉を区別する
3-2 一枚の総図でつかむ全体像
3-3 地図の中心にいる半導体メーカーと三つのモデル
3-4 造る場所を巡る分業と中立性という力学
3-5 設計を支えるエコシステム
3-6 半導体利用エコシステム
3-7 製品を届ける半導体商社
3-8 半導体を使う側の逆転
3-9 地図を支える源泉と統治の力
3-10 地図を一枚に束ねる

第2部 地図を読み解く

第4章 チョークポイント

4-1 PCの物語 ある機械の四十年
4-2 チョークポイントはどこに生まれるのか
4-3 力が集まり始める兆しを察知する
4-4 需要を集めるための仕組み化
4-5 手入れという仕事
4-6 チョークポイントが失われるとき
4-7 日本の急所──止める力と、育てる力
4-8 結び──察知し、仕組み化し、手入れを続ける

第5章 産業構造の変化とその力学
5-1 微細化の二層モデルと、引き起こしたもの
5-2 黎明期──手工業から産業へ
5-3 第一の変化──日本がIDMを最高完成度へ
5-4 第二の変化──水平分業革命
5-5 第三の変化──高度ミックス
5-6 変わらないもの──規模の経済、資本集約性、微細化志向
5-7 変わるもの──いま始まった三つの転換
5-8 結び──変わらない力学、変わる勝者

第3部 地図を手に取る

第6章 これから来る変化

6-1 いままでの三つの力に変化が起こっている
6-2 AIが描き直す需要とスマートフォンの次
6-3 全体最適化による技術的なコストの回避
6-4 二つの技術圏と強靭性の地図
6-5 三つの力の綱引きと再編の三つのシナリオ
6-6 日本の追い風──造る力と、売り切る力
6-7 結び──波を打ちながら進む道

第7章 もしあなたなら
地図の上に人を立たせる
領域Ⅰ 人材とキャリア
領域Ⅱ 半導体を使う側
領域Ⅲ 資金
領域Ⅳ 経営と政策
領域Ⅴ 産業基盤
二〇二六年七月からの眺め──変わったもの、変わりそうなもの

終章 日本の次の十年
序章の問いに、もう一度
農業とエネルギーに続く、三つ目の汎用目的技術
巨大資本の産業になった半導体
進歩の価格が上がる時代
覇権の材料という現実と、協働の必然
米国のリーダーシップは、なぜ当面続くのか
どこを維持し、何を育てるか
計算価格の行方
二つの道と、それぞれにある日本の出番
結び──地図はあなたの手に