まだ自分で仕事量や内容を決められなかったり、要領を得なくて一つ一つの仕事に時間がかかったり、上司の判断待ちで身動きが取りづらかったり。20代というのは、生産性を高めて時間効率を上げないと「自分の時間」がつくれない時期でもあります。
もちろん、目の前のことを必死に覚えて、前に進むことも大事です。ただ、時間に追われた状態、つまり、自分で自分の時間をコントロールできない状態が続くと、30代のキャリアをつくる準備ができません。新卒時から定年まで働くと考えても、これから40年以上の仕事人生があります。キャリアは長い。そこでぜひ読んでほしいのが、次の3分野の本です。
1つ目は、長い目で見たときに、20代をどう過ごすべきか教えてくれる「自己啓発・キャリア」の本。2つ目は、自分の時間をつくるための、「生産性向上や時間の使い方」を学べる本。3つ目が、仕事をするための技術を高める「スキルアップ」の本です。
自分の人生は一度きり。失敗は人生の糧になりますが、いい人生を送るためのさまざまな失敗や成功、そのプロセスをすべて経験するには、実は時間が足りません。でも、本を読むと他者が経験した人生を追体験できます。読書の時間は、人生の幅を広げてくれる大切な時間です。20代のうちにその時間を持てたかどうかは、将来の伸びしろにも影響します。今年こそ、未来の自分に投資するために、本を読む時間を意識的につくってみましょう。
自己啓発・キャリア
1. 『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』 キングスレイ・ウォード著、城山三郎訳、新潮社
自分と同じ道を志そうとしている息子へ、父親がビジネスのルールと人生の機微を語る本。ビジネスパーソンが生涯で遭遇する多くの局面が取り上げられ、ウイットのあるアドバイスが送られる。若者だけでなく、ミドルもトップも必読のビジネス書。
実は僕が人生で一番繰り返し読んでいるのが、この本です。ボロボロになるまで読んで、今、手元にあるのは4冊目。そして、仕事がうまくいかないときは、だいたいこの本の教えに反しています。
この本は実業家の父親から息子への手紙というスタイルですが、息子へのエールであり、かつビジネスパーソンとしての大事な心得が書かれています。息子が学生時代から社長になるまでの期間を通してアドバイスをしているのですが、「ああ、こういうフェーズで、こういう問題にぶつかるな」と、ものすごく納得感があります。「友情は手入れしよう」とか「(ビジネスマンとして)結婚を気軽に考えないように」といった言葉に考えさせられるのです。
また、フランシス・ベーコンの「成功の秘訣」など偉人の教訓・名言も書かれていて、勉強になります。ぜひ20代のうちから読んでもらいたい1冊です。
2. 『入社1年目の教科書』 岩瀬大輔著、ダイヤモンド社
新入社員が仕事を進める上で必要な「仕事において大切な3つの原則」と具体的な50の行動指針を示した本。「頼まれたことは、必ずやりきる」「50点で構わないから早く出せ」「つまらない仕事はない」など、新社会人だけではなく、仕事の取り組み方を見直したい人にまで役立つ内容となっています。
ライフネット生命保険共同創業者の岩瀬大輔さんが、新人の頃にどういう働き方をしていたかを書いた本です。「かばん持ちはチャンスの宝庫」という言葉は、20代の人に刺さりますよね。「朝のあいさつはハキハキと」「メールは24時間以内に返信せよ」など、書いてあることはシンプルですが、意外とみんなできないものです。やっぱり成功する人は、こういう野心的な20代を送っているんだなと考えさせられます。
面白いのは「世界史ではなく、塩の歴史を勉強せよ」という項目。僕も最近、自分のYouTubeで『世界を変えた10のトマト』という本を紹介したのですが、漠然と世界史を学ぶのではなく、あるものに着目して歴史をおさらいすると経済、金融、貿易などの見え方が変わるんです。若いときにこのような本を読んでいるのかどうかで差がつくと思うので、一度読んでみてください。
3. 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』 致知出版社
創刊44年の歴史を持つ雑誌『致知』の1万本以上に及ぶ人物インタビューをまとめた傑作選集。稲盛和夫、王貞治、山中伸弥、フジコ・ヘミングなど、各界で活躍する著名人の仕事術や発想法、生き方の哲学が味わえる名著。
各界の第一線で活躍する人がどうやって仕事をしてきたかが語られ、読むと本当に胸が熱くなる本です。365人のリストを見るだけですごい1冊だと分かります。
