「前より小さくなった?」価格は据え置きでサイズがコンパクトに変更され、実質的に値上げされた商品を、日常生活でもよく見るようになりました。「ダウンサイジング」といわれるこの手法は、売り上げや消費者の心理にどのように影響するのでしょうか。「消費者が離れてしまう?」「炎上してしまうのでは?」といった疑問に、蓄積された膨大な学術的知見と、ビジネス現場で培った経験から、経済学者で慶應義塾大学教授の星野崇宏氏が答えます。政策研究大学院大学教授の安田洋祐氏との連載「インフレ時代の値段のつけ方・考え方」4回目です。

第4回は慶應義塾大学の星野崇宏教授が解説(写真:尾関祐治)
第4回は慶應義塾大学の星野崇宏教授が解説(写真:尾関祐治)

多くの企業が行う「実質値上げ」にも最新の研究が役に立つ

 前回は、利益を底上げするためのセット販売について経済学の思考実験を用いて、安田教授が解説しました。個別の商品だけで考えるのではなく、複数の商品を組み合わせて値付けすることも有効な戦略であることを理解していただけたかと思います。今回は「ステルス値上げ」として話題になることも多い「ダウンサイジング」について解説します。

 インフレによりコストが増加し、企業のコスト削減努力だけでは対応できない際にとり得る、一番素直な戦略は値上げです。しかし、「1%の値上げで何%売り上げが減るか」という考え方である価格弾力性(詳しくは1回目を参考にしてください)の大きいカテゴリーに自社商品が分類される場合には、値上げによって売上数量が減る可能性があります。また競合の動向や小売業者の状況、流通要因などから値上げが難しい場合もあります。

 このようなときの選択肢となり得るのが、値段を変えずにボリュームを減らす「ダウンサイジング」です。サービスにおいて、時間を減らす、価格当たりの提供量を減らすといった手法もこのダウンサイジングに当てはまります。

 これまで長く続いたデフレのため、2022年に発生したウクライナ問題や円安によるコストの急激な上昇場面でも、値上げに対して躊躇(ちゅうちょ)していた日本企業は多かったと考えられます。そうした状況でまず多くの日本の企業が取り組んだのが、このダウンサイジングでした。

 ただし、私が見ていた限りでは、各企業のダウンサイジングは経験や勘を基に行われており、これまでに膨大に蓄積されてきた科学知見が生かされているとは言い難いものです。そこでここからは、膨大な研究知見の一端をお伝えしたいと思います。

「サイズを下げても売り上げは減りにくい」は実証済み

 まずは価格弾力性と同様に「サイズ弾力性」を定義しておきましょう。「1%ボリュームを減らすと何%売上数量が減るか」、つまり以下の式で示すことができます。

 サイズ弾力性=売上数量の変化率÷ボリューム減少率

 サイズ弾力性は一般に、価格弾力性よりも小さくなることが、さまざまな研究で指摘されています。最近発表された米国の日用品や食品1100商品に関する網羅的な研究では、平均して価格弾力性が1.19であるのに対して、同時期のサイズ弾力性は0.56と、ほぼ半分と報告されています(Janssen and Kasinger, 2025)。また我が国のデータを使った分析でも、サイズ弾力性は0.55と、米国とほぼ同様の結果が報告されています。

 つまり「1%価格を上げることで減る売り上げ」よりも「1%サイズを小さくすることで減る売り上げ」のほうがだいぶ小さいということです。

世界中で進む「シュリンクフレーション」

 ここで注意すべきは、価格弾力性での“価格”は最終消費者が購入する際の価格だということです。そのため、1%の値上げをしても、メーカーの利益になるのはその一部にすぎません。またサイズにきれいに比例して製造コストが減少するわけでもありません。

 したがって、流通やコスト構造を精査する必要はあるとはいえ、「値上げ」と「ダウンサイズ」を比較した場合には、得られる効果の大きさを考えても、2つの弾力性の差を考えても、サイズを減らすほうがより簡単だといってよいでしょう。

 このように企業にとってダウンサイジングは実行しやすいため、日本に限らず各国で行われています。その結果、インフレーションならぬ、商品のサイズが縮む「シュリンクフレーション」が問題視されているのです。実際、米国でも2010年からの10年間で一般消費財の8%ほどでサイズが小さくなっているようです。ただし米国ではダウンサイジングも値上げもどちらも恒常的に行われているところが、我が国との違いです。

