「また新しいデザインになっている」「大容量とあり、お得そう!」……シャンプーや洗剤、お菓子など、パッケージの変更を目にすることはよくあります。このパッケージ変更は実は、単なるデザインチェンジではなく、認知のバイアスを利用した売り上げを減らさない仕組みのひとつだと語るのは、経済学者で慶應義塾大学教授の星野崇宏氏。それはどういうことなのでしょうか。蓄積された膨大な学術的知見と、ビジネス現場で培った経験から解説します。政策研究大学院大学教授の安田洋祐氏との連載「インフレ時代の値段のつけ方・考え方」5回目です。

「パッケージの寸法変更」は売り上げをどれだけ変えるのか?
価格は据え置きで、内容量を減らしたりサイズを下げたりする「ダウンサイジング」。単純な値上げができない場合にも実施しやすく、売り上げが減りにくいとお話ししました。
ダウンサイジングについてわかっているのはそれだけではありません。実はダウンサイジングによって、短期的に売り上げを向上させることすらできる、という研究が複数存在します。今回は人間の認知の傾向に注目し行動を研究する行動経済学の知見に基づき、売り上げを向上させる興味深い方法を紹介したいと思います。
これまで800gのパックで販売していたシリアルを例に考えていきましょう。このシリアルを、価格据え置きで、500gのパックにリニューアルするとします。この場合、単価は1.6倍ですからだいぶ大胆な値上げといえます。また、内容量が減りますから、パッケージのリニューアルは必須です。ではその際、どのようなパッケージにしたらよいでしょうか? ここでは、内容量に合わせてパッケージも小さくするとして考えてみてください。
単純に考えれば、「高さを5/8にする」「横幅を5/8にする」「奥行きを5/8にする」という3つの方法がまず思いつきます。あるいは、「横幅は元のままで奥行きを減らし薄くして高さを前より高くする」というような、複合的に変更する方法も考えられます。
同じように体積を5/8にしたとしても、実は、パッケージによって売り上げへの影響はまちまちとなりました。そして中には、「小さくしたにもかかわらず、以前よりも売り上げが増えた」変更もありました。どう変えたときに売り上げが増えたと思いますか?
小さくしたのに、売り上げが伸びた! 値上げ成功のパッケージはどれ?
さっそく「どのようなパッケージにしたら売上減少がいくらか緩和するのか? あるいはサイズを減らしても売り上げは増えるのか?」に関連する研究成果を見ていきましょう。
ここで紹介するのは、ある実証実験の結果です。この研究者は、PC上で繰り返し行った消費者実験の結果を基に某スーパーチェーンの経営者を説き伏せ、実際にある商品の値段を変えずに寸法を変えたパッケージを実店舗に展開しました。
この実験では、ある商品の値段は変えずにサイズを8ポンド(約3.6キロ)から5ポンド(約2.7キロ)に変更します。その際、高さ・横幅・奥行きの変え方の違うパッケージをいくつか準備し、どのような高さ・横幅・奥行きにしたら売り上げ減少が抑えられるのかを確かめます。実際の店舗では、競合商品と、図1の4タイプの商品のうち1つを棚に置き、どれかを選んでもらい、シェアを比較する形で行われました。
その結果は次の通りです。
条件B(高さだけ低く変更)は案の定、競合に対するシェアが従来通りのパッケージ(A)から激減してしまいました。
しかし、ここで面白いのは条件C(高くして薄くする)とD(横幅を広げて薄くする)です。それぞれ条件Aからボリュームが5/8になったにもかかわらず、シェアは微増しているではないですか!
知識やリテラシーがあっても、損していることに気付けない? 人間の性質
さきほどの研究はフィールド実験(研究室の外で行われる実験)までしている珍しい例ですが、この実験結果からも、人間の知覚のバイアスが非常に大きいことを、改めて感じざるを得ません。
例えば食べ物や飲み物のパッケージサイズの正確な量を正しく認識できないと、思わず大量に消費したり、複数個消費したりしてしまうことがあります。欧米では肥満が問題となっていますが(そして近年では日本でも)、健康上の問題も知覚のバイアスが原因となって生じ得るのです。商品のダウンサイジングに限らず、商品や食べ物のサイズについての知覚のバイアスは、一般的に非常に重要な問題なのです。
このような観点からさまざまな研究が行われ、いくつか代表的なバイアスが知られています。
① 次元のバイアス
先ほどの実験の結果を説明するバイアスです。消費者はパッケージの「高さ・幅・奥行き」の変化を掛け算的に(体積計算と同じように)見ているのではなく、足し算的にサイズ変化を評価していることがわかっています。
例えば、高さを+50%、横幅を-40%としたら、150%×60%で体積は元の90%になります。しかし多くの人は、足し算的に、つまり、+50-40=+10%アップと知覚してしまうのです。
この観点に関する別の研究でも、炭酸飲料を2/3にダウンサイジングするときに、「高さだけ変えた場合」に比べて「高さと横幅を変える場合」のほうが2割以上選ばれやすいことや、24%ボリュームを減らすにしても、高さ・幅・奥行きの3次元で減らした場合には消費者がその減少率をたった2%程度としか認識しないことなどがわかっています。
② 知覚の法則
そもそも人の知覚には、「知覚されたサイズ=定数×実際のサイズのX乗(Xはもとのサイズによるが、0.5~0.8)」という性質があることがわかっています。要するに、この法則にしたがうと「小さいものほど大きめに」「大きいものほど小さめに」知覚されるというわけです。
