7月25日に沖縄北部に開業するテーマパーク「ジャングリア沖縄」。マーケターの森岡毅氏率いる刀が大株主の運営会社が事業の持続的成長に不可欠と考えるのが地域に根ざした高度観光人材の育成だ。パーク開業だけでなく、なぜ人材育成にまでこだわるのか。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(中山玲子著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする(本文敬称略)。
「県外、海外の方にもっと目を向けてもらえるよう、沖縄の観光を支えていきたい」
ジャングリア沖縄の開業を1年後に控えた2024年夏。ジャパンエンターテイメントに25年春に入社することが決まっていた20代の女性は目を輝かせてこう話した。ジャングリアが立地する今帰仁村出身で、高校から県外に進学。いずれ地元に貢献しようと観光業について学んできた。地元以外での就職を考えていたところ、ジャングリア開業の話を聞き、採用試験を受けた。女性は「地元にテーマパークができるのはとてもうれしい。今帰仁村の発展に貢献したい」と笑顔で話す。
横浜市の大学に通う沖縄県沖縄市出身の女性も25年春にジャパンエンターテイメントに入社。別の企業から内定を得ていたが、沖縄にUターンして中途入社した30代の社員の話を聞いて心が動いた。「社員みんなが沖縄への強い思いを持って働いていると感じ、ワクワクした。ジャングリアを地元の人に愛着を持ってもらえるパークにしたい」と声を弾ませる。
25年春、ジャパンエンターテイメントに入社の新卒者は十数人で、うち半数以上は沖縄県出身者だ。パークスタッフは契約社員・アルバイトで約1300人を雇用。周辺施設と人材争奪にならないよう、全国で積極的に選考会を開いてきた。

ジャパンエンターテイメントが、ジャングリアの開業を通して注力するのが、マーケターなどパーク経営を担える高度観光人材の育成だ。観光経営を担える人材を沖縄の地で育成し、ジャングリアや周辺の宿泊・サービス産業の基盤を強固にする。
「自分が死んだ後も持続できるように」
森岡は「地元の方々が自分たちの会社やパークだと思うことが大切。僕らが死んだ後も持続できるようにするなら、地域に根ざさなければいけない」と話す。本土企業から遠隔で経営するのではなく、地元人材が主体となってこそパーク運営は定着する。
ジャパンエンターテイメントの本社所在地は名護市だ。同社の出資者に、多くの地元企業が名を連ねるのもそのためだ。高度観光人材の育成は、米国に比べて遅れる日本の観光業の底上げの意味もある。全産業で最も低いとされる観光・レジャーの賃金水準は、日本の産業界でのポジションを如実に表す。
一方、米国の観光業は、経営トップに弁護士や会計士が就くことは珍しくなく、高等教育で観光学はれっきとした学問の一つだ。日本は観光立国を目指すと言うものの、依然として観光・レジャー業界の待遇は製造業などに大きく劣る。刀は、教育から関与することによって、その課題の解決を目指す。

開業前から既に動いている。23年に、ジャングリアから数キロの距離にある公立大学の名桜大学(名護市)と包括協定を締結。同年春に国際学部に新設した国際観光産業学科で、ジャングリア開業後にインターンシップの受け入れや実践を通して学ぶ場を提供する。
ジャパンエンターテイメント代表の加藤は「ジャングリアを教育、研究の場として活用してもらいたい」と話す。名桜大学長の砂川昌範は「生きた教材があるのは学生にとって大きな学びとなる。沖縄を日本の観光学の中心地にしたい」と意気込む。ジャパンエンターテイメントは24年秋には、立命館アジア太平洋大学とも協定を締結。同大学は23年度にサスティナビリティ観光学部を開設している。

26年度には県内外インターンシップの拠点となるセミナーハウスも名護市内に開設を予定している。内閣府から補助金2900万円の給付を受け、100人が収容できる施設を建設。ジャングリアだけでなく、周辺ホテルなどのインターンも併せて受けられる仕組みを準備する。
「いつか、地元の沖縄県立北山(ほくざん)高校の出身者にジャパンエンターテイメントの社長になってもらいたい」
森岡はこう夢を語る。国内では、過去数十年、いくつものパークや遊園地が廃業に追い込まれてきた歴史を目の当たりにしてきた。人材育成にまで力を注ぐことで根本から日本の観光業を変える。刀は、沖縄しいては全国の地方が持続的成長を続けられる仕掛けをつくろうとしている。
[日経ビジネス電子版 2025年7月4日付の記事を転載]
中山玲子著/日経BP/1870円(税込み)
