個人投資家の増える昨今だが、「株高につられて始めたものの、期待ほど儲(もう)かっていない」「思わぬ損をしてしまった」という嘆きの声を聞くことがある。なぜ、市場が活況にもかかわらず、たいした結果を残せないのか。それは「投資の原理原則を理解していないから」と、経済コラムニストの大江英樹氏はいう。今回は、投資で儲かる人は持っているという「勝ちパターン」について。ネット上にもあらゆる成功法則があふれる今、これらの情報について個人はどう捉えればいいのだろう。 『あなたが投資で儲からない理由』 (日本経済新聞出版)より抜粋する。
成功する人にはみんな「自分の勝ちパターン」がある
投資で成功するために大事なことはいろいろあるが、その中の1つに「自分の勝ちパターンを作る」ということがある。私は投資家の人たちのコミュニティやオンラインサロンにいくつか参加していて、個人的にはとても勉強になっているが、成功している人に共通するのはこの「自分の勝ちパターン」を持っているということだ。
例えば個別銘柄分析が得意な人、あるいは好きな人がいる。内容の良い会社だからといって必ず株価が上がるわけではないが、企業価値が増大し続ける会社を長期に持てば5倍とか10倍になることは十分あり得る。短期の値動きに惑わされず持ち続ける胆力が必要なのだが、このパターンで大きく資産を増やした人は多い。著名な投資家でいえば、現代における投資の達人といわれるウォーレン・バフェットがこの代表だろう。
また、短期売買で利益を上げ続けている人もいる。もちろん百戦百勝ということはあり得ないのだが、失敗した時には素早く損切りして損失をできるだけ抑える。その指標となるのがチャート分析で、売りと買いのタイミングをチャートに求めて判断するというパターンの投資家である。チャートには投資家の心理が織り込まれているので、それなりに再現性が期待できると考えるわけだ。米国のチャート分析家として知られるジョセフ・グランビルの考案した「グランビルの法則」を活用してそれなりに成果を上げている投資家も多い。

さらにボロ株専門という人もいる。株価が一番大化けするのは、業績のどん底から復活する時である。もちろん復活せずにそのまま潰れてしまう場合もあるが、複数の銘柄を最低単位で購入し、復活の兆しが見えた段階で買い増しをするというのも1つの方法だ。米国生まれの英国人投資家として有名だったジョン・テンプルトンは、株価1ドル未満のボロ株に複数投資するというやり方で大きな成果を上げた。
もちろん、インデックス投信を積み立てで続けるというのも有効な手段であることは間違いない。大幅な利益を得ることは難しいだろうが、下手な売買で損失を重ねることを思えばインデックス投信の積み立てで放ったらかしというのは手間がかからず効率的に収益を上げられる方法だ。むしろ投資にかける時間や手間を人生におけるコストと考えるなら、このやり方が一番コストパフォーマンスは良いだろう。
とはいえ、原理主義に支配されてはいけない
このように、投資のやり方は実に様々である。今紹介した方法以外にも実に多くのやり方がある。投資というのは人間の心理が大きく影響するものであるから、その人の性格に合った方法が一番だし、それがその人の勝ちパターンなのだ。
前回『「株を買ったが全然上がらない」時、損する人がとる行動』でも紹介したが、ウォーレン・バフェットが師と仰ぐベンジャミン・グレアムという人がいる。彼の著書『賢明なる投資家』は1900年代半ばから今日に至るまで読み継がれている投資に関する不朽の名著だが、彼の格言の中にも「自分のゲームで勝てばよい」というのがある。彼も自分の土俵で戦い、自分の「勝ちパターン」を見つけることが投資において重要であることを説いている。
ここで大切なのは「勝ちパターン」を自分で見つける、ということである。
投資で一番避けなくてはいけないのは「原理主義者に振り回されること」である。ところがそういう人は実に多い。評論家にしてもブロガーにしても、「このやり方が一番優れている。他のやり方ではダメだ」と主張する人がいる。多くの場合、それらの主張は彼らが自分で実践して成功した体験を語っているわけであるから説得力があるのは間違いない。つまりそれは彼らにとっての「勝ちパターン」なのだ。ところがそれがすべての人にとってそうなのかといえば必ずしもそうではない。

他の人の「勝ちパターン」を参考にするのはいいが……
例えば「一番手間暇がかからないインデックス投信の積み立てであれば、特別な能力は何も必要ないので、誰でもできる」といわれるが、投資は始めるのは簡単でも続けるのが難しい。たとえ積立投資でも大幅に下落したり、逆に上昇したりした時は心が揺れる。結果として上がった時は積み増しし、下落すると嫌になって売ってしまうということもありがちなので失敗することもおおいにあり得る。
もちろん他の投資手法でも失敗することは数限りなくある。要は「リターンを得るためにはリスクを取らないといけない」というシンプルな事実だけは絶対正しいのであるが、そこへ至る(リスクを取ってリターンを得る)道は必ずしも一本ではないのだ。だからこそ、自分に合ったやり方、自分の勝ちパターンを見つけることが大事だ。
これは投資だけに限らない。スポーツでも仕事でも「勝ちパターン」というのは人によって違う。例えて言えば先行逃げ切り型か終盤追い上げ型かといった違いがあるように、自分の「勝ちパターン」に入った時は良い結果が出るが、相手(相場)に振り回されて相手のペースに入ってしまうと負ける。
投資で最も大事なことは自分の頭で考えて判断することだ。リスクを取るというのはそういうことだからだ。他の人の「勝ちパターン」を参考にするのはいいが、鵜呑(うの)みにするのは全くナンセンスである。投資は失敗しても誰も責任を取ってくれない、あくまでも自己責任なのであるから、どこまで行っても自分で考えて自分で判断するしかない。そのためにはある程度の勉強をしておくことも必要である。
自分で勉強し自分の頭で考えた上で、得意パターン、勝ちパターンを見つけることがとても大切だということを忘れてはいけない。
[日経ビジネス電子版 2021年8月4日付の記事を転載]
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大手証券会社で投資相談を担当し、何万人もの個人投資家を見てきた著者が、「儲かる人」「儲からない人」の違いを分析。目の前にあふれる情報に振り回されず「自分の頭で考えて投資する」ための考え方の基本について紹介する。
大江英樹(著) 日本経済新聞出版 990円(税込み)