先ほどの①では1次元より2次元、2次元より3次元で減らしたほうが、小さく見えにくいという話でしたが、そもそも1次元であっても我々の知覚にはバイアスがあり、大きいポテトチップスの袋は、実際より小さく見えてしまうのです。
③ ラベリングのバイアス
「大パック」と書くことで内容量に比べて「大きい」と推定してしまうバイアスです。他社では「スモール」と表記されている小さいサイズの商品を、自社では「ミディアム」と表記すると、消費者はサイズが同じなのにもかかわらず「ミディアム」と認知します。
サイズとは違いますが類似した話をしましょう。近年外食では健康志向ポジショニング(野菜メニューの充実や、定食など「ヘルシーな食事を提供しています」というアピール)が行われていますが、消費者が「健康志向だ」と考えてとる食事が、実際には想像以上にカロリーが高い場合があります。
世界的なバーガーチェーンであるM社と、野菜たっぷりのサンドイッチが有名な世界的チェーンS社のメニューに対する、消費者のカロリーの認識についての研究があります。その結果によると、消費者は、M社は普段(カロリーの高い)ハンバーガーを提供しているため648Kcalのメニューを(ほぼ正確に平均)600Kcalぐらいと認識しますが、S社はヘルシーなメニューが多いため実際には1011Kcalもあるメニューを(S社のヘルシーなメニューだということで平均)487Kcalだけとかなり過小評価してしまうようです。このように、ラベリングの影響は想像より大きいのです。
これまでお伝えした知見からいえることとして、消費者はやはり、「注意深く商品を見て購入していない」「すべてのスペックではなく一部の手がかりを使って商品を選択している」という行動経済学の概念である「システム1」のモードで購買していることがわかります。加えて、知識やリテラシーがあって「よく考えて選択する」という「システム2」のモードで注意深く選択しようとしても、視覚のバイアスの影響が残るということもわかっています。
「こっそり小さくする」のは、やっぱり「ひどい」のか?
価格には考慮すべき点として、「公正感」という尺度があります。例えば消費者が「この値段は間違っている」「不当だ」と感じた場合は「不公正感」があるといえます。価格への公正感についてはさまざまな研究があり、この点はまた別の機会に紹介しますが、ここではサイズ変更に関連する知見をかいつまんで紹介します。
まず、値上げに際しては、「企業が現状の利益を享受するのは正当だ」と消費者が考えていると公正だとみなされるようです。つまり、企業側の材料費や生産コスト、人件費が上がっているということが消費者にも明確に伝わっている状況では、「同じ利益額を守る」値上げは許容されやすいのです。他方で、需要が増加したから値上げすると、公正感から「許したくない」と消費者が感じるようです。この点では、値上げは「コストが上がっているから仕方ない」と消費者が感じれば、不公正感にはつながりません。
一方、サイズが小さくなったことを消費者が知覚した際の不公正感はどうでしょうか? すでに前回述べたように、消費者はサイズ変更に気付きにくいことがわかっています。それだけに、実際にサイズダウンに気付いた際には、隠してダウンサイズしたという「不公正感」、つまり企業に対する反感や嫌悪を感じ、長期的なブランドイメージの低下につながるという研究が多くあります。
実際、ある研究(Evangelidis, 2024, ここではわかりやすさのため金額等少し数値を変更しています)では以下の質問を用いた調査をしています。
② チョコレートの生産コストが上昇しており、200円の商品を10ピースから8ピースに減らした場合に「許容範囲のサイズダウンだ」と思うか「不公正だ」と思うかどちらですか?
どちらも単価を25%値上げしていることに対する反応を聞いています。この調査では、①が30.7%が不公正だと感じ、一方②では44.4%が不公正だと感じたという結果になりました。
消費者の不公正感を緩和し、適切な値上げを実現するために
この結果は、ダウンサイジングによる値上げをためらう理由にもなりますが、裏を返せば「欺瞞的に行わずに透明性を確保すると、不公正感は下がる」ということでもあります。この研究ではさらに②の場合(チョコレートのピースを減らす場合)に、ピースを減らした新しい包装に「以前は10ピースでしたが、コストが上がり価格維持のために数量を減らしました」と明示すると、不公正感がどのように変化するかも調査しました。すると、不公正だと感じる度合いが大幅に減ったとのことです。
このように、値上げの成否に直結する消費者の公正感が、値上げの幅やサイズダウンの程度だけではなく、透明性によっても左右されることは無視できません。ダウンサイジングを単体で行う場合には、透明性の確保が非常に重要なのです。
【参考文献】
Ordabayeva, N. and Chandon, P. (2013). Predicting and Managing Consumers' Package Size Impressions. Journal of Marketing, 77(5), 123-137.
Evangelidis, I. (2024). Frontiers: Shrinkflation Aversion: When and Why Product Size Decreases Are Seen as More Unfair than Equivalent Price Increases. Marketing Science 43(2), 280-288.