江崎玲於奈さんの「ノーベル賞を取る5カ条」、日本一の大株主だった竹田和平さんの「奇跡を起こせる会社」というお話も良かったのですが、僕が特に刺さったのは王貞治さんの言葉。「よく『人間はミスするものだから』と言う人がいるが、初めからそう思っている人は必ずミスをする。プロはミスをしてはいけない、プロは自分のことを人間だなんて思ってはいけない」と。参りました。ビジネスパーソンの教養として、各界で活躍する方たちの名前を覚えるにもいい本だと思います。
4. 『20代で得た知見』 F著、KADOKAWA
ポエム作家・Fのエッセー集。ある夜、友人が電話で語ってくれたセリフ、恋人がふとした瞬間に吐き捨てたセリフ、バーで隣の男が語ってくれた一夜限りの話など、人生の真理を教えてくれる1冊です。
いわゆるビジネス書とは違うのですが、さまざまな人の20代の時のエピソードが載っているので面白いんです。例えば「20代に自信は要りません。自信がないから勉強しようと思える、自信がないから人の優れた部分が見え、それをまねしようと思えるんだ」とか。
それから、60代の貴婦人に「人生で一番後悔していることは何ですか」と聞くと、「『お金に余裕を持ってから』という考えでは遅かったの」という言葉も。こういう言葉を聞くと、20代でやってはいけないことが分かりますよね。僕も20代は「いつかお金を持ったら」という考え方は絶対にしてはいけないと思っています。20代の時は何回野宿したか分からないほどの貧乏旅行で、毎年ギリシャに行っていました。でも、そういう体験ができるのも若い時ならでは。40代で野宿はキツいし、もうできないなあ(笑)。
武勇伝でもなんでもないけれど、リアリティーを持ってじわじわと染みてくる言葉の数々。これこそ人生を追体験できる、貴重な本です。
5. 『苦しかったときの話をしようか』 森岡毅著、ダイヤモンド社
ビジネスの世界で活躍する父が、就職に悩む娘にアドバイスする形でビジネスの本質を語る1冊。「自分の強みをどう知るか」「会社と結婚するな、職能と結婚せよ」「不安と向き合うには」など、キャリアに悩むすべての人に役立つ本です。
USJのV字回復を成し遂げ、ハウステンボスのマーケティングも手がける森岡毅さんが、娘への手紙という形で、自分が苦しかった時のキャリアの話を書いています。
「君が悩むべきなのは具体的な就職先じゃなくて、君のキャリアにとって重視すべき軸なんだ」「成功は必ず人の強みによって生み出されるのであって、決して弱みから生まれない」といったことが書いてあり、含蓄がある。
特にキャリアの「文脈」の話は秀逸。日本では仕事も学校の教育の延長上で、苦手科目を克服するとか、スキルを磨いて点数を上げるといった考え方がありますが、実際に森岡さんも含めて成功している人は「自分の強みが生きる文脈」の中に自分を置いているんですよね。キャリアの本質を教えてくれ、生き方の新しい尺度を与えてくれます。真面目な人ほど、読むと気づきが得られるかもしれません。
6. 『サードドア』 アレックス・バナヤン著、大田黒奉之訳、東洋経済新報社
ビル・ゲイツ、スティーブ・ウォズニアック、スティーブン・スピルバーグなど、成功者の人生の始まりには共通のカギである「サードドア」があった――成功者の名言から、20代で知っておきたい「連敗の必勝法」を学ぶ1冊。
この本、ちょっと表紙のデザインが見づらいんですけど、とても良い本です。ざっくり言うと、成功した人たちが「サードドア」、つまり正規ルートではないドアをくぐり抜けたという話です。ファーストドアは正面入り口、セカンドドアはVIP専用入り口、そして誰も教えてくれないのが「サードドア」。やっぱり何が何でも成功しようと思ったら、正規のドアをたたいて、それでダメでも諦めてはいけないんですよね。
ビル・ゲイツがソフトウエアを販売できたのも、スティーヴン・スピルバーグがハリウッドで史上最年少の監督になれたのも、サードドアをこじ開けたから。珠玉のエピソードが紹介されていて、世の中には、実はサードドアのノブがたくさんあるんだと気づかせてくれますよ。
7. 『AWAY GAME』 シェリー・アーシャンボー著、久木みほ訳、アルク
人種の壁、ジェンダーの壁、前例の壁を乗り越え、大組織の序列をも駆け上がり、シリコンバレーのアフリカ系アメリカ人女性CEOとして夢をつかんだ著者のキャリア論。
これはぜひ女性に読んでほしい1冊です。著者のシェリー・アーシャンボーさんはIBMでキャリアを積み、ソフトウェア会社のCEOなどを経て、現在はベライゾン、ノードストローム、ローパーテクノロジーズ、オクタの役員を務めています。
この本を読んでいると、今もまだ女性差別がある中で、彼女がどうやってキャリアを歩んできたかが分かります。例えば、「現在、社長になっている人がどういうキャリアを経て社長になったか」を調べ尽くし、そのルートを探るとか。会社によって「営業出身者しかトップに行けない」など傾向があるんですよね。彼女はそれを分析して、実行に移してきた人なのです。