サイズを小さくしても売り上げが減りにくい4つの根拠

 それでは、なぜダウンサイズの売り上げへの影響は小さいのでしょうか? いくつかの理由がありますので、以下に整理したいと思います。

① 消費者はサイズにそもそもあまり注意を向けないため
 買い物のたびに、価格そのものや過去の価格からの変化に注目する顧客は一定程度います。一方、パッケージのサイズがほぼ同じであれば、いつもの洗剤が780mLだったのがリニューアルで730mLになったとしても、「洗浄力アップ」のようなパッケージの別の文言ばかり見てしまい、値段が過去と同じなら「サイズまで見ずに買ってしまう」のではないでしょうか?

 後でも取り上げますが、消費者のサイズに対する認識を調べているさまざまな研究から、消費者は価格に比べてサイズにはそれほど注意を払わないことが示唆されています。一方で、同じことの裏返しですが、「1L当たりX円」のような単価表示をすることで、ダウンサイズしたときの売上減少効果は非常に大きくなります。

② 消費者は単価計算をしないので、パッケージサイズ変更では消費者の“参照価格”が変わらないため
 今後詳しく説明しますが、消費者は過去の経験(ここでは価格など)を踏まえて値段について判断しています。

 例えばポテトチップスが100gで200円(つまり10g=20円)だったとして、それを覚えていたら頭の中のプライスタグは200円ですよね。この価格を「参照価格」といい、行動経済学では重要な概念となっています。サイズを変えず値上げで250円(10g=25円)になったら50円値上げで嫌だ(=損失)と思うわけで、特に利得と損失では損失のほうのインパクトが大きいということもわかっています。その観点で見ると、値下げ(=利得)時の売上増よりも値下げ(=損失)時の売上減が大きくなりがち、ということになります。

 一方、①にも関連しますが、価格は200円のままで80g(10g=25円)にしたとしても、消費者は単価ベースで価格を覚えることは(金やガソリンなどのように単価ベースで取り引きされるものでなければ)ほぼないといわれています。したがって、サイズが変わっても価格が200円のままでは損失を感じにくくなります。

③ 同一容量を使うため(結果として購買頻度が増えるため)
 洗剤でいえば消費者は一定の期間にだいたい決まった量を使います。例えば500mLのボトルを年に12本買う顧客は400mLにダウンサイジングされると年15本買うことになります。

 ダウンサイズで購入意欲が減るとしても、購入頻度増加がうまく打ち消して、ダウンサイズの売り上げへの影響度(つまりサイズ弾力性)が小さくなると考えられます。

④ 小さいサイズを好む消費者の存在
 単身世帯やそのカテゴリーの商品の利用頻度が少ない消費者は、より小さいサイズを好みます。特に食品など、ある一定期間に消費する必要がある商品ならば「消費期限内に使い切れる小さめのパッケージを購入する」タイプの消費者が購買することで、ダウンサイズの売り上げへの影響を緩和する可能性があります。

 また、①に関連して面白い現象が知られています。一般的にはサイズを大きくした場合のサイズ弾力性は大きく、一方サイズを小さくした場合のサイズ弾力性はかなり小さくなることもわかっています。つまりサイズを大きくすると売上数量は伸びるが、サイズを小さくしても売上数量の変化はあまりないということです。

 企業はサイズを大きくする場合には「30%増量」のように目立つようにし、小さくするときはなるべく目立たないようにしているので、当然と言えば当然かもしれません。行動経済学が示す「人が選択をする際に見ている情報は一部」という一般則からも納得がいきます。

サイズ変更の影響が大きい商品・小さい商品の特徴は?

 一般的に「価格弾力性>>サイズ弾力性」であるということはすでにお伝えした通りですが、サイズ弾力性は商品によって大きく異なることも知られています。では、自社製品がどんな製品だとサイズ弾力性が高くなるでしょうか?

