沖縄北部に7月25日に開業する大自然をモチーフにしたテーマパーク「ジャングリア沖縄」。プロジェクトを主導するのはマーケターの森岡毅氏率いる刀。ジャングリア沖縄を「沖縄モデル」として確立し、多拠点展開を目指す構想を抱く。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(中山玲子著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする(本文敬称略)。
「我々はジャパンエンターテイメントを通して、アジアの玄関口になる沖縄から、日本の観光産業を支え、世界に多拠点展開することを見据えて事業を推進する」
2023年11月、東京都内で開催されたジャングリア開業についての会見で、ジャングリア沖縄の運営会社ジャパンエンターテイメントの加藤はこう意気込んだ。同社が目指すのは、ジャングリア開業だけではない。ジャングリアのビジネスモデルを用い、アジアに複数のテーマパークを設ける計画を抱いている。
そのビジネスモデルとは「投資額が1000億円以下のパークをつくること」だ。刀はこの規模に優位性を見いだす。
米ウォルト・ディズニーやユニバーサル・パークス&リゾーツのパークの投資規模は数千億円規模に上るが、この規模で投資するには資金のハードルが高い上、候補地選びも容易ではない。
「沖縄モデル」でアジアに多拠点展開
一方、ジャパンエンターテイメントが考える「沖縄モデル」なら、候補地は圧倒的に探しやすい。森岡は「東京ディズニーランドの規模のパークが生まれるのは20~30年に1回。我々が手掛ける投資額700億~800億円のパークなら、数年に1回の頻度での展開が可能。このモデルの勝算は高い」と話す。
ターゲットとする市場は、欧米先進国に比べてテーマパークが少ないアジアだ。ディズニーランド、ユニバーサル・スタジオがある中国やシンガポールを除くと、アジアのほとんどの国に大規模なパークはない。経済成長の伸びしろが大きいインドや東南アジアでパーク需要が高まるのは確実。ジャパンエンターテイメントはアジア市場で2号店、3号店、それ以降のパークの計画を練る。

没入体験ができるテーマパーク「イマーシブ・フォート東京」でも海外展開を視野に入れる。同パークの投資額は数十億円規模と、ジャングリアより1桁小さく、「イマーシブ・フォートの方が早く展開できる」と森岡は語る。
イマーシブ・フォート東京が商業施設だったヴィーナスフォートを活用したように、海外でも居抜き出店モデルの活用をもくろむ。東京での運営が軌道に乗れば「イマーシブ・フォート○○」というパッケージで世界に“輸出”もしやすい。「日本発のエンタメビジネスで世界を楽しませ、日本を豊かにしていきたい」(イマーシブ・フォート東京の責任者である刀の田村考)という。

国内で横展開をにらむビジネスモデルもある。体験価値を提供する宿泊施設の「ネイチャーライブ」に、アドベンチャーツーリズムと呼ぶ自然や異文化を体験する旅行だ。
ネイチャーライブは、既に神戸・六甲で稼働中の5棟の施設に続く第2弾として、東日本の地方で数十棟規模の施設を開業予定だ。
アドベンチャーツーリズムでは、24年夏に沖縄北部の海や自然を巡る旅行ブランドを立ち上げた。2泊3日~3泊4日の旅程で価格は1人29万円から。手つかずの自然が残る国頭村などで地元の信仰に触れたり、沖縄で古くから漁に使われていたサバニ船と呼ばれる木造船に乗ったりする。今後、こうした旅行商品を沖縄以外でも開発する。刀の担当者は「リゾートでは体験できないディープな体験を用意している。インバウンドの富裕層が主なターゲット」と話す。
4種のビジネスモデルを用意
刀は観光レジャー分野で、ジャングリアに代表する「沖縄モデル」のテーマパーク、「イマーシブ・フォート」、「ネイチャーライブ」、「アドベンチャーツーリズム」の4種の事業を用意。刀CFO(最高財務責任者)の立見信之は「この4つは投資規模も展開スピードも異なる。複数のラインアップをそろえることで、その時々でどのモデルが最も適切なのかを考えながら展開できる」と話す。複数のモデルを用意しておくことで、スピーディーな事業拡大を国内外で進める。
刀は、世界で人気の日本のアニメ・漫画といった知的財産の活用もにらむ。イマーシブ・フォート東京では既に「【推しの子】」や「東京リベンジャーズ」をテーマにしたアトラクションを展開しているが、「沖縄モデル」を横展開するパークでも、アニメ・漫画のIP(知的財産)の活用を考えている。(編集部注:【推しの子】のアトラクションは25年春に終了)
日本の東京ディズニーリゾートやUSJは毎年、米本国のディズニーやユニバーサル・パークス&リゾーツにミッキーマウスや映画のIPを使う対価として巨額のロイヤルティーを支払っている。
刀は日本のIPを活用する仕組みを構築し、アジアでの展開をにらむ沖縄モデルのパークに導入する考えだ。「日本の“眠れる資産”であるコンテンツIPで稼ぐ仕組みをつくり、GDP(国内総生産)増加のドライバーにしたい」と森岡は語る。
「(エンタメ業界で)ディズニー、ユニバーサルに対抗し得る第3勢力になる。そのためにも、1店舗目であるジャングリアを絶対に成功させる必要がある」(森岡)
ジャングリアやイマーシブ・フォート東京は刀にとって、序章に過ぎない。森岡が率いる刀は、国内及び海外を舞台に壮大な成長戦略を描いている。

[日経ビジネス電子版 2025年6月25日付の記事を転載]
中山玲子著/日経BP/1870円(税込み)

