「なんとなく回っている自社の競争優位性はどこにあるのか」「恒常的にコストが発生する構造を転換させたい」。競争優位の源泉を明確化することで、コスト削減や差別化の戦略を立案することができる。外資系トップコンサルファームであるボストン コンサルティング グループ(BCG)のコンサルタントは実務で「バリューチェーン分解」を活用している。『BCG 経営課題解決「20の思考ツール」 成果を最大化する「7つの要素」』(井上潤吾著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

構造を見える化する「バリューチェーン分解」

 「バリューチェーン分解」は、企業のバリューチェーン(価値連鎖)を細かく分析し、各プロセスでコスト構造や付加価値を明確にする手法である。これにより、競争優位の源泉を特定し、コスト削減や差別化の戦略を立案することができる。

 バリューチェーンとは、企業が製品やサービスを生み出す過程を「価値を生み出す一連の活動(プロセス)」として分解した概念で、マイケル・ポーターの『 競争優位の戦略 いかに高業績を持続させるか 』(M・E・ポーター著/土岐坤、中辻萬治、小野寺武夫訳/ダイヤモンド社)で提唱された。

 バリューチェーンは、主活動と支援活動の2つに分かれる。主活動は、製品やサービスの直接的な価値を創出するもので、そのバリューチェーンは、原材料や部品の調達、保管、管理をする「購買物流」、製造や組立、加工、システム開発をする「オペレーション」、製品の保管、配送、在庫管理をする「出荷物流」、市場調査、広告、販売活動をする「マーケティング・販売」、アフターサービス、保守、サポートをする「サービス」がある。

コスト構造や利益貢献度を明確にできる

 支援活動は、主活動を支える基盤で、そのバリューチェーンは、経営管理、財務、法務を行う「企業インフラ」、採用、育成、組織管理をする「人事管理」、研究開発(R&D)、ITシステム導入をする「技術開発」、設備投資、仕入れ管理をする「調達」がある。上記の各活動が連携して最終的に利益が生み出される。

 バリューチェーン分解の目的は、各プロセスのコスト構造や利益貢献度を把握する、競争優位を生み出している付加価値の源泉を特定する、コスト削減や効率化のために不要なプロセスを見直す、外部委託の可能性を検討する、新たなビジネスモデルや差別化戦略を構築する、などがある。実際の分析方法を次で解説する。

課題抽出・競争優位の発見につながる分解

 まず、企業のバリューチェーンを細かく分解し、各プロセスをリスト化する。例えば、自動車メーカーのバリューチェーンであれば、原材料調達(購買物流)、部品組立(オペレーション)、品質検査(オペレーション)、在庫管理(出荷物流)、ディーラー販売(マーケティング・販売)、アフターサービス(サービス)に分けられる。

 次に、各プロセスでコスト、時間、付加価値の大きさを数値化して改善の余地があるかを分析する。その結果、どの部分でコストを削減するか、どの部分を強化すれば差別化できるかなどを検討し、その結果を基に課題を抽出する。図表1がその例である。

図表1 バリューチェーンの分析結果
出所:ボストン コンサルティング グループ
出所:ボストン コンサルティング グループ
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 最後に、競争優位を生み出している活動を明確にする。例えば、コストリーダーシップ戦略を採用するなら原材料調達をグローバル調達に変えてコストを下げ、製造工程を自動化する。独自性を高めて差別化戦略をとるなら品質検査の精度を上げて安全性の高さを強みとする。アウトソーシング戦略をとるならば物流やコールセンターを外部企業に委託し、コア業務に集中する。

トヨタなどでも活用されている

 バリューチェーン分解の活用事例としては、まず、Appleのサプライチェーン最適化がある。Appleは、自社の製造をほぼアウトソーシングし、製品設計とマーケティングに集中する戦略をとっている。これにより、高いブランド価値と利益率を確保している。

 別の例は、Amazonの物流戦略で、在庫管理や配送の効率化に投資し、物流のバリューチェーンを最適化している。その結果、プライム会員向けの翌日配送サービスが競争優位になった。

バリューチェーンの最適化は競争優位につながる(写真はイメージ)(写真:ภัทรชัย รัตนชัยวงค์/stock.adobe.com)
バリューチェーンの最適化は競争優位につながる(写真はイメージ)(写真:ภัทรชัย รัตนชัยวงค์/stock.adobe.com)

 もう1つの例は、トヨタのカイゼンである。トヨタは製造工程のバリューチェーンを細かく分解し、ムダの排除(ジャストインタイム生産方式)を徹底し、高品質かつ低コストの生産体制を実現している。

有効活用のための8つの視点

 バリューチェーン分解は、有効な思考ツールである一方、視点が偏ると付加価値の源泉を見誤ってしまう。以下で、具体的な注意点と対策を解説する。

(1)細分化しすぎる
 バリューチェーンを細かくしすぎると、分析が煩雑になり、全体像を見失いやすい。また、重要なプロセスに集中せずに細かい活動をすべて洗い出そうとすると、戦略的な示唆が得られにくくなる。重要なプロセスを考えるところから検討を始め、示唆を出すことに注力する。

(2)コスト分析に偏りすぎる
 バリューチェーン分解では、コストの内訳を把握することが重要だが、コスト削減ばかりに注目すると、提供価値を見落とすことがある。競争優位を確立するためには、コストだけでなく、顧客価値をどのように創出しているかを理解することが必要だ。

(3)部門間の連携を考慮しない
 バリューチェーンを部門ごとに独立した活動として捉えると、部門間のシナジーを見逃してしまうことがある。例えば、マーケティングと製品開発が連携することで競争優位を生み出す場合、その関係性も分析に含める必要がある。

(4)競争環境を考慮しない
 バリューチェーン分解は、競合と比較してどこで差別化できるかを考えることが目的である。競争環境や業界特性を無視せず、企業の強みを正しく評価することを心がける。

(5)サプライチェーンと混同する
 バリューチェーンは、企業の価値創出プロセスを分析するものであり、サプライチェーンとは異なる。サプライチェーンは主に物流や供給の効率性に焦点を当てるのに対し、バリューチェーンは競争優位の源泉を探るものである。混同して分析すると求めている結果が出ないため、これらの違いを意識して分析する必要がある。

(6)デジタル技術やイノベーションの影響を見逃す
 従来のバリューチェーンモデルに固執しすぎると、デジタル技術や大きな変革の影響を適切に評価できなくなる可能性がある。例えば、現在はクラウド技術やAI(人工知能)の活用によって、新しい価値の創出方法が生まれているため、これを踏まえたバリューチェーン分解を行い、見落としを防ぐ必要がある。

(7)顧客視点を欠く
 バリューチェーン分解には、単に企業内部のプロセスを整理するだけでなく、顧客にとっての価値を生み出す視点が不可欠だ。顧客にとって価値のない活動にリソースを費やしていないかを見極めることが重要である。

(8)静的な分析に終始する
 業界構造が大きく変化している場合、過去のバリューチェーンの枠組みにとらわれると適切な戦略を立てられない。バリューチェーンは市場環境や競争状況の変化によって進化するため、一度分析して終わりではなく、継続的な見直しが必要である。

 上記を整理したものを図表2に示す。

図表2 バリューチェーン分解を適用する際の陥りやすい罠と対策
出所:ボストン コンサルティング グループ
出所:ボストン コンサルティング グループ
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井上潤吾著/日本経済新聞出版/2860円(税込み)