他にも、著者の経験から語られる女性が昇進できない理由、そんな中でどうやって周囲に協力してもらうかについても詳しく書かれています。男女平等という幻想にだまされないためにも、読んでおくと勉強になる。もちろん、女性だけでなく、最短ルートでキャリアを築きたい人にもお薦めです。
生産性アップ、時間の使い方
8. 『「ラクして速い」が一番すごい』 松本利明著、ダイヤモンド社
PwC、マーサー、アクセンチュアといった世界的な外資系コンサルティング会社で人事コンサルタントをしてきた著者による仕事術。力の「入れ所」と「抜き所」を押さえてラクをし、ムダな仕事を減らす極意が書かれています。
「外資系の人事コンサルタントの松本利明さんがなぜ、仕事術の本を書くの?」と思うかもしれませんが、実はそこがポイント。例えば、何か仕事を頼まれて提出したときに、上司に否定されたらゼロからやり直しをすることになりますよね。だから、結局は「仕事ができる」よりも、実は「人事が大事」と説く。さらに、「大事なのは、資料が完璧と褒められることではない。早く確実に仕上げて、通すこと」というのです。組織で働く人にとって、納得感のあるリアルなエピソードも満載です。
他にも、意地悪な上司対策や「相談事はCCメールではなく、直接送る」「仕事は巻き込むよりも共通の敵を探すとうまくいく」「ランチは1人で食べず、思い切って偉い人を誘おう」といった人事ならではのアドバイスも面白い。この本を若いうちに読んで、年配の人に気に入られる行動を確立しておくと、組織の中でのつまずきが減るかもしれません。
9. 『1分で話せ』 伊藤羊一著、SBクリエイティブ
「1分で話せないような話は、どんなに長くても伝わらない」。ソフトバンクの孫正義社長に話術を認められるほどの著者が伝え方の「型」の部分だけでなく、結論の決め方、1分で記憶に残す方法など、誰でもできる話し方のコツを紹介している。
おそらく、話す時のメソッドをここまで形式化した本はないと思います。話す時のポイントは3つで、「結論」「根拠」「例えば」で伝えて、「相手の右脳と左脳に働きかけるのが大事なんだ」と伊藤さんは言っています。シンプルでありながら、これ、すごく大事なことなんですよね。
仕事ができるビジネスパーソンはみんな、このシンプルな方程式を体得していて、当たり前のように日々実践しているんだと思うのですが、それを人に伝えるという視点ではうまくまとめられたものはなかったように思います。だから、「ああ、言われちゃったなあ」と思っている人もいるかもしれません。それぐらい見事に、著者の伊藤さんは、話し方、伝え方の極意を言語化しているので一読の価値がありますよ。
10. 『やりたいことを全部やる!時間術』 臼井由妃著、日本経済新聞出版
経営者、コンサルタント、著述家、講演家と一人で何役も軽々とこなし、複数の国家資格も取得している著者の時間術を公開。「会議は『1発言1分』が基本」「イヤなことは朝イチに」など具体的なアドバイスも。
仕事が終わらない、時間に追われて自分のやりたいことが何もできないという20代の人にお薦めの本です。時間を管理して、時間と心、お金にも余裕ができるアドバイスが書かれています。
例えば、メールのやり取り一つでも、同じ相手と3回も4回もやり取りする人と、1回で済ませられる人とでは効率が変わってきますよね。結局、ちょっとした工夫をするだけで時間はつくれるんです。「1行P.S.でメールを時短しよう」とか、シンプルでありながら実践しやすいヒントが満載です。大事なのは「時間の手綱を自分で握ること」と分かる1冊です。
11. 『ゆとりの法則』 トム・デマルコ著、伊豆原弓訳、日経BP
効率だけを重視していては、新しいアイデアや変化に向けた柔軟な対応はできない。必要なのは「Slack(ゆとり)」であると、著者ならではのウイットに富んだ文章で語られた1冊。
これは僕自身も20代で読んで、すごく勉強になりました。印象的だったのは、「知的生産と工場労働は違う」というくだり。でも、日本人はいまだに工場労働の考え方で、知的生産を行っている気がします。
この本の中に「人間はプレッシャーをかけられても速く考えることはできない」というメッセージもあるのですが、本当にその通りだと実感しています。僕はこの本で「中断が知的生産の効率を妨げる」と知り、Amazonにいた頃は会議室を押さえて、電話を取らなくても済む環境をつくって仕事に没頭していました。そのおかげで仕事が早く終わり、終業後は他社の編集者と交流が持て、独立につながった…という、実に思い出深い1冊です。
スキルアップ
12. 『頭がいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか?』 高橋政史著、かんき出版
マッキンゼーの「マッキンゼーノート」、米国のコーネル大学で開発され、全米有名大学や研究機関で使われる「コーネルノート」など、世界のトップエリートが使っているノート・メソッドを紹介。
マッキンゼー、アクセンチュア、BCG、コーネル大学など、なぜか世界のエリートは方眼ノートを使っています。方眼ノートは目盛りがあるのでメモが正確になるし、思考が明晰(めいせき)になるそうです。では、実際にどうやってノートを使えばいいのか。本の中では、使い方の実例が紹介されています。
例えば、マッキンゼーでは「空・雨・傘」の順番で思考をまとめてある、東大生のノートには「板書・気づき・要約」があるなど、なるほどと思う工夫がたくさんあります。
面白いのは、大前研一さんが使う「巨大方眼ノート」。事業計画を書くときにはノートが小さいと全体像が書けないから、大きい方眼ノートを使うのだとか。頭一つ抜けている人のノート術には、単なるノートの使い方だけでなく、そのノートを使ってどう思考を深めていけばいいのかなど、学ぶところが多いと思います。
13. 『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』 越川慎司著、ディスカヴァー・トゥエンティワン
ビジネスパーソン約1万8000人をAIで分析し、トップ5%社員の習慣を解き明かした1冊。「目的のことだけを考える」「弱みを見せる」など、トップ5%社員の五原則は、自らの働き方を見直したい人にも役立ちます。
この本は、元マイクロソフト業務執行役員でクロスリバー代表の越川慎司さんが、約1万8000人のビジネスパーソンをAIで定点観測・分析したというオタクな本です(笑)。分析した結果、上位5%の社員は「目的だけを考え」「自分の弱みを見せ」「パワポの技術ではなく、資料に入れるストーリーづくりが得意」といった傾向があることが分かったそうです。
また、「トップ以外の95%の一般社員が1年につき2.2冊の読書」なのに対し、「上位5%社員はその20倍の48.2冊を読んでいた」という興味深いデータも。他にも、上位5%社員が使っているアプリなど、今すぐ取り入れられる具体的な情報も紹介されています。「仕事が早く終わるツボ」を押さえるのに役立ちますよ。
14. 『数値化の鬼』 安藤広大著、ダイヤモンド社
「数字がすべてではない。ただ、数字を無視して成長した人は誰1人としていない」として、感情を脇に置き、数字で考える方法を体系化した1冊。著者がもう一つの著書『リーダーの仮面』(「 「今さらでも読んでおくべき『ベストセラー』ビジネス書13冊」 」で紹介)で提唱した「識学」のエッセンスも、この本の中に取り入れられています。
ビジネスパーソンに数字を読む能力は必須ですが、この本はまだキャリアの浅い人に向けたポイントが詳しく書かれています。例えば、「売り上げがいくらなのか」「改善方法を決めて、期限をどのくらい守れたか」といったことから数値化しようという提案など。「行動量を増やす」「変数を見つける」「長い期間から逆算する」「確率のワナに気をつける」といった「仕事ができる人になるためのステップ」も書かれています。
やっぱり物事に結果を出そうと思ったら、「真の変数」を見抜いた人の勝ち。ぜひ、この本で数字思考を身に付けてください。
15. 『よけいなひと言を好かれるセリフに変える 言いかえ図鑑』 大野萌子著、サンマーク出版
「悪気はなかったのに、ちょっとしたひと言で相手を不機嫌にさせてしまった」「相手のためによかれと思って言ったのに、傷つけてしまった」といったトラブルを避け、人間関係がスムーズになる「言葉のかけ方」を紹介する本。
いくら仕事術を学んでも、余計なひと言で嫌われたら仕事はうまくいきませんよね。例えば「このくらいの仕事ならできるよね」ではなく、「この仕事はあなたにお願いしたい」と言われたほうが、誰だってうれしい。上司に何か頼まれたら「今ちょっと忙しいので…」と断るのではなく、「今週は無理ですが、来週でしたら大丈夫です」と伝えたほうが、印象がいい。同じことを伝えていても、言い方一つで受け取り方がずいぶん変わるものです。
そうした、つい言ってしまいがちな「あるあるな言い方」を「カチンとこない言い方」に言い換える方法がシーン別に詳しく書かれています。周囲に好かれる言い方ができるようになると、意外なほど、仕事の効率化につながると思います。
取材・文/三浦香代子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 編集協力/山崎綾