法律を知れば、見える景色がきっと変わる。町中やビジネス、話題のニュースなどにまつわる「ふしぎな法律」のモヤモヤを解き明かしていく連載第2回は、「おカネ」にまつわるちょっと変わった法律を紹介。1円玉をつぶしたら有罪なのに、1万円札を破いても無罪? 一見アンバランスにも見えるルールにひそむ、合理的すぎる理由とは? 弁護士の著者による描き下ろしのイラストも添え、『世にもふしぎな法律図鑑』(中村真著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けします。

なぜ小銭をつぶすと罪になるのか

 筆者が小学生のとき、クラスの生徒が美術室の版画用のプレス機で1円玉を直径10cmくらいに圧延して、たいそう問題になりました。

 実は、小銭はつぶすと罪になるのに、お札は破いても焼いても罪になりません。貨幣(硬貨)は損傷すること、溶かして別のものに作り替えること、あるいはそうした目的のために集める行為が貨幣損傷等取締法という法律で処罰される一方、紙幣にはそのような行為を罰する法律がないからです。

 では、硬貨とお札で損傷行為に処罰の違いが生じるのはなぜでしょうか。

 1円玉は1gのアルミニウムでできています(実は1円玉を1枚製造するのに1円以上のコストがかかります)。もし今、1gのアルミの価格が3円になったとすると、アルミの弁当箱を格安で作るために1円玉を大量に集めて溶かす人が出てくるかもしれません。

 他の硬貨にも白銅や青銅、黄銅などが使われていますから、その原材料となる金属のレートによってはそうした恐れが生じます。皆が好き勝手に硬貨をつぶしてしまうようになると、流通する量が減り経済取引が停滞するので法律で禁じられているのです。

 結果、1円玉を鋳つぶして地金として売ったり、そのためにお札を1円玉に両替したり、あるいは加工して手品の道具に作り替えたりする行為は、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられるのです。

なぜお札を破いても罪にならないのか

 では、お札の方はなぜそうした処罰の対象にならないのでしょうか。

 硬貨と違って1万円札を溶かして再生紙を作ったとて、もとの紙幣以上の価値を生み出すことは普通ありません。お札は類型的に損傷行為の対象とされる恐れが低いため、硬貨のように損傷したり鋳つぶしたりする行為を刑罰で禁じるまでの必要はなく、偽造や変造だけを処罰すれば足りると考えられているのです。

紙幣を損傷して何かを作っても、紙幣以上の価値を生み出すことは通常ない(イラスト:中村真)
紙幣を損傷して何かを作っても、紙幣以上の価値を生み出すことは通常ない(イラスト:中村真)
【貨幣損傷等取締法】
(1)貨幣は、これを損傷し又は鋳つぶしてはならない。
(2)貨幣は、これを損傷し又は鋳つぶす目的で集めてはならない。
(3)第一項又は前項の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

ビジネスの現場、学校、町中…私たちが過ごす日常には、さまざまな法律があふれています。本書では、日常に潜む「ふしぎな法律」をピックアップ。現役弁護士がゆるいイラストを添えてその趣旨を解き明かします。

中村真著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)