 サイズ弾力性が高いのは、使用頻度が高く「どれぐらい使ったか・減ったか」がわかりやすく、特定ブランドかどうかというよりは「量が重要」と認知されやすいものだということがわかっています。トイレットペーパーやティッシュペーパー、炭酸飲料や清涼飲料、スナック菓子といったものがそれに当たるとされます。冷凍食品や洗剤、日用品は平均的。サイズ弾力性が価格弾力性より大幅に小さいのは化粧品やビールなど、購入の際にブランドが重視される商品です。

 価格弾力性でも同じことがいえます。例えば同じ洗剤であってもコンビニに置いている単身向けまたは補充用のものと、ドラッグストアに置いてある大容量のものとでは違いがあります。もしダウンサイジングするなら自社の商品が含まれるカテゴリー全体といった粗い粒度ではなく、個別の商品ごとに先行知見や過去のデータを用いてどの程度ダウンサイジングすべきかを決めましょう。

価格と量を同時に変えて単価を上げる技術

 もうひとつ最近の研究知見を紹介しましょう。これまでは「価格だけ変える」価格弾力性と、「サイズだけ変える」サイズ弾力性についての学知をお伝えしてきました。コストが増加しているときの対策は、「値上げ」(A)または「ダウンサイズ」(B)でした。では、「値上げして少しサイズアップ」(C)と「少し値下げして大幅サイズダウン」(D)では売上数量の減少はどれが一番抑えられるでしょうか?

表1 値段とサイズ変更の関係
表1 値段とサイズ変更の関係
(図表制作=キャップス)
画像のクリックで拡大表示

 これもさまざまな実験室実験に加えて、実店舗で実際に価格とサイズを変更する、単価を表示「する」か「しないか」をコントロールするなどのフィールド実験を行ってリアルな消費者の購買行動をデータ化したものです。

 結論だけお伝えしますが、AやBよりもCやDのように、同じ単価値上げにおいては値段とサイズを同時に変えるほうが、売上数量の減少が大幅に小さいことがわかりました。また、この効果は単価を表示していても残ることもわかっています。

 さらにこの研究ではCよりDのほうが売上数量が減りにくいことが示されていますが、その後の我々などの研究からは、商品のカテゴリーやカテゴリー内の地位によってもCとDの優劣が違うことも明らかになってきています。

 とはいえ、いずれにしても値上げだけ(A)とサイズダウン(B)のどちらか片方の変更よりも、価格を上げて少しサイズアップする(C)と少し値下げして大幅サイズダウンする(D)のような、サイズと価格の同時変更のほうがよいということは変わりません。ではなぜ、CとDのほうがよいのでしょうか?

「ステルス値上げ」と炎上してしまわないために

 その理由としては先ほどの根拠②で示したように、消費者は購買場面では基本的に単価を計算するより名目金額(店頭での表示価格)に着目することが挙げられます。

 また、価格への公平感という概念も大事です。以前、あるコンビニエンスストアが行った総菜や弁当のダウンサイジングが「上げ底弁当」などと揶揄(やゆ)され炎上しました。別の回に再度取り上げますが、消費者の価格への公平感を損ねないことは非常に重要です。

 消費者は量の変化には気付きにくいとはいえ、いったん変更に気付くと騙されたと考えて「ステルス値上げ」と感じ、不公正感を強く覚えることになります。量の減少とともに価格が多少でも下がっていれば量の減少に納得するわけです。価格とサイズをどちらも上げる場合も同様に値上げの理由をサイズ増加で納得します。

 価格への公平感に関連する統一的な理論については2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンやリチャード・セイラーが提唱しておりますので、今後紹介したいと思います。

 今回は値上げの一種としてのダウンサイジングの話を取り上げました。同じ単価の値上げをする場合に、値段を上げるのかダウンサイジングするのかでは後者のほうが影響が少ないというのは、生活者目線ではなんとなく直感的にはわかりますね。

 しかし、それはなぜなのか。あるいは、どんな商材なら特にダウンサイジングが効果があり、どの程度ダウンサイジングしてもよいのか。さらには、「ステルス値上げ」と言われないために、言い換えれば「消費者の価格への公平感を損ねない」値上げは、どうしたらできるのか。こうした実践的なプライシングは、直感ではできません。この分野にも膨大な経済学知が存在します。

 次回もダウンサイジングに関わる学知をお届けしたいと思います。

【参考文献】
Janssen, A. and Kasinger, J. (2025). Shrinkflation and Consumer Demand. Marketing Science, 45(1), 142-158.

【関連